DRI テレコムウォッチャー


AT&T vs. Verizon − 2009年次における両社の決算が示すもの

2010年2月15日号

 今回は、2010年1月下旬に発表されたAT&TとVerizonの決算数値を主な資料にして、両社の2009年の業績を比較した。
 両社ともに、2008年次に比し収入は横這い(厳密には、AT&Tが微減、Verizonは微増)、利益はかなり減少というところである。本文では説明を省いたが、両社は、2010年も2009年並の業績を保持したいとしている。つまり、本年も業績好転を期待できないとの宣言であって、収入こそ、両社ともに、まだ米国最大の部類に入るものの、投資先として魅力がないとのとの烙印を押されかねない。
 こういった評価は、すでに1990年代の末から、多くの論者が指摘していたところであった。通信キャリアは、ネットワークを高度化してそこから得られる付加価値を吸収しなければ、相応の利益を得られないはずである。この旨味のある業務は、Microsoft、Google、Amazon、さらにはAppleなど新進気鋭のIT企業に奪われている。多彩なソフト、コンテンツを提供し、IT社会、文化を創造しつつ、快進撃しつつあるこれら高収益事業の陰にあって、通信キャリアが提供する“dumb pipe”(付加価値のない管路)は普通の商品(commodity)になりつつあるから、その将来は決して明るいものではないというものである(注1)。
 ついでながら、Net Neutralityの論議は、通信、ITの基幹網となりつつあるインターネット網、ワイアレス網に対し、ネット・キャリア側が、高速、高品質のネットの使用料として、応分の対価を得ることができるか(すなわち規制、Net Neutrality反対)、あるいは、ネットのユーザ側がこのネットを安い料金で利用できることができるか(すなわち、Net Neutralityによる規制賛成)の深刻な利害対立を背後に秘めているということができよう。2010年3月中には発表される、米国ブロードバンドの将来計画に関するFCCの報告書で、FCCがこの点についてどのような結論を出すかが、注目される。
 さて、AT&T、Verizonの業績は、いまや、ますます強力な競争業者賭して立ち現れているMSO(Comcast、TimeWarner Cable等の大手ケーブル事業者)の業績と切り離して考えることができなくなっているのであるが、今回は、MSOの業績に触れるスペースを得られなかった。
 次回(2010年3月1日)のテレコムウォッチャーで、MSO2社(Comcast、TimeWarnerの2009年次の業績を紹介することとする。


AT&T、Verizon両社の収入・利益比較

表1 2009年次におけるAT&T、Verizonの総収入・総利益(注2)(単位:100万ドル)
項 目AT&TVerizon
総収入 123,018(−0.8%) *1 1078.08(+11.0%)
営業利益21,492(−6.8%)14,027(−16.9%)
純利益12,843(−2.2%)10,358(−17.7%)
営業利益率*2 17.5%(+18.5%)*2 13.0%(+17.3%)
(1)括弧内の数値は、2008年次の実績に対する増減比である。
(2)*1の数値、増率は、取得したAlltelの収入分を含んでいる。また、*2の括弧の比率は、2008年末増率の実績値である。
(3)Alltel収入分を除去した収入の増率は+1.5%である。

表2 2009年次におけるAT&T、Verizon両社ワイアレス部門の収入・利益(単位:100万ドル)
項 目AT&TVerizon
収入 53,597(+8.6%)62,131(+25.8%)
営業利益13,271(+19.7%)17,505(+25.1%)
営業利益率24.8%(22.5%) 28.2%(28.4%)
(1)収入、営業利益の括弧内の数値は、2008年次の実績に対する増率である。また、営業利益率の括弧内の数値は、2008年末の実績値である。
(2)Verizon収入の増率は、取得したAlltelの収入分を含んでいる。
(3)Alltelの影響を除去した増率は+6.1%。

表3 2009年次におけるAT&T、Verizon両社ワイアライン部門の収入・利益(単位:100万ドル)
項 目AT&TVerizon
収入 65,670(−6.0%)45,080(−4.4%)
営業利益7,931(−29.2%)1981(−48.7%)
営業利益率12.1%(+16.0%)4.3%(8.0%)
(1)収入、営業利益の括弧内の数値は、2008年次の実績に対する増減比である。
(2)また、営業利益の括弧内の数値は、2008年末の実績値である。

