DRI テレコムウォッチャー


2009年第3四半期AT&T決算から読み取れるもの ― iPhone3GSの売り上げ好調
2009年11月15日号

 AT&TとVerizonは、2009年10月末、相次いで2009年第3四半期の決算を発表した。この期における両社の収支の骨子を表1に示す。

表1 2009年第3四半期におけるAT&T、Verizonの収入、利益(単位:100万ドル)
項目/キャリアAT&TVerizon
総収入30,855(−1.6%)27,265(+10.2%)
純利益3,275(−8.3%)2,887(−9.8%)
純利益率10.6%(+0.9%)10.5%(−18.7%)
1.括弧内の数字は、前年同期に対する増減比率である。
2.Verizon総収入の前年同期対比増率は、2009年第3四半期はAlltel合併後の数値、前年同期はAlltel合併前の数値を使用して計算しているため、Verizonの収入は2桁台の伸びを示している。
この要因を除去した数値(つまり、2008年第3四半期の数値に同時期のAlltelの収入を加えて計算)による実質の増率は+0.6%になる。

 両社ともに、減収あるいはわずかの増収、かなり大幅な減益であり、似通った業績を示している。不況のさなかにある米国の経済状況からすれば、まずまずの決算だとも言えようが、2009年の当初から縮みの傾向が続いており、将来の展望が開けない。両社とも、従来、次期あるいは次年の業績見通りを発表してきたものだが、2009年各期の決算ではこの慣行をやめてしまった。それほど、両社ともに、将来の自社事業について自信が持てない模様である。

 DRIテレコムウォッチャーは、今回(11月15日)と次回(11月30日)に、それぞれ、AT&T、Verizonの2009年第3四半期の決算から読み取れる主要点を解説する。両社の経営比較は、2009年通期の決算数値が出た機会(多分、2010年2月ごろ)に行うこととしたい。


AT&Tの収入、利益の推移(2009年各四半期)

 表2に、AT&Tの2009年各四半期の収入、利益(前期および前年同期と対比したもの)を示す(注1)。

表2 AT&Tの収入、利益(2009年第3四半期、第2四半期、第1四半期)(単位:100万ドル)
項目/時期2009年第3四半期2009年第2四半期2009年第1四半期
総収入30,855(+0.4%)30,73430,571
ワイアレス部門13,654(+3.1%)13,24512,880
ワイアライン部門16,304(−1.3%)16,52516,678
その他部門897(−7.0%)9641,013
純利益3,275(−0.04%)3,2763,201
営業利益5388(−2.2%)5,5065,738
ワイアレスの営業利益3,359(+6.6%)3,1513,341
ワイアラインの営業利益1,918(−4.3%)2,0032,141
1.2009年第3四半期の実績値に付した括弧付きの%は、前期(2009年第2四半期)に対する増減比である。(表1では、前年同期に対する比率が示されているので、表1、表2を対比する場合、両比率は次元が異なっている点を留意願いたい。)
2.AT&T は、米国最大の電話帳広告部門を有している。「その他部門」の大半は、この部門の広告料収入である。

 表2から、次の点が読み取れる。

  • 表1で示したとおり、AT&T2009年第3四半期の総収入は、前年同期に比すれば、わずかながら(−1.6%)の減少を示した。しかし、2009年には、各期とも前期対比で多少の増収となっている。これは、加入者数の減を1人当り収入の増(音声→データへの移行による)で補っていることによる。この傾向が続けば、ワイアラインの収入減に歯止めが掛かることになる。
  • ワイアレス、ワイアラインの別で見ると、収入ベースで見ても、利益ベースで見ても、両部門の成果は対照的である。ワイアレス部門は、増収増益基調であるのに対し、ワイアライン部門は減収減益基調である。
  • 総体的にAT&Tは、苦しい経理状況のなかで、帳簿上、急激な変動を出さないようなコスト管理を行っている様子が伺える。コスト削減、投資の調整により、毎期、純利益を一定水準に保っているのではないかとの印象を受ける。
 しかし、AT&Tは依然として米国有数の大企業であることに変わりはない。負債の減額を行い、また、キャッシュフローが増えている点からすれば、同社の財務基盤は、まだまだ健全である。


好調なワイアレス部門 ― 貢献の大きいiPhone加入者数の増大(注2)

 表2で示されるとおり、2009年第2四半期におけるAT&Tのワイアレス部門の収入増率は、前年同期に比し3.1%である。しかし、競争を通じ、料金は低下傾向が続いているのであって、AT&Tの加入者増、通常の音声端末から多機能付端末(smartphoneを含む)への移行は、この数字が示しているよりも大きい。
 AT&Tは、この期、携帯加入者数を200万増やし(これまでで最高)、加入者総数は8160万となった。
 前期の140万増に比し、大幅に加入者数を増やしたことになる。またこの時期、競争業者、Verizonの加入者増は120万に留まったので、加入者獲得競争は、圧倒的にAT&Tの勝利に終わった。
 多機能端末の増加数は30万であり、うち、iPhone端末の増加数は320万と総体の74%に及んだ。iPhoneユーザのうち、新規加入者数の比率は約40%だというから、iPhoneは、約130万程度の加入者数をAT&Tに組み入れたことになる。いかに、AT&Tワイアレス部門の業績にiPhoneが貢献しているかが伺われる。
 前期に比しiPhoneがこれほどまでに売れたのは、この期(2009年7月から9月)に、新型機種、iPhone3GS端末の販売期間がすべてカバーされたことによるところが大きい。
 他社のアプリケーションが大幅に利用でき、大衆価格で購入できるiPhoneは、全く魅力的な商品であることが証明された。これは、他のSmartphone端末についてもいえるところであるが、不況にもかかわらずではなく、不況であるからこそiPhoneの販売が伸びているという点も指摘されている。Smartphoneは、急速に大衆商品となったのである。

