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DRI テレコムウォッチャー |
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パッケージサービスの好調で不況を克服するMSO2社
2008年12月15日号
米国は深刻な不況に見舞われつつあり、企業の減収、減益が相次いで発表されている。電気通信、IT業界においても、不況の影響はジワジワと浸透しつつある。
こういった状況のなかで比較的好調なのは、ケーブルテレビ業界である。業界大手2社のComcast、TimeWarnerは、基本ビデオサービス事業の停滞にもかかわらず、新規事業分野(高速インターネット、デジタル電話)で、2008年第3四半期に5〜7%程度の増収増益決算を計上した。
他面、AT&T、Verizonは、ワイアライン部門での売り上げ減の傾向が今期も続いている。特に、アクセス回線の減少に加速度がついており、年間9〜10%程度の高率に達している。
これまで、両社のアクセス回線の減少、ワイアライン部門の売り上げ減は、主として、固定電話部門から携帯電話部門への加入者の移動に伴うもの(この説明だと、2社ともに最大の携帯電話部門を有している企業であるから、固定電話部門の収入源の相当部分が、携帯部門の収入増でカバーされるということになる)だと見られてきた。
ところが、MSO(大手ケーブル電話会社)によりシェアを奪われた部分も、相当に大きいようである。
AT&T、Verizonのなによりの誤算は、ケーブルテレビのブロードバンドに対抗する武器として開発した、DSLの失速である。DSLの加入者数は2006年に大幅に増え、そのうちMSOの数値に迫るのではないかと予測された時期もあったが、2007年には停滞に入った。2008年にはVerizonが加入者数を減らし始め、今日に至っている。AT&Tも2008年第2四半期まではどうにか加入者数を増やしたが、第3四半期には遂に減少に転じた。
MSOの側からすれば、TriplePlayの名称で象徴されるパッケージサービスが成功していることを示す。TimeWarnerが示した数値では、2008年9月末現在、TriplePlay加入者の比率は20.3%、Dual Play(ビデオ、インターネットのサービス提供のみの組み合わせ)が32.6%で、計53.9%がパッケージサービスに加入している。
本文では、さらに、上記の点を数字により裏付ける。
MSO2社(Comcast、TimeWarnerCable)とAT&T、Verizonワイアライン部門の収入・利益比較 ―2008年第3四半期の決算から(注1)
表1 AT&T、Verizon、TimeWarnerのワイアライン収入・利益(2008年第3四半期)
項目 \ キャリア | AT&T | Verizon |
収入(単位:100万ドル) | 17,550(−2.1%) | 12,158(−1.7%) |
営業利益(単位:100万ドル) | *2,737(−7.6%) | 1,046(−7.8%) |
営業利益率(営業利益/収入) | 15.6% | 8.6% |
(括弧内の%は、昨年同期(2007年第3四半期)に対する増減比を示す。また、*で示したAT&Tの営業利益の欄に計上した数値は、部門利益(Section Profit)と表示されているものであって、営業利益ではない。多分、営業利益より高めに出るもののようであり、Verizonの営業利益との比較はできない。)
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上表は、AT&T、Verizon両社の2008年第3四半期におけるワイアライン部門の収入、営業利益、営業利益率を示したものである。ちなみに、この期における両社のワイアレス部門の収入は、それぞれ12,618(単位:100万)ドル、10,915(単位:100万)ドルである。
ここ数年来、両社の業績は、ワイアレス部門で増収、増益傾向、ワイアライン部門で減収、減益傾向という部門別の二極化傾向が進んでおり、両部門を合算して増収、という決算の構造が続いている。
表2 Comcast、TimeWarnerの収入、営業利益(単位:100万ドル)(2008年次第3四半期)
項目 \ キャリア | Comcast | TimeWarner Cable |
総収入 | 8,131(+7.1%) | 4,340(+5.6%) |
ビデオ 高速インターネット 音声 広告 その他 フランチャイズ使用料 | 4,681(+3.6%) 1,822(+9.4%) 690(+4.4%) 374(−10.4%) 336(+12.4%) 228(+7.0%) | 2,639(+4.3%) 1,056(+12.1%) 421(+39.9%) 224(+48.5%) 項目なし 上記4項目に分散計上 |
営業利益 | 1,749(+13.4%) | 788(+15.7%) |
営業利益率(総収入/営業利益) | +21.5% | +29.9% |
表2に、Comcast、TimeWarnerの収入、営業利益を示す。上表で特記すべきなのは、次の2点である。
- 表1と比較すると、Comcast、TimeWarnerの両社は、鮮やかな増収、高利益基調を示しており、AT&T、Verizonのワイアライン部門の減収、減益基調とは対照的である。
