DRI テレコムウォッチャー


FCCのタスクフォース、米国ブロードバンド計画の中間報告を発表

2010年2月1日号

 2008年後半に始まった米国金融破綻救済を目的として、2009年2月に制定された米国経済回復・再投資法(2009)は、7890億ドルの巨額の財政投資資金支出を認めた。このうち72億ドルが、ブロードバンドへの投資に当てられている。
 時あたかも、Obama民主党政権が成立し、また、Obama氏と近いGenachowski氏がFCC委員長に就任した時期であった。ブロードバンドの拡充、さらにはブロードバンドのユニバーサルサービス化を長年の念願としてきた民主党政権にとり、これを実行に移す絶好の機会が到来したわけである。
 経済回復再投資法には、ブロードバンド部門への投資目標として、"国家の優先諸政策(保健、教育、エネルギー、国防、雇用創出、投資等)の解決を促進する目的で、ブロードバンドの構築、利用、手頃な料金、ブロードバンドの利用方法と取り組むこと" が規定されている(注1)。
 この目的のため、米国ブロードバンド計画の策定作業を託されたのが、FCCのブロードバンド・タスクフォースである。その長はBlair Levin氏。かつてFCCに勤務したこともあり、近い将来、FCC委員になるとうわさされている人材である。
 タスクフォースは、2010年3月17日にNational Broadband Planの報告書をFCC、議会に提出する予定(当初、2月17日の予定であったが、後、延伸された)である。
 報告書提出の約3ヶ月前の2009年12月16日、タスクフォースは、"ナショナルプランについてのオプション" という報告書を発表した。これは、当日FCC会議での討議資料として用意されたものであるが、内容的には中間報告書といってよい。同時に、FCC委員長のGenachowski氏は、ブロードバンド計画についての所信表明を行った(注2)。
 本文では、タスクフォースが発表した報告書についてのプレスレリース(オプションという名称を使ったのは、今後の討議で、項目自体が削除あるいは入れ替わる可能性があるからであろう。実質的には、提案と読み替えてもよい)の訳、およびGenachowski委員長所信表明の主要点を紹介した。
 報告書作成に当り、利害関係者から最大限に意見を聴取するというのが、FCCの基本方針であった。FCCは、2009年末までの時点で、ワークショプ・公聴会を40回開催、420人の証人から意見聴取、さらに、米国の幾つもの地域、機関(たとえば、テキサス州オースティン、マサチューセッツ州ケンブリッジ、サウスカロライナ州のチャールストン、ワシントン州のガローディナ大学、ジョージタウン大学等)を訪問したとしている。
 しかし、あえて言えば、中間報告書は、そのタイトルといい提案の中身といい、内容が少しミクロに過ぎる。しかも、歯切れが悪い。
 たとえば、当初、FCCは、ブロードバンドのユニバーサル化、Net Neutralityの規則制定について、明確な指針を発表するものと見られていたが、さにあらず。ユニバーサルサービスの言葉を避けて、USFで代置しているし、Net Neutralityに至っては、この用語が全然文書に現れていない。双方ともに、導入の可否をめぐって、利害関係者間で激しい対立がある。タスクフォースが、この点に考慮を払う必要性は理解できるにせよ、Obama大統領自身が、従来の熱烈な支持者たちからも、言行不一致のゆえに批判されているさなかでもある。これでは、果たして、2010年3月に、新時代に即応した骨太の米国電気通信政策を織り込んだ報告書が登場するかいなかが危惧される。

 欧州委員会が、2009年11月、米国より一足先に、ブロードバンド位置付けに焦点を絞った政策策定の方針を定めた後であるだけに、なおさら、FCC報告書についての期待が高まっている(注3)。
 来るべきFCC報告書の内容については、2010年4月1日、あるいは4月15日のDRIテレコムウォッチャーで紹介する予定である。


ブロードバンド・タスクフォースによるナショナルブロードバンド改革提案10項目

1、USF(Universal Service Fund)のオプション
短・中期のオプション
高コスト地域に割り当てられる基金(音声サービスの不採算地域のキャリアに割り当てられる基金)をブロードバンドに振り向けるため、この地域のコストを節減する。
E-Rate(USFのうち、学校・図書館に割り振られる基金)の要件を緩和し、ブロードバンド普及の他の目的にも使用できるようにする。
ルーラル地域の保健向上のためのパイロット計画(Rural Health Care Pilot Program)を拡充する。
長期のオプション
他のFCC調査(キャリア間の相互接続料、スペシャル・アクセス等)とも関連付けて、USF制度を抜本的に刷新する
ブロードバンドを支持するため、高コスト基金を転換(多分、ブロードバンド基金に)する。このさい、現在の資金受給者の移行経路を明確に定める。
低所得世帯がブロードバンド用ライフライン制度(ライフラインは、低所得世帯が電話を架設できるよう、架設料の一部を補助する制度である)を設定する。
パイロット計画から学んだ教訓をベースにして、新たなルーラル地域保健計画を策定する。

