DRI テレコムウォッチャー


FCC、ワイアレス通信分野における消費者保護実施についての調査告示を発出
2009年9月15日号

 FCCは、2009年8月27日、ワイアレス通信分野における3件の調査告示を一挙に発出した(注1)。
 これらの調査告示は、それぞれ、ワイアレス通信分野について(1)イノヴェーション、投資を容易にすることにより(2)より一層、競争を促進することにより(3)消費者が賢明な判断をすることができるよう所要の情報を所有することにより、消費者保護の強化を意図したものである(注2)。
 FCCが、この時期に上記のワイアレス通信についての包括的な調査告示を発出したことは、次の諸点からして、まことに時宜を得た措置だと考えられる。
 まず、FCCは、従来、そもそも消費者保護の視点から、通信分野の監督、規制を行うという視点が極めて薄かった。特に、ワイアレス分野においては、スタートの時点から競争市場が形成されているとの基本的な考え方があったため、固定通信分野に導入されていたわずかの監督、規制(たとえば、明確な料金表示)すら行われていなかった。次に、米国のワイアレス通信は、欧州、日本に比し遅れていたが、ここ数年来、急速に普及、高度化が進んでいる。前号のDRIテレコムウォッチャーでも紹介したとおり、これまで急成長を続けてきたと考えられてきた米国のワイアレス電話の市場も最近、加入者数で見た飽和化が進行している(注3)。しかも、4大キャリアの占めるシェアが年々高まり、準独占化が進み、この点からも市場にゆだねるのでなく、行政的手段を行使しての消費者保護の必要性が強くなっている。
 さらに、国民の目線に立った政治、行政への転換は、Obama民主新政権の大きな差異化を示す重要な政策である。Obama大統領のハーバード大学以来の盟友といわれるFCC新委員長、Genachowski氏にとって、誰しも日々利用している電気通信分野、とりわけ、固定電話以上に利用されるようになっているワイアレス分野において、消費者保護の視点を打ち出すことは、国民のためのFCCのイメージを高める意味において、重要な意味をもっていた。
 この調査告示は、一見、FCCが過去に行なった固定電話部門におけるわずかな情報開示要請の実績を根拠にして、この固定電話モデルをそのまま、ワイアレス電話部門に押し広げようとしているだけのものに過ぎないとも思える。
 しかし、専門筋は、今回の調査告示は、さらにワイアレス部門についての大きな調査 - 場合によっては、AT&T、Verizonなど巨大ワイアレスキャリアの反独占の事実がないかの調査、あるいは司法省による捜査 - に結びつく可能性があり得ると論じている。
 本論では、上記3件の調査告示のうち、ワイアレス通信についてユーザにどのような情報開示を行うべきかを追求する第3番目の調査告示の主要ポイントを述べる(注4)。同時に、この調査告示に対する利害関係者の反響事例(おおむね、好意的なもの)を紹介する。


調査告示内容主要点の一部紹介

電気通信分野における従来の消費者保護―主体は料金の真正表示
 米国の電気通信分野における消費者保護は、キャリアに対し、料金表示をいかに利用者が理解しやすいように、また、正しく表示させるかと言う点に絞られていた。
 背景としては、一部キャリアが曖昧な文言の料金説明の表示により、加入者に意に沿わない料金契約を締結させたり(Cramming)、あるいは、加入者本人が意識しないうちに、加入契約を他のキャリアに変更されていたり(Slamming)といった事例が頻発し、多数の苦情がFCCに提起されたというようなケースが挙げられる。
 1999年、FCCは、第1回料金真正表示命令(First Truth-in-Billing Order)を制定した。この命令は、キャリアに、利用者に対する料金の説明は、以下の要件を満たすことを義務付けている。

  • 料金の説明構成が明確になっていること。料金を課するキャリア名を明示すること。同じサービスを提供する他のキャリアも明示すること。
  • 個々の料金をすべて、誤解のない表現で記述すること。
  • 消費者が、料金の照会、異議申し立てをするのに必要と考えられるすべての情報について、際立つ形で、また明確な開示を行うこと。

 この命令は、固定通信キャリアだけでなく、ワイアレスキャリアをも含むものであったが、制定当時、ワイアレス部門における苦情は、まだ、見られなかったので、ワイアレスキャリアについては、適用が除外された。
 FCCは、2005年に制定した第2回料金真正表示命令(Second Truth-in-Billing Order)において、ワイアレスキャリアに対する料金表示要件除外を廃止した。これは、1999年から2005年の期間におけるワイアレス料金に対する苦情の発生を考慮したものであろう。

消費者のサービス利用各階梯におけるFCCの情報開示範囲の提案
 従来、料金の開示は、料金のフォーマット(いわゆる料金タリフ)の開示に限られてきた。FCCは、今回の調査告示において、料金開示の範囲を拡大し、このほか、『プロバイダーの選択』、『サービスプランの選択』、『サービス・プラン利用についての管理』のそれぞれについても、料金開示をする旨の提案を行う。各項目についての問題意識の幾点かを次に列挙する。

