DRI テレコムウォッチャー


Comcast、FCCの同社ネットワークマネージメントに対する裁定に迅速かつ適切に対処
2008年10月1日号

 2008年8月の初旬から9月下旬に掛けて、米国のジャーナリズムは、Comcastに対するトラヒック管理のあり方是正を命じたFCC裁定、これに対するComcastの対応の記事を大きく報道した。さらに、Comcastが同年8月末に、大量のインターネットトラヒックを使用する大口顧客に対するキャップ制(上限設定)を発表したことから、将来、MSO(大手ケーブル会社)がインターネットの従量制を導入するのではないかとの観測も、新聞、ネットをにぎわせた。
 DRIテレコムウォッチャーでは、前号でFCCの裁定の概要とその問題点を紹介した(注1)。前号の続きである本号では、FCC裁定に対するComcastの対応について解説する。また、「参考」では、MSO、大手電話会社が2層料金、従量制料金の導入について、どの程度関心を持っているか、また、将来の実現の可能性がどうかについて紹介し、私見を述べた。


FCC裁定に対するComcastの対応

第1弾:家庭向けブロードバンドに対する限度額の設定(注2)
 Comcastは、2008年8月28日、家庭向けブロードバンドの利用者に対しキャップ(限度量)を設定すると発表した。その骨子は次のとおり。

  • キャップは、月当たり250GBとする。
  • この限度量を超えた場合は、警告を発する。
  • 6ヶ月以内にさらに限度量を超えた利用者に対しては、Comcastはサービス提供を一年間停止する権利を保留する。

 限度量の設定自体は、Comcastがすでに行っていたものであって、多分、それを多少、改変して発表したものと思われる。8月1日の裁定で、FCCは、Comcastがトラヒック管理の実態を公開しないと批判したので、とりあえず、まず、この要望のほんの一部に応えたものと思われる。なお、この限度量設定の意図については、アナリストたちから、将来、Comcastがインターネット料金を従量制にする意向があるのではないか等さまざまの推測を生んだ。この点については、別途、「参考」でさらに論じる。

第2弾:Comcast、FCC裁定は違法であるとの訴えを提起(注3)
 Comcastは、2008年9月4日、連邦裁判所に対し、同社のトラヒック管理が不当であり是正を要するとの2008年8月1日にFCCが下した裁定は、違法であるとの訴えを行った。Comcastの主張は、次の2点に要約される。

  • FCCは、2005年8月に定めたインターネット政策宣言に基き、裁定を下したと称しているが、この宣言は、FCC規則ではなく、ガイドラインに過ぎないから、強制力を伴わない。従って、FCCは、この宣言に基ずき、Comcastに強制力ある措置を命令することはできない。
  • FCCは、裁定に当り、幾件もの事実認定を行っているが、これらは、証拠により裏付けられたものではない。

 もっとも、Comcastは、上記の訴えを提起していながら、FCC裁定によって命じられたことがらは、期日どおり、履行する旨を明らかにしている。
 なお、Comcastは、FCC裁定が出された当日の2008年8月1日に、訴えに記載されたのと同一内容の抗議の声明をFCCに対し行っている。裁定後、1ヶ月以上後に訴えの提起を行ったことは、この期間、ComcastがFCCの出方を伺っていたのであろう。また、上記の訴えの趣旨は、少数意見を提示したFCC委員McDowell氏(共和党)と同様のものであって、Comcastの訴え提起は、明らかに、FCCの裁定が全員一致ではなく、3対2で両極化した事実に促されたものである。