 上記3表から読み取れる主要点は、次の通り。


AT&T、Verizonの共通点

  • 2009年次の総合決算では、2008年次に比し、両社ともに営業利益、純利益ともに減少した。
  • ワイアレス部門で、AT&T、Verizonは、それぞれ8.6%、6.1%(実質)と、前年同期に比し、収入を伸ばした。また、営業利益も大幅に伸びている。ただし、営業利益率は少し低下した。
  • ワイアライン部門は、ワイアレス部門と対照的である。両社ともに、前年同期に比し収入を減らしている。また、営業利益、営業利益率も前年を下回った。
AT&T、Verizonの相違点

  • 総収入において、AT&Tがわずかながら前年を下回ったのに対し、Verizonは、これまたわずかではあるが、前年を上回る増加を示した。また、Alltel統合を含めた名目で見ると、Verizonは、2桁台の収入増を示した。ワイアライン部門の収入減をワイアレス部門の収入増でカバーしたという点では、Verizonは、AT&Tより、すぐれた成果を収めたといえる。
  • ただし、総体的な純利益の水準、ワイアラインの営業利利益の点では、AT&Tは、Verizonを凌いでいる。

勢力伯仲のワイアレス部門 ― 強くなった2010年次におけるAT&TのiPhone排他的販売継続の見通し

表4 2009年におけるAT&T、Verizonのワイアレス部門経営実績比較
項目/キャリアAT&TVerizon
 収入(単位:100万ドル)53,59762,131
 加入者数(単位:千)8,5128750
 2009年加入者数増(単位:千)730* 1,700
 APRU(加入者当たり月額収入(ドル)61.13(+2.6%) 50.75(−0.6%)
 データ収入の占める比率(%)32.331.9
 Churn(取消し率)1.16%1.14%
* Verizonが2010年次に1700万もの加入者数を伸ばした理由は、1300万の加入者数を有していたAlltelを統合したことによる。

 表4によると、収入、加入者数では、VerizonがAT&Tより優位に立っている。これは、約1300万加入者を有していたAlltelをVerizonが吸収したことによる。なお、Verizonは、8750万の加入者数は、同社が直接販売した小売の加入者数であって、そのほかに、他の携帯キャリアに卸で提供している回線が400万近くあるので、合計の加入者数は9120万だとしている。いずれにせよ、現時点で、Verizonが米国最大の携帯キャリアであることは、間違いない。
 サービスの品質、回線の性能においても、VerizonがAT&Tをしのいでいる事実は、否めない。AT&Tは、Apple社からiPhone販売の排他的販売の権利を獲得し、これにより、大きく加入者数を拡大し、また、データ収入を増やした。AT&Tが、Verizonより高いAPRUデータ収入比率を示しているのは、これによる。
 2009年第4四半期は、AT&Tにとり、一部都市部において、3Gネットワークのトラヒックが混雑し、加入者から厳しい苦情を浴びせかけられた苦難の時期であった。同社は、鋭意、設備を急増して改善に努め、今のところ、ようやく事態は収拾している模様である。
 なお、2010年2月末、Appleは、音楽・動画・ゲームの配信機能を持つほか、電子書籍の機能を兼ね備えた新形体端末、iPADを本年春には市場に出すと発表した。しかも、この端末のネットは、AT&Tの3Gを排他的に使用するという。
 この発表は、将来のAT&TとAppleの提携関係を示唆するものとして憶測を呼んでいる。これまで、AT&Tは、iPhone3GSのサービスダウンで批判を受けてきたし、他方、AppleとAT&TのiPhoneに関する排他的契約は、機器開放の一般的動向(さらには広義のNet Neutralityの観点)からも、不適切であるとの批判が強かった(注3)。
 しかし、Appleは、一般に想像されていた以上に、AT&Tに強い信頼を抱いており、案外、iPhoneについての排他的関係を今後も持続するのではないかとの観測が、にわかに強まっている(注4)。

 以上を総括すると、ワイアレス部門でのAT&TとVerizonの競争は伯仲である。敢えて将来を予測すれば、ネットワークが強靭であること、消費者からその品質が非常に高く評価されている点からいって、Verizonが米国携帯電話市場での覇権を握るのではなかろうか。


FiOS(Verizonの光ブロードバンド)を急追するU-Verse(AT&Tの光ブロードバンド)

表5 AT&T、Verizonのワイアライン部門比較(2009年末)
項目/キャリアAT&TVerizon
固定電話加入者数(単位:万)*1 2456.2(−10.6%)*1 1837.5(−12.3%)
ブロードバンド加入者数
(単位:万)
*2 (注4) U-Verse 206.4(+97.5%)
*2 (注5) ADSL 934.9(−4.2%)