- 収入の大勢を占めるサービスは、未だ、ビデオ(ケーブルテレビ会社本来の業務であるテレビ放映)であるが、新分野である高速インターネット、サービス、音声サービスの伸びは大きく、この傾向が持続すれば、特にComcastの場合、ビデオ収入が総収入の過半を割る時期は、近いと考えられる。
次項では、MSO2社とAT&T、Verizonを各社が獲得した回線数の側面から、比較する。
MSO2社(Comcast、TimeWarner Cable)とAT&T、Verizonのワイアライン部門の回線数
表3 AT&T、Verizonのワイアライン部門の回線数(2008年9月末、単位:万)
項目 \ キャリア | AT&T | Verizon |
アクセス回線数 | *1 2,833(−10.5%) | 3,707(−9.0%) |
ブロードバンド回線数 | 1,484(+7.9%) | 846(+9.2%) |
DSL回線数 | 1,188(+2.1%) | 621(−5.5%) |
高速インターネット回線 | U-Verse 78(*2 2) | Fios Internet 225(+93%) |
*3 衛星回線数 | 218(+9.9%) | 不明 |
アクセス+ブロードバンド回線数 | 4,317(−5.0%) | 4,533(−6.5%) |
*1 | この数値は、住宅用アクセス回線数である。ビジネス用アクセス回線数を含めれば、Verizonの回線数を上回るはずである。今期、AT&Tは、総アクセス回線数を発表していない。その理由は不明。 |
*2 | U-Verseの数値は、%ではなく、実数値である。 |
*3 | AT&Tは、EchoStar、DirectTVと契約し両社のビデオサービスを販売している。同社は、この契約数を自社のブロードバンド加入者数に含めているので、その数値を計上した。これに対し、同様の契約受託を衛星通信業者と行っているVerizonは、その値を計上していない。論理的には、Verizonのやり方が正しいと思われる。 |
表4 Comcast、TimeWarnerの回線数(2008年9月末 単位:万)
項目 \ キャリア | Comcast | TimeWarner |
1.ビデオ回線数 同上普及率 | 2440.6(−0.6%) 48.5%(49.0%) | 1326.6(−0.3%) 44.4%(49.8%) |
2.高速インターネット回線数 同上普及率 | 1473.8(+2.6%) 29.5%(+28.9%) | 833.9(+2.6%) 31.3%(+30.7%) |
3.デジタル電話加入者数 同上普及率 | 612.6(+8.5%) 13.3%(12.5%) | 362.1(+5.8%) 14.0%(13.4%) |
2+3.(高速インタネット回線数 +デジタル電話回線数) | 2,086.4(+4.3%) | 1196.0(+3.7%) |
注1 | 括弧内は、前期(2008 年第2四半期)に対する増減比である。表3との関連からすれば、前年同期比との比較をすべきであったが、TimeWarnerの前期数値が得られないので、やむなく前期との比較によった。 |
注2 | 括弧内の普及率は、前期対比率ではなく、実数である。 |
注3 | ここで普及率とは、架設可能施設数に対する比率を指す。 |
表3、表4から、次の諸点が読み取れる。
- 電話会社にせよケーブル会社にせよ、新規分野サービスへの進出に当り基盤となるのはそれぞれ、アクセス・サービス回線、ビデオ回線である。AT&T、Verizonは、年間それぞれ、10.5%、9.0%と大きくアクセス・サービス回線数を減らしている。両社にQwestを加えた3社で、2008年第3四半期には約200万のアクセス回線を減らした。これまで電話会社側は、アクセス回線数の減少は、主として携帯電話への移行によるものだと主張してきた。しかし、あるアナリストは、アクセス回線の減少のうち3分の2は、ケーブルテレビ会社がシェアを奪ったことによりもたらされたものだと分析している(注2)。これに対し、Comcast、TimeWarnerもビデオ回線数を減らしてはいるものの、それは微減に留まっている
- 高速インターネット回線の増率は、表3、表4の増率が表3の場合は、2008年第3半期だけの3か月分をまた、表4の場合は、前年同期からの1年間分の資料を使っているため、見かけ上、電話会社2社の場合の増率が高くなっており、誤解を招く。表5に、2008年第2及び第3四半期の高速インターネット加入回線の実数及び、第3四半期における増加数を示す。AT&T、VerizonとComcast、TimeWarnerの高速インターネット回線増数の差はたいしたものでないが、AT&T、Verizonの場合、DSL回線が減少している点が際立っている。
表5 AT&T、VerizonおよびComcast、TimeWarnerの高速インターネット回線数
項目 \ キャリア | 2008年第3四半期 | 2008年第2四半期 | 第3四半期純増数 |
AT&T | 1,266(1188.78) | 1,246(1191.55) | +20(−3.23) |
Verizon | 846(621,225) | 833(633,200) | +13(−12.25) |
計 | 2,112(1,809,303) | 2,079(1,824,255) | +33(−15.48) |
Comcast | 1,473.8 | 1,435.7 | +38.1 |
TimeWarner | 833.9 | 812.5 | +21.4 |
計 | 2,307.6 | 2248.2 | +59.4 |
