DRI テレコムウォッチャー


成長著しいsmartphone市場 − 牽引車はiPhoneとBlackBerry
2009年3月1日号

 ITUが、最近、発表した報告書によると、2000年以来のcellphoneの成長率は年率24%であって、2008年末現在、全世界で40億台のcellphoneが使用されているという。
 最近の凄まじい世界的不況の進行からして、2009年のcellphoneの成長については、慎重な見方が多い。ただ、この点についてもITUはきわめて楽観的であり、堅調な成長を予測している。
 その根拠として、ITUは(1)cellphoneが生活必需品になっている現在、発展途上国における需要がまだまだ充足されていないこと(2)先進国では固定電話からcellphoneへの移行が急速に進んでおり、この現象は不況であればなおさら進む傾向もあるとの2点を挙げている(注1)。

 このようにcellphoneは、その性能の向上、極限まで進んだ小型化の実現によって驚異的な発展を続けている。特にここ数年来、cellphone市場を大きく牽引しているのは、smartphone(この端末には様々な定義があるが、最低限の要件は音声電話機能+幾らかのPC機能の双方を兼ね備えていること)だといえよう。
 本文では、cellphone市場において、smartphone市場がどのような地位を占めているか、また、汎用cellphoneメーカ(Nokia、Motorola等)に対し、後発の専用メーカであるApple、RIMの最近の急速なcellphone市場への浸透状況を数値により示す。

smartphone市場の規模 − 成長著しいApple、RIM両社

表1 主要smartphone会社の出荷数、市場シェア
(2008年第3四半期及び2007年第3四半期)
 2008年第3四半期2007年第3四半期2008年第四半期
出荷台数の成長率
(@−A)÷@
出荷台数
@
市場シェア
(%)
出荷台数
A
市場シェア
(%)
Nokia15,47242.415,96448.7−3.1%
RIM5,80015.93,1929.781.7%
Apple4,72012.91,1043.4327.5%
HTC1,6564.51,3154.025.9%
Sharp1,2393.41,3154.7−19.3%
その他7,62620.91,31529.4−20.9%
総計36,515100.032,753100.011.5%
1.表1の出所は、Gartner社( 2009年2月17日付けhttp://blogs.zdnet.com, ”Nokia has 42.4% smartphone market share in Q3 2008.”から孫引き。
2.出荷台数の単位は1000。


表2 主要smartphone OSとその市場シェア(2008年第3四半期末)
smartphone名シェア各OSの概要
Symbian OS46.6%Symbianは、Nokiaをリーダとする欧州機器メーカ連合によるsmartphoneのOSである。
わが国も、NokiaとDoCoMoの親密な関係から、このOSのウェイトは高い。DoCoMoの他、Motorola、Samsung、Sony EricssonがこのOSを利用している。
iPhone OS17.3%Appleが開発したOSであり、プロトタイプは、同社PCのMacのOS、MacOSXである。
機器メーカ以外のIT会社が開発したsmartphoneのOSとしては、他に、MicrosoftのWindows Mobile及びGoogleによるAndroidがある。
RIM BlackBerry OS15.2%カナダのメーカ、RIMが自社ブランドBlackBerry用に使用しているOSである。BlackBerryシリーズは2001年最初の機器を市場化して以来、北米においてiPhoneと並んで、もっとも評判の高い機種である。
Window Mobile OS13.6%固定PCで独占的シェアを誇るMicrosoft社のOSであるWindowの携帯OS版である。AT&T、HTC、Motorola、Sprint/Nextel、Verizon Wireless等のメーカ、キャリアに利用され、これまで、米国市場を中心として、BlackBerry、iPhoneと競い合っている。
Linux OS5.1%1991年に、ヘルシンキ大学院生、Linux Torvalds氏が開発した。本来は、PCサーバの無料、開放型OS。モーバイルの領域でも、Motorola、 Google等幾つものメーカのプラットホームの基本OSに使用されている。
Android OS、PalmwebOS等2.2%シェアは、上記OSのシェアを100%から、差し引いて推計した数値である。AndroidOSは、スタートしたのが2008年10月(T-Mobile G1)で、シェアが低いのは止むを得ない。また、Palm社はsmartphoneの草分け的存在であるが、シェアは現在、大きく低落している。
1.市場シェアの出所は、http://en.wikipedia.org/wiki/Smartphone, ”Smartphone.”
2.各OSの概要の記述もおおむね、上記wikipediaによった。
3.最下部「Android OS、PalmwebOS等」のシェア2.2%は、100%から他のシェアの総和を差し引いて、計算した。

 表1、表2から、次のような事実が読み取れる。

  • 少なくとも、表1によれば、smartphone成長率は、前年同期に比し11.5%増加している。一般cellphoneの台数の成長率が、前年対比、減少しているのと対照的である(注2)。
  • 市場シェアにおいては、Symbian OSを使用しているNokiaのシェアが際立っている。 しかし、そのシェアは減少している。
  • 成長率の大きいsmartphoneメーカは、カナダのRIMとAppleである。RIMは2001年から、BlackBerryシリーズにより、Nokiaに次ぐ地位を占めている。しかし、2007年7月に、smartphone市場参入したAppleのiPhoneによる追い上げは著しい。2008年第3四半期現在、すでにRIMに迫る勢いである。
  • 第3位、第4位のメーカに、アジアの両社、HTC(香港)、Sharp(日本)が続く。残念ながら、Sharpは、前年に比し、大きく出荷数を減らした。

 2008年7月にT-MobileによるGPhone3Gにより、初の商用化を開始したAndroid OS使用のsmartphoneの売れ行きについての数値は得られなかった。ただ、売れ行き好調との記事も見当たらないので、案外、低迷しているのではないかとの観測もできる。

