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DRI テレコムウォッチャー |
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競争激化の下、減収に悩まされるDT
2008年6月15日号
DRIテレコムウォッチャーはこれまで、2006年、2007年と2年続けて、ほぼ同時期(6月、7月)に、それぞれ第1四半期の決算をベースにして、欧州最大の携帯・固定通信事業者であるDT(ドイチェテレコム)の業績、トピックスを紹介してきた(注1)。
両記事において筆者は、DTを巡る環境(強力な競争業者の存在とEU委員会による徹底した競争政策の遂行による収入・利益の減少傾向、相変わらずのお役所風のDT経営体質等)により、今後の同社の経営は多事多難であるむねを強調した。今回は、2008年第1四半期の決算をベースにして、同じくDTの財務状況を報告する。
DTは、2006年11月に前任者Ricke氏の後を受けてCEO兼会長に就任したObermann氏の下で、全社こぞって経費の節減、従業員の削減(この点では、2007年内に9000名の従業員が削減され、効果が上がっている)に努めている。
同氏は、2008年第1四半期決算発表に当り、おおむね財務指標は2007年同期を上回っており、DTは2008年次に幸先のよい船出をしたと述べた。しかし、この発言は楽観的に過ぎる。DTは、この四半期、徹底した経費節減と投資の抑制、資産の売却、購買等で何とかやりくりをして、昨年同期、前期を上回る利益を生み出したというのが実情である(注2)。
何よりDTにとって頭が痛いのは、同社の基本を為す主要サービスの加入者数、回線数が減少、あるいは伸びなやんでいることである。その状況を次表に示す。
表 2006年から2008年のDT主要サービスの回線数・加入者数の推移(単位:万)
項 目 | 2006年3月末 | 2007年3月末 | 2008年3月末 |
固定ネットワーク回線数 | 4060(−4.2%) | 3660(−9.9%) | 3590(−2.0%) |
ブロードバンド回線数 | 920(+39.35%) | 1390(51.1%) | 1440(+3.6%) |
携帯電話加入者数 | 9770(+1.2%) | 12080(+23.6%) | 12310(+1.9%) |
注:括弧内の%は、前年同期に対する増減比を示す。
上表からして、2008年3月末には、DTの固定ネットワーク回線の減少にこそ、多少歯止めが掛かったかに見受けられたものの、ブロードバンド回線数、携帯電話加入者数の成長はほぼ停滞している。このような回線数、加入者数の減少、あるいは伸び悩みに、さらに競争激化による加入者一人当たり収入の減が作用しているのであるから、DTの収入が減少する(2008年第1四半期は、前年同期に比し5.2%の減)のもむりはない。
このような状況の下で、DTが将来、サバイブする道は、海外市場に向けての果敢なM&Aしかありえないとの論調が多く見られる。現に、最近(2008年5月中旬)にも、DTは、ギリシャのトップ電気通信事業者、OTEの株式25%を取得することで合意したと発表した。また、DTが米国第3位の携帯電話事業者、Sprint/Nextelの取得を意図しているのではないかとの報道も後を絶たない。
実は、DTのみならず、欧州の他の主要電気通信事業者(FT、Telefonica等)は、いずれも海外進出に極めて積極的であり、2008年から2009年にかけて、幾件もの電気通信分野のM&Aが生じるものと推測されている。この件については、近日中に改めて、DRIテレコムウォッチャーで報告する予定である。
本論では、2008年次第1四半期のDT決算の概要を紹介する。
DTの2008年第1四半期決算の概要―国内、国際部門とも前年同期対比5%台減に落ち込む
表1 DTの2008年第1四半期収支状況 (単位:100万ドル)
項 目 | 2008年第1四半期 | 2007年第1四半期 | 2007年第4四半期 |
総収入 国 内 国 際 | 14,978(−5.2%) 7,254(−5.4%) 7,724(−5.0%) | 15,453 7,793 7,660 | 15,795 7,668 8,127 |
純利益 | 924(+201.3%) | 459 | −757 |
従業員数(人) | 237,757(−3.8%) | 247,125 | 不明 |
注:2008年第1四半期の収入の項の%は、前期(2007年第1四半期)に対する増減比である。
DTの総収入、純利益を示した上表から、2008年次の収入、利益は、前年同期に比し、次のような変動を示していることがわかる。
- DTの総収入は減少している。国内、国際収入ともに5%を超える水準は危機的である。
- 従来から進行していた国内収入の減少、国際収入の増大の傾向は、2008年第1四半期にも鋭く現れており、前期同様、国際収入の絶対額が国内収入を上回った。DTは、Telefonicaに次いで、欧州有数の多国籍企業となったのである。