注 | 単位は万。なお、括弧の中の2つの数値は、それぞれDSL、光ファイバーの回線数。 |
- Concastは、今やVonageを抜いて、米国最大のVOIP事業者となっている。両社とも、VOIPの成功率はきわめて高く、この傾向が続けば、早晩、大手電話業者に次ぐ音声通信事業者になるだろう。このVOIP加入者増の多くが、即、AT&T、Verizonの加入者数の減をもたらしていることはいうまでもない。
- 表4で、ビデオ加入者、高速インターネット加入者、デジタル電話加入者について、それぞれ普及率を付した。この普及率を100%から引き算すれば、新規投資を行わないで、どれだけ、両MSOが、加入者増設の余地があるかを示す比率となる。電話会社に比しComcast、TimeCable両社は、投資努力をさほど行わないでも、容易に加入者増設が行えるのであり、この点が光ファイバーの敷設に、今後も高額の投資を要するAT&T、Verizonに比し大きな優位点となっている。
- 最後に、表には掲示しなかったが、TimeWarnerは、パッケージサービス加入者数の比率を示している。バンドルサービス加入者の比率:計52.9%(内訳:Double Play加入者比率32.6%、Triple Play加入者比率20.3%)。多分、Comcastのパッケージサービス比率も似たようなものだろうと推測される。
将来予想 − 当分続くMSOの優位(注3)
AT&T、Verizonなど、大手電話会社は、ブロードバンドで先行しているMSO各社に対し、DSL及び光ファイバーで、主導権奪回を試みている。この企ては、急激なDSL架設増加と、光ファイバーによるAT&T、Verizonのそれぞれのサービス開始(AT&TのU-Verse、VerizonのFios)の離陸により、一時期、MSOのケーブルモデムによるブロードバンド・サービスに追いつくかのように見えた。
しかし、2008年に入り、AT&T、Verizon側の加入者増設は期を追うに従ってMSO2社に遅れを取り、2008年第3四半期に至り、両社ともに、DSL回線数を減らした。これは、MSO2社(Comcast、TimeWarner)と大手電話会社2社(AT&T、Verizon)のDSL増設による、ブロードバンド作戦が失敗しつつあることを示すものである。
どうして、DSLの増勢が失速したのか。基本的には、サービスのカバレッジ、伝送スピードの点で、最初から、DSLはケーブル会社が提供するブロードバンドサービスより劣っており、電話会社側は、様々な努力をしたものの、この劣勢を挽回することは、できなかったことによるものと考えられる。
繰り返しになるが、表4が示しているように、Comcast、Verizonの側は、両社の本来のサービス加入者を訴求対象にしており、安い販促コストでインターネット、音声サービスを勧誘できるのである。また、先行投資も十分できている(このため、多額の負債を抱えている点は、デメリットとなっているが)。
さらに、スピードの点について言えば、DSLもスピードアップに努力を重ねはしたものの、最大7.1Mbpsが限度であって、最低5Mbps、最大30Mbpsの速度が出せるケーブルモデムのブロードバンドには、とても対抗できない。
あるニュースレターは、DSLは将来も生き残れるかとの設問をしている。これに対する回答は、Dial-Upサービスは、1,500万に減少しているものの、なお生き永らえていることである。サービス速度にこだわらない利用者が今後もいるだろうから、Dial-Upサービスと同様のニッチ市場を狙うサービスとして生き残るだろうとの予測であった。筆者も、この意見に同感である。
結局、MSOと大手電話会社とのブロードバンド競争は、今後、ケーブルモデム・ブロードバンドと大手電話会社の光ファイバーの対決に帰着するであろう。ただ、後者は、地方自治体に対するライセンス取得、ライセンス取得後の光ファイバー架設といった手順を踏まなければ、サービス提供ができず、現状における限られたサービス提供体制がなかなか整わない。
このような状況であるからして、ブロードバンド提供におけるMSOの優位は、今後、当分の間、続くであろう。もっともAT&T、Verizonのワイアライン部門は、ビジネス分野では強力であって、Comcast、TimeWarnerの追随を許さない力を有している。また、成長力も大きく、それだからこそ、住宅用部門の劣勢を補って、減収、減益を微少に抑えてもいる。
しかし、Concast、Verizon両社の進撃が今後、快調に進むと、米国におけるブロードバンドの主役は、電話会社ではなくケーブル会社である、との認識が高まるという事態すら生じかねない。
この事態を抑えるために、ブロードバンド競争について、電話会社側に大きく肩入れをしたのが、FCC委員長のMartin氏であった。同氏は、初志を貫徹することなく、2009年1月末、委員長の座から去ることとなる。
(注1) | 本論におけるすべての表は、AT&T、Verizon、Comcast、TimeWarner4社の2008年第3四半期における決算報告から、作成した。 |
(注2) | Sanford Bernstein社のアナリスト、Craig Moffett氏の説。http:www.multichannel.com, "Cover Story:Will DSL Survive?”より孫引き。 |
(注3) | この項執筆に当っては、注2で紹介したCraig Moffitt氏の論説に負う所が多かった。 |
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