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DRI テレコムウォッチャー |
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米国ブロードバンド成長の失速、優位に立つケーブルテレビ会社
2008年9月1日号
2008年7月末、AT&T、Verizonは、2008年第2四半期の決算を発表した。サブプライムローン不況の最中にあって、両社とも売り上げこそ多少伸び悩んだものの、前年同期(2007年第2四半期)に比し大きく利益を伸ばした。ウォールストリートからは、この決算は好感を持って迎えられている。
しかし、両社の決算内容を仔細に検討したアナリストたちは、(1)この時期、ブロードバンド加入者数の増が大きく落ち込んだこと(2)ケーブル会社のブロードバンドの落ち込みは軽度であり大手電話会社(AT&T、Verizonを主体とする)の落ち込みが大きいこと(3)この減少の主原因は、背景として米国経済の停滞があるにせよ、ユーザのブロードバンド需要への飽和化現象、Triple Play競争においてケーブル会社が電話会社に対して相対的優位に立っていること(4)ケーブル会社のケーブルモデム利用のブロードバンドとAT&TとVerizon両社の光ファイバーによるブロードバンド(AT&TのFiOS、VerizonのU-verse)が、競争下で加入者を増やしているのに対し、両社のDSLの絶対数が減少を示している事実を指摘している。
上記の傾向は、米国ブロードバンドの成長傾向が転機に来ていることを示すものである。FCCは、Martin委員長の強い信念に基づき、ケーブル会社と電話会社を競いあわせることにより、ブロードバンドを成長させるという政策を推進してきたのであるが、さなきだに一部から疑問視されてきたこの政策に対する批判が、今後ますます高まっていくであろう。
本論では、2008年第2四半期における大手電話会社、大手ケーブル会社のブロードバンドの成長の鈍化の実態およびその原因、さらに、これがもたらす影響等について説明する。
米国ブロードバンド加入者数の現状(注1)
表1 米国ケーブル会社のブロードバンド加入者数と増数(2008年第2四半期)
ケーブル会社名 | 加入者数(2008年6月末) | 純増加入者数(2008年第2四半期) |
Comcast | 14,357,000 | 279,000 |
TimeWarner | 8,125,000 | 201,000 |
Cox | 3,885,000 | 40,000 |
Charter | 2,387,300 | 19,300 |
Cablevision | 2,395,000 | 52,000 |
Mediacom | 702,000 | 14,000 |
Insight | 424,600 | 12,400 |
Cableone | 351,269 | 4,726 |
RCN | 295,000 | 4,000 |
その他のケーブル会社 | 2,000,000 | 45,000 |
計 | 35,332,169 | 671,426 |
表2 米国電話会社のブロードバンド加入者数と増数(2008年第2四半期)
ケーブル会社名 | 加入者数(2008年6月末) | 純増加入者数(2008年第2四半期) |
AT&T | 14,693,000 | 4.6万(DSL−12.4万、光ファイバー17万) |
Verizon | 8,330,000 | 5.4万(DSL−13.3万、光ファイバー18.7万) |
Qwest | 2,732,000 | 31,000 |
Embarq | 1,384,000 | 24,000 |
Windstream | 934,300 | 23,300 |
CenturyTel | 934,300 | 507,000 |
Frontier | 559,300 | 18,280 |
FairPoint | 294,412 | -1,166 |
CincinatiBell | 229,000 | 1,100 |
計 | 29,743,102 | 215,514(DSL−14.2万、光ファイバー35.7万) |
なお、上表から、2008年6月末のブロードバンド総数は65,075,184に、また、2008年第2四半期におけるブロードバンド純増の総数は886,940、ブロードバンド総数に占めるケーブル会社、電話会社の構成比は、ケーブルテレビ会社54.3%、電話会社45.7%である(注2)。
上表から、次の2点が読み取れる。
全般的なブロードバンドの増勢鈍化ととりわけ大きい電話会社の増勢落ち込み
Leichtman氏(Leichtman Research社長)によると、2008年第2四半期におけるブロードバンドの増勢の落ち込みはケーブル会社、電話会社に共通して現れており、同社が調査を開始した過去7年間で最大のものであるという。しかも、表1、2の計から見られるとおり、落込みの率は、電話会社で大きいが、ケーブル電話会社では軽微に留まっている。ブロードバンドの総数は、ケーブル会社67.1万に対し、電話会社が21.5万。電話会社の比率は、ケーブル会社の3分1以下である。
