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DRI テレコムウォッチャー |
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インターネット・携帯が驚異的に成長した2000年代
2010年1月15日号
われわれは、21世紀最初の10年間(2000年代)を経過し、本年、2010年代の初年を迎えた。テレコムウォッチャー本号では、この10年間にインターネット、携帯電話がどれだけ成長したかを、主として統計資料で裏付ける。
1990年代の後半、インターネットがまだ萌芽期にあったころ、この新技術のもたらす潜在性が論壇で議論され、一部の論者は、「究極的には、インターネットが基本通信回線(PTSN)に置き換わる。長い伝統を持つ電話サービスは、インターネットサービスの一部として吸収され、POT(通常の固定電話端末)は姿を消すだろう」と予言した。以来、十数年を経た今日、正に、この予言の正確さが実証されつつある。
インターネットの成長は著しい。インターネットは、当初、データ検索、音声通話利用の需要が高かったが、ブロードバンドの進展により、スピードが速くなるにつれて、画像、Videoの送信も可能になった。この新技術を利用した音声電話(VOIP)も、論者が予測したように大きく成長し、携帯電話の進展とあいまって、固定電話の市場を侵食した。
また、2000年代には、予想以上に携帯電話が成長した。現在では、全世界における携帯電話の普及率は、実に60%強に達している。これは先進国だけでなく、中国、インド等の発展途上の大国が、すさまじい勢いで架設を行っているからであることが、大きく影響している。
さらに、2000年代の後半に入ると、当初は価格が高く、主としてビジネス用であると見做されていたSmartphoneの性能があがり、携帯電話とインターネットの結合が始まった。この機運を推進したのは、2007年7月に発表されたApple社のiPhoneの登場である。
もちろん、Nokia、RIM等のSmartphoneの製造に長年の経験を持つメーカが、Apple社による市場侵略を座視しているわけではない。Apple社よりさらに後発であり、当初、標準オープン規格Androidを他社に無料使用させることで、携帯端末市場になみなみならぬ関心を持っていたGoogleも、2010年新年早々、Nexus Oneにより、この市場への参入を発表した。
つまり、これまで、高値の花だと考えられていたSmartphoneが、性能が高まったばかりか、低料金により、一般電話との垣根が崩れて、大衆需要を引き出しているのである。本文で説明するとおり、本年、さらにはここ数年間は、IT、電気通信業界でSmartphoneをめぐる争奪戦が、ますます熾烈なものになるであろう。
ところで、AT&Tは、2009年末、FCCに対し、固定電話廃止の期日(sunset date)を定め、そのための規制、法の整備の準備を始めてほしいと要請したと報じられている(注1)。2009年10月、VerizonのSeidenberg 会長が、“もう、固定電話は要らない”と述懐したが、今回のさらに明確なAT&Tの意思表示で、固定電話は米国の主要電話会社2社から引導を渡されたことになる。時あたかも、FCCは、将来の米国インターネット政策の策定を急いでいるさなかである。AT&Tの今回の意思表示は、FCC政策策定にも、大きな影響を与えずにはおかないであろう。
携帯電話、インターネットの成長は、これまた本文で示したとおり、2000年代においては、アジア諸国において著しい。特に注目されているのは、人口が世界最大で、しかも経済成長が衰えを見せない中国、インドにおける脅威的な成長振りである。両国はまだ、双方のサービスともに普及率が低いので、今後の急成長は大いに期待できるだろう。ついでながら、中国、インドはもとより、世界の大多数の国(先進国を除く)では、そもそも固定電話網の基盤が弱かったのであり、それだけに、携帯電話の普及による既設固定通信網の廃棄には、さほどのコストを要しないはずである。
アジアのインターネット加入者数、欧米を上回る
表1は、世界の地域別に見たインターネットに関する統計数値(2009.9.30現在)である(注2)。
表1 Internet Usage Statistics The Internet Big Picture
(表の画像をクリックすると拡大図をみることができます。)
この表から、以下の諸点が読み取れる。
- 2009年9月現在、世界の人口は約6億6700万人であり、うち約1億7300人がインターネットを利用している。普及率は、25,6%(つまり4人に1人強)である。2001年から9年までの間に、インターネット加入者数は、3,8倍に増大した。
- 絶対数で加入者数が一番多いのは、アジア地域(約7億3千万)であって、同地域は、2位、3位の欧州地域(約4億1800)および北米地域(米国、カナダ)の約2億5300万のトータルを上回る。これは、インターネット加入者数が多い中国、インド、日本、韓国等を擁しているためである。
- 普及率がもっとも高い地域は、北米(74,2%)であり、オセアニア/オーストラリア(60,4%)、欧州(52,0%)がこれに次ぐ。北米地域、オセアニア/オーストラリア地域は、成長率がそれぞれ、34%、75%ともっとも低く、高普及率と併せ考えると、インターネット加入者数の成長率が飽和に達しつつあるのではないかとも考えられる。これに対し、欧州の伸び率は198%と、いまだ堅調である。
- その他の地域の普及率を見ると、ラテンアメリカ/カリブ海地域、中東地域が、それぞれ、30,5%、28,3%と平均値を少し上回った程度。また、アジア地域は、加入者数絶対値が最大であるのに、普及率は19,4%と未だ低く、今後の成長余力が大きいことを予想させる。アフリカ地域に至っては、13倍もの成長率を示しながらも、6,8%と普及率が著しく低い。この地域のインターネット普及が他地域の水準に追いつくのは、前途遼遠であろう。
