6月12日に地上波のアナログ停波は無事に完了した。しかし、これで地上波のデジタル移行が完了した訳ではない。一部の放送局はデジタル移行後に受信問題が起き、それが解決していない。問題のある局は30局前後で、FCCはエンジニアを派遣し、個々に問題の対応にあたっている。
受信問題がある局の多くはアナログ放送ではVHFを使い、デジタルサイマルキャストはUHFで行い、アナログ停波後に、デジタル放送を元のVHFチャンネルに戻した局である。過去数年間、デジタルサイマルキャストを行い、デジタル放送の問題は解決されてきた。しかし、VHF帯域には空きチャンネルが無かったので、VHFによるデジタル放送はテストする事が出来ず、今になりその問題が明らかになっている。特に、都会で大きな問題があり、ビル等に加え、その他の通信がVHFデジタル放送の妨害になっていると考えられる。
一部の局に対してはFCCは出力の増加を認め、これで問題は解決している。都会の局では出力の増加をしすぎると、逆に他の通信に干渉を与える可能性もあり、VHFのままでは解決のめどが立たなく、UHF帯への引っ越しが検討されている。シカゴのABC保有のWLS局は大きな問題を持っている局の1つであり、現在の7チャンネルから44チャンネルに引っ越す許可をFCCに求めている。
デジタル移行を完了させる為のもう1つの大きな問題は低出力局である。6月12日にアナログ停波をしたのは1800のフル出力局で、米国にはまだ2800の低出力(Low Power Television、LPTV)局が残っている。これらの局に対してのデジタル移行の規制、あるいはその援助も無い。LPTV局がデジタル移行をする場合、自己出費で使えるチャンネルを探すための調査を行う必要がある。LPTVの殆どは小さなコミュニティー局であり、この様なエンジニアリング調査を行う費用も、デジタル放送機器を導入する費用もない。
LPTV局にはデジタル移行への規制が無いので、このままアナログで放送をし続ける事は出来る。しかし、他の放送局も、テレビ自体も、デジタル化している中、アナログでの放送では視聴者はさらに減っていく。LPTVは再送信義務の対象には入らないので、多チャンネルサービスへの加入者が増えることで、視聴者は減ってきていた。
LPTV局を代表して議会、FCCへのロビー活動を行ってきたのはCommunity Broadcasters Association(CBA)である。CBAはLPTVを再送信義務に加えること、アナログLPTV局が引き続き視聴可能になるようにDTVコンバーターにアナログチャンネルのパススルー機能を加える事などのロビー活動を行ってきた。しかし、そのメンバーのLPTV局の収入が減り、CBAの活動資金は無くなり、CBAは7月15日にその活動を停止した。
CBAはLPTV局に対して行ったアンケートではその40%の局が1年以内に放送を終了する事になると考えていると語っているが、その代表組織を失い、業界の破局はさらに早まって行くかも知れない。アナログ放送を行い続けるLPTV局が存在出来なくなる事も、デジタル化の完了と言える。時代が進む上で、ある程度の犠牲は仕方がないかも知れないが、コミュニティーに根付いてきた放送をするLPTVの破局は大きな損失になる。