2009年は自動車向けモバイル放送にとり、大きな年になろうとしている。携帯電話向けのモバイルTVは期待されたほどの普及を見せていない。MediaFLOの加入者数は30万程度でしかなく、利用頻度も少ない。MediaFLOの発表ではその利用者の1日の平均的な視聴回数は4、5回で、その平均合計視聴時間は1日で20分と非常に少ない。
モバイルの新たな市場として自動車向けのサービスに対する期待が高まっている。自動車向けのオプションとして、後部座席向けのビデオモニターとDVDプレーヤで構成されるRSE(Rear Seat Entertainment)システムがポピュラーになっており、モバイルTV事業者はこの市場に狙いを付けている。
すでに、自動車向けの衛星ラジオ事業者のSirius XMがSirius Backseat TVと呼ばれる、子供向けの3つのチャンネルで構成される放送サービスを月額$7ドルで提供している。また、ICO Global社も衛星を使ったDVB-SHベースのサービスを予定し、昨年に衛星を打ち上げている。
2008年末にはAT&Tもこの市場への参入を発表した。AT&Tは自動車向けの衛星アンテナのベンダーのRaySatと協力し、2009年春からCruiseCastと呼ばれる自動車向けの多チャンネルサービスを立ち上げる事を発表している。CruiseCastはIntelsatの衛星トランスポンダーを使い、22のテレビチャンネルと20の音楽チャンネルを提供する予定である。サービスの月額は$28とリーゾナブルな価格だが、アンテナとレシーバは$1300と高価である。キノコ型の衛星アンテナを屋根に取り付け、チューナーを車内に設置し、既存のRSEのモニターに接続する必要がある。
移動体向けの衛星放送は障害物の影響で電波の届かない場所に対応する必要がある。Sirius XMは地上リピーターを設置しており、ICO Globalも1500〜2000のリピーターの設置を計画している。しかし、CruiseCastは3分間のバッファーを使い、リピーター無しでも番組が途切れないように対応をする。
携帯電話向けのモバイル放送を行っているQualcommのMediaFLOも自動車向けのサービス参入を発表した。MediaFLOは12月に自動車向け放送のテストをサンディエゴでトヨタとの協力で行った事を発表した。そして、1月のCESではAudiovox社をそのパートナーとする事を発表した。AudiovoxはMediaFLOのサービスを車から受信する為のアフターマーケット向けのレシーバーを開発、販売する。チューナーは$500程度の価格で販売される。チャンネルラインアップ、料金は発表されていないが、現在、MediaFLOはAT&TとVerizonが月額$15で、10から15チャンネルのサービスを提供している。
さらに、年内には地上波を使ったATSC M/Hのサービスも開始する予定である。ATSC M/Hは地上波デジタルTV放送で空いている容量を使う、日本のワンセグの様なサービスである。地上波放送局はこのサービスの開始に積極的であり、この促進を目的としたOpen Mobile Video Coalition(OMVC)には800以上の放送局が参加している。M/HはMobile/Handheldの略であり、携帯端末(Handheld)だけでなく、移動体(Mobile)での利用を想定している。これまでに行われてきたテスト、デモンストレーションでも自動車を使い、高速で走る車からでも受信が出来る事を実証してきた。また、映像の放送に加え、ナビゲーション情報等の運転者向けのデータ放送の提供も予定されている。
ATSC M/Hの正式な規格化はまだであるが、ATSCはM/Hの候補技術を発表しており、製品の開発はすでに開始されている。放送局は2009年内にM/Hを使ったモバイルサービスの開始を予定している。しかし、アナログ停波が延期が検討されており、これにより、この計画にも遅れが出る可能性がある。