NAB(National Broadcasters Association)は米国の地上波放送局を代表する産業組織であり、地上波ラジオ、テレビ局とそのネットワークの為のロビー活動を行っている。そのNABが主催するNAB Showは放送業界最大の展示会であり、10万以上の参加者がある。日本でも放送機器展として有名だが、NAB Showの対象はあくまでも地上波放送であり、ケーブルTV放送向けの伝送機器等は無い(ケーブルTV向けの展示会としてはNCTAとSCTEがある)。NAB Showの展示は地上波放送局が使う為の製品/サービスであり、主役は制作と伝送機器であった。
しかし、4月7日から開催された今年のNAB Showでは明らかな変化があった。NAB Showは毎年、ラスベガスのコンベンションセンターで開催され、これまでは制作と伝送機器が主体の中央ホールがもっと重要な会場であった。しかし、ここ数年でフォーカスは徐々にポスト・プロダクションが主体の南ホールに移行してきた。今年の展示会では南ホールに主要なベンダーが集まり、完全に主役が変わった印象があった。
これはどの様なことを意味するか? 業界の関心が番組を制作し、それを地上波で放送する事から、持っているコンテンツをいかに活用するかに移っているという事である。それを表すようにNAB 2008の副題は「Where Content Comes to Life」で、コンテンツの重要性をアピールしていた。また、今年の主要なパビリオンはContent Centralで、「On Screen、On Air、Online、On the Go」をテーマにコンテンツを放送だけでなく、オンライン、そしてモバイルな環境でも提供する技術をアピールしていた。
先月のこのコラムでNBC UniversalとFoxが立ち上げたビデオコンテンツ・ポータルのHuluに関して書いたが、地上波ネットワークはその番組をインターネットで配信するだけでなく、ケーブルTV事業者に対してVODで提供し、また、モバイル向けにも提供を始めている。視聴者のTV離れが進む中、地上波放送局、ネットワークがTV放送以外の新たにそのコンテンツを提供する媒体を媒体を求めている。これまで、放送局、ネットワークは新たな媒体の重要性を認識しながらも、放送による広告収入を減収させる恐れから、複数の媒体に展開する事には消極的であった。しかし、この考えは急速に変わっており、今回のNABのテーマがこれまでの放送を離れ、コンテンツの再利用になっている事もこのトレンドを象徴している。
大学のバスケットボール・トーナメントの全試合の放送権を持つCBSは今年は試合をTVで放送するだけでなく、全試合を広告付きで、インターネットで無料配信をした。視聴率的にはインターネットでの配信は大成功で、視聴者数は480万以上で、昨年の120万を大きく上回った。しかし、TVでの放送の視聴率は4.8%、シェア11%で、昨年の視聴率5.3%、シェア12%を下回る結果となった。この発表で、インターネットでのTV番組の配信はやはり、TV視聴率の低下を招き、結局は減収になるとの意見も出た。しかし、その後、CBSが発表した結果では減収ではなく、逆に増収になったようである。CBSの発表でインターネット放送に対する広告料は、TV広告と同レベルかそれ以上であり、広告収入はインターネットの場合、420万の視聴者に対して一人あたり4.83ドル、TV広告は1.32億の視聴者に対して一人あたり4.12ドルであった。CBSはインターネット配信でも、TV放送でも1試合あたり、同じ時間の広告を挿入した。インターネットでも試合を放送する事で、CBSはTVの視聴者を失ったかも知れないが、インターネットで配信する事で、TVだけで得られる以上の視聴者を得た。そして、視聴者あたりの広告収入はインターネットの方がTV上であり、CBSの収入はTVで放送しただけより多くの広告収入を得たことになる。
この様な成功事例が発表されることで、TV局、ネットワークによるそのコンテンツの再利用はさらに進むであろう。数年後にはNAB Showは放送機器展示会からニューメディアでのビデオ配信の展示会に姿が変わっているかも知れない。