DRI テレコムウォッチャー  from USA

このシリーズは、毎月1回掲載!!
NSI Research社の最新調査レポート
The Compassシリーズ - 日本語調査報告書
「アメリカのモバイルTV市場:携帯電話向けと自動車向けモバイル放送サービス」
 をご参照下さい。 この記事に関連する情報を提供しています。

その他のNSI Research社の放送市場調査レポートは、こちらをご参照ください。


控訴裁判所がネットワークDVRを合法と判断 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.51)
2008年8月15日号

 連邦控訴裁判所は2008年8月5日に3対0で,ネットワークDVRはTVネットワークの著作権を侵害しないとの判断を下した。この訴訟はケーブルTV事業者のCablevisionが2年前にRS-DVR(Remote Storage DVR)と呼ばれる、ケーブルTV事業者のヘッドエンドに番組を録画し、DVR付きSTB無しで、DVRと同様な機能を提供するサービスをテストすると発表した事から始まった。この発表を受け、地上波ネットワーク、多チャンネルネットワークはこのサービスに違反するとの訴訟を起こした。著作権法上、ケーブルTVはネットワークが送る番組を視聴者に送る事だけが許されてるが、番組を一時蓄積し、再送信する事はTVネットワークの著作権を侵すことになる。

 CablevisionはRS-DVRでは単に通常のDVRの録画機能がSTB内のHDDから、ネットワーク経由のHDDに動いただけであり、加入者が録画、再生を行う物で、これはVTR、DVRと同じに個人的な録画の範囲内であると反論した。しかし、地方裁判所は2007年3月にRS-DVRは加入者が録画、再生を管理していても、録画機能はCablevisionの施設にあり、TVネットワークの著作権を侵害するとの判定を下した。今回、連邦控訴裁判所はこの判定をひっくり返した。

 Cablevisionは2年前に予定していたRS-DVRのテストを行う予定だと発表しているが、TVネットワークはこの問題を最高裁に持っていくと思われ、サービスが商業ベースになるかはまだ分からない。

 ケーブルTV事業者に(それにIPTV事業者も)とって、ネットワークDVRのメリットはコストである。各加入者に対して独自に録画容量を提供するには膨大なストーレッジが必要になり、さらにVODがサポートする加入者数を大きく増やさなければならない。しかし、ネットワークDVRにはDVR機能を持つSTBは不要であり、通常のSTBのままでサポートが出来る。DVR機能を持つSTBは通常のSTBより100ドル仕入れ価格が高く、これを購入せずにDVRサービスを提供出来る事は大きなコスト削減になる。安い価格で、DVRを提供出来る事は、衛星事業者との競争上、大きなアドバンテージになる。また、ネットワークDVRのサービス開始にはSTB交換等の為にフィールドエンジニアを派遣する必要もなく、録画容量のアップグレード等も簡単に行える。

 では、なぜTVネットワークはこれに反対をしているのか? TVネットワークが最も恐れているのはネットワークサービスとする事で、低コストで、簡単にDVR機能が提供される事で、DVR利用者が急増する事である。現在、DVRはTV視聴世帯の20%〜25%に普及している。普及により、TV広告の50%はスキップされるようになっているとTVネットワークは推定している。DVRの普及は止められる物ではないが、ある程度高価なサービスであれば、その普及は爆発的にはならない。ネットワークDVRにより、安く、簡単にサービスが受けられるようになれば、数年でほぼ全部のケーブルTV、IPTVに接続されたTVがDVRになってしまう可能性がある。TVネットワークはこのような爆発的な普及は広告収入のモデルを破滅させると懸念している。

 ソルーションはネットワークDVRでは広告スキップを不可能にする事である。CablevisionはRS-DVRはDVRと同等の機能を提供する物であり、機能を削除する予定は無いと語っている。しかし、ケーブルTV事業者自体も広告の販売を行っており、広告収入を増やそうとしている時であり、ケーブルTV加入者の全部が広告をスキップし始めるのは困る事でもある。ケーブルTV事業者もこの対応を考える必要がある。

 ネットワークDVRは、反対に広告スキップの問題の解決になる可能性もある。ヘッドエンドに録画する事で、既存のDVRでは困難な機能の提供も可能になる。単純に広告スキップ機能を無くすのではなく、広告主は放送からX日間で広告スペースを買い、その期日以内の広告はスキップ不可能の様な操作が出来る。さらに、DVRで再生時には最新の広告と入れ替える事も可能である。番組自体が期限付きで、期日を過ぎた番組は再生不可能にする事も出来る。

 Cablevisionの最初のRS-DVRの発表は2005年であり、その時から業界は変わっている。TVネットワークは徐々に閉鎖的では無くなり、最近では積極的にインターネットでのTV番組の配信を行うようになっている。ケーブルTV事業者は広告収入の重要性を意識し、共同でCanoeと呼ばれるケーブルTV広告のプラットフォーム作りの会社を設立している。ケーブルTV事業者とTVネットワークが歩み寄り、お互いにメリットのあるネットワークDVRの仕組みを考える方が、弁護師団に大金を払って最高裁で争うより効率的であろう。


「from USA」 のバックナンバーはこちらです

NSI Research社の デジタル放送とブロードバンドTVの情報サービス
年間情報サービス「The Compass」 と 「The Compass」年鑑レポート
 放送/メディア会社、通信事業者・機器ベンダを対象としています。

その他のNSI Research社の放送市場調査レポートは、こちらをご参照ください。


COPYRIGHT(C) 2008 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.