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DRI テレコムウォッチャー |
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2009年第3四半期Verizon決算から読み取れるもの ― ワイアライン・ワイアレス部門ともに前期に比し増収へ
2009年12月1日号
前回のDRIテレコムウォッチャーで、2009年第3四半期のAT&TがiPhoneGSの好調な売れ行きを起爆剤に、ようやく、そこそこの収入、利益を計上した点について解説した(注1)。今回は、Verizonについて同期間(2009年第3四半期)の決算の状況を考察する。詳細は、本文を読んで頂ければよいのであるが、今回の分析は、Verizon自体の経営状況の説明部分が少ない。AT&Tとの経営比較、さらにはMSO(大手ケーブルテレビ会社)、特にComcastとの経営対比、あるいは、ComcastがVerizonに及ぼしているインパクトの解説がむしろ主眼となってしまった。
ことほどさように、電気通信会社とケーブル会社との業務内容が類似し、相関関係が強まり、双方の業務内容を説明しないと、片方の解説が完結しないのである。また、2009年における幾つかのテレコムウォッチャーの号で紹介したように、Apple、GoogleといったIT企業からの電話端末(Smartphoneという形で)分野への参入が進み、これまた、電気通信業界に深甚なインパクトをもたらしつつある。
不況で、マイナス・サム社会、弱肉強食の事態が進んでいる。通信・メディアのサービス市場を巡っての大手電話会社、MSO(大手ケーブル事業者)、大手IT企業間の覇権競争は、多分、幾件かの企業合併を伴い、2010年も荒々しい形で進行するだろう。
VerizonとAT&Tの収入、利益比較(2009年第3四半期)
表1 2009年第3四半期Verizonの収入、利益(単位:100万円)
項目/時期 | 2009年第3四半期(Verizon) | 2009年第2四半期(Verizon) | 2009年第3四半期(AT&T) |
総収入 | 27,265(+1.5%) | 26,861 | 30,855(+0.4%) |
ワイアレス収入 | 15,797(+2.1%) | 15,480 | 13,654(+3.1%) |
ワイアライン収入 | 11,569(+0.8%) | 11,488 | 16,304(−1.3%) |
純利益 | 2,887(−19.8%) | 3,160 | 3,275(−0.04%) |
ワイアレス営業利益 | 4,474(−0.5%) | 4,453 | 5,388(−2.2%) |
ワイアライン営業利益 | 444(−20%) | 555 | 1,918(−4.3%) |
(表内括弧の%は、前期に対する増減比)
表1から次のことが読み取れる。
- 2009年第3四半期、Verizonの総収入は前期に比し1.5%伸びた。この伸び率はAT&Tの伸び率0.4%より高い。この成長は、ワイアレス部門が主導したものであるが、ワイアライン部門もわずかながら増収になったことが注目される。この傾向がもし次期(2009年第4四半期)にも持続できれば、VerizonのAT&Tに比しての収入基盤の優位性が証明されることとなろう。
- もっとも、Verizonの純利益は、今期、大きく下がった。これは、コスト節減に努力しているものの、競争激化に伴う販促費、負債の増加に伴う利子支払い、さらに設備の近代化、サービスの拡大(ワイアレス網の近代化、FiOSへの投資拡大等)等の出費が増大しているためと見られる。
- ワイアレス部門、ワイアライン部門別の営業利益の格差は、大きく開いた。いまや、ワイアライン部門の営業利益の水準は、ワイアレス部門の10分の1に過ぎない。
AT&Tに遅れを取ったワイアレス部門−しかし、Verizonは強烈な反撃を計画中
表2 AT&TとVerizonのワイアレス部門業績比較(2009年第3四半期/2009年9月末)
項目/キャリア | Verizon | AT&T |
収入(単位:100万ドル) | 13525 | 12399 |
加入者数(単位:万) | 8,901(+120) | 8,160(+200万) |
端末数のなかでSmartphoneが占める比率 | 23% | 41.7% |
APRU(加入者一月当りの収入) | 52.8ドル | 61.2ドル |
Churn(取り消し率) | 1.49(1.37) | 1.43(1.39) |
1. | 表2での収入は、ワイアレス全収入から、端末販売分を除いたサービス販売のネット収入である。機器販売収入を含めた表1の収入と異なる。 |
2. | 加入者数の括弧内の数値は、前期(2009年第2四半期)に対する増加数を示す。 |
3. | Churnの括弧内の数値は、前年同期(2008年第3四半期)に対する増率を示す。 |
表2のAT&T とVerizonのワイアレス部門の業績比較により、今回、さらに、AT&Tに対するVerizonの劣勢が明らかとなった。
その主要点を次に列挙する。
- 前期の加入者数のVerizonの純増は120万とAT&T(200万)の60%に留まった。
- 収入、加入者数において、Verizonは、AT&Tに比し、優位に立っている。しかし、これは2008年末に中堅携帯キャリアAlltelを統合したことからして、当然のことである。むしろ、AT&Tとの格差がさほど大きくないことに注目しなければならない。仮に2009年第3四半期の傾向が続けば、Verizonの優位性は容易に消え失せる危険性がある。
- 端末数のうちでSmartphone数が占める比率は、AT&TがVerizonに比しはるかに高い。これもiPhone増大によるものであるが、APRUの両社間格差をももたらしている。
上記のように、これまで、どちらかといえばワイアレス部門において優位に立っていたVerizonは、2009年第3四半期において一挙に劣勢に追い込まれたかの感がある。その原因は、主として、AT&TのiPhoneGSの爆発的な売れ行きに起因する。
