DRI テレコムウォッチャー


FCC新委員長Genachowski氏、ナショナル・ブロードバンド計画の過程に関する報告書を議会に提出
2009年7月15日号

 FCC新委員長Genachowski氏は、2009年7月2日、初のFCC会議を主催し、この席上で米国ナショナル・ブロードバンド計画の過程に関する報告書(National Broadband Plan Process)を議会に提出した。
 この報告書は、FCCがナショナル・ブロードバンド計画に関する報告書(議会提出期日は2010年2月)を作成するまでの手順を示したものである。この報告書作成の責任者は、Obama大統領が大統領候補時代以来、暫定チームのブロードバンド構築の責任者として、この仕事と取り組んできたBlair Levin氏。同氏は、ラインの役職を持たず、FCCのコーディネータとして引き続き、ナショナル・ブロードバンド計画推進の責任者となる。
 前回のDRIテレコムウォッチャーでは、FCC委員、Copper氏が個人名で発表した報告書の骨子について触れた。Copper氏は長年の経験を基にし、将来のブロードバンド計画のあるべき姿の構築についての懸念を示していたが、Obama大統領の絶大な支援を受け作成された今回の報告書に満足しており、特に、Blair Levin氏の力量を絶賛している(注1)。
 Blair Levin氏は、報告書作成に当っての3原則は、"オープンであること"、"資料を根拠にしたものであること"、"報告書の実態は、報告書にあらずして計画であること" を強調している。また、本文にも記述されている通り、作成に当ってできうる限り民意を吸収し、これを反映するスタンスが示されている点が最大の特色である。この点と関連して、Levin氏は、"今、定まっているのは、報告書作成のプロセスのみである。報告書の中身のすべては、これから組み立てていく" と述べている。
 ITを駆使した選挙戦において、ブロードバンドの威力を実感したObama-Genachouski-Blairのチームワークによるブロードバンド推進は、Obama政権でもっとも理想的な政策追求の分野であろう。しかし、この政策目的を追求して行くに当り、課題はあまりにも大きくまた多い。

 本文では、National Broadband Plan Processに関する報告書の重要なポイントを数点指摘するにとどめる。また、Obama政権下におけるFCC委員5名のライン・アップが定まったので、FCC新委員メンバーも紹介する。

ナショナル・ブロードバンド計画スケジュールの主要点(注2)

1、ナショナル・ブロードバンド政策の基本目標とこれを達成するための戦略目標
 ナショナル・ブロードバンド政策の達成目標は、「すべての米国国民に、ブロードバンドの能力(broadband capability)へのアクセスを保証すること」である。
 また、この基本目標を達成するための戦略目標は、次の通り。

  • 上記基本目標を達成するためのもっとも効率的、効果的なメカニズムを分析する。
  • 上記サービスの提供を可能にするための詳細な戦略を策定する。
  • 公衆によるブロードバンド・インフラ、ブロードバンド・サービス構想を最大限利用する詳細な戦略を策定する。
  • ブロードバンド利用の現状を評価する。
  • American Recovery Actに従ってなされる政府資金供与(grant)が支援するプロジェクトの進行状況の評価を含むものとする。
 上記戦略を遂行するに当っての基本的なアプローチは、次の通り。
  • ブロードバンドの現状は、どうなっているか。
  • ブロードバンドについての政府の政策に変更を加えないとした場合、短期的に、どのような事態になるのか。
  • ブロードバンド戦略の推進により、目に見える公益の侵害が生じる分野には、どういうものがあるだろうか。
  • 上記の公益侵害を軽減する方策には、どういうものがあるか
(上記の諸点は、2009年2月に制定されたAmerican Recovery Actに定められたものである)。

2、戦略遂行に際しての民意の吸収
 ブロードバンド推進計画の遂行に当って、FCCは、民意(Public Input)の吸収に力を入れている。その主な手段は、専用ホームページ(www.fcc.gov)の立ち上げと、8月中旬から9月初旬に掛けての実施が計画されている利害関係者とのワークショップである。
(1)www.fcc.gov
初期段階は、推進計画過程のフォロー、参画を促すことを目的とする。
次のステージは、ブロードバンド推進計画を地図にして示すこと(mapping)、利用者への情報提供である。
ブロードバンドの諸資源(resource)に焦点を当てる。
(2)ワークショップの開催
2009年8月12日から9月2日までの間に、17回にわたりワークショップを開催する。主要な参加者は、サービスープロバイダー、機器メーカー、アプリケーション・プロバイダー、コミュニティー・グループ等、ブロードバンドサービスの将来に関係する団体である。