2、ブロードバンド・インフラ構築のオプション
ブロードバンド・インフラの構築には、連邦政府と州政府・地方自治体間の協同作業が必要とされる。
インフラ構築のコストを下げることにより、企業による、ブロードバンドの品質向上と持続的競争がもたらされる。
公平かつ全国均一の電柱設置、土地使用、レンタル料金の設定。
ブロードバンドのコストを下げ、またその品質を高める目的で、電柱、管路、道路使用権の規則を設定する。
事情が許せば、地方公共団体によるオプションのブロードバンド実施を認める。

3、周波数割り当てのオプション
さほど遠くない将来、無線ブロードバンドの需要は供給を上回る。ブロードバンド競争を強化するため、新たな周波数を大量に割当てることが不可欠である。
未決定となっている周波数割当て申請(たとえば、AWS-3、WCS)を解決する。
さまざまな提案(たとえばTVに割り当てられている周波数帯の利用)を検討する。他方、地上波、連邦政府への周波数アクセスは、これを保持する。
周波数割り当てにおける他の政策目標を考慮に入れながら、他方、すべての周波数帯に市場の力を適用する。
未認可の端末機器用の周波数を保持する。
周波数をより効率的に利用し、また、利用状況を定期的に検査する。

4、少数民族居住地域のオプション
少数民族地域におけるブロードバンドの構築、利用の状況は、他地域に比し、きわめて劣悪である。
ブロードバンドの構築および利用の双方について、データの収集が必要とされる。
少数民族地域内に、広汎な人口に接触できる"アンカー施設"(anchor institution)を設立する。
FCCに、連邦・少数民族合同のワーキング・グループおよび、少数民族問題局(Office of Tribal Affairs)を設置する。

5、セットトップボックスのオプション
セットトップボックスにイノベーションが行われていない。セットトップボックスが改善されれば、ブロードバンドの構築、利用は大きく促進される。
セットトップ機器のオープン市場を生み出すため、ケーブルカード不足問題に対処する。
ビデオサービスプロバイダーは、小型で価格が安いネットワークインタフェイス機器を供給することが求められる。

6、透明性(Tranceparency)のオプション
商品の特性についての消費者情報は、競争市場の促進をより一層、促進するものである。しかし、ブロードバンドについての情報提供が欠けている。
ブロードバンドサービスの実際の効能についてのより一層すぐれた情報を消費者に提供する。
消費者が、ブロードバンドサービスの実際の効能を試すことができるよう、評定制度を創る。
NTIAと共同し、ブロードバンドデータの情報センタを設立し、消費者に地方におけるブロードバンドのオプションについての情報を提供する業務と関連して、米国全土のブロードバンドの地図を作成する。

7、メデイアのオプション
インターネットアクセスの拡大により、既存メディアのモデルは、その地位が縮小されているが、メディアのイノベーションの爆発的増大を喚起してもいる。
商業メディア、公共メディアのライセンス取得者の双方に対し、ユニバーサルサービス戦略がもたらしているインパクトを評定する。

8、ブロードバンド利用のオプション
ブロードバンドの利用は、拡大している。しかし、ある層は、まだ全国平均を下回っている。
利用増大の努力を支援するため、非営利の組織を設立する。
家庭におけるブロードバンドの利用を拡大するため、公・民の共同を促進する。
低所得利用者に対する機器、接続に経費を支払う雇用者には、課税上の恩典を付与する。
Digital Literacyの標準を定め、支援を行う。

9、アクセサビリティーのオプション
ブロードバンドを利用している身障者の比率は、わずか42%に過ぎない。
アクセサビリティーの機能を内蔵した機器、部品の利用を促進する。
ウェブコンテンツヘのアクセサビリティーを促進する。
より広範なプログラム作成の努力をする機会に、身障者に対する解決策を含める。