(1) プロバイダーの選択
 a.契約約款の中身の情報開示(施行期間、中途解約のペナルティーの額を含む)
 b. サービス品質(サービス提供エリア、通話切れの比率、データの伝送スピード等々)
 c. 当該プロバイダーから、選択できる端末機器の種類、利用条件等
(2) サービス・プランの選択
 a.販促料金:競争者が提示しているすべての料金を含め、同等の他のサービス料金と比較可能なものとなっているか。販促料金は、施行期間内の特別料金であって、この期間を過ぎれば、契約解除できることを消費者は理解しているか。
 b. 販売時点における料金開示:消費者は、契約締結前に、当該サービスについて、将来負担すべきすベてのサービスについての十分な情報を提供されているか。
 c. バンドリングサービス:消費者はバンドリングされているもろもろのサービスのうちの1つを取り消し場合、他のサービスが引き上げられたり、ペナルティーを科されることがあることについて、十分な知識を持っているか。
(3) サービス・プラン利用についての管理
 この項は、(2)の続編である。
キャリアが、競争に打ち勝つため、販促用の期限限定の販促料金、あるいはバンドリング料金等を打ち出し、消費者に利用を迫るサービス・プランは、その料金構造が適切に理解されれば、消費者の側でも、多大の利便を得られるものである。この項では、このような視点から、どのような情報開示を為すべきかを問うている。2、3の事例を挙げれば、次の通り。
a: 最近のバンドリング・サービスでは、ビデオ・サービス、インターネット・アクセスなど、通常の料金タリフで開示されていなかったサービス品目が含まれている。これが、消費者に混乱をもたらす原因になっているのではないか。
b: 料金の支払い請求書を受け取った時、消費者が仰天したというような話を聞く。これまでの情報開示では不十分なのであって、さらに一層の開示情報が必要なのではないか。

調査告示に対する利害関係者の反応

 FCCによるワイアレス通信分野における消費者保護の調査開始については、利害関係者は、強い関心を示している。かねてから、大手ワイアレスキャリアの企業行動に不信の念を抱いている消費者団体は、今回の調査が引き金になって、これらキャリアの反独占的行動にメスが入れられるものと期待して、今回の調査を歓迎している。大手キャリアの攻勢に事業運営を脅かされている中小のワイアレスキャリアも、同様の意向の模様である。反面、大手ワイアレスキャリアの筆頭であるAT&T、Verizonの2社は、FCCの調査には協力を惜しまないが、事実を調べてもらえば、米国のワイアレス市場がいかに競争的なものかが、明らかになるだろうという立場を表明している。
 次表に利害関係者の代表的な意見の事例を列挙する(注5)。

表 FCC調査に対する利害関係者の反応
利害関係者名利害関係者の反応
Free PressFCCがワイアレス市場の分野において、警官の役割を果たしてくれることは、望ましいことである。
Consumer Unionワイアレスキャリアの利害は、しばしば消費者の利害と対立している。この調査は、FCCによる一層大きなアクションに結びつくだろう。
Southern LinkFCCは、大規模ワイアレスキャリアに対し、中小ワイアレスキャリアへのデータ回線の再販を義務付けるべきである。
CTIAFCCがワイアレスキャリアの市場がいかに競争的であるかを調査することを歓迎するにやぶさかでない。
VerizonFCCとワイアレスサービスについての対話を行うことを期待している。
AT&TFCCのデータ重視の態度を好感する。事実を直視すれば、ワイアレス業界に多くの選択、多様性があることが明らかとなる。
(上表で、Free Press、Consumer Unionは、消費者団体。Southern Linkは、加入者数27.5万の小規模ワイアレスキャリア。CTIAは、ワイアレスキャリアの利害を代弁する業界団体である。)


(注1)3件の調査告示のそれぞれの冒頭に付された表題は次の通りである。
* Fostering Innovation and Investment in the Wireless Communications Market
* Annual Report and Analysis of Competitive Market Competition With Respect to Mobile Wireless including Commercial Services
* Consumer Information and Disclosure Truth-in-Billing and Billing Format IP-Enabled Services
(注2)調査告示に当たり、FCC委員Michael J.Copps氏が発表した声明文からの引用。
(注3)2009年9月1日付け、DRIテレコムウォッチャー、「米国市内電話市場における競争状況 - FCC統計資料から」
(注4)ここで、その主要点を紹介した調査告示(注1に紹介した3番目の告示)は、そのほとんどが、詳細なコメンテイターに対する質問からなっていると言ってよい。わが国で、電気通信分野の消費者問題を研究している人には、是非、原文をお読みいただきたいが、今回は、どのような内容であるかを知っていただくため、ほんのさわりを紹介するに留めざるを得なかったことをお断りしておく。
(注5)表は、次の2つの資料から、抜書きし作成した。
2009.8.21付け、USA Today, "FCC takes aim this week at protecting wireless consumers."
2009.8.21付け、http://www.bloomberg.com, "AT&T, Verizon, Face FCC Inquiry Over Wireless Pricing."


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