DRI テレコムウォッチャー


将来に不安が残るAT&T、Verizonの業績 - 2008年第4四半期決算から
2009年2月1日号

 米国の主要企業の2008年第4四半期決算が続々と発表されているが、そのほとんどが減収減益である。IT企業もその例外ではない。トップを走ってきたGoogle、Microsoftも大きく利益が下がった。各社とも、先行きの一層の業績低下の事態に備えて、大なり小なり、従業員の削減を発表している。米国経済の不況は、深刻な状況に陥りつつあり、次第に恐慌の様相を呈しつつある。
 このような状況の下で、2009年1月末、AT&T、Verizonも2008年通期及び2008年第4四半期の決算を発表した。両社ともに、昨年同期に比し、増収減益である。電話会社は、不況に強いという通説を裏書した決算になった。しかし、ネット情報では、両社の弱点として、依然歯止めが利かない加入者の大幅減少から来るワイアライン部門の不振を報道している(注1)。
 筆者は、2008年第4四半期の両社決算から読み取れる最も重要なポイントは、(1)前期(2008年第3四半期)と比較すると、収入は、AT&Tがほぼ横這い、Verizonが減少、利益は両社ともに減少(2)両社ともに、前期に比し、ワイアレス部門で大きく収入、利益を伸ばしてはいるが、ワイアライン分野での収入、利益の減少が著しく、前者により後者をカバーすることができなくなったこと(3)ワイアラインの大きな加入者数の減少の量的把握ができないこと、また、Comcast、Time Warner CableなどMSO(大手ケーブル会社)の決算が現時点で発表されていないので断言はできないが、ワイアラインの不振の大きな原因として、両社がMSOとの競争に敗退していると推測できることにあると見ている。
 (3)の点は、Martin前FCC委員長が意欲的に推進した先発MSO(大手ケーブル事業者)に対し、後発、大手電話業者のサポートにより、両者間での競争促進により、ブロードバンドを推進しようという政策が、失敗しつつあることを示すものである。これは次期FCC委員長の下でまもなく策定される予定の新ブロードバンド政策を左右するインパクトを及ぼすこととなろう。
 本論では、上記3点を、主として決算資料を紹介することにより実証する。表、事実の提示を含め、資料はすべてAT&T、Verizon両社の2008年次各期の決算報告書によった。

辛うじて前期対比、増収増益を確保したAT&T、減収減益となったVerizon

表1 AT&T、Verizonの総収入・総利益(2008年第4四半期)
項 目AT&TVerizon
収 入(単位:100万ドル)31,342(+0.8)24,645(−0.4%)
営業利益(単位:100万ドル)5,618(+14.7%)3,832(−8.7%)
純利益(単位:100万ドル)3,230(+34.3%)1,235(−26.0%)
営業利益率(営業利益/収入)10.3%5.0(%)
(括弧内の%は、前期2008年第3四半期に対する増減比を示す。)

 表1から明らかな通り、AT&Tは収入において微増、また、利益も大きく増加した。
 これに比してVerizonは収入は、減収減益であった。また、営業利益率においても、AT&Tは、Verizonに比し、はるかに高い。
 総じて、AT&Tの方が業績良好である。Verizonが前期に比し、収入を減らしたのは、2008年第4四半期が多分、最初のことではないかと考えられる。これは、同社にとっては、2009年次の多難な船出を暗示するものであろう。

AT&T、Verizon両社とも、ワイアレス部門はきわめて好調 - AT&Tの加入者増、業績向上に大きく寄与したiPhone3G

表2 AT&T、Verizonのワイアレス部門の収入・利益(2008年第4四半期)
項 目AT&TVerizon
収 入(単位:100万ドル)12,859(+1,9%)12,849(+1,2%)
営業利益(単位:100万ドル)2,685(+12,9%)3,810(+9,7%)
営業利益率(営業利益/収入)+20.9%27.3%

