DRI テレコムウォッチャー


不況下で伸び悩むAT&T、Verizon両社の業績 - 2009年第2四半期決算報告から
2009年8月15日号

 一般に、公益事業あるいは公益事業的事業は不況に強いといわれているが、今回の不況は、米国の2大独占的電話会社、AT&T、Verizonの業績に打撃を与え始めている。
 AT&Tは、すでに2009年第1四半期から減収、減益に転じ始めたものの、Verizonは、増収、増益を維持していた。しかし、2009年第2四半期に、AT&Tは減収、減益を継続、Verizonは増収(きわめてわずか)、減益(大幅)の決算となった。特に、Verizonは、企業による通信費大幅節減により、ワイアラインのビジネス部門が不調であることを認めている。
 本論では、AT&T、Verizonの2009年第2四半期の決算の数値から、両社の経営状況を比較する。両社の経営の実力は、ほぼ拮抗してはいるが、利益率が比較的高いこと、光ファイバーブロードバンドにおいて、依然としてVerizonのFiosが、AT&TのU-Verseを加入者数、増加数において上回っている点からして、Verizonの業績が、AT&Tよりやや勝れているものと判断する。両社の株価は、年初以来、いずれも低下傾向をたどっているが、両社の株価の差異は、上記の両者の実力の差異を反映したものとなっている(8月上旬、AT&Tは25ドル程度の株価に対し、Verizon株は31ドル程度)。
 さらに、最近、AT&TによるiPhoneの排他的販売に対する風当りが強く、2010年には、AT&T、Appleは、この排他的協定を廃棄せざるを得まいとの報道がしきりに行われている。この点についても、本論で触れる。


AT&TとVerizonの経営比較(注1)

表1 2009年第2四半期におけるAT&T、Verizonの総収入、純利益等(単位:100万ドル)
項目/キャリアAT&TVerizon
総収入30,734(−0.4%)26,861(+1.6%)
純利益3,276(−14.8%)3,160(−7.2%)
純利益率10.7%11.7%
注:カッコ内%は、2008年第2四半期に対する増減比。表2、3、4の場合も同様。


表2 2009年第2四半期におけるAT&T、Verizonのワイアレス部門の収入、営業利益等(単位:100万ドル)
項目/キャリアAT&TVerizon
収入11,983(+9.4%) 15,480(+7.6%)
営業利益3,151(+2.7%)4,458(+28.8%)
営業利益率15.9%28.8%


表3 2009年第2四半期におけるAT&T、Verizonのワイアライン部門の収入、営業利益等(単位:100万ドル)
項目/キャリアAT&TVerizon
収入16,526(−6.1%) 11,488(−5.2%)
営業利益2,003(−36.1%)555(−47.8%)
営業利益率12.1%4.8%

 上記3つの表から読み取れる主な両社の業績は、次のとおり。

  • 両社の業績は、伯仲しており、甲乙付けがたい。しかし、総収入において、AT&Tが前期に引き続いてわずかではあるが減収になったこと、純利益において、これもわずかながらではあるが、VerisonがAT&Tを引き離していること等の点からして、Verizonの業績がAT&Tより、やや勝れていると評価できよう。
  • 部門別にみると、Verizonでは、ワイアレス部門の利益率が高いのに比し、ワイアライン部門の利益率は低い。同社は、その理由として、ビジネス用需要が、この期、不況の影響を受けて、大きく減少した点を上げている。これに比し、AT&Tでは利益率において、ワイアレス部門、ワイアライン部門が、ほぼ、拮抗している。多分、VerizonのFiosに対する投資金額が、AT&TのU-verseに対するそれより少ない点も影響していると思われる。
表4 AT&T、Verizonの主要サービス加入者数等(2009年6月末)
項 目AT&TVerizon
携帯電話
加入者数(単位:万)7960(+9.2%)8769(+7.9%)
APRU(単位:ドル)60.2(+2.3%)51.1(−0.8%)
Churn(取消し率)1.49(−13.7%)1.37
固定電話(単位:万)
加入者数*1 2,260(−11.4%)1,965(−12.3%)
ブロードバンド加入者数*2 1124(+8.7%)911(+9.4%)
ADSL966.7(−1.3%)605.6(−10.1%)
U-verse video 接続数157.7(287.8%) 
Fios Internet 308.2(+56.1%)
Fios TV 251.7(+82.7%)
*1「加入者数」の名称のもとに、AT&T、Verioznの数値を計上したが、実は、両社の定義は異なる。AT&Tの場合は、住宅用小売音声回線数(Retail Consumer Voice Conections)であり、Verizonの場合は、現用交換アクセス回線数(exchange access line)である。多少、乱暴であるが、双方の数値を加入者数とみなし、同等に扱った。
*2AT&Tのブロードバンド加入者の定義は、衛星通信事業者との協定で、同社が受託した衛星ビデオ回線数を含むというものである。しかし、Verizonの定義はこれを含まない。ここでは、AT&T衛星回線数221万は削除し、Verizonの基準に合わせた。

