2009年10月16日にアメリカのデジタルTV放送の規格化団体のATSC(Advanced Television Systems Committee)は、ATSC Mobile/Handheld(ASSC M/H)として知られている、A/153規格の確立を決定させた。ATSCのモバイルTV規格の開発が正式に始まったのは、2007年5月であり、2年5ヶ月のスピードで、規格の確立に至った。アナログ停波が行われる2009年には規格化が完了し、サービスの開始を可能にするように動いてきたのは、800以上の放送局が参加しているOMVC(Open Mobile Video Coalition)である。
30以上の局がすでにATSC M/Hを使ったモバイル放送のテスト送信を行っており、特にワシントンDCでは、その主要な局の殆どがテストに参加している。ATSC M/Hの規格が確立した16日、OMVCはワシントンDCに於いて、FCCのスタッフ、議員、技術関係者、記者等を招待し、バスでのモバイル放送のテスト・ツアーを行った。バスにはハンドヘルド型のレシーバー、ノートPC用のUSBレシーバー等が準備され、移動中にでも放送が受信出来る事をアピールした。
OMVCは、年末までには50局がモバイルTV放送を開始し、来年初めには70局に増える予定だと発表している。ATSC M/Hは、既存のHD放送に影響を与えることなく、複数のモバイルチャンネルとデータ放送が可能であり、広告付きの無料放送に加え、有料チャンネル、データサービス、ダウンロード型のVOD等が検討されている。どのようなビジネスモデルが適しているかに関しては、来年初めにユーザテストがワシントンDCとバルチモアで行われる。
一部の局はモバイル放送を始めているが、レシーバー用のICの出荷は始まったばかりであり、レシーバーはまだプロトタイプしか存在していない。OMVCはレシーバーが携帯電話へ搭載され、普及が進むことを期待しているが、通信事業者との契約はまだされていない。通信事業者は通常の電話以上にインターネットへのアクセスが多い、ネットブック、スマートフォンにモバイル放送のモバイル放送のレシーバーを搭載する事で、ネットワークへの負担が増えるオンライン・ビデオへのアクセスを減らす事に関心を示している様である。
AT&TとVerizonは共にFLO TVをサポートしているが、加入者は増えておらず、モバイル放送への期待は、OMVCが願うほど強くは無い。FLO TVもAT&T、Verizon経由だけでは、加入者が増えない事から、Audiovoxとの協力で、自動車向けのサービスを発表し、さらに、専用ハンドヘルド端末を販売し、直接にユーザに売り込みを始めようとしている。
iPhone等のスマートフォンの登場で、オンラインビデオを見ることが出来る携帯電話は増えている。しかし、Nielsenの行っている調査では、携帯電話におけるビデオの視聴は2009年第2四半期で1ヶ月平均3時間15分で、第1四半期の3時間37分から減少している。