計 1141.3(+5.6%)
Fios Internet 343.3(+38.4)
FiOS TV 286.1(+49.2%)
ADSL 579.5(−9.5%)
計 922.8(+6.8%)
 * 1 括弧内の数値は、2008年末に比しての減少比率である。ブロードバンド加入者の後の括弧も同様。
 * 2 ADSLの数値は、推計値である。推計値にするに至った経緯は、長くなるので(注4)で説明する。

 上表から明らかなように、AT&T、Verizonともに、固定電話加入者数の減少が年率10%を超え、危機的状況にある。絶対値にして、AT&Tは年間310万、Verizonは年間260万の加入者を喪失している。ADSLは、2009年次から減少傾向が明らかになった。ADSLは、固定電話網をベースにするものであるから、固定電話加入者の減少が進んでいる現在、このサービスの加入者が成長するわけがない。しかし、後述するように、光ファイバーのブロードバンドの伸び率が低下しているのであるから、この事実はブロードバンドを巡る競争において、MSOに対する大手電話会社の敗退を意味するというべきだろう。
 その原因は、ひとつには携帯電話加入者への移行、ひとつにはMSO(大手ケーブル事業者)への移行である。AT&TもVerizonもこれまで、MSOに大量の加入者を侵食されているとは認めたがらなかった。しかし今回の決算資料では、それを認める記述が散見される。

 ワイアライン部門の業績は、相対的にAT&Tの方が、収入源の少ない点からしても、ブロードバンドの成長率にしても、Verizonに比し優れている。これは、なによりも同社が、ここ数年来、成長分野をブロードバンドとワイアレスの分野にしぼり、ワイアラインの音声分野を放任、あるいは縮小(再三計画し実施に移してきた主としてルーラル地域におけるワイアレス回線の売却に見られるように)していることに、よく表現されている。
 VerizonのFiOS、AT&TのU-Verseは、それぞれ両社の高速ブロードバンドを推進する主力製品であるが、表5に示すとおり、FiOSInternet、FiOSTVの伸び率がそれぞれ38.4%、49.2%と前年次を下回った(絶対数にして、それぞれ90万加入台)のに対し、AT&TのU-Verseは、年間増加数102.5万加入とVerizonの高速ブロードバンドを上回った点が注目に値する。

 U-Verseは、いわば、ハイブリッドの光ファイバーサービスであり、FiOSはもちろんのこと、MSO業者のブロードバンドにも太刀打ちできまいと酷評されてきた。しかし、2009年には、NBCのビデオのライブ受信を実現するなど、InternetTVサービス提供が可能であることを示し、コンテンツ面での充実を利用者から評価されたことも影響している模様である。これに対し、Verizonは、財務上の理由から、光ファイバー投資を抑制しており、2009年後半から、セールス活動を投資完了したエリアに絞っており、加入者増の鈍化は、一部、予定の行動である。
 それに、米国経済の回復がはかばかしくないため、利用者の需要が、ビデオサービスの高級品質を求めながらも、安いサービスに向かわざるを得ないという傾向が、ブロードバンド選択にインパクトを及ぼしているのではないかと考えられる。


(注1)この議論については、最近のネット紙にすぐれた論説がある。2010年2月10日付け、The DNS ZoneのGary Kim氏による "Can Carriers Escape Dumb Pipe Future?"。
(注2)本稿で、作成した幾つかの表は、すべて、2009年第4四半期(2009年通年を含む)のAT&T、Verizon両社の決算報告の数値を使用(そのまま使用したもののほか、一部加工したものもある)した。各資料名の紹介は省略する。
(注3)AT&Tが2010年のiPhone契約が更新できるかどうかの観測は、一部都市部におけるiPhoneサービスの低下状況をも含めて、次のDRIテレコムニュースに紹介した。
2009年10月1日付け、DRIテレコムウォッチャー、「AT&TによるiPhoneの排他的販売は継続できるか」
(注4)幾つものネット情報があるが、たとえば、http://www.examiner.com, "Apple poised to review AT&T iPhone exclusivity."
(注5)AT&Tは、ここ数期の決算にあたり、ADSL加入者数を計上しなくなった。前期(2009年第3四半期までは、他の数値との関係から、容易にADSLの加入者数の数値を推計できたのであるが、今期はそれすらできなくなった。そこで、今期のAT&TのADSL加入者数は、前期加入者数から2%減少した数値として推計しておいた。2%という数値は、前期の加入者の減少比率である。推計値であるだけに、正確な数値ではないことをお断りしておく。


テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2010 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.