DRI テレコムウォッチャー


FCC、大統領選挙当日に2件の重要合併案件を承認
2008年11月15日号

 FCCは、大統領選の当日の2008年11月4日、重要な2件の電気通信事業者合併案件を承認する裁定を下した。
 一件は、2008年6月、当事者間で合意されていたVerizonによるAlltel合併の案件である。Verizonはこの案件により、再びAT&Tを抜き、米国最大の携帯電話会社となるのみか、ルーラル地域最大の携帯電話会社を手中に収め、同社サービスの拡大エリアを大きく拡大できることができる。
 他の一件は、Sprint/Nextelのワイアレス・ブロードバンド部門、XohmとClearwire(米国ブロードバンド会社)との合併である。この合併は、Liteと並ぶ4Gワイアレスブロードバンド標準であるWiMaxの米国における販売活動の財務的基盤がようやく確立したことを意味する。この合併により創設される新会社、New Clearwire Corporationには、Comcast、TimeWarner、Intel、Google、Bright House等の有力なIT企業も株式を取得する。現在、ブロードバンドは、AT&T、Verizonの旧ベルシステム系電気通信会社とComcast、TimeWarner等のMSO(大手ケーブルテレビ会社)との間で覇権を争う競争が展開されている。今後、New Clearwireがこれら両グループに対し、ワイアレスブロードバンドの側からの第3の強力な競争事業者として、挑戦することとなろう。
 以下、本論では、今回の2件の合併の概要、合併に付された条件、5名のFCC委員の意見を紹介する。さらに、なぜ大統領選挙当日にこのような裁定が下されたのか、また、FCCが2008末までに結論を出すことを期待されているキャリア間の相互接続料金、ユニバーサルサービスの重要案件の見通しはどうなるかについて、所見を述べる。

FCCが承認した2件の合併案件の概要

VerizonによるAlltelの合併
 Verizon WirelessによるAlltel合併の内容、意義については、2008年7月、DRIテレコムウォッチャーに詳しく紹介したので、参照されたい(注1)。その後、合併内容の基本線について、変更は無い模様である。

Xohm(Sprint/Nextelのワイアライン・ブロードバンド部門)とClearwire(米国のワイアレス・ブロードバンド会社)の合併
 両社の合併は、第4世代の携帯電話ブロードバンド標準WiMaxの提供を目的とするものである。
 Sprint/Nextelは、かねてよりQualcommが開発した第4世代の新ワイアレス・インターネット標準、WiMaxを導入した携帯電話サービスの提供により、期を追って低下しつつある同社携帯電話の市場シェアを一気に回復しようと計画を進めていた。
 他方、Clearwire Corporation(大手ワイアレスISPで、米国だけでなくアイルランド、デンマーク、ベルギー等の欧州諸国でもサービスを提供している)は、すでに、Pre-WiMaxと呼ばれる高速ワイアレス・インターネットのサービスを提供しており、Sprint/Nextel同様に、WiMaxに関心を有してきた。
 WiMaxを米国全土でサービス展開するためには、多額の資金を要する。このため両社は、この事業に関心があるMSO、IT会社にも呼びかけ、Clearwireの名称を冠した新会社(New Clearwire Corporation)設立を企画した。
 資本参加各社の資本比率は、次の通り。
        Sprint/Nextel及びClearwire :51%
        旧Clearwire株主:28%
        Comcast、TimeWarner、Intel、Google、BrightHouseによるコンソーシャム:21%
 New Clearwire Corporationは、MVNO(携帯電話回線の卸売り業者)として、業務を営む。すなわち、Sprintに対し4GWiMaxサービスを提供し、他方、Comcast、TimeWarnerは、MVNOとしてのSprintから3G携帯インターネット・サービスを購入する(注2)。

FCCが両案件について付した条件(注3)

共通の条件

  • ネットワークへの機器の接続をオープンにすること(FCCが700MHZ帯の周波数を売却するとき、Cブロックに対して付した条件の適用)
  • ハイコスト地域に対し交付されている補助金(USFから支出されるユニバーサルサービス保持のための補助金)の受領を5年間で解消すること
  • E911(緊急通話制度)においての正確な位置確認の義務(location accuracy obligation )を履行すること(注4)
VerizonによるNextel取得について付された条件
  • Verizonは、105地域(Verizon、Alltelの設備が重複している地域)におけるワイアレス電話の資産を売却する。
  • Alltelが、他の携帯電話業者と結んでいるローミング協定を今後4年間、保持する。

裁定に関しての5名のFCC委員たちの意見(注5)

 Sprint/NextelとClearwireの合併については、5名の意見は、ほぼ同様の根拠(ワイアレス・ブロードバンドの振興に大きく貢献する。しかも、競争阻害、利用者の利益侵害を起こす恐れがほとんど見られない)に基づき共通したものである。また、FCCが付した条件についての意見も、VerizonとNextel統合の場合の意見と類似しているので、ここでは触れない。
 次表に、VerizonとFCCとの合併に関すFCC委員5名の意見を同種類のもの3グループに分け、紹介する。

