DRI テレコムウォッチャー


不況下でなお成長力が強いMSO3社 − 効果を発揮するTriple Play戦略
2009年3月15日号

 不況の進展は、目を覆わんばかりの損失を米国の経済、社会にもたらしている。たとえば、かつて世界最大の自動車メーカであったGMの株価は2ドル以下となった。GMは今や、破産法11条適用による会社更生もやむをえないのではないかとの噂が広まっている。
 このように、米国では、業績不振に喘ぐ企業がもっぱらとなったさなかにあって、MSO(大手ケーブル電話会社)3社の業績は、相対的に好調である。著者は、Comcast、TimeWarner、Cablevisionの3社の2008年通期の決算報告を検討した結果、これまで、多少推測を交えて報道してきたTriplePlayにおけるMSOの成功を、今回はようやく自信をもって再確認できたと信じる(注1)。
 FCCがブロードバンドの分析を怠り、義務付けられている「ビデオ競争に関する報告書」の提出が遅れていることもあり、上記の自明の事実は、ようやく最近、ネットで報道され始めたところである。将来、FCCのGenachowski新委員長の下で、多分、さらに詳しい分析、情報開示が行われることとなろう。
 以下、Comcast、TimeWarner、Cablevision3社の2008年次の決算資料に基き、3社のTriplePlay戦略がどのように成功しているか、またその結果として、MSO3社が2008年次にどれだけの比率で加入者数を伸ばしたかを解説する。


MSO3社、高速インターネット、ディジタル電話の加入者数を6〜8パーセント伸ばす(注2)

表1 2008年次におけるMSO3社の各サービス加入者数および2007年末対比増減率 (単位:1000)
サービス名/MSO名ComcastTimeWarnerCablevison
ビデオ2418.2(−2%)1306.9(−1.4%)310.8(−0.5%)
高速インターネット1492.9(+10%)872.7(+14.5%)244.5(+7.6%)
ディジタル電話647.0(+4.5%)377.7(+30.5%)187.8(+18.0%)
ディジタルビデオ1700.4(+10%)862.7(+7.5%)283.7(+7.9%)
RGU(上記総計)6258.6(+7%)34200(18.4%)1027.8(+6.8%)
1.括弧内%は、2007年末対比増減比率。
2.最初の欄のビデオ加入者数は、アナログビデオ加入者数+ディジタルビデオ加入者数である。したがって、計のRGUには、アナログテレビ加入者数+ディジタル加入者数×2も含まれている。
3.RGUは、Revenue Generating Unitのイニシャル。収入を生み出す単位を意味する。ディジタル加入者数が重複計上されているのは、多分、ディジタル加入者の料金収入とアナログ加入者の料金収入に格差があるのに着目し、付加料金を支払うディジタル加入者もRGUの対象に繰り入れたものであろう。RGUの数を大きく見せることを意図したものであろう。

 ところで、MSO3社は、RGUを事業の成長を測る指標として用いているのであって、表1は、2008年末におけるRGUとその内訳を示したものと見ることもできる。つまり、表1は、いわば3社の総加入者数の2008年次成果表である。
 表1から読み取れる主な事項は、次の通り。

  • RGUは、総じて7%から18.4%までのかなりの成長率を示している。特に、TimeWarnerの好調が際立つ。
  • MSO3社は、ビデオ、高速インターネット、デジタル電話(実質は、VOIP)の3種のサービスをパッケージに組み込んだTriple Playを経営戦略の中核に据えて、事業を展開しているが、表1の内容だけからしても、この戦略が成功していることは確実である。

 なお、TimeWarnerCableは、Double Play、Triple Playの比率の数値を公表しているので、表2に紹介する。他の2社も類似の数値であろう。

表2 TimeWarner社のDoublePlay、TriplePlayサービス加入者の比率(%)
組み合わせ/期日2008年9月末2008年末
DoublePlay32.632.9
TriplePlay20.321.2
計(パッケージ)52.954.1

 表2から次の2点が読み取れる。第1点は、パッケージサービスがかなり進行しているが、未だTriplePlayサービスの加入者数は低位に留まっていることである。第2点は、TimeWarnerは、さらにTriplePlay戦略を推進していくことにより、事業の拡大を図ることができる点である。
 唯一、加入者数を減らしているサービス部門は、MSOの本来業務であるビデオ事業分野である。しかし、大手電話事業者との激しい競争にさらされている状況からすれば、この減少比率(年間1.2%程度)は、むしろ非常に低いのではないかと思われる。
 MSOと大手電話会社との競争はつまるところ、MSOからは、電話会社の音声サービス、インターネットサービス加入者の引き抜き、大手電話会社からは、MSOのビデオサービス加入者の引き抜きがその主体であるが、MSOのビデオ加入者数への影響はほとんど皆無に等しい。これは、ネット情報において、様々の機会に、MSOのトップが、"わが社は、電話会社からの攻勢のインパクトはほとんどない" と述べている陳述を裏書するものである。
 ブロードバンド加入者を巡るMSO、大手電話会社の競争については、次に項を改めて論じる。


