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米国市内電話市場における競争状況 - FCC統計資料から
2009年9月1日号

 FCCは、毎年、前年6月末現在の電気通信回線、加入者回線の統計資料を発表している。本年7月にも、2008年6月現在の上記統計資料を発表した(注)。ところが、“地域通信の競争状況”(Local Telephone Competition)とのタイトルが付されてはいるものの、この資料には、キャリアの名称は登場しないし、解説も経年別の数値の増減(%)(これももちろん、統計資料自体から読み取れる)が主体であって、まことに官僚的というほかはない。
 筆者は、この統計資料を一部は抜粋、一部は合成し、できるだけ既存通信事業者ILEC(Incumbent International Carriers、旧ベル系電話会社のRBOCおよび、これも久しく存在してきた旧独立電話会社系列のキャリア)と新興キャリアのCLEC(Competitive Local Exchange Carriers、1996年電気通信法により新たに出現したキャリア、自社の同軸ケーブルにより、ビデオ、インターネット、音声電話を統合的に提供し、最近、大きくRBOCを脅かしているケーブルテレビ会社を含む)との競争状況を浮き彫りにするよう努めた。
 詳細は、本文を見て頂ければ明瞭。ただ、資料的には表5が、最も重要である点を指摘しておきたい。


端末ユーザ交換アクセス回線数

表1 端末ユーザ交換アクセス回線数(単位:100万)
調査時点ILEC回線数CLEC回線数総回線数CLECのシェア
2000年6月179.611.6191.26.0%
2002年6月167.321.6188.911.5%
2004年6月148.032.0180.017.8%
2006年6月142.329.9172.217.4%
2008年6月124.630.0154.619.4%
注1原統計表では、1999年12月から2008年6月に至るまでの回線数を6ヶ月ごとに記してある。この表では、2000年6月から2年ごとの統計数値を記すにとどめた。
注2原統計表は、回線数の実数(たとえば、2000年6月のILEC回線数は179,648,853というように)を掲示してあるが、上表では、100万単位の表示に簡略化した。

 上表により2000年6月以来8年間で、端末ユーザ回線の絶対数および回線数のILEC、CLECの所有比率には、次のように大きな変化が起こっていることが判る。

  • 端末ユーザ総回線数は、2000年6月から2008年に至るまでの8年間に、191.2万回から154.6百万回線へと大きく(−27.3%)減少している。
  • ILEC回線数はこの間、179.6百万回線数から124.6百万回線数へと、−31.6%の減少を示しており、減少率はCLECの場合より大きい。
  • CLECは、2000年6月から2004年6月までの期間に、大きく回線数を伸ばした。以来横ばいに推移している。総回線数は減少しているため、CLECが有する回線数の比率は、ILECに比し、年々高まっている。
表2-1 顧客タイプ別のILEC端末交換アクセス回線数(単位:100万)
調査時点住宅用加入者数ビジネス用加入者数住宅加入者数比率
2000年6月140.638.078.2%
2002年6月130.936.478.3%
2004年6月114.533.577.4%
2006年6月92.549.865.0%
2008年6月77.547.162.2%


表2-2 顧客タイプ別CLEC端末交換アクセス回線数(単位:100万)
調査時点住宅用加入者数ビジネス用加入者数住宅加入者数比率
2000年6月4.586.9839.6%
2002年6月11.010.651.2%
2004年6月20.911.132.0%
2006年6月12.517.441.7%
2008年6月12.417.641.3%

 表2-1、表2-2は、ILEC、CLECの回線数について、さらに住宅用、ビジネス用加入者数の内訳別にその状況を見てみたものである。
 この表から、次の事実が判る。

  • ILECの加入者は住宅用加入者が主体であるが、2000年6月から、その絶対数は140.6百万加入者から77.5百万加入者へとほぼ半減(-45.5%)した。これは、年間約500万加入数の大幅減少であり、今や、住宅用加入者の通信手段として固定交換アクセス回線のウェイトがいかにマイナーなものになりつつあるかを示す(表2-1)。
  • これに対し、ILECのビジネス用加入者数は、年ごとの変動は著しいが、大勢としては増大傾向にある。したがって、住宅用加入者数の比率は減少を続けている(表2-1)
  • CLECでは、住宅用、ビジネス用を問わず、加入者数は増大している(2004年6月は、他の時期の数値に対し、住宅用加入者が異常な伸びを示しているが、その理由は不明である)。多くのCLECがビジネス用加入者に対するサービス提供からスタートした経緯もあり、ビジネス用加入者数の比率の方が高い(表2-2)。
  • 2008年6月の数字からすると、固定交換加入者総数154.6百万の住宅用、ビジネス用の内訳は、それぞれ89.9 百万、64.7百万であって、その比率は58.1%、41.9%となる。ILEC、CLEC双方で、ビジネス用加入者の比率が高まっている状況からして、早晩、固定電話利用者の主体がビジネス用加入者になる時代が到来するのではないかと推測される。


ILECのCLECに対する回線再販(純粋再販、UNE)状況

表3-1 端末ユーザ交換アクセス回線の構成比率(CLEC)
調査時点調査対象CLEC数端末ユーザ交換アクセス回線の構成比率(%)
自社所有*1 購入(丸ごと)*2 UNE
2000年6月7835.037.327.7
2002年6月9628.820.750.5
2004年6月14923.416.557.7
2006年6月40036.121.942.0
2008年6月46943.620.236.2
注1原語は再販(resold)である。ここでは、CLECは購入側であるので、意訳しておいた。
注2UNEは、回線機能のエレメントだけを購入する方式である。

