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DRI テレコムウォッチャー |
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2008年次のDT決算 - コスト削減努力により減収の下で増益を達成
2009年4月15日号
2006年11月、大赤字を出した責任を取って辞任したRicke氏の後を受けて就任したDTのObermann会長は、以来、鋭意同社の財務建て直しに懸命の努力を続けている。Obermann氏が事業再建のために、掲げているスローガンは、"Focus, fix and growth" である。総花的に事業運営を行うのでなくて、戦略的部門の業務改善に力点を置き、同時にコスト節減に努めて収支を改善する。この結果、生み出したキャッシュフローを投じて、事業の拡大を図るというのが、Obermann氏が実現を期している経営目標である。
今回は、2009年2月27日に発表されたDTの2008年次の決算報告を紹介する(注1)。決算の数値については、本論を検討いただくとして、まず、今回のDT2008年次決算において、同社の主要目標がどのように達成されたかを表1に示す(評点は、筆者の判断に基くものである。単なる目安としてみて置いていただきたい)。
なお、筆者は、海外市場への進出と並んで、DTの従業員削減を同社の大きな経営努力として評価している。DTは、組合の力が強く、前会長Ricke氏までの経営陣には、従業員の合理化は聖域とされ、組合との交渉すらできなかったからである。
表1 2008年におけるDTの主要目標達成状況
項目/成果・評価 | 成果 | 評価 |
携帯部門における海外進出 | トルコ最大手の携帯キャリア、OTE株式20%を取得し、同社最大の株主となった。また、米国の携帯キャリア、Sun Comを取得した。 | A |
ブロードバンドサービスの拡大 | 競合するISPに対し、T−Home(固定サービスとブロードバンドのパッケージ・サービス)で対抗、50%を超える新規加入者を獲得した。 | B |
固定電話加入者減少の歯止め | 年間約270万、率にして8.0%と大きく加入者数を減らした。加入者減少の歯止めに成功してはいない。 | C |
コスト節減・従業員削減 | 2008年には、40億ユーロのコスト節減を行った。 DTは、2006年以来、サービスコスト削減政策(Save for Service)により、年間47億ユーロのコスト削減を目標としているが、2008年次、この目標をほぼ達成した。
なお、上記施策の一環である従業員削減については、2008年次、従業員を約13,000人削減した。 これは、自発的辞職、早期退職、公務員等への転職によるものである。 | A |
概況
表2 DTの2008年次収支状況等(単位:100万ユーロ)
項目 | 2008年通期 | 2007年通期 | 増減比率 |
総収入 | 61,666 | 62,516 | −1.4% |
国内 | 28,885 | 30,694 | −5.9% |
国際 | 32,781 | 31,822 | +3.0% |
純利益 | 1,483 | 571 | n.a |
純負債 | 38,158 | 37,236 | +2.5% |
従業員数(人) | 22,747 | 241,428 | −5.7% |
表2から、次の諸点が読み取れる。
- 収入は、2007年に引き続きわずかではあるにせよ、減収となった。
- 国内、国際の内訳を見ると、国内収入の大幅減、国際収入の増の対照が際立つ。
総収入に占める国内収入の比率は、2007年の49%から、2008年47%へと減少した。
- 純利益は、前年同期に比し3倍近く伸びた(しかし、前年との対比において%が明示されず、n.a(不明)と表示されているのは不可解)。
- 多額の負債を抱えているDTは、2008年次に、負債を10億ユーロ超増やした。その理由は明らかではないが、これは、DTが強調しているほどには、財務が必ずしも健全でないことを示すものだろう。
- DTは、2007年以来、組合と話を付け、果敢に従業員の削減を開始した。表2に示された大幅な従業員数の減は、その成果が実ったものである。
DTの部門別収支状況
携帯通信部門
表3-1 DT携帯部門の2008年通期収支状況、加入者数等
項目 | 2008年通期 | 2007年通期 | 増減比率 |
収入(100万ユーロ) | 35,586 | 34,736 | 2.4% |
営業利益(100万ユーロ) | 11,246 | 10,586 | 2.6% |
加入者数(1000人) | 12,836 | 120,756 | 6.3% |
欧州(1000人) | 95,578 | 90,928 | 5.1% |
米国(1000人) | 32,758 | 29,835 | 9.8% |
従業員数(人) | 65,313 | 62,457 | 4.6% |
表3-1から汲み取れるのは、おおよそ、次の諸点である。
- 総収入に占める携帯電話事業収入の比率は、2007年次の55.5%から2008年次の57.8%へと高まっており、総合電気通信事業者としてのDTの携帯電話事業者のウェイトは、ますます高まりつつある。
- 加入者数の成長率6.3%に対し、営業利益の伸び率は2.4%とかなり低い。これは、激しい競争の下にあって、1加入者当り収入が低下していることを示す。
- 加入者数の成長率は、欧州に比し、米国の方がはるかに高い。これは、米国のT-Mobile子会社、T-Mobile USAの業績が好調なことによるものであるが、2008年には、同社による米国の携帯電話会社Sun Com社(加入者数110万)の取得によるところも大きい。この加入者数を含め、T-Mobile USAは、2008年、410万の加入者数を増やした。
さらに、T-Mobile各社の2008年、2007年における加入者数の内訳を表3-2に示す。
表3-2 2008/2007年末におけるT-Mobile各社の加入者数(単位:100万)
T-Mobile各社/調査時期 | 2008年12月末 | 2007年12月末 | 増減比 |