このように、2000年代のインターネットのグローバルな普及は、爆発的とも言いうるものであったが、この傾向は、2010年代にもさらに継続するであろう。
次項で紹介するインターネットをさらにしのぐ携帯電話のすさまじい発展とあいまって、世界各国のコミュニケーションの発展、労働力の流動化に今後も大きく貢献していくこととなろう。
大衆消費財となった携帯電話 - 全世界の普及率60%超
表2 主要諸国の携帯端末数(単位:万)
国名 | 携帯端末数 | 人口当り普及率(%) | 調査年・月 |
全世界 | 410,000 | 60,6 | 2008.12 |
中国 | 72,000 | 54,0 | 2009.8 |
インド | 50,600 | 43,2 | 2009.11 |
米国 | 27,100 | 88,0 | 2008.12 |
ロシア | 19,000 | 134 | 2009.2 |
ブラジル | 16,980 | 89,3 | 2009.11 |
インドネシア | 14,020 | 60,5 | 2008.12 |
日本 | 10,750 | 84,1 | 2009.5 |
ドイツ | 10,700 | 130,2 | 2009 |
イタリア | 8,854 | 147,4 | 2008.12 |
英国 | 7,940 | 122,9 | 2008.12 |
フランス | 5,873 | 90,3 | 2009.12 |
韓国 | 4,700 | 97,2 | 2009 |
表2は、Wikipediaから、主要国における最新の携帯電話数を引き出し表示したものである(注3)。
携帯電話は、当初は、自動車電話からスタートし、自動車から離れて、個人が持ちは運びできるようになっても、最初は一般庶民にとって高嶺の花であるほど値段が高かった。値段が下がり、携帯ネットワークの高度化に伴い、需要が急激に伸びたのも、正に2000年代であった。2000年代後半は、特に、都市部だけでなく、農村部への普及も進み、世界各国で、携帯電話の大衆消費財化が進行している。
携帯端末の絶対数においては、中国、インドの両人口大国がそれぞれ、7億2000万台、5億600万台と双璧であり、第3位の米国を大きく引き離している。表2では、世界主要国13カ国のみに紹介を限ったが、たとえば、中南米のメキシコ(携帯端末数7,980 万、人口当たり普及率72,4%)、アフリカのナイジェリア(携帯端末数 6,400万、人口当たり普及率41,3%)と携帯電話普及の面で、主要先進国に劣らぬ成長を示している国もある。そもそも、上表に示すような携帯の爆発的発展の世界的傾向を見ると、携帯電話に関する限り、先進国、発展途上国といった区分自体が無意味であるとすら思われてくる。
インターネットと結合し固定通信を代替しつつある携帯電話 ― 特に、成長が著しいSmartphone
携帯電話は、当初、音声、メールの送受信を主としたものであったが、2000年代の後半から、次第にデータ、画像の送受にも使われるようになり、最近のSmartphoneでは、PC機能をほぼ取り込んだ。2007年7月、Apple社が開発したiPhoneは、そのデザインのスマートさ、一挙にキーボードをなくし指のみで操作できるようにした創造性、Apple社の人気製品であるiPodとの統合等、さまざまな点で画期的なものであったが、とりわけインターネットの標準規格であるHTMLにより、携帯電話でインターネットを全面的に利用できることを可能にした点で、まことに画期的な製品となった。さらに、同社が2007年に市場に出した3Gネット対応の新機種、iPhone3GS iPhonは、料金引き下げ、アプリケーション開放の点で多くの改良が加えられ、米国ではAT&Tのネットワーク上の問題もあり、売れ行きが多少伸び悩んでいる模様であるが、グローバルな成長は著しく、すでにSymbium、RIMに続き、グローバル市場第3位の地位を占めている。
Smartphone業界他社ももちろん、新機種の開発により、iPhone急成長に歯止めを掛けようと懸命である。
特に、インターネット検索市場において、他社の追随を許さないIT業界の雄、Googleは、ここ数年来、Smartphone端末にも大きな関心を持ち、世界の関係業界に働きかけ、Smartphone標準、Androidを2008年に発表、現在、この基準によるSmartphoneも各種販売されている。
つい最近、Googleは、Android規格によるSmartphone、Nexsus Oneを市場に出し、ついに待望のSmartphone端末業者の仲間入りを果した。
実のところ、2000年代最後の年、2009年は金融危機のあおりを受けて、携帯電話市場の成長は鈍化した。Gartner社は、2009年の販売数は前年の2008年を少し下回る12億台に留まるものと見ている。しかし、それにもかかわらず、Smartphoneの伸びは堅調であり、2009年の前年対比伸び率は26%と推計されている(注4)。
(注1) | 2009.12.31付け、http://arstechnica.com,telecom/news, "AT&T:landline phone dervice must die:only question is when." |
(注2) | www.internetworldstats.com, "Internet World Stats." |
(注3) | Wikipedia, "List of countries by number of mobile phones in use." |
(注4) | 2009.12.16、http://news.softpedia.com/、"Weak Smartphone Sales in "Are Nokia's Fault." |
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