  • 表4において、AT&T、Verizonに共通して見られるのは、加入回線数のいずれも年間10%を越える大幅な減少である。これまで、両社ともに、その原因をあたかも、携帯電話への移行によるものだと称してきた。しかし、今回、AT&Tはともかく、Verizonは、この減少を競争業者からの攻勢によるものだと素直に認めている。

  • 次に、ADSLの減少も、決算報告の中で、覆い隠すことができなくなった。特に、この減少は、AT&Tに比して、Verioznの場合に著しい。ファイバーによるブロードバンドに比し、ADSLの性能の悪さは歴然としており、所詮、ADSLは過渡的製品に過ぎない。しかしケーブル会社の競争に敗れた結果、ADSL回線が減少し始めたという事実は、投資効率上、AT&T、Verizon両社にとり、プライドの点からも、投資効率の点からも好ましいことではあるまい。

  • ブロードバンド・ビデオの面では、Fios Internet、Fios Videoは、好調に伸びている。また、U-verse Videoも150万を越えた。しかし、他方、ケーブル会社の側も、それに勝る勢いで、両社から、音声加入者を奪いつつある。この点からすると両社のブロードバンド架設スピードが遅すぎ、早晩、販売勧奨の主たる対象である両社の固定電話加入者数が、あまり少なくなり過ぎはしないかが懸念されよう。

  • すでに、前号のDRIテレコムウォッチャーで一部触れたところであるが(注2)、2009年第2四半期、AT&T、Verizonは、それぞれ、140万、110万の加入者数を増やし、この期の加入者増の競争は、AT&Tの勝利に終わった。AT&Tは、同期に、iPooneを240万台、稼動した。しかも、そのうち40%は、新規加入者によるものだというから、140万加入者のうち、大半(推計96万、68%)をiPhone加入者で占めたことになる。

  • 当然、このiPhone端末の売り上げは、AT&Tワイアレス部門に多大の収入増をもたらしたはずである。しかし、AT&Tは、コスト割れの低料金で、iPhone端末を販売しているのでコスト回収は、月々の使用料から、長期にわたり行うこととなる。従って、皮肉なことに、iPhoneの好調な売れ行きは、今期、ワイアレス部門の利益を押し下げる要因となった。


iPhoneの排他的販売契約で集中砲火を浴びるAT&TとApple

 2007年7月、AppleとAT&TがiPhoneを市場に出して以来、AT&Tがこの新型smartphone端末の排他的販売業者の地位を持ち、今日に至っている(いわゆるexclusivity)。両事業者ともに公式的には、2010年の契約変更時期にも、この地位を継続するとの意図を表明してはいるが、これに対し、次の通り、多方面から、反対あるいは、調査の動きが生じている。

  • 下院民主党委員の一部には、携帯電話端末のexclusivityに反対する強い動きがある。早晩、議会でexclusivityを織り込んだ法案(多分、その他もろもとの条項も整えた消費者保護法案)が、上程されるものと見られる(注3)。
  • 司法省は、AT&TとVerizonの市場支配の実態が反独占法(Sherman Antitrusit Actに反していないかどうかの調査を検討中の模様(注4)。
  • FCCは、Apple社が、iPhone3GSのサービスメニューのなかから、Google Voiceを排除した点に関し、非公式に調査を行うと発表した(注5)。

 上記のような状況の下で、iPhone3GSが極めて評判の高いGoogleのVoice Mail(きわめて、利用しやすいワイアレスVOIP)をアプリケーションから外したことが明らかになり、さなきだに、ネットが不安定であるため、通話切れが多いiPhoneのサービスについてのユーザの不満が高まるという問題が生じた。FCCもこの問題を放置することが出来ず、現在、AT&T、Apple、Googleから、非公式にこの件についての説明を求めている段階にある。この案件が公式な調査として取り扱われる可能性は高い(注6)。
 この問題は、固定通信の分野では確立している電話端末のオープンネス(開放性)を携帯電話にも押し広めるべきであるかいなかという大きな規制問題に帰着する。伝統的に民主党は議員もFCC委員も、開放性の徹底に積極的であって、今後、議会、規制機関(司法省、FCC)の調査がこの方向に向かうことは間違いない。
 この重要案件については、事態の進展に応じて、今後も紹介を行う。


(注1)この項で参考にしたのは、それぞれ、2009年7月21日、7月27日に発表されたAT&T、Verizonの2009年第2四半期決算報告資料である。資料名は省略。
(注2)2009年8月1日付け、DRIテレコムウォッチャー、「Apple社の増収、増益決算、IT他社を圧倒―需要に追い付かぬiPhone3G端末」
(注3)2009年7月9日付け、http:www.pcmag.com,"Should Congress"Protect"You From Verizon, AT&T?"
(注4)2009年7月16日付け、http//www.Examiner.com,"The iPhone waits for Google Voice while Department of Justice watches."
(注5)2009年8月3日付け、http://www.examiner.com,"Hope FCC can rein in Apple."
(注6)注5の資料。


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