 なお、筆者は、DRIテレコムウォッチャー2009年10月1日号において、2010年に予定されているAppleとAT&Tの契約更改時に、AT&Tが排他的Apple販売契約を更新できるか否かの議論を紹介した(注3)。この議論はなお継続しているものの、現在のところ、AT&Tが契約を持続できると考えている論者は、ほぼいなくなった。
 当事者のAT&Tの幹部自体が、契約延長をあきらめたかのごとき発言を行っており、すでにポスト・アグリーメントの事態に備え準備をしている模様である旨も報道されている(注4)。
 多分、iPhone使用が公開されると、AT&Tより勝れた3Gネットワークを有するVerizonがiPhone市場でかなり大きいシェアを取るものと予想され、AT&Tは苦戦を強いられるだろうとの予想も為されている。


ワイアライン収入はなぜ低下したのか

表3 2009年次第3四半期におけるAT&Tの収入を生む設備数の前年対比(単位:1000)
項目/調査月2009.9.30現在2008.9.30現在増減率(%)
住宅用音声回線数25,20528,329−11.0
VoIP回線数2,8933,526−18.0
ブロードバンド回線数
【内訳】U-verse回線数
  衛星回線数
  * ADSL回線数
13,550
1,816
2,193
9,541
12,726
781
2,182
9,763
+6.4
+232.5
+0.6
−2.3
収入を生む回線数総計 45,659
(−1,384)
47,547
(−1,891)
−4.0%
1.表の各項目は、それぞれ、connectionであって、回線数と訳すのは、もちろん正確でない。しかし、適当な訳語が見当たらないので、ここでは、便宜上、回線数と訳しておいたことをお断りしておく。
2.表中下部括弧内の−の数字は、それぞれ、前年同時期に対する減少回線数である。
3.上表中ADSL回線数(*)は、原資料では表示されておらず、ブロードバンド回線数からU-verse回線数と衛星回線数を差し引き計算した。これは、推計値ではなく確定値である。これまでテレコムウォッチャーで幾度も触れている通り、AT&TはADSLについての記述を故意に避けている。期を追って回線数が低減するのを、隠したいためと考えられる。

 上表から読み取れる主な事項は次の通り。

  • 最終の欄の「収入を生み出す回線数総計」は、ユーザに対しAT&Tが収入の元になる各サービスの管路をどれだけ提供しているかを示すものであり、いわば、回線面から見た同社の成果を示す。
  • 結果は、2009年9月末現在で138.4万回線の減少となっている。一年前同期の減少数、189.1万回線に比すれば、多少、減少数は少なくなったが、ともかく、この減少を増大に切り替えなければ、AT&Tがワイア部門で成長軌道に乗ることは望み得ない。ちなみに、2009年9月の実績が出るのは、まだ数週間後になるはずだが、MSO大手のComcastは、ここ数年間、連続して「収入を生む回線数」を増やしており、AT&Tの経緯と対照的である。
  • 2008年9月末に比し、大きく回線数を伸ばしたのはU-verseであり、その回線数は、ようやく181.6万に達した。同期におけるVerizonのFiOS回線数は318万であり、同社より遅れを取ってスタートしたAT&Tの光ファイバーブロードバンドは、ようやく、VerizonのFiOSと同等の次元で論じる立場に立ったと見ることができよう。
  • VoIP回線数は、今回、はじめてAT&Tが発表したものであるが、(1)本来、最大のVoIPキャリアになって然るべきAT&Tの加入者数が、Comcast、Vonage等、大手キャリアの後塵を拝していること、(2)しかも、ここ1年間の間に多くの加入者を失っていることが特徴的である。

 総じて、上表から推測するに、AT&Tワイアレスの音声部門は、昨年同期に比し減少率こそ鈍ったものの、年間10%を越える回線数の減は、AT&Tにとって打撃である。当然、ブロードバンド、ビデオ部門がそれを代替し、発展しなければならないのであるが、この部門の進展も、かならずしも順調に進んでいない。このため、AT&Tが強調するように、人員削減等リストラを含め、節減努力を強く推進しているにもかかわらず、AT&Tワイア部門は、今期、減収減益を余儀なくされている。


(注1)本稿の分析は、特に注記したものを除き、すべてAT&Tの決算報告についての公開資料を基にして行った。資料名の列挙は省略する。
(注2)この項では、AT&Tの決算報告のほか、2009.10.22付け、http://www.examiner.com, "AT&T iPhone big contributor to AT&T earnings."を利用した。
(注3)2009年10月1日付け、DRIテレコムウォッチャー、「AT&TによるiPhoneの排他的販売は継続できるか」
(注4)ネット上のニュースは数多いが、たとえば2009.10.28付け、http;//www.computerworld.com, "Apple to ink Verizon-iPhone deal next year,analist says."


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