ガソリンの代わりに圧縮空気タンクを積んで走るエア・カーをご存知でしょうか。排気は空気のみ、「究極のエコカー」とも言われるエア・カーの開発が進んでおり、年内にも製品が販売されそうな状況まで来ています。
下の写真は、MDI(本社:ルクセンブルク)が開発しているエア・カーAIRPodです。MDI社は、1999年設立のベンチャーで、2000年以来毎年のようにエア・カーの発売を予告しながら未だに販売していない、オオカミ少年のような企業ですが、今回は発売に漕ぎつけそうです。
写真 AIRPodのプロトタイプ (MDI社 Carros工場にて筆者撮影)
低コストでゼロエミッションのエア・カーは、グローバルなCO2排出量削減に大きく貢献できる可能性を秘めていますが、全くと言って良いほど注目されていません。
データリソース社は、21年度、財団法人機械振興協会経済研究所からの委託により、「クリーンエネルギー変換技術としての圧縮空気技術の課題と展望調査」を実施し、エア・カーの開発状況と普及の課題をとりまとめました。
DRIレポートで、その内容の一端を報告致します。
エア・カーの原理と特徴
普通のガソリン車は、エンジンの中でガソリンを燃焼させ、圧縮空気を作ってピストンを押し下げて、駆動力を得ます。一方、エア・カーは、エンジンに圧縮空気を吹き込んでピストンを押し下げて、駆動力を得ます。その圧縮空気は、あらかじめ電力でコンプレッサー(空気圧縮機)を動かして、車載タンクに充填しておきます。
つまり、普通のガソリン車とエア・カーの違いは、「どこで圧縮空気を作るか」という点にあります。
電気自動車とも比べてみましょう。電気自動車は、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して二次電池に蓄え、電気でモータを回して走ります。一方、エア・カーは、電気エネルギーを圧力エクセルギーに変換して高圧タンクに蓄え、圧縮空気でエンジン(モータ)を回して走ります。
つまり、電気自動車とエア・カーの違いは、「電気エネルギーをどうやって蓄えるか」という点にあります。
これらの違いから、エア・カーには、以下のような様々な利点が生まれます。
* ライト、ワイパー等電気系統のために小容量のものを利用する。 |
図 エア・カーの利点
次世代自動車として注目を浴びている電気自動車(EV)と比較すると、まず、高価なリチウムイオン電池を使用しないことで、軽量で、初期コストが安く、レアメタルを使用せず、急速充填可能な車両を作ることができます。断熱膨張で氷点下まで冷えた排気を冷房に使えるので、暑いところでもEVのように燃費(電費)が落ちません。
EVは、100年前には実用化していましたが、いったんは、ガソリン車に駆逐されてしまいました。エア・カーも、100年前には圧縮空気機関車や圧縮空気地下鉄が走っていましたが、いったんは淘汰されてしまいました。
写真 1961年まで使われていた圧縮空気機関車
(出典:http://en.wikipedia.org/wiki/File:Compressed_Air_Loco.jpg)
地球環境問題への対応が急がれる中、EVがまた脚光を浴びているのは、エネルギー蓄積媒体である電池の性能が向上し、その実用性が増したためです。
そして、エア・カーもまた、エネルギー蓄積媒体である高圧タンクの性能向上によって、その実用性が増したのです。
では、現在のエア・カーには、実際どの程度の性能(エネルギー効率、燃費、最高速度、航続距離)が期待できるのでしょうか。
(次回に続く)
この事業は競輪の補助金を受けて実施しております。