10、公安対策のオプション
ブロードバンドに対する最初の応答者のアクセスを改善すること、および、ブロードバンドネットワークが健全かつ、安全であることを最大の優先順位に置く。
運用化可能なワイアレス全国通信網を創設する。
次世代9-1-1網、警報網の開発を促進する。
緊急時に、最重要のインフラを保護し、ブロードバンドを保持するシステムを構築する。


FCC委員長が指摘するナショナル・ブロードバンド計画の主要課題

 FCC委員長、Genachowski氏は、まず今回、FCCが実施しているブロードバンドのユニバーサル化を中心とした米国通信政策策定の仕事は、米国が21世紀に対処するための通信インフラ策定を目指すものであって、力強い雇用の創出、持続的な経済成長、世界をリードするイノベーション、ダイナミックな市民参加のプラットホームとして機能する点を指摘する。
 さらに同氏は、FCCによるこの大事業は、まだ端緒に過ぎないものであって、今後、ブロードバンドチームには、激しい業務の日々が続く旨を予告し、メンバーの奮起を促している(注4)。
 Genachowski氏が強調しているナショナル・ブロードバンド計画でのFCC主要課題の3点を以下に表示する。

表 ナショナル・ブロードバンド計画の主要課題3点
最重要項目概要
USF(Universal Service Fund)の改革

USFは、現在、音声サービスのユニバーサルサービス実現のために積み立てられている基金が大部分を占めている。今後、ブロードバンドサービスのユニバーサルサービス化を実施するためには、この基金を大きく、ディジタルサービスに移さなければならない。当然、基金の拠出方法も、抜本的な見直しが必要とされる。

携帯サービス拡大のための周波数割り当ての拡大

無線周波数が高速になり、またWi-Fiの出現、携帯端末の急速なPC化により、ブロードバンドは、固定網だけでなく、ますます無線網により普及される傾向が高まってきた。このような情勢の下で、無線網による周波数帯の使用は急速に高まっており、現在、割り当てられている周波数帯では、根本的に大幅な不足が予測されている。これに対しては、抜本的な措置(たとえば、既存の放送事業者に対する周波数の余りを返上させて、これを無線事業者に回すとか)を考慮することが急務である。

Digital Literacyの拡大

インターネットが求職活動あるいは、保健情報の入手等、日常の必須の業務にも利用されてきつつある状況からして、Digital Literacy(筆者注:インターネットが利用できるスキル)をすべての米国人に身に着けさせなければならない。これは、老若男女を問わない。このための研修計画を組むことが必要である。


(注1)ブロードバンド政策策定についての2009年におけるFCCの取り組みについては、次のDRIテレコムウォッチャーを参考にされたい。
2009年2月15日付け、「開始されたObama政権下におけるブロードバンド公共投資」
2009年7月15日付け、「FCC新委員長Genachowski氏、ナショナル・ブロードバンド計画の過程に関する報告書を議会に提出」
(注2)2009年12月16日付け、FCCニュースレリース、"Options For a National Broadband Plan Task Force Provides Framework for Final Phase in Development of Plan." 、および、同日付け、ニュースレリース、"Chairman Julius Genachowski Prepared Remarks on National Broadband Plan FCC Open Agenda Meeting, Washinton, D.C."
(注3)2009年12月15日付け、DRIテレコムウォッチャー、「EU委員会、新たな電気通信改革方針を確定 ― EU単一電気通信市場形成の完成に向けて」
(注4)下院エネルギー・商務委員会の顧問、Neil Freid氏は、ユニバーサル・ブロードバンドの完成には、100Mbptのスピードのネットを前提にし、今後3500億ドルの投資(つまり、ブロードバンドギャップ)があるという。
経済回復・再投資法で認められた投資金額は72億ドル、さらに2008年にブロードバンドに対する民間企業の投資額は700億ドルであるという。この数字からすれば、2008年の数字をベースにすれば、米国ブロードバンドのユニバーサル化は、アクセスベースで、しかも国際的に見てきわめて低いスピードで、今後5年程度掛かるということになってしまう。
そもそも、ブロードバンドのユニバーサル化には、米国議会の共和党員の大多数が反対と見られるのであって、このFredd氏の数値が、今後、反対論に多く利用されることは、間違いないものと思われる。
この事実は、Gunachowski委員長が、ブロードバンドのユニバーサル化がいかに難事業であるかを示すとともに、今回、タスクフォースもGunachowski氏も、ユニバーサルサービスという用語自体も、できるだけ伏せている背景の説明ともなっていると考えられる。
2010年1月21日付け、http://news.cnet.com, "New year, new policy push for universal broadband."


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