 不況下にもかかわらず、AT&T、Verizonともにワイアレス部門はきわめて好調である。特に、利益の伸び率が収入の伸び率を上回った。もっとも、成長の勢いはAT&Tの方が大きく、今回、AT&Tは、収入においても加入者数においても、Verizonを追い越した。
 AT&Tが好調であった主原因は、iPhone3Gを中心とした端末の売れ行きの好調である。
 第4四半期におけるiPhone3Gの新規稼動数は190万に及んだ。その40%は、AT&T加入者ではなく、新規契約加入者によるものである。
 AT&Tは、この4半期に210万の加入者数(4半期単位の増加数でこれまでの最高)を増やし、2008年末の加入者総数は7,700万となった。
 Verizonの加入者増は140万と、AT&Tとの差が大分開いた。2008年末の総加入者数は、7,210万である。AT&TのiPhone3Gに対抗するVerizonの主力smartphoneの機種は、BlackBerry(2008 年11月に発売された最新バージョンは、Blackberry Storm)である。Obama大統領愛用機種と言うことで、よく周知されているが、iPhone3Gには、及ばないようである。
 なお、観測筋は、AT&T、Verizon両社のワイアレス部門の好調の大きな原因として、第3位のワイアレス事業者、Sprint/Nextelの存在を挙げる。加入者数は多いものの、経営不振の同社は、他社への加入者流出が止まらず、これが両社加入者増に大きく寄与しているという。してみると、米国ワイアレス業界(第5位のAlltelは、Verizonが2009年1月に吸収)は、4社体制(AT&T、Verizon、Sprint/Nextel、T-Mobile)になったとはいうものの、Sprint/Nextel、T-Mobileが比較的、弱小であるので、事実上、AT&T、Verizonによる寡占に近い状態になっているという一部論者の意見に説得力がある。
 なお、VerizonによるAlltel(米国第5位の携帯電話会社)の吸収が2009年1月に完了したので、1000万程度の携帯加入者数を増やすはずである。したがって、2009年は、加入者数において、Verizonが再びAT&Tを抜き、米国最大のキャリアになるだろう。

加入者減少の収入減をカバーしきれなかったAT&T、Verizonのワイアライン部門

表3 AT&T、Verizonのワイアライン部門の収入・利益(2008年第4四半期)
項 目AT&TVerizon
収 入(単位:100万ドル)17,072(−2.7%)11,917(−2.0%)
営業利益(単位:100万ドル)2,352(−1.3%)713(−31.8%)
営業利益率(営業利益/収入)13.8%6.0%

 上表に示すとおり、AT&T、Verizon両社ともに前期に比し、2%台の収入減を出した。この減少について、両社はともに、ブロードバンド加入者の獲得、特に、ビジネス用加入者のデータ通信の利用増大による収入の増が、加入者の減少に伴う料金収入の減少をカバーするに至たらなかったことを認めている。
 ところで、AT&Tは、収入の減少率こそVerizonより高いが、営業利益、営業利益率は、Verizonより高い。又、両社ともに、営業利益率は、ワイアレス部門の営業利益率に比し、2分の1ないし3分の1にしか達しない。
 要は、両社のワイアライン部門は、ともに収入が減少するばかりか、利益率がワイアレス部門に比し、格段に低い。伸び行くワイアレス部門、縮小し利益も低下していくワイアライン部門が、両極的動きを示していること、しかも、ワイアレス部門がワイアライン部門を支えきれず、総体的に、収入、利益が減少傾向を示し始めた点が、今期決算で確定的となった。
 次項において、上表から見られる動向を加入者数の増減の面から裏付けてみよう。

固定電話加入者数の減少とブロードバンドの不振

歯止めが掛からないワイアライン加入者の減少
 表4に、AT&T、Verizon両社の2008年各期におけるワイアライン加入者数を示す。

表4 AT&T、Verizonの2008年各期におけるワイアライン加入者数(単位:万)
 2008年第4四半期2008年第3四半期2008年第2四半期2008年第1四半期
AT&T2747.9(85.0)2832.9(102)2931.9(99.7)3031.6
Verizon3616.1(91.1)3702.2(119.2)3826.4(225.7)4052.1
(上表の括弧の数値は,前期に比しての減少数を示す。又、Verizonの数値は加入者数の
すべてを示しているが、AT&Tの数値は住宅用加入者のみのものである)。