減少し始めたDSL加入者数
AT&T、Verizon両社の場合、ブロードバンド加入者は、DSL加入者+光ファイバー加入者(AT&Tの場合U-verse、Verizonの場合FIOS)から成るのであるが、特徴的なのは、両社のDSL加入者数が大きく減少に転じており、これがブロードバンドの増勢を鈍らせていることが判る(注3)。
ブロードバンドの需要の飽和化、効を奏したケーブル会社のTriple Play戦略
現在、米国のジャーナリズムでは、ブロードバンド加入者の成長に突如、翳りが生じた点について、様々の解釈がなされている。もちろん、経済停滞の影響、学年切り替わりの時期にあって、一時的に学生の解約が進んだ(AT&Tが主張)等の原因も提示されている。しかし、(1)ブロードバンドの需要が飽和に達しつつあること(2)ケーブル業界は、有利なスタートから出発し、しかもこの業界が創始したTriple Play戦略がユーザのニーズに適い、最初はDSLにより、ここ数年来は光ファイバーにより、必死にケーブル会社のブロードバンドを猛追した電話会社を振り切ったのであって、その結果の集約であるとの原因究明の結論がもっぱらであり、筆者も同感である。
ブロードバンド需要の飽和化傾向
ブロードバンド加入者の増率が急落した背景としては、米国の経済の現状においては、高所得者は光ファイバー、ケーブルテレビを、また中所得者はDSLを使用し、低所得者はダイアル・アップの利用に甘んじるか、インターネットの利用をせずに済ませており、ブロードバンドを利用しないという一応の需要の飽和化が達成されているためであると推測される(注4)。
功を奏したケーブルテレビ会社のTriple Play 戦略
次に、AT&T、Verizonなど米国大手電話会社が、ブロードバンド架設においてケーブル会社に遅れを取っているのは、ケーブル電話会社の核となるビデオサービスを軸とし、本来のビデオサービス加入者に対し、インターネットサービス、電話サービス(現在では、主体はインターネット電話サービス)の2種類をパッケージ料金により、既設加入者から獲得していくというTriple Playサービスが電話会社の加入者を奪うのに成功している点があげられる(注5)。
もちろん、AT&T、Verizon両社も、これに対抗して同じくTriple Playサービスを展開してはいる。しかし、電話の加入者を、インターネットはともかくビデオの加入者に勧誘するのには、多大の労力と説得力を要するはずであって、ケーブルテレビ会社のように成功には至っていない。もちろん、両社ともにそれぞれのビデオサービスの加入者は順調に伸びていると報告している(事実、2008年第2四半期末現在、AT&TのFiOSサービスの加入者は200万に達しており、後発であるAT&TのU-verseサービス加入者数もようやく50万となった)。ケーブル事業者、電話会社相互の熾烈きわまる加入者奪い合い競争は、現在のところケーブル会社側に有利に展開している。
ケーブルテレビ会社の優勢の結果は、表1、表2におけるケーブルテレビ会社と電話会社の加入者獲得数の差異(ケーブルテレビ会社67.1万に対し、電話会社21.5万、つまりケーブルテレビ会社の加入者獲得数3に対し、電話会社の加入者獲得数1)の数字に端的に現れている。
また、ケーブル会社の優勢は、たとえばトップ企業ComcastのVoIP加入者の順調な取得からも裏付けられる。Comcastは、2008年第2四半期に55.5万のVoIP加入者を増やし、2008 年6月末のVoIP加入者は560万に達した。今や、Comcastは、Vonageを抜いて、米国最大のVoIP加入者を擁している。他方、AT&T、Verizonの両社の固定電話加入者数の減少は、依然、急ピッチで進んでおり、同じ期間に、AT&Tは155万(6041万→5886万)、Verizonは246万(4052万→3826万)と大きく固定電話加入者数を減らしている。これに対し、Comcastも電話会社からの攻勢により、基本ビデオ加入者数を減らしているものの、その減少数は13.8 万(2460万→2475.8万)と軽微に留まった。
もちろんAT&T、Verizonの固定加入者数の減少は、携帯電話への移行によるものも大きいであろうが、両社ともに、ケーブルテレビ会社からの攻勢により損害を受けている事実を認めている。
今後の見通しー見直しを迫られる米国のブロードバンド戦略
現在、FCCが主導しているブロードバンド振興政策は、事業者相互の競争によって、ビジネス、一般公衆からの要望を質量ともに満たしていこうというものである。特にFCCのMartin委員長は、フランチャイズ権の取得により半独占的にブロードバンドを提供して来たケーブル事業者に対する強力な対抗馬として、AT&T、Verizonのブロードバンドに強い期待を抱いた。この目的のため、AT&T、Verizonが各地方政府から、光ファイバーによるビデオサービス提供のフランチャイズの取得を一括で、あるいは、迅速に行いうるような条件を整えるための規則制定に尽力したのである。