 表3-1において、2000年6月以来、構成比率は、変動が著しく、確たる方向に向かって動いているとはいえない。強いて最新の2008年の数値に注目すれば、CLECは「自社所有」とUNEの組み合わせが主体となって、回線設備の大半(80%程度)をまかなっていると判断してよいようである。これは、CLECの財務体質の改善を示すものであろう。

表3-2 総端末ユーザ交換アクセス回線に占める再販数の比率(ILEC)
調査時点調査対象ILEC数ILECの販売構成比率(%)
再販UNE
2000年6月1590.32.93.2
2002年6月1691.96.38.2
2004年6月1850.912.613.5
2006年6月8051.07.68.6
2008年6月8001.06.97.9

 表3-2も、変動が激しく、表の数値から断定的な結論は引き出しにくい。表3-1とあわせて考察すれば、ILECからの回線の購入は、CLECの側からすると、事業運営に取り大きなウェイトを持つが、ILECにとっては、所有回線数の高々数%を占めるに過ぎないことが明らかである。新興CLECに比し、ILECの力の強さを示すものといえよう。


長距離通信事業者種類別の所有長距離回線数

表4 事業者別長距離回線数(2008年6月現在、単位:1000)
 RBOCRBOCを除くILECILEC総回線数CLEC総数
住宅用回線数
   登録回線数
   非登録回線数
   総回線数
   登録回線数の比率

ビジネス用回線数
   登録回線数
   非登録回線数
   総回線数
   登録回線数の比率

総数
   登録回線数
   非登録回線数
   総回線数
   登録回線数の比率

40,690
20,847
61,537
66%


20,077
20,508
40,585
49%


60,767
41,355
102,122
60%

10,236
5,684
15,920
64%


2,893
3,671
6,564
44%


13,129
9,355
22,484
58%

50.926
26,531
77,457
66%


22,970
24,178
47,149
49%


73,896
50,709
124,606
59%

10,944
1,451
12,396
88%


12,698
4,956
17,654
72%


23,642
6,407
30,049
79%

61,870
27,983
89,853
69%


35,668
27,983
64,802
55%


97,538
57,117
154,655
63%

 表4から読み取れるのは、次の3点である。

  • CLEC加入者の方がILEC加入者に比し、登録加入が多い。これは、CLECの方が固定顧客(多分、トリプルプレイの成功もその一因)を多く所有していることにも、よるだろう。
  • 2008年6月におけるILEC、CLECの回線数は、それぞれ124,606千、30,049千であり、その比率は、それぞれ76%、24%。CLECは、回線数においてかなりの存在感を示している。CLECの回線数は、RBOC以外のILECの回線数を越えている点に注目すべきである。
  • 表には表示していないが、2007年12月末のILEC、CLECの回線数は、それぞれ129,693千、28,725千であって、その構成比率は、ILEC78%、CLECがそれぞれ78%、22%である。わずか6ヶ月の間に、ILECの比率が2%も低落している点が、これまた注目される。


携帯電話加入者数、固定電話加入者数の経年別推移

 表5は、FCC統計の2つの表を組み合わせ、2001年6月1日から、2008年6月1日に至る米国における固定電話、携帯電話回線数の推移を表示したものである(固定電話の交換アクセス数と携帯電話加入者数では定義が異なるので、この表は正確な数字を示しているとはいえないが、およその比較をするのには十分な資料だと考える)。

表5 経年別携帯電話加入者数・アクセス回線数(単位:百万)
調査時点携帯電話加入者数アクセス回線数
2001年6月114.0192.0306.0
2002年6月130.8(+14.7%)189.0(−1.6%)319.8(+4.5%)
2003年6月147.6(+12.8%) 185.3(−1.5%)332.9(+4.0%)
2004年6月167.3( +13.3%)180.0(−2.3%)347.3(+4.3%)
2005年6月192.1(+14.8%) 177.7(−2.3%)369.8(+6.5%)
2006年6月217.4(+11.6%)172.2(−3.1%)389.6(+5.4%)
2007年6月249.3(+14.7%)163.3(−5.2%)412.6(+5.9%)
2008年6月255.3(+2.4%)154.6(−5.4%)409.9(−0.7%)
 表5の各数値の後に括弧で付した%は、前年同期に対する増減比率である。

 本表から読み取れる主要事項は次のとおり。

  • 固定アクセス回線数は、2001年6月以来、毎年減少を続けている。しかも、この減少率は次第に高くなりつつあり、2007年、2008年には、前年に比し5%台の減少を示すに至った。
  • これに対し、携帯電話加入者数は、大きく増大を続けてきた。2001年6月以来、2007年6月まで、実に2桁台の増加が続いた。
  • このような状況の下で、2004年6月から2005年6月までの間に、携帯電話加入者数は、遂に固定電話のアクセス回線数に追いつき、追い抜くに至った(もっとも、米国における携帯電話の普及は、わが国、欧州主要国に比し遅れていたのであって、携帯電話の市場が固定電話のそれを追い抜いた時期は、比較的遅かったといわなければならない)。
  • 最後に注目すべきなのは、2007年6月から2008年6月の間に生じた変化である。この間、携帯電話の成長率は、これまでの2桁台から、一挙に1%台へと落ち込んだ。これは、さなきだに飽和状況に達していた携帯電話の需要が、経済不況の到来により加速したためと考えられる。これにより、これまで年率4%から5%の成長を続けていた、電気通信サービス市場(固定+携帯)は、−0.7%と初めてマイナスに転じた。この落ち込みは、アクセス回線数、加入者数といった架設設備面からの数字であって、料金が低落している今日、売り上げ面から見た、キャリアの業績に及ぼす影響は、より大きいものと見られる。


(注)FCC統計、"Industry Telephone Competition :Status as of June30, 2008"、July 2009


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