DRI テレコムウォッチャー


AT&T・Verizonの2008年次第1四半期業績
― 際立つ携帯・ビデオ・ブロードバンドサービスへの傾斜

2008年5月15日号

 AT&T、Verizonの両社はそれぞれ、4月22日、28日に、2008年第1四半期の決算を報告した。
 AT&Tは、307億ドルの収入(前年同期に比し6.1%増)に対し35億ドル(前年同期比21.5%増)の純利益を上げ、増収増益であった。また、Verizonも、238.8億ドルの収入(前年同期比5.5%増)に対し、16.4億ドル(前年同期比9.8%増)の純利益を上げ、AT&T同様に好調な業績だった。
 両社の幹部は、決算の発表に際し、それぞれ、”素晴らしい業績であり、2008年次は幸先のよいスタートを切った“(AT&T会長兼CEO、Randall Stephenson氏)、”強い業績結果により、不確実な経済見透しを吹き飛ばした“(Verizon会長兼CEO,Seidenberg氏)と自画自賛している。
 しかし、この好業績の表明は、あくまでも前年同期との比較によったものである。直近の2007年第4四半期(前期)の業績と比較すると、意外にも2008年第1四半期の業績はそれほど良好なものではなく、その特色は、むしろ着実な両社サービスの中身の変化(引き続く固定→携帯、音声→データ、さらにビデオサービスのテイクオフ)に見られるとの見方ができよう。
 以下、AT&T、Verizon両社の2008年第1四半期、2007年第4四半期の業績を、決算数値に即して解説する(注1)。

AT&T、Verizonの決算(2008年第1四半期、2007年第4四半期)の特色

― 際立つ固定部門の停滞、携帯部門の成長

表1 AT&Tの収入・利益(2008年次第1四半期、2007年次第4四半期。単位:億ドル)
項 目2008年第1四半期(億ドル)2007年第4四半期(億ドル)
総収入307.4(+1.3%)303.5(+0.7%)
 携帯部門収入118.3(+4.2%)113.5(+3.7%)
 固定部門収入176.2(−2.3%)176.6(−1.6%)
純利益34.6(+1.9%)31.4(+2.6%)
営業利益59.8%(+8.9)54.9%(+0.2%)
 携帯部門営業利益29.5(+52.8%)19.3(+2.1%)
 固定部門営業利益17.6(-39%)28.8(+0%)
1.括弧内の%は、2007年第4四半期の数値に対する2008年第1四半期の数値の比率である。
2.AT&Tには、携帯部門、固定部門の他に、米国最大の電話帳部門、海外事業部門(中南米の携帯電話キャリアへの資本参加が中心)等を含むその他の部門がある。従って、表1において、携帯部門+固定部門の収入、利益は、総収入、総利益を下回る。

  表2 Verizonの収入、支出(2008年第1四半期、2007年第4四半期、単位:億ドル)
項 目2008年第1四半期(億ドル)2007年第4四半期(億ドル)
総収入238.3(−0.05%)238.4(+0.3%)
 携帯部門収入116.7(+2.0%)114.4(+1.3%)
 固定部門収入122.9(−0.2%)125.4(−1.2%)
純利益16.4(+53.2%)10.7(−15.8%)
営業利益43.3(−7.5%)46.8(+2.7%)
 携帯部門営業利益32.5不明
 固定部門営業利益11.2不明
1.表1の場合と同様、括弧内の%は、2007年第4四半期の数値に対する2008年第1四半期の数値の比率を示す。
2.Verizonは、AT&Tの場合と異なり、携帯、固定の両部門以外の部門を持たない。従って、携帯部門+固定部門の数値がおおむね、Verizon総体の数値に一致する(完全に一致しないのは、両部門で重複する数値を除去していないためであろう)。

 表1、表2から、おおよそ以下のことが読み取れる。4点ともに、AT&T、Verizonに共通する特徴である。携帯、固定両部門の収入、利益構造において、両社はますます似通った企業になりつつあるといえよう。