他方、従来、事業の根幹を成していた長距離、市内の電話サービスのウェイトが年々縮小している電話会社としても、携帯電話サービスとともに、ブロードバンド、ビデオ、データ通信の分野への急速な転換を計ることは至上命題であった。ここに、FCCのブロードバンド政策とAT&T、Vaerizonの思惑が一致し、ここ数年来の急激なブロードバンド拡大に向けての両社の努力が続けられた。この努力は、数量的には、まず、DSL加入者数の大幅な増加となって現れた。次には、ここ1、2年来の両社の光ファイバー加入者の増加が実現した。
しかし、2008年第2四半期に生じた全体的なブロードバンド需要の減少の中で生じた電話会社側の不調、とりわけDSL加入者の激減の意味するところは、電話会社にとっても、また現在のブロードバンド政策を推進してきたFCCにとっても深刻である。
Martin委員長を初めとする3名の共和党FCC委員たちはこれまで、現在のブロードバンド政策の遂行により、米国のブロードバンドは順調に推進されていると毎年、主張してきた。しかし、電話会社側のブロードバンドの突然の失調が来期以降も続けば、FCCのこれまでの主張はその根拠を失う。
他方、FCCの民主党委員、連邦・州公益事業委員会の下にあるユニバーサルサービス検討委員会は、すでにFCCに対しブローバンドユニバーサルサービスの実施を勧告している。
今回のブロードバンド失墜の事態は、ブロードバンドのユニバーサル化要求の主張を強めることとなろう。
2009年初頭に退陣が予定されているMartin委員長は、こういう事態に対して年末までに結論を迫られることになる。ブロードバンドサービスのブロードバンド化に反対する同委員長としては、苦渋の判断を下さざるを得まい。
(注1) | このデータは、Leichman Research Groupのものである。2008年8月12日付けhttp://blog.searchenginewatch.com/blog/080812-102113, "Broadband Subscriptions Drop 51%;Cable Sells More than Phone Co's" より孫引き。 |
(注2) | ブロードバンド増数の分析に当たっては、AT&T、Verizon両社のブロードバンド加入者総数の内訳が必要なのであるが、両社が数値を公表しないため、推計値を用いなければならない。筆者が、両社決算資料を基にした2008年第1四半期、第2四半期の内訳数値を次に示す。
表一 AT&Tブロードバンド加入者数内訳(単位:万)
項目 | 2008年第2四半期 | 2008年第1四半期 |
DSL | 1,191 | 1,203 |
U-verse | 55 | 38 |
衛星通信ビデオ | 223 | 223 |
計 | 1,469 | 1,464 |
表二 Verizonブロードバンド内訳(単位:万)
項目 | 2008年第2四半期 | 2008年第1四半期 |
DSL | 633 | 646 |
FiOS | 200 | 180 |
計 | 833 | 826 |
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(注3) | 注2に示した通り、AT&Tは、約220万を超える衛星通信会社(Echostar、DirectTV)との契約に基いたテレビ加入者数をブロードバンドに含めているが、Verizonはこれを含めていない。衛星通信会社が提供しているのは、単なるビデオ受信サービスであって、インターネットを提供できるブロードバンドではないので、これをブロードバンドに含めるのはおかしい。ブロードバンド加入者数において、AT&T、Verizonの両社には大きな差(AT&T約1370万、Verizon830 万)があるが、AT&T報告のブロードバンド数から220万を差し引くと、その差はかなり縮まる。さらに、ブロードバンドの首位の座は、AT&Tからケーブル会社Comcastに移る。要は、AT&Tが発表している同社のブロードバンド加入者数の数値は、かさ上げされていることに注意しなければならない。 |
(注4) | 幾点もの資料を読み込んだ上での筆者の結論である。 |
(注5) | この点は、2008年5月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「AT&T・Verizonの2008年次第1四半期業績 - 際立つ携帯・ビデオ・ブロードバンドサービスへの傾斜」でも解説した。筆者は、今回、米国のジャーナリズムが、筆者と同様の見解を一斉に論評し始めたことを喜ぶものである。 |
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