欧州諸国計 | 95.6 | 90.9 | 5.2% |
T-Mobile Deutschland | 39.1 | 36.1 | 8.6% |
T-Mobile UK | 16.8 | 17.3 | -2.9% |
PTC(Poland) | 13.3 | 13.0 | 8.6% |
T-Mobile Netherland | 5.3 | 4.9 | 8.2% |
T-Mobile Austria | 3.4 | 3.3 | 3.0% |
T-Mobile CZ(Chech Republic) | 5.4 | 5.3 | 1.9% |
T-Mobile Hungary | 5.4 | 4.9 | 10.2% |
T-Mobile Croatia | 2.7 | 2.4 | 12.5% |
T-Mobile Slovenia | 2.3 | 2.4 | -4.2% |
その他 | 1.9 | 1.6 | 18.8% |
米国、T-Mobile USA | 32.8 | 29.8 | 10.1% |
総計(欧州諸国+米国) | 128.3 | 120.8 | 6.2% |
表3-2が示すように、欧州ではT-Mobile Deutschlandが加入者数においてDT最大の携帯キャリアである。しかし、その加入者数がT-Mobile総加入者に占める比率は30.4%であって、そのウェイトは低下している。DTは、各キャリア別の収入を公表していないが、加入者当り収入は、T-Mobile USAの方がT−Mobile Deutschlandより高いはずなので、多分、収入ベースでは、T-Mobile Deutschlandは、T-Mobile USAの収入を上回っているのではないかと推測される。
欧州で、T-Mobile Deutschlandに次ぐDTの携帯キャリアは、T-Mobile UKであるが、同社は、英国における競争でここ数年来、敗北を続けており、遂に2008年は、前年に比して加入者数を減らしてしまった。
ブロードバンド/固定部門
表4-1 DTブロードバンド/固定部門の2008/2007通年の収支状況(単位:100万ユーロ)
項目 | 2008年通期 | 2007年通期 | 増減比率 |
収入 | 21,331 | 22,690 | -6.0 |
国内 | 19,055 | 20,078 | -5.1 |
国際 | 2,329 | 2,654 | -12.2 |
営業利益 | 2,914 | 3,250 | -7.2 |
従業員数 | 94,285 | 97,690 | -3.5 |
表4-2 DTブロードバンド/固定部門の2008/2007年末における ブロードバンド・固定回線数 (単位:1000回線)
項目 | 2008年末 | 2007年末 | 増減比率 |
ブロードバンド |
総回線数 | 15,047 | 13,927 | 8.0% |
国内回線数 | 13,337 | 12,543 | 6.3% |
上記のうち小売分再掲 | 10,594 | 9,019 | 17.5% |
国際回線数 | 1,710 | 1,384 | 23.5% |
固定通信回線 |
総回線数 | 33,823 | 36,554 | -7.5% |
国内回線数 | 28,561 | 31,055 | -8.0% |
上記のうちISDN再掲 | 8,259 | 8,624 | -4.2% |
国際回線数 | 5,262 | 5,500 | -4.3% |
DTのブロードバンドと固定部門で、特徴的なのは、相変わらずの固定回線の大きな減少が継続していること、ブロードバンド(その実は、すべてDSL)の拡大で、固定部門の赤字を埋め合わせることができないこと、しかもDSLの拡大といいながら、その約80%が他のISPに対する小売(いわば、他業者に対するラストマイルの切り売り)であることである。
さらに、この部門では、海外市場の占めるウェイトが低く、携帯通信部門とは異なり、海外進出により業績を高める努力で成果を高めることも期待できない。すでに、DT組織改革の最後の切札として、この部門と携帯通信部門との統合(その実は、今や、収入、利益においてブロードバンド、固定通信部門を凌ぐ携帯通信部門による固定・ブロードバンド部門の吸収)が準備されているとの報道がなされている。
ビジネス部門
表4 ビジネス部門の2008/2007年次収入・利益状況(単位:100万ユーロ)
項目 | 2008年通年 | 2007年通年 | 増減比率 |
収入 | 11,010 | 11,987 | -8.2% |
Computing&Desktop | 3,788 | 4.166 | -5.1% |
System Integration | 5,507 | 6,110 | -9.7% |
Telecomunications | 1,715 | 1,711 | 0.2% |
営業利益 | 52,479 | 56,566 | -7.2% |
ビジネス加入者に対し、専用線、企業内通信網、コンピューティング等の高次回線を提供する重要な部門であるが、2008年次の前年同期に対しての落ち込みは著しい。これは、一部には、組織変更(しかも、それによるブロードバンド/固定部門への業務移管)が影響している模様である。しかし、DTは、強力な競争業者との競争に敗退しつつあるのではないかとの憶測も成り立つ(注2)。
(注1) | 2009.2.27付けのDT決算資料、"Deutsche Telekom exceeds financial targets for 2008" 、および、"Deutsche Telekom Group management report" を利用した。なお、2008年第1四半期の決算の状況については、2008年6月15日付け、DRIテレコムウォッチャー、「競争激化の下、減収に悩まされるDT」を参照されたい。 |
(注2) | ビジネス部門については、筆者の読解力の不足もあろうが、決算数値を合理的に理解できるような
説明が付されていなかったことをお断りしておく。 |
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