T-MobileG1は、2008年10月22日、1年以上にわたる準備期間の後、ようやく米国の市場で販売を始めた。このスマートフォン端末の出現は、ワイアレス端末業界に大規模な進出を行おうとするGoogleの戦略が、実施に移されたことを意味する(注1)。
T-MobileG1の発売は、センセイショナルといえるほどに派手なPR合戦を展開したAppleによるiPhoneの販売に比し地味である。Googleは、ソフトを無料公開して、できるだけ多くのキャリア、ユーザーにこれを使ってもらい、PCについて同社が成功したのと同様に、広告料収入で利益を上げることを意図している。また、Androidソフトの開発に結集したOHA連合の携帯電話事業者7社、携帯電話メーカ4社が次々と、米国市場のみならず世界市場において、Android搭載の電話機種(GPhone)を開発、発売することを期待している。
Googleのパテント政策は、簡易な手続きを経れば、容易に無料でGPhoneを製造できるというオープンネスに徹した画期的なものである。従って、OHA連合の他のメーカ、キャリアが、この分野に参入する可能性も十分に考えられる。
現在、売り上げ状況は、大方のアナリストたちの予想を超えて好調であり、今後、GPhoneが世界のグローバル業界において、確固たる地位を占める可能性は、ほぼ確実と見られる。
本文では、T-MobileG1の機能、今後の販売見通し等について説明する。
T-MobileG1の機能、特色
T-MobileG1の機能、特色は、おおよそ次の通りである。
メーカー、キャリア:すでに電話端末の製造における実績を有する台湾のHTCが製造する。販売は、米国第4位の携帯電話会社でDT(ドイツ最大の電気通信事業者)に所属するT-Mobileが行う。
構成:スクリーン+キーボード。T-MobileG1がキーボードを加えたのは、ユーザーからのこの要望に応じようとしたためであろう。しかし、そのため、デザイン性が多少、犠牲になったようであり、iPhoneに比し、ダサイといわれる。しかし、米国人はキーボードによる操作に習熟しており、特にiPhoneでは、音声通話の電話番号入力が、指操作では面倒だとの批判がかなりあったので、この要望に応えたものである。
基本ソフト:LinuxベースのAndroid。
利用できるサービス:PC上で利用できるGoogleの主要サービス(Gmail、You Tube、Calendar、Google Talk等)は、この携帯電話上でも利用できる。このほか、Googleのopen-source Apache licenceを取得し、定められた手順(code)を守ることにより、第3者がアプリケーションをユーザーに提供することが可能になっている。iPhoneでも、最近、第3者へのアプリケーション提供ができるようになっているが、T-MobileG1の場合の方が、提供の許可を得るまでの手続きが容易である。FCCに対し、ネットワーク、端末機器のオープンネスをキャリア、端末業者に義務付けるべきだと主張してきたGoogleにとって、これは当然のことであろう。
料金:2年間契約継続を条件として、月額料金179ドル。25ドルの付加料金で、データ使い放題のサービスがある。iPhoneの月額料金はスタート時よりも安くなっているが、iPhoneよりも、また、その他のスマートフォン機種に比しても、一番安い。
ネットワーク:T-Mobileが設置している3Gネットワーク、Edgeネットワーク、Wi-Fiに接続可能。
滑り出しはきわめて好調ーHTCは、将来を楽観視
現在、T-Mobileは、同社の販売店及び、ネットにおいてT-MobileG1を販売している。まもなく、ウォール・マートも、同社店舗においてT-MobileG1の販売を割引価格で開始する。
T-Mobile販売の開始前、調査会社、Strategy Analyticsは、2008年末までのT-MobileG1の販売数を控えめな40万個(売り上げ市場シェア4%)という予測を出していた(注2)。
その他の調査会社も、おおむねiPhoneに比し、多くの売り上げは見込めまいとの予想が大勢であった。
しかし、端末を製造しているHTC社CEO、Peter Chou氏は、きわめて強気の観測をしている(注3)。
T-MobileG1は、好調に売れ行きを伸ばしている。現在のペースで行けば、2008年末までに60万個から70万個の販売が期待されよう。この滑り出しは、100万個の大台に達するまでに75日間を要したiPhoneの売れ行きを凌駕する。2009年の売れ行き予想は現段階では難しいが、大いに期待が持てる。