  • 前期と比較すると、Verizonの総収入は1.3%増とやや増えたが、AT&Tはわずかながら減少した。AT&T会長、Stephen氏が“幸先の良いスタート”だといったのとは裏腹に、この数字は、2008年次は多事多難であることを示す兆候だとも受け取れる。第1四半期の状態で推測すれば、両社とも2008年次に大きな収入増は到底見込めないからである。これまで両社とも、決算、特に年次初頭の決算に当っては、その年次の収支目標を数値で示すのが慣例(ガイドライン等の形で)であった。今回、両社ともその数値を示さなかったのは、将来の予測がつけにくくなったためであろう。
  • 収入の伸びの減少あるいは停滞は、固定部門の減によるものである。両社とも、携帯部門の好調が、この固定部門の不調を緩和する役割を果たしている。
  • 収入の伸び悩みにもかかわらず、利益の伸びは両社とも好調であった。これは、両社の合理化の進展が持続的に進んでいることによるものだろう。たとえば、AT&Tは、BellSouthとの合併にともなうシナジー効果による節減効果が、2008年次にはなおも引き続いており、その節減額が20億ドルに及んだとしている。また、両社とも従業員の合理化を進めており、1年前に比し、従業員数はわずかながら減少した。
  • AT&T、Verizonは、携帯、固定部門別の純利益を発表していない。しかし、営業利益で見ると、両社ともに携帯部門の方が大きく、固定部門のそれを上回っていることが特徴である。これまで、Verizonの携帯部門の利益が同社の牽引車となっていた事実は顕著なできごとであったが、同様の現象はAT&Tについても生じるようになった。

Verizonを追い抜きつつあるAT&Tの携帯部門、両社のブロードバンドはテイクオフへ

表3 AT&T、Verizon両社の主要加入者数等(2008年3月末現在)
項 目AT&TVerizon
携帯電話
加入者数(単位:万)7137(+14.7%)6718(+10.6%)
APRU(単位:ドル)50.18(+2.0%)51.40(-1%)
Churn (解約率、%)1.2%(−1.0%)1.19%(−10.2%)
固定電話
アクセス回線数(単位:万)6041(−7.7%)4052(−8.25%)
ブロードバンド1,464850
*ADSL(単位:万)1203670
Fios Internet(単位:万)-180
ビデオ(単位:万)264.3120.6
U-Verse(単位:万)37.9-
FioS TV-120.6
* 衛星通信 (単位:万)226.4-
1.表2の括弧内%は、2007年第1四半期の数値に対する2008年第1四半期の比率を示したものである。
2.AT&TとVerizonとでは、ブロードバンドの定義が異なる。AT&Tは、U-Verseと衛星通信のビデオサービスをブロードバンドの範疇に加えている。これに対しVerizonは、ADSLとFios Internetのみをブロードバンドに位置づけ、FiosTVをビデオサービスに位置づけている。しかも、AT&T同様に、衛星通信の加入者(EchoStar、DirectTVとの契約に基き受注した加入者)は、今期からブロードバンドにもビデオサービスにも計上していない。異なった計上の仕方はそれぞれそれなりの意味があることなので、表2には、両社の定義を重んじた計上を行った。もともとVerizonはADSLにさほど重きを置かなかったため、ブロードバンド加入者数はAT&Tよりも少ないのであるが、今回、Verizonから、衛星の加入者数が計上されないことによって、実態よりもますます少なく計上されることとなった。もっとも衛星通信を加えたところで、ブロードバンドにおけるAT&Tの優位性は変わらない。
3.AT&Tの欄で、*で示したADSLと衛星通信の加入者数は、明示されているブロードバンド総加入者数とFios Internet、FiosTVの加入者数を基にして推計したものである(もっとも数値自体は正しいと思われるが)。

 ただし、ADSLの加入者数が2007年末の推計値973.5万に比し、多すぎるのは解せないところである。AT&Tは、最近、加入契約とは切り離したADSLオンリーを提供するサービスの提供を始めたので、その影響とも考えられるが、今のところこの大きな数字の理由は判らない。総じて、Verizonに比してAT&Tは、この件について、固く秘密主義を取っている。