RIM、Appleの両社、cellphone市場においても第7位、8位の地歩を獲得

表3 主要cellphoneメーカの市場シェア(2008年末、2007年末)
cellphoneメーカ市場シェア(%)
Nokia(フィンランド)38.6
Samsung(韓国)16.2
Motorola(米国)8.3
LG Electronics(韓国)8.3
Sony Ericsson(日、瑞)8.0
RIM(カナダ)1.9
Apple(米国)1.0
その他17.3
100
cellphoneメーカ市場シェア(%)
Nokia(フィンランド)30
Motorola(米国)15
Ericsson(スウェーデン)10
Siemens(ドイツ)7
松下通信(日本)5
Alcatel(フランス)5
Samsung(韓国)5
その他23
100

表3左側 2008年末の資料
1. 市場シェアの出所は、ABIリサーチ。次の資料に列挙されていた数値を表にまとめた。
2009年1月30日付けhttp:www.mobileburn.com, ”Nokia dominates world cellphone market share: Apple and RIM competition highlighted.”
2.その他は、100%から、列挙された各メーカのシェアの総和を差し引いて、筆者が計算した。

表3右側 2000年末の資料
 2001年5月15日付けDRIテレコムウォッチャー、「シェアを大きく伸ばし、他者を圧倒するノキア(欧州最大の携帯電話メーカ)」に掲載した円グラフの数値を転載した。

 表3では、次の諸点に注目いただきたい。

  • 2000年以降、Nokiaが終始一貫、市場シェア競争において首位を保っている。反面、 1990年代には、cellphone製造において業界の覇者であったMotorolaの地位は、低下の一途を辿っており、凋落振りが目立つ。
  • シェアの低落は、欧州の主要通信機器メーカであるEricsson、Siemens、Alcatelについても言える。2000年代において、Siemens、Alcatelの両社は、cellphoneの製造を止めた。また、EricssonはSonyとの合弁で、辛うじて、ほどほどの地位を保っている。
  • 最後に、2008年に至り、smartphone専用業者であるRIM、Apple両社が第6位、7位の業者として、cellphone業界の一角に地歩を獲得した。

Mobile World Congressにおいて圧倒的な存在感を示したiPhone

 世界最大のMobile Phone展示会であるMobile World Congressは、2009年2月16日から19日に掛けバルセローナにおいて開催された。20数社もの携帯電話会社が新製品を出品し、性能を競い合ったが、Apple社は自社製品の宣伝は自前の規格、設備で行うとの基本方針に従い、出展をしなかった。
 この展示会が開催された機会に、ネット上で携帯電話メーカ、製品についての様々の紹介が行われた。ところが興味深いことに、一番記事が多かったのは、展示がないiPhoneに関する論評であった。
 ある論説によれば、Nokia、Samsung、Sony Ericsson、HTC、LG Electronicsといった主要携帯電話会社を名指して、これら企業は、腰をかがめて業界シェアが1%に過ぎないiPhoneの性能を模倣していると指摘している。さらに、このような模倣により、端末の性能アップを計らうとしても、顧客の吸引力が弱く、結局安い価格で応じざるを得なくなるとの予測をしている。

 Appleは、2008年7月にiPhone3Gを市場に出した機会に、標準端末の料金を399ドルから299ドルへと引き下げ、他のsmartphoneの料金レベルと同等にした。
 現在、ウォールストリートでは、2009年7月にも、Appleは主要機能のみに絞った廉価機種を99ドルで市場に出し、攻勢を強めるだろうとの噂が広まっており、他のsmartphone機器メーカは、危機感を強めている。しかし、この報道をApple社は否定しており、果たして廉価iPhoneが本当に早期に実現するか否かは不確定である(注4)。


(注1)ITUは、2009年2月中旬、”Confronting the crisis”というグローバルなcellphone市場の現状と将来予測に関する報告書を発表した。2009年2月16日付け、http://www.eweek.com, ”Cell Phone Demand Stays Strong Despite Economic Downturn.”
(注2)IDC社が発表した2008年第4四半期の数字では、cellphoneの出荷台数は、前年同期の3308億台から2.89億台へと12.6%減少したという。
2009年は、すべてのアナリストが、cellphone出荷数の成長率の減少を推測している。さればといって、成長率がマイナスになり、現在の保有数40億台が減少するまでには至らないようである。多分、成長率は大きく減るだろうが、smartphoneの成長率はプラスを保ち、cellphone成長率の減少を下支えするのではなかろうか。この予測は、一見、楽観的に過ぎるかのようなITUの予測と適合する。2009年2月19日付け、http;//news.cnet.com, ”Smart phones offer hope on declining cell phone biz”.
(注3)2009年2月18日付け、Reuters、”iPhone features, everywhere in rivals' new phones."
(注4)説明する適当な箇所がなかったので、この注でグローバル市場における2008年次におけるiPhoneの出荷台数の推計値について触れる。表1の2008年第3四半期にiPhone出荷台数は470万個であり、これを4倍して年間分の推計値とすると1880万個となる。2008年通期の出荷数は、おおよそこの程度ではないかと見られる。もしかすると2000万台を突破していたのかもしれない。これまで、テレコムウォッチャーでは、欧州等他の地域におけるiPhoneの成長状況について触れることがなかった。最近の資料によると、英国、フランス、ドイツの3国におけるiPhoneの成長は好調であって、少なくとも、それぞれの市場でsmartphoneの10%を越えるシェアは有している。米国外の市場における出荷数が、米国の出荷数を上回っていることは、確実である。2007年7月における商用化以来、これだけの成果を収めた製品は、他に類が無い。


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