3、ブロードバンド推進政策計画書策定のスケジュール

表1 ブロードバンド推進のために開催されるFCC会議2009
開催月提出予定の報告書
2009年7月*1 ブロードバンド計画過程に関する報告書
2009年9月ブロードバンドプロジェクトの実情についての報告書
2009年11月主要なブロードバンド格差についての報告書
2009年12月FCC政策の枠組みについての報告書
2010年1月ブロードバンド推進計画を駆動する諸機会についての報告書(筆者注)
2010年2月706報告書の提出
*2 ブロードバンド推進計画報告書の提出
*12009年7月2日に提出済み
*2報告書に付される勧告については、対応する政府の措置が要求される。これにより、報告書が採択されるまでに、さらに、公衆からの意見を吸収する機会が提供されよう。
筆者注:原名は、"Report to FCC on Opportunities to drive national agenda" であるが、具体的になにを意図しているのか定かでない。一応、直訳しておいた。次項で触れるとおり、FCCは、このプロジェクト遂行に当り、大々的に利害関係者の意見を吸収しようとしているので、この点に関するFCC会議ではないかと考えられる。

定まった新FCC委員5名のライン・アップ

表2 FCC委員ラインアップ
FCC委員就任日時等評価
Julius Genachouski(民)2009.6.25Obama大統領の大学時代以来の友人。ベンチャー企業経営等を通じ、経営手腕には定評がある。
Michael Copps(民)2001.5.31ブロードバンド・ユニバーサル化の最も強力な推進者。前FCC委員長Martin氏辞任以来、FCC代行としてTVディジタル化実現の実績も積んだ。FCC委員の中で最古参。
Mignon L Clyburn(民)上院の承認待ちサウスカロライナ州公益事業委員。
Robert Mcdowell(共)2006.2.6競争市場主義の立場から、就任以来、ユニークな少数意見を多く提出してきた。ブロードバンドに対する政府資金投入には、基本的に反対の立場を取っている。
Meredith Attwell Baker(共)上院の承認待ち10数年にわたる電気通信行政、規制のキャリアを持つ。最終ポストはNTIAの副長官。

 なお、2002年6月10日以来7年間、民主党FCC委員を務めてきたJonathan S.Adelstein氏は、Genachouski氏がFCC委員長に就任した6月25日同日、FCC委員を辞した。しかし、即日、米国農業省インターネット部の長に就任した。これまで、FCCは、ルーラル地域への電気通信(ブロードバンドを含む)普及の課題を通じ、農業省との関連は強かったが、Adelstein氏の農業省入りは、FCCと農業省との今後の緊密なつながりを示すものであろう。
 上表、新人の女性FCC委員候補のうち、共和党のBaker氏は、これまでの業績、性格ともに問題がない。
 ところが、民主党候補のClyburn氏となると、その評判は必ずしも芳しくない。同氏は、1998年以来、サウスカロライナ州公益事業委員会の委員を勤めているが、さしたる業績も残していない。
 Clyburn氏の父親(James Clyburn、アフロアメリカン)は、サウスカロライナ州を地盤とし、上院において、Pelosi上院議長、Hoyer院内総務に次ぐNo.3の民主党上院の重鎮である。一部ネット紙の報道によれば、James Clyburn氏は、長年、クリントン氏を支持していたが、民主党大統領候補指名戦の後半において支持をObama氏に切り替えた。今回のObama大統領によるFCC委員へのMignon L Clyburn氏の指名は、その論功行賞に他ならないという(注3)。
 選挙戦では、nepotism(縁故主義)の廃止を高らかに掲げたObama氏が、大統領に就任するやいなや、Bush大統領と変わらない論功行賞人事をやつているとの批判は、多くの報道が伝えているところである。Obama大統領の絶大な支持の下に進行を開始した長年温められてきた理想主義的な全国ブロードバンド設置の構想が、実施過程において、現実主義との妥協により、中途半端に終わることがないか、今後の推移を十分に見守りたい。


(注1)2009年7月1日付け、DRIテレコムウォッチャー、「FCCのCopps委員長代行、ルーラル地域へのブロードバンド推進戦略報告書を議会に提出」
(注2)今回、参照したのは、次の資料である。
The FCC on broadband :The next 230Days
FCC Chairman Julius Genachowski
Prepared Remarks on National Broadband Plan Process
FCC Open Meeting, Washington,D.C
Benchmarks of commissioner Michael J.Copps on presentation of national broadband plan process
FCC open meeting,Washington, D.C. July 2, 2009
上記3点の資料は、いずれも、FCCが発表したはずのブロードバンド計画の本文を前提に作成された資料であるが、現在のところ、FCCのホームページでこれを見ることができない。多分、遅れて掲載されるものと考えられる。
(注3)http://hotair.com/aruchives/2009/06/29/obama-and-the-new-cronysm/, "Obama and the New Cronyism."


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