第3弾:Comcast、FCCの要求に基き、旧来・将来のネットワークマネージメントの骨子を発表
 9月19日、Comcastは改定版ネットワークマネージメント(Network Management Update)という文書を発表した。この文書は、2008年8月1日に行われた裁定におけるFCCの要求に対するComcastの包括的な回答である(注4)。
 この文書の骨子は次の通りである(注5)。
新ネットワークマネージメント策定の準備:Comcastは、2008年3月以来、新ネットワークマネージメント策定のための準備を始めた。当社は、この目的のため、4ヶ所(バージニア州、ペンシルバニア州、コロラド州、フロリダ州)において、異なった機器メーカの機器、技術を使用して、試行を行った。
 試行期間中、試行により影響が及んだインターネット顧客の比率は1%未満であり、また、苦情は1件も生じなかった。
新ネットワークマネージメントの仕組み:新たなネットワークマネージメントは、“protocol-agnostic”(プロトコルから独立した)を採用している。従って、顧客がどのようなプロトコル、アプリケーションを使うかに関係なく、現に、混雑時にどの程度のトラヒックを使用しているかでネットワークマネージメントを行うことができる。特定顧客からのトラヒックが大きい場合は、一般顧客のトラヒックから別ルートに切り替えられ、混雑が収まるまで、伝送速度を緩める等の措置を講じる。その時間は、きわめて短い。
P2P等のアプリケーションとの関係:すでに述べたように、この管理方法は特定のアプリケーションと関係しない。混雑時に生じているトラヒックの量、つまり顧客が流すビット数に基いて管理をする。
顧客への周知方法:Eメールを送るなどの方法で、直接、顧客に周知する。
今後の努力:混雑時のネットワークマネージメントは、技術進歩、環境の変化等により、今後も変化するものである。当社は、諸種のフォーラムに出席するなどして、今後も新たな管理方法の創作に努める。
 Comcastは、2008年末から、この新ネットワークマネージメントに切り替えることを明らかにしている。
 なお、この文書では、この管理方法はそのときどきに発出されるトラヒック量に関するものであり、月当りの総トラヒック量の管理(記述の第1弾を参照)とは関係がないことが指摘されている。
 この点については、「参考」の箇所で再度、触れる。


早くも評価が高いComcastの対応

 Comcastは、8月1日のFCC裁定に対し、上記の通り、3段にわたる対応を迅速、巧妙に行った。第1に同社は、FCCから要求された3項目の要求に対し、過去のトラヒック・マネージメントのあり方については、詳しく述べなかったが、“protocol agnostic”技術を導入した新ネットワークマネージメントを採用することにより、特定顧客を狙い撃ちにした旧トラヒックマネージメントの弊害は今後生じない旨を力説し、利害関係者に対する不安を払拭した。第2に、すでに将来、いっそうのトラヒック抑制につながるのではないかとの懸念を生んでいる大量トラヒック発出加入者に対する管理については、ネットワークマネージメントと関係がない点を明示して、その懸念を払拭した。第3に、Comcastは、FCCに対しては、裁定が不当であるとして提訴したものの、迅速な回答により、FCCの要求には誠意をもって応じた。
 FCCに対し苦情を提起し、FCC審理のきっかけを作ったFree Press Public、Kowledgeの2社は、すでに次のようにComcastのこの案件解決の努力に対し、賛辞を呈している(注6)。
Free PressのBerr Scot氏:Comcastがこれほど細部に至るまで、FCCの命令に応じてくれたことに、勇気付けられた。Comcastが過去の態度を転換してくれたことを歓迎する。
Public Knowledge社長のGigi B.Sohn氏:Comcastがネットワークマネージメント計画の策定に掛けた時間と労苦に感謝する。この文書は、きわめて詳細かつテクニカルなものであって、FCC及び民間のオブザーバーが詳しく検討するに値する。この計画では、特定プロトコルに対する差別、Comcastによるパケットの立ち入った検査は含まれていないようである。
 もっとも、Berr Scot氏は、キャップ制の使われ方について懸念を示し、さらに、Gigi B.Sohn氏は、婉曲に、混雑時にトラヒックを減速された顧客は、その減少トラヒック分について、補償を受けるのが当然ではないかとの批判もしている。
 まだ、Comcastが上述の報告をしてから日も浅く、FCCはなんらのコメントも出してはいない。しかし、この案件について、いわば原告とも言える両社が異例ともいえる賛辞を呈しているのであるから、FCCは、少なくとも大筋においてこのComcast報告を了承するものと見られる。