- 今期、急激な収入の落ち込みのなかで、DTは利益率6.2%程度のささやかな利益(924万ユーロ)を計上した。DTは、この利益計上を経営効率の向上の成果だと強調しているが、多分、資産売却による利益創設分もかなり含まれているはずであり、この程度の純利益でも、果たして今後、計上できるかどうかは疑わしい。事実、DTは2008年度の成果見通しにおいて、純利益ではなく、2007年次並みのEBITDAを保証しているに過ぎない。
DTの部門別収支状況(注3)
携帯部門―順調に成長を続けているのはT―Mobile USのみ
表2 DT携帯部門の2008年第1四半期収支状況―前年同期、前期との比較(単位:100万ユーロ)
項 目 | 2008年第1四半期 | 2007年第1四半期 | 2007年第4四半期 |
収 入 欧 州 米 国 | 8,445(+0.5%) 4,992(+1.0%) 3,461(−0.3%) | 8,400 4,944 3,468 | 8,811 5,325 3,500 |
営業利益 | 1,260(+18.9%) | 1,060 | 734 |
従業員数(人) | 63,731(1.2%) | 60,614 | 65,181 |
注:2008年第1四半期の項目に付された括弧の%は、2007年第1四半期に対する増減比を示す。
DT携帯電話部門(T-Mobile)の2008年第1四半期の加入者数は、前年同期の1億208万加入から、1億2310万加入へと1.9%の増に留まった。このうち、国内部門のT-Mobile Deutshclandの加入者数は3710万(前年同期には3300万)であって、全加入者数に占める比率は30.1%に過ぎない。
このように、DTMobileは、Vodafone、FT(フランステレコム)、Telefonicaと並んで、携帯電話についての一大多国籍企業なっている。同社は、自国ドイツ以外の10カ国で携帯電話事業を営んでいるが、加入者数の順に主なものを列挙すると、T-Mobile Deutcshland(3710万)、T-MobileUSA(3080万)、T-Mobile UK(1710万)、PTC(1300万、ポーランド)となる。
さて、上記のDTMobileが有する加入者数についての基礎的な情報をベースについて表2を検討すると、2008年第1四半期の収支が意外に不振であるのに驚かされる。
まず、欧州の携帯電話部門の収入が、一年前に比して49.44億ユーロから49.92億ユーロへと1.0%しか成長していないことである。この間、携帯電話加入者数は、8530万から9230万へと8.2%の増加を示しているにもかかわらず、この状況である。これは、競争激化のインパクトにより、携帯サービス、端末の価格が下がり、加入者あたりの料金収入(APRU)が下がったことによるものであろう。
T-MobileUSAの収入の落ち込み(わずかながら)については、ドルに対するユーロ高の影響を上げなければならない。同社は、ドルベース(米国における実際の販売高)によると、収入は前年同期の39億ドルから45億ドルへと14.5%と2桁成長を成し遂げている。従って、T-MobileDeutshlandは、依然としてT-Mobileいな、DTの中でもっとも重要な部門である事実に変わりはない。ちなみにT-MobileUSAは、DT全収入の5分の1を占めている。筆者は、2006年7月に、DTのわずかな純利益が、おおむね、T−Mobile USAの純利益総体に依存しているとの分析結果を提示した。実は、今回の決算でDTは、部門別の利益を発表しないので数値によって、事実を証明することはできないが、2年前と同様、米国の携帯電話子会社に依存している度合いは、相変わらず高いのではないかと推測する。
ブロードバンド/固定通信部門−競争業者の攻勢を受け、業績は停滞
表3 DTブロードバンド/固定通信部門の2008年第1四半期収支状況―前年同期、前期との比較 (単位:100万ユーロ)
項 目 | 2008年第1四半期 | 2007年第1四半期 | 2007年第4四半期 |
収 入 国 内 海 外 | 5,382(−7.7%) 4,830(−6.1%) 564(−19.2%) | 5,832 5,146 698 | 5,577 4,982 602 |
営業利益 | 909(+6.9%) | 976 | 398 |
従業員数(人) | 97,476(−3.1%) | 100,590 | 94,307 |
注1: | 2008年第1四半期に付されている括弧の中の数値は、2007年第1四半期の数値に対する比率である。 | |
注2: | 「国内」と「海外」の収入の和は、大きく「収入」の和を上回る。これは、「国内」、「海外」の重複部分を差し引きしていないためであろう。 | |
DTブロードバンド/固定通信部門は、本来のDT基幹部門である固定通信部門とこの部門をベースにして新技術を駆使したブロードバンド部門を統合したものである。本来、成長を続ける携帯部門と共に車の両輪のごとく、DTを支えるべき重要部門であるべきなのだが、表3からすると、国内、海外ともに、収入は大きく減少しており不振という他はない。特に、今期、海外の伸び率減少が際立つ。これには、携帯電話の場合同様、ユーロ高による点も大きいであろう。
この部門の大きな不振の原因は、EUの競争方針に従って回線開放を徹底した結果、競争業者に大きく固定通信を奪われ、ブロードバンド回線の増も伸び悩みになっている点に求められる。しかも、これまで、海外の成長は続いていたのであるが、最近の競争激化がEU内の他の国々にも及びつつある点からして、競争進展のインパクトから免れる聖域は、DTになくなってしまった。
