ABC.com等のTVネットワークのウェブサイト、あるいはHulu等の映像ポータルサイトに行くことで、最新のTVドラマを自由に見る事が出来る。数年前までTV番組の一部がネットに流れただけで、訴訟騒ぎになっていたのが嘘のようである。この数年間で、放送事業者の戦略は大きく変わった。これまでの地上波放送事業者の戦略はバーティカル・インテグレーションであり、番組制作から配信までを一環管理しようとしていた。規制緩和により、コンテンツ事業者がTVネットワークを持つことが可能になり、後は1つの会社が持てる放送局数を増やすことが出来れば、バーティカル・インテグレーションが達成出来る状況であった。2003年にFCCは1つの会社が持つことが出来る放送局保有の上限を視聴世帯の35%から45%に引き上げる。しかし、国民、それに議会からの猛反対が起き、35%に戻される。
バーティカル・インテグレーションは不可能である事を悟った放送事業者は、新たな戦略として、既存の放送経路に頼るだけでなく、インターネットを含め、多様な配信ルートに拡大する事を検討し始める。インターネットでTV番組が流れることは視聴者の減少につながり、広告収入を減らすことになると思われていたが、番組の一部がYouTube、MySpace等に流れたことで、話題が広がり、視聴者が増える効果が認識された。また、インターネットで見逃した番組を見られるようにする事で、視聴者をつなぎ止める効果もある。
ABCは最初にインターネットを使ったTV番組の配信に乗り出した。ABCは2006年5月にTV番組を放送翌日からそのウェブサイトで配信するサービスをテストし、この成功で、他社もインターネット配信に乗り出した。ABCはTV番組のiTuneでの販売、VODでの提供も一番乗りであった。
2008年3月にはFoxとNBC UniversalはHuluと呼ばれるサイトを立ち上げている。Huluは、Fox、NBCだけでなく、彼らが持つ多チャンネルネットワークのBravo、SiFi Channelの番組を配信し、さらに、Time Warner等とも契約し、そのTV番組を配信している。Huluの単なるポータルサイトではなく、オンラインでのビデオ配信ネットワークであり、パートナー契約のあるAOL、Yahoo!、MSN、MySpace等のウェブに対しても番組を提供しており、さらに、MySpace等では利用者が自分のサイトで、番組の一部をリンクし、共有する事も可能にしている。
インターネットでのTV番組の配信が増えることで、これがどの様にテレビ放送の視聴に影響を与えるかの議論が盛んになっている。インターネットで映像コンテンツを見る時間が増えれば、当然、TVの視聴時間は減るとの意見がある。IBMが2008年第3四半期に行った世界6ヶ国の2800人を対象にした調査では、PCで映像を視聴している人は2007年の60%から76%へと大きく増え、その半数以上はTVの視聴時間は減ったと答えている。
しかし、インターネットでTV番組が視聴されているのは、その時点ではTVを見ることが出来ないからであり、TVの視聴時間は減ることはないとの意見もある。逆にインターネットでTV番組が配信されることで、TV離れをし始めていた層を取り戻し、視聴者は増えるとの考えもある。放送事業者はこの効果を期待している。これを裏付けるような統計もある。Nielsenの調査によると、ウェブサイトの利用が多いほど、TVの視聴も多くなる傾向がある。ウェブサイトの利用時間がトップ20%の人たちの1日平均TV視聴時間は250分であったのに対して、ウェブを使わない人たちの1日平均TV視聴時間は220分であった。
インターネットで配信されるTV番組が増えたと言っても、すべてのTV番組がネット配信されている訳でなく、この議論は無意味かも知れない。Disney等のコンテンツ事業者がTV番組をすべて、ネット配信するには、それによりTV放送と同等の収入を上げていく事が出来る保証が必要である。TV広告が不振と言っても、地上波、他チャネルを合わせて、$720億以上の市場がある。これに対して、インターネット広告は全体でも$150億程度でしかない。さらに多チャンネルネットワークには$250億ドルの視聴者料金の収入がある。インターネットでの映像配信がTV放送を脅かすまでになるのは容易な事ではない。