また、T-Mobileユーザーの事前申し込みが旺盛である点からして、T-MobileG1に対する需要の大きさを予測している記事も見受けられる。この記事によれば、T-Mobileユーザーからは、発売前から150万個のT-MobileG1端末を予約していたというのである。少し誇張されている数字に思えるが、事実とすれば、HTCが強気になるのも当然であろう(注4)。
このように売れ行きが好調である理由として、Peter Chou氏は次の諸点を指摘している。
- 見掛けはよろしくないが、実用性、効率的な端末デザインの設計。
- PC上で利用できるGoogleのサービスがほとんどワイアレス端末で利用できること。さらに、好みのソフトが容易に付加できること。
- iPhoneの場合と異なり、キーボードを装備したこと。米国人は、キーボードが好きな国民である。
上記3要因に加えて、筆者は、すでに述べた他のスマートフォン端末に比しての手ごろな料金も、T-MobileG1の販売促進を支えていると考える。
T-Mobileは、英国では2008年11月に、また他の欧州諸国には2009年第1四半期にT-MobileG1を販売すると述べている(注5)。
Android開発を目的として、OHA連合に結集した機器メーカは、HTC社のほか、LG、Motorora、Samsungの3社があるが、これら3社はいずれも、すでにGPhone機器の開発に熱意を表明している。もっとも、開発には期間を要するようであり、あるネット資料によれば、LG、Samsungの両社によるGPhone機器の市場への登場は、早くとも2009年第2四半期になるとのことである(注6)。業績の不振に悩み、GPhoneの開発、販売に起死回生を掛けていると伝えられてきた大手米国端末メーカのMotorolaも早期に市場進出を行う見通しはないようであって、最新の情報では、2009年クリスマス期の商戦に間に合うようにしたいと報道されている(注7)。
(注1) | 2007年6月末、Apple社は高度の機能とデザイン性を備えたスマートフォン端末、iPhoneを市場に出した。iPhoneが、その後、非常に好調に売り上げを伸ばし、販売目標を上回る成果を収めていることは、周知の事実である。
多分、このiPhoneの好業績に刺激を受け、Googleもモバイル携帯電話市場への参入を計画したものと思われる。この計画は当初、iPhoneの場合と同様に同社がメーカと共同で開発する端末を携帯電話キャリアとの提携により販売する方向に傾いていた模様である(いわゆる当初のGPhone構想)。しかし、Googleはその後、計画をソフト販売に集中、このソフトを無料でメーカに使用させることにより、Googleをも含めたソフト開発グループ、OHAが開発するソフト(Android)を備えたスマートフォン端末の販売を通じて、同社の売り上げ(端末により提供される各種サービスに掲載される広告からの広告料収入)を高めようとする方針に方向転換をした。DRIテレコムウォッチャーは、次の2編の記事により、この経過を報じているので、参考にされたい。 |
(注2) | 2008.9.22付けInformation Week, ”Google’s Android Era Set To Begin.” |
(注3) | 2008.10.27付けhttp;//www.intomobile.com, ”HTC CEO Peter Chou expects to move 600,000T-MobileG1 handsets in 2008.” 2008.10.27付けhttp:www.techradar.com, ”HTC CEO Peter expects sales of GI to match iPhone.” |
(注4) | 2008.10.13付けhttp://www.siliconrepublic, ”Google’s Android G1-1.5million pre-sold on T-Mobile 13.10.2008.” |
(注5) | 2008.9.23付けhttp://www.eetimes.com, ”GPhone set for Europe early November.” |
(注6) | 2008.9.30付けhttp://www.phonesreview.co.uk, ”LG and Samsung working on Android phones for late 2009.” |
(注7) | 2008.10.30付けhttp://auto.reserch.msn.com, ”Motorola:Handset unit spin-off delayed: No Android till next Christmas.” |
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