表 VerizonとNextelの合併に関するFCC委員の意見
意見提出委員意見
Kelvin J Martin(共)
Tayler Tate(共)
 Verizonは、Nextel統合によって、サービス提供地域が広がり、また、より強固な携帯サービスを全国的に提供できることとなる。
 統合される側のNextel加入者にしても、これまでは、Nextelでは提供できなかったもろもろのサービスの提供をVerizonから受けられるようになる。特に、携帯ブロードバンド・サービスでは、Verizonの勝れたサービス提供による利便を受けることができよう。
 CDMA提供業者(Nextelはその1つ)が少ないため、Nextel加入者は、ローミングの範囲が縮小されるのではないかとの懸念がある。しかし、Verizonは、4年間、NextelのCDMAサービスを保持すると確約している。この期間中には、Verizonを初め、他の業者も4Gのネットワークに移行していくものと考えられるので、この問題は解消するだろう。
Michael J .Copps(民)
Jonathan Adelstein(民)
 VerizonによるNextelの統合には、確かにメリットもある。しかし、統合に伴う歯止め条件は、不十分なものであって、この点には、不満である。
 たとえば、Nextelに代わって、Verizonが中小携帯キャリアとのローミング協定の当事者になる場合(すなわち、統合実現の4年後)、これまでより、ローミング協定の内容が不利となることはないか、懸念される。
 私(Copps氏)は、4年ではなく、7年間、現行の協定を維持できるよう主張したが、認められなかった。
Robert M.McDowell Verizonが、米国ルーラル地域の携帯電話サービスの質を向上させる可能性があること、同社が現行のNextelの中小携帯電話事業者とのローミング協定を4年間保持する等の点で、裁定に賛同する。
 しかし、今回の裁定が、Verizon、New Clearwireに対し、ユニバーサルサービス規制の変更を強制する内容を含んでいることには反対する。ユニバーサルサービスに関する規制の変更は、FCC裁定で定められるべき事項である。

 上表3グループの意見を要約すれば、(1)FCC共和党委員(Martin、Tate)2名の委員は、裁定に対し無条件で賛成。(2)FCCの民主党委員2名(Copps、Adelstein)は、2件の合併の積極面を評価しつつも、歯止めの条件に不満の意を表明。(3)FCCの共和党1名(McDowell氏)は、裁定に付された条件と今後下される予定の別件の裁定についての整合性の無さに疑義を表明ということであろう。
 5名中4名の委員は、合併のデメリットの危険性についての懸念、あるいは整合性への疑念を示しつつも、合併自体のメリットにはこぞって賛同を示し、全会一致の議決となった。

今回のFCC裁定が大統領選挙開票日当日になった理由

 FCCのMartin委員長は、当初、11月4日に2件の合併案件だけではなく、キャリア間の相互接続料金を改定する事案の裁定及び、USF(ユニバーサルサービスファンド)の改定の裁定も行いたいと考えていた。
 現在の相互接続料金の体系は、旧AT&T(ベルシステムといってもよい)が分割された1984年に整備されたものであって、コスト的に見て長距離電話会社(当時)に不利に、また、市内電話会社側に有利に組まれている。この料金体系を競争が進展した状況の下で、アップツーデイトなものにしようとすると、群小の市内通話会社に対する負担を高める方向のものになるのは、当然である。
 また、USF案件に至っては、FCC民主党委員2名は、かねてからブロードバンドバンド時代の応じたユニバーサル制度の抜本的見直し(特に、ブロードバンドのユニバーサルサービス化を含む)を主張しMartin委員長と対立していた。
 Martin委員長にしてみれば、利害対立が大きく絡むこの重要案件は、大統領になる可能性が強いObama氏の選挙戦での勝利が定まる11月4日以前に、共和党委員3名の多数決により(民主党委員2名は反対することが明らかであるから)、結論を付けておきたいと考えたのは当然のことである。もっとも、FCC会議が開かれる曜日は定まっている模様であり、Martin委員長が故意に11月4日を裁決日に選んだわけではあるまい。Martin氏は、できれば投票日の幾日か前にでも提出したいと考えていたはずであるが、皮肉にも、裁定を行う場であるFCC会議が大統領選挙当日に当ったということであろう。
 Martin委員長は、FCC会議開催の前日、11月3日に、反対の強い点を考慮して、今後、公衆の意見を聴取することを約し、両案件を11月4日FCC会議の議題から外し、合併の2案件だけを採決することとした(注6)。
 しかし、Martin委員長は、なんとしても、再度この両案件を採決し、2008年末までに解決する強い意思を示している。
 筆者は、Martin委員長の試みは実らないものと考える。すでにネットで報道されている幾つもの情報によると、次期大統領のObama氏はITの利用に強烈な関心を抱いているのであって、将来のIT、電気通信の枠組みは、自らの政権の手により整備したいと決意している(注7)。このような情勢下で、しかも反対の大きい2案件のFCC裁定が成功裡に行われるとは、到底考えられない。


(注1)2008年7月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「Verizon Wireless、Alltelを合併へー止まらない米国携帯電話事業者の統合」
(注2)この項の説明は、主として、Wikipediaの "Clearwire" の項目によった。
(注3)この項は、2008年11月4日付けFCC News, "FCC approves, with conditions, Sprint-Nextel/Clearwire transaction" によった。
(注4)現に導入されつつある米国の最新の緊急通話システム(Enhanced 911)では、通告者の電話番号はもとより、住所のアドレス、位置もディスプレイに表示されるようになっている。FCC裁定分によるlocation accuracyとは、これを指すものであろう。
(注5)裁定が出された当日の11月4日付けのFCC Newsに、5名のFCC委員は、それぞれの案件について、意見を提出している。本文の紹介は原文から要約したが、原文名の列挙は省略する。
(注6)2008年11月6日付けAPA Associated Press, ”FCC Chairman cancels vote on telecom overhaul.”
(注7)Obama氏が、ITにどれだけの関心を持っているかについては、2008年10月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「オバマ大統領候補、ネット利用による構造改革を打ち出す」を参照されたい。オバマ氏は、選挙綱領のなかで、ブロードバンドのユニバーサルサービス実施を公約しているのである。
(注8)2008年11月7日付けhttp://www.videsign.com, ”Obama to fill FCC, new chief tech officer jobs.”


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