 AT&T、Verizonのワイアライン加入者数の減少は、ここ数年来の傾向であったが、2008年にも猛威を振るった。第3四半期がピークであったようだが、第4四半期も両社とも、なおそれぞれ100万に近いワイアライン加入者が流出している。

伸びが低いAT&T、Verizon両社のブロードバンド加入者数 - DSL加入者数は減少へ
 表5、表6に、2008年次におけるAT&T、Verizon両社のブロードバンド加入者の推移を示す。

表5 AT&Tの2008年第4・3・1各4半期におけるブロードバンド加入者の内訳 (注2)(単位:万)
項目/期間2008年第4四半期2008年第3四半期2008年第1四半期
U-Verse104.578.137.9
ADSL973.5976.7993.9
衛星通信219218.2223.2
1297.21273.01254.8

表6 Verizonの2008年第4・3・1各四半期におけるブロードバンド加入者の内訳 (単位:万)
項目/期間2008年第4四半期2008年第3四半期2008年第1四半期
FiOSInternet250220180
ADSL617635646
867855826

 表5、表6から、両社ともに、光ファイバーによるブロードバンドは、順調に(両社の推計を多少上回る程度に)伸びているものの、ADSLの減少傾向が明確に現れた点が読み取れる。

ワイアラインの加入者減、ブロードバンドの停滞にインパクトを与えたと見られるMSOのTriple play成功
 AT&T、Verizon両社は、ワイアラインの加入者減、ブロードバンドの停滞に寄与している要因として、(1)携帯電話加入者へのワイアライン、ブロードバンド加入者の移行(筆者注:iPhone3G、Black Berry等コンピュータ機能、インターネット検索機能を備えたスマートフォーン端末が数多く販売されることにより、ワイアラインを全然必要としない加入者が増えている)(3)不況によるサービス取り消しをする加入者の増大(4)競争によるMSOへの移行の4点を列挙し、特に、(4)のインパクトを軽微なものであるとする傾向があるようである。
 しかし、筆者は、最近、Comcast、TimeWarner CableがTriple Playの成功を喧伝し、その成功ぶりを数値(たとえば、2008年第3四半期におけるTriple Playの増件数等)で示している資料等により、実は、AT&T、Verizon両社が、競争を通じてMSOに奪われた加入者数は、相当、多くに上るのではないかと推測している。
 近いうち、機会を見て、推計値を算出し、電話会社、MSO間のブロードバンドを巡る競争の実態を数量的にデッサンしてみたいと考えている(注3)。


(注1)たとえば、次の資料。
2009年1月28日付けCNN Money,com, "UPDATE: AT&T Profit Falls 23%, But iPhones Siozzle."
2009年1月29日付けThe New York times, "Cellular unit and Internet Stand Out for Verizon."
(注2)AT&Tは、決算書の説明において、同社のブロードバンドの総数は、3GLaptopConnectCard(Wi-fiのホットスポットに接続するために使うカード)の加入者数を加えれば、2008年第4半期には1630 万になると称し、この数字を対外的に使用している。しかし、Verizon社では、ワイアレスブロードバンドを加える方式を採用していないので、筆者は、ワイアラインのブロードバンドにこの数値を使った。
(注3)2008年次に、DRIテレコムウォッチャーにおいて、電話会社、MSO両者間のブロードバンド獲得競争を巡る記事を4件掲載した。今回の記事と併せ、参考にされたい。
 2008年3月1日号、「成長の減速期に入ったComcast-Triple Playは依然として成功」
 2008年5月15日号、「AT&T・Verizonの2008年次第1四半期業績」
 2008年9月1日号、「米国ブロードバンド成長の失速、優位に立つケーブルテレビ会社」
 2008年12月15日、「パッケージサービスの好調で不況を克服するMSO2社」


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