しかし、Verizon3Gネットワークの構築はAT&Tより進んでおり、ほぼ米国全土での展開を終了した。同社はさらに、第4世代ワイアレス網の開発にも力を入れている。AT&Tに先んじて、2009年夏、ボストンとシアトルにおいて、LTE4Gネットワークにおけるデータトラヒックのテストを成功させたし、2010年には30市場における4Gワークの商用化を実施する計画である。
Verioznは、また、Smartphone分野の巻き返しに懸命である。Smartphoneの主力機種、BlackBerryの他、Touch Pro2(HTC社)、7705 Twist(Nokia社)のような最新鋭機種を品揃えし、顧客にアピールしているし、2009年11月初旬には新鋭Smartphone端末、Droid(Motolora製、Google が開発した携帯端末のAndroidに基いたOSを使用)を市場に出した。この記事執筆現在、この機種はまだ発売後3週間ほどしか経過していないが、その売れ行きは爆発的である。これまでの同社の主要機種、BlackBerryはもちろん、iPhone売り上げを上回る勢いだという。Droidは、キーボードを備え、より多少大型ではあるが、カメラ機能が勝れているなど、幾つものiPhoneより優れた長所を備えているという。なお、Verizonは、Droid発売キャンペーンのなかで、激烈なiPhone攻撃を行った。このネガティブ・キャンペーンが効を奏したとも報道されている(注3)。
従って、年末に掛けて、Smartphone分野において、Verizonの巻き返しが大きく効を奏し、AT&Tとの力関係が逆転する可能性も否定できない。
存在感を高めつつあるFiOSTV、FiOS Internet −しかし、ビデオ、インターネット分野におけるComcastの優位性は揺るがない
表3 Verizon、AT&T、Comcast3社のブロードバンド回線数の現状、 2009年第3四半期のブロードバンド増数の相互比較(単位:1000)
項目/キャリア | Verizon | AT&T | Comcast |
ブロードバンド加入者数 内訳 | 9,174 FiOS Internet 3,280(2,199+8.4%) ADSL 5,894(6,250−2.5%) | 13,550 U-verse 1,816(781+232.5%) ADSL 9,541(9,763−2.3%) | 15,684 (すべて、ケーブルモデムによるブロードバンド加入者) |
(表中、括弧の中の最初の数値、第2番目の数値は、それぞれ前年同期(2008年第3四半期末)の実績値 および2008年第3四半期末に対する2009年第3四半期実績値の増減比率である。)
表3から、次のことが読み取れる。
- Verizonのブロードバンド総数は、AT&Tに及ばない。しかし、その内訳を見ると、ADSLではAT&Tが優勢であるが、光ファイバー利用のFiOSでは、VerizonはAT&TのU-verseに大きく差をつけている。もっとも、2009年第3四半期には、VerizonのFIOS Internetの増数は16.2万と鈍化が目立つ。これは、Verizonが今期から、新規ライセンスの取得を急がず、FiOSインフラが整備済みの地域における架設中心の加入者増に転じる政策に転じたことも一因だとの報道も見られる(注4)。
- VerizonもAT&Tも、ブロードバンドの加入者数においてComcast(米国最大のMSO)に及ばない。両社とも、1年ほど前からADSLは減少に転じている。その減少分の一部は、それぞれ、U-verse、FiOS Internetに振り代わったか、あるいは、Comcast等ケーブル会社のケーブルモデルインターネットに流れたのであろう。
なお、Comcastは、その成長率は多少鈍りつつあるものの、インターネット、音声通信分野での加入者数増、収入増は依然、継続しており、業務成績は好調である。
2009年第3四半期の純利益は、944百万ドル(前年同期22.4%%増)、収入は88億ドル(3.0%増)と増勢が続いている。
ブロードバンド加入者数は15,684千(前年同期比4%増)、音声通信加入者数7,379千(前年同期比20.3%増)。これは、ビデオ加入者数24,425千(前年同期の24,415千加入者数から2.7%の減)を補って余りある。
上記の数値から、ビデオサービス提供を基本にしながら、ブロードバンド(インターネットアクセス)、音声電話に進出するというVerizonの多角化政策は着々と進行しつつあり、AT&T、Verizon等電気通信会社に深刻な脅威を与えつつあるといえよう。
もちろん、MSOには、Comcastの他にも、TimeWarner Cable、Cablevision等多角化に積極的な企業が数社あるのであって、これら諸社もそれなりの業績を上げている模様である。
(注1) | 2009年11月15日付け、DRIテレコムウォッチャー、「2009年第3四半期AT&T決算から読み取れるものーiPhone3GSの売り上げ好調」。 |
(注2) | 以下、Verizon、AT&Tの決算数値はそれぞれの期における両社の決算数値を使用した。特に、資料名の紹介は省略する。 |
(注3) | この項の記述は、主として次の2つのネット記事によった。 2009.11.3付け、http://www.pcworld.com, ”iPhone Under Attack from Android Invasion.” 2009.11.25付け、http://www.i4u.com, ”Drid Advertisements Working Beyond Wildest Dreams.” |
(注4) | 2009.10.22付け、http://www.dslreports.com, ”FioS Development Slowing?" |
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