固定回線数は2008年3月末3590万であるが、これは2007年末の3660万に比し2%の減である。DTは、この傾向は2008年にも持続するものと見ている。
この回線数喪失の理由としては、固定回線を丸ごと競争業者に奪われるものの他、アンバンドリングにより競争業者にDSLをリースする部分が含まれる。DTのブロードバンド回線は1440万と前年同期の1220万を18.0%上回る伸びを示したが、競争業者もアンバンドリングによるブロードバンドの販売を進めており、660万の回線数を得ている(注4)。
なお、DTが長年にわたり要望し、ようやく規制機関からの認可を得てスタートさせた通話サービス+インターネットサービスの組み合わせサービスであるT-Home Completeは、順調に加入者を獲得(2008年3月末、1110万)している。しかし、このサービスが当初目的とした加入者数減少の歯止めの役割を果たしているようには見えない。
ビジネス部門−組織変革により、ウェイトが低くなる
表4 DTビジネス部門の2008年第1四半期収支状況―前年同期、前期との比較(単位:100万ユーロ)
項 目 | 2008年第1四半期 | 2007年第1四半期 | 2007年第4四半期 |
収 入 Computing&Desktop System Integration Telecommunications | 2,603(−10.4%) 869(−13.5%) 414(+0.2%) 1,320(+11.2%) | 2,906 1,005 415 1,482 | 3,202 企業:2,143 ビジネス:1,059 |
営業利益 | 479(+1088%) | 44 | −427 |
従業員数(人) | 53,129(−6.4%) | 56,776 | 56,776 |
注: | 2008年第1四半期にDTは組織再編を行い、ビジネス部門の各部門の名称も変えた。さらに、この間、Media&Broadcast部門をフランスの企業に売却また、これまでこの部門の収入であったT-Home(電話サービスとインターネットサービスの組み合わせ販売)を他部門(多分、ブロードバンド/固定電話部門)へ移転した。旧ビジネス部門は、多分、名称を変えてTelecommunicationsに移管されたらしい。 | |
上記の注で説明したとおり、組織替えがあったが、その説明があいまいであるため、筆者には、表4の数値の説明ができない。ここでは、(1)総体的な収入の落ち込みは、多分、T-Homeの収入のブロードバンド/固定部門への移管により生じた。(2)大きく営業利益が増大したのは、多分、Media&Broadbandのフランス企業への売上高(5億ユーロ)を組み入れたことによる、の2点の推測を指摘するに留める。
(注1) | 2006年7月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「T-Onlineを吸収したDT、いよいよ“トリプルプレイ”の提供に乗り出す」および2007年6月15日号、DRIテレコムウォッチャー「DT従業員1万5千人による合理化反対スト、ようやく終結に向かう」。 |
(注2) | たとえばDTの純利益は、2008年第1四半期までの1年間、前年同期間と比し、4.59億ユーロから9.24億ユーロへと倍以上成長した。しかしこの期間、投資は、20.23億ユーロから17.92億ユーロへと2.31億ユーロも抑制された。さらに2008年1月には、DTは同社のM&Broardcast部門をフランスのTDF社に5億ユーロで売却した。この投資抑制分と他企業への資産売却分にさらに、DT全社上げての節減分により、純利益増を実現したのである。DTはさらに、この1年間で負債を372億ユーロから359億ユーロへと13億ユーロ圧縮した。総じて、DTの財務改善政策は効果を結びつつあるが、収入減少が続いては、緊縮政策だけに頼っては、DTの事業は持続的経営ができない。 |
(注3) | 本論の説明は、DTが2008年5月14日に発表した一連の2008年第1四半期決算資料によった。資料名の掲載は省略する。 |
(注4) | 文中に掲げたように、DTは自社のブロードバンド回線の総数を1430万だと公表している。しかし、DTの他の内部資料、Q1 Conference Callによれば、上記の1430万の内、卸売りDSLブロードバンド回線数をDT分に含めるべきかいなかは、いささか疑問があるところである。
今、卸売りDSLブロードバンド回線数340万とアンバンドリングのブロードバンド660万を競争業者のものとみなせば、計1000万。これに対し、DTの加入者数は1090万であって、DTと競争業者は、ドイツのブロードバンド市場で、ほぼ同程度のシェアを有しているということになる。さらに、情報はないが、小規模にせよ自前で光ファイバーを敷設、直売りしているキャリアも存在するはずである。してみるとDTは、実質的に、ドイツブロードバンド市場のマジョリティーを支配していないのではなかろうか。 |
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