崩れないMSO提供のブロードバンドの優位

 表3は、2007年次におけるMSO3社とAT&T、Verizonのブロードバンド加入者の獲得数を比較したものである。

表3 MSO、大手電話会社それぞれ2社のブロードバンド加入者数 (2007、2008年、単位:万)
事業者/時期加入者数(2008年末)加入者数(2007年末)2007年加入者増加数
MSO 
  Comcast1492.9(+10.2%)1354.3138.6
  TimeWarner872.7(+11.4%)762.0110.7
大手電話会社 
  AT&T1297.2(+6.5%)1208.289.0
   - U-Verse104.523.181.4
   - DSL1192.71185.17.6
  Verizon867,0(+18,2%)733,0134,0
   - Fios Internet250154.195.9
   - DSL617.0578.938.1

 MSO2社(Concast、TimeWarner)と大手電話会社2社(AT&T、Verizon)のブロードバンド加入者数は、表3から見ると拮抗しているように見える。しかし、スピード面で劣るDSLがまだ大半を占めている電話会社と、単一の有線ネットワークにより、電話会社より高速のサービスを提供しているMSOとでは、サービス品質に大きな差異があるといわねばならない。DSLにより提供されるサービスは、インターネットであることは確実であるとしても、果たして、"ブロードバンド" と言い得るのかという議論もなされている。このような背景もあり、AT&TもVerizonも2007年次のDSL加入者数の増加数は著しく少ない。
 電話会社のサービスで健闘しているのは、Verizonの光ファイバーによるFiOS Internetであり、このサービスは2007年次に100万近い加入者数(95.9万)を増やした。しかし、2006年次にCablevisionが金城湯池とするニューヨーク市で、VerizonはFiOSのサービスを開始したのであるが、このサービスはほとんど、Cablevision提供のビデオ、インターネット加入者に影響を及ぼさなかったようである。
 電気通信・IT業界についての著名なアナリスト、Craig Moffett氏は、"Verizonが市場参入して以来、3年半の間、各四半期ともに、ニューヨークにおいて、Verizonの影響は、全然見受けられない" と断定している(注3)。他事業からの攻勢に対し、いかにCablevisionのガード(おそらくは他のMSOも)が固いかを示す発言として注目される。


収入の伸び率でAT&T、Verizonに差をつけるMSO3社

表4 MSO3社、大手電話会社2社の2008年第4四半期収入利益 (単位:万ドル)
事業者名/収入・利益収入利益(営業利益又はOCF)
  Comcast1492.9(+10.2%)1354.3
  Time Warner4,402(+7.6%)1,660(+6,2%)
  Cablevision2052(+11.5%) OCF 604.7(−0.9%)
  AT&T ワイアライン部門 17,022(−2.7%) 2,352(−1.3%)
  Verizon ワイアライン部門 11,917(−2.0%) 713(−31.8%)
1.利益の項目で、OCFの表示が付してあるComcast、Cablevision以外の企業は、すべて営業利益である。
2.OCFは、Operating Cash Flowであって、Operating Flow(営業利益)より高めの数字が出る。

 表4に示すとおり、MSO3社の収入の成長率を見ると、Comcast、TimeWarnerで7%台、Cablevisionで11.8%と好調である。米国経済は2008年次第4四半期から不況に突入したのであるが、MSO3社は、その不況をさほどの収入減なく乗り切ったということができる。ただし、MSOの利益は依然としてさえない。また、負債も多い。この点については、筆者も分析を怠っているが、多分、先行投資に巨額の資金を投じているのも一因であろう。
 これに対し、AT&T、Verizonは、同じ期間に2%台の収入減を記録している。ただ、この期間、それぞれ毎四半期100万前後の音声加入者数を減らしているしているだけに、主としてビジネス加入者に対する高次サービスの提供等による加入者あたりの月額収入単金の増により、この程度の収入減に収めた努力は評価されてよい(注4)。


(注1) 筆者は、2009年2月にも、MSO各社がAT&T、Verizonに対し、TriplePlay競争において優勢なのではないかとの意見を述べている。2009年2月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「将来に不安が残るAT&T、Verizonの業績 - 2008年第4四半期決算から」。
(注2) 表1から、表4までの数値は、すべてMSO3社の2008年第4四半期および2008年通期の決算報告から、転記あるいは加工したものである。個々の資料名の記述は省略する。
(注3)2009年2月26日付けhttp://www.printthis.clickability.com, "Verison's FiOS effect on Cablevision still invisible."
(注4)この件については、2009年2月のテレコムウォッチャーに詳しく説明した。参照いただきたい。
2009年2月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「将来に不安が残るAT&T、Verizonの業績 - 2008年第4四半期決算から」。


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