 表2から汲み取れる主な事柄を、次に記す。

加入者数、収入の双方でVerizonを超えたAT&T携帯部門
 今期、Verizon、AT&T両社とも、携帯部門の成長が事業の牽引車になったと宣言した。
 収入、利益の面での固定部門の停滞に対する携帯の伸びの大きさについては、前項において、表1の解説として、すでに述べたところである。
 ところで、米国のネット情報であまり報道していないのが不思議であるが、これまで、毎四半期の決算において、収入面においてVerizonの後塵を拝してきたAT&Tの携帯部門が、今期初めてVerizonを抜いたこと(表1、2に示したとおり、Verizon116.7億ドルに対して、AT&T178.3億ドル)が注目に値する。これで、AT&Tの携帯部門は、加入者数においてはもちろんのこと、収入においてもVerizon携帯部門を追い抜いた。
 しかも、これまでAT&Tは、Verizonより劣っていたAPRU(加入者1人当り、1ヶ月の収入)においても、Churnにおいても、今期ほぼVerizonとならぶ成果を収めた。
 AT&Tは、決算資料において、好調な売れ行きを示しているiPhoneについてなんら触れていない。しかし、前号で紹介したとおり、iPhoneの販売が好調であって、それに伴い製造会社Appleの業績が著しく伸びていると、Apple社は発表しており、これが今回、AT&T携帯部門の好調に必ずや相当に寄与したものと考えられる(注3)。

ビデオサービスは両社ともにテイクオフへ - 過渡的サービスとして位置づけられたADSL
 Verizonが社運を賭しているFTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム)方式の本格的なビデオサービス、FioSTVの加入者は、2007年末の94.3万から大きく進展し、2008年第1四半期末で120.6万となった。ライセンス取得の困難、ファイバー引き込みの工事に労力、費用が掛かることなどからして、未だサービスの全国展開には至らないものの、サービス品質についてはユーザーの評判も高いようである。FioSサービスは、ようやく確固たる市民権を得た模様である。
 AT&Tによる後発のFTTC(ファイバー・ツー・ザ・カーブ)方式によるビデオサービス、U-Verseの加入者数は、2008年3月末、37.9万に留まってはいるものの、AT&Tはこのサービスの将来性について楽観的であり、最近、2008年には100万加入を達成すると発表した。
 このように、難航したVerizon、AT&T両社のビデオ部門への進出は、ようやく軌道に乗りつつあり、2008年には、両者とMSO(Comcast、TimeWarner等大手ケーブルテレビ会社)市場争奪戦はますます熾烈なものになろう(注4)。


(注1) DRIテレコムウォッチャーは、2008年2月、2007年通期および2007年第4四半期のAT&T、Verizon両社の業績について、同様の分析を行った。今回の論説と併せて参考にして頂きたい。
2008年2月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「AT&TとVerizonとの経営比較(2007年次の両社決算数値による)」
(注2)この項の記述は、AT&T、Verizonがそれぞれ、2008年4月末に発表した一連の決算資料によった。資料名の紹介は省く。
(注3)2008年5月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「快進撃を続けるiPhone、確実となった2008年末1000万台の販売目標達成」
(注4)MSOがAT&T、Verizonにとり、いかに強力なライバルであるかについてDRIテレコムウォッチャーは、これまで幾回も紹介している。最新のものとしては、2008年3月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「成長の減速期に入ったComcast-triple playは依然として成功」を参照されたい。Comcastが、最近発表した2008年次第1四半期の決算報告によると、同社の増収基調は、依然変わらないが、2007年次後半から明らかとなってきたビデオ加入者の減少が、この後も続いている点が最大の特色である。しかし、高速ブロードバンドサービス加入者、インターネット電話加入者の増の勢いは衰えていない。
この点については、近い将来、具体的な数値を基にして紹介したいが、現在、AT&T、VerizonとMSOはそれぞれ、本来の事業(それぞれ電話事業、ビデオ事業)のシェアを減らして、他社事業の市場シェアを侵食するという食うか食われるかの死闘を展開しているということができる。そして、収入の面からすると、現段階では、未だこの闘いは、MSOにとって有利に展開しているということができる。

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