参考:ケーブルテレビ、大手電話会社のインターネット2層料金、従量制料金についての見解、取り組み

 Comcastが、2008年8月28日に、大口インターネットユーザに対するキャップ制度(月当たり250MBの上限設定)を発表して以来、米国のジャーナリズムは、(1)この制度が将来、層別料金制あるいは従量料金制に発展していくものであるか(2)他のMSO、大手電話会社が、この件に関し、どのような見解を有しているかについて、多くの報道を行った。
 しかし、次表に示すとおり、現段階では、層別料金制、従量料金制についての取り組みは、まだ初期段階に過ぎない。
表 MSO、大手電話会社の層別料金制、従量料金制についての取り組み、見解
事業者名インターネット層別料金、従量制料金についての取り組み、意見
Comcast将来、従量制料金が導入される可能性があることは、否定していない。そのほかの点については、いかなる見解も出していない。
Time Warnerブロードバンドトラヒックの過半を使用する5%程度のユーザを対象にして、従量制料金を導入する目的で、テキサス州Beamontにおいて、試行サービスを実施すると報道されている(注7)。
AT&T高トラヒック加入者に対する様々の料金オプションを検討中と発表している(注8)。
Verizon報道は一切なし。

 インターネットに関する現段階の規制環境、上表の各社の取り組みからして、ここ1、2年間で考えられる2層料金、従量制料金実現の見通しについての筆者の見解は、次の通りである。

  • DRIテレコムウォッチャーの前号(2008年9月15日号)で、やや詳しく述べたように、2層料金にせよ、従量制料金にせよ、FCCは、キャリアがこれを実施するに当り、阻止する意図は全然ない。規制環境からして、キャリアが実施すべき絶好の環境にあると考えられる(注9)。
  • TimeWarner、AT&T等一部のMSO及び電話会社は、将来、2層料金を導入する計画を進めている。多分、最初に実施するのは、度数制による2層料金の実施であろう。
  • しかし、FCCが許容し、キャリアがこれを望んでいるから、即、度数制2層料金を実施できるというものではない。競争環境からして、また、ユーザが納得した形での導入が必要であろう。米国のブロードバンドは、国際的に見て、速度が遅いことで良く知られている。財務的に見て、ブロードバンド投資を高め、なおかつ、一部従量制を実施しなければ、経営が維持できないということを証明できなければ、実際に、新料金制度の導入はできまい。不況下にもかかわらず、AT&T、Verizon、Comcast等の業績は低下していないとの報道がある。このような状況では、なおさら、新料金制度の導入は、当面、難しくなったと筆者は考える。


(注1)2008年9月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「FCC、Comcastのインターネット・トラヒック管理に介入」
(注2)この項は、Comcastのプレスレリース、http//www.comcast.net,“Announcement Regarding An Amendment to Our Acceptable use Policy.”及び2008年8月29日付け、http//www.pcworld.com,“Critics Question Comcast Broadband Caps.”
(注3)2008年8月1日付け、Comcastのプレスレリース、“Comcast Statement on FCC Internet Regulation.”及び2008年9月4日付け、http:www.eweek.com,“Comcast Sues FCC over Network Neutrality.”
(注4)FCCは、Comcastから以下の資料提出を要求した。1.が現に、実施している差別的なネットワーク・マネージメント方法の詳細 2.差別的ネットワーク・マネージメント方法をどのように中止するかの計画 3.現行のネットワーク・マネージメントに代わる新たなネットワーク・マネージメント。
(注5)Comcastのプレスレリース、http://www.comcast.net,“Network Management Policy.”
(注6)2008年9月22日付け、http://blog.wired.com,“Comcast Disclosure Draws Cautious Praise.”
(注7)2008年1月26日付け、http://www.dslreports.com,“Time Warner Cable Eyeing Overage ?”
(注8)2008年9月15日付け、http://money.com,“AT&T CTC :Fixing ‘Execution Issue’ Hurting Broadband Growth.”
(注9)民主党大統領候補Barack Obama氏は、大統領当選のあかつきに実現すべき技術(Technology)関係の綱領を発表している。この中で、同氏は、インターネットの開放性(Openness of the Internet)をトップに掲げ、この定義のなかで2層のインターネット(two-tier Internet)を否定している。これは、2層料金の制定を含むものと考えられる。この綱領は、2006年から2007年に掛けて、ネット・ニュートラリティーの法案制定が議会における大きな課題となったところの民主党議員連の立場を未だに踏襲しているものであって、ネット・ニュートラリティー問題を現実的に解決する立場から、実績を積み重ね、Martin委員長と2名の共和党委員との間で、料金設定はキャリアの自由に任せようとの合意を得ているFCCの態度とは異なる。仮に、Obama政権が成立すれば、Obama大統領が、議会におけるネットワーク・ニュートラリティー法を制定しようと試みる可能性はある。http://www.barackobama.com,“Technology”


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