DRI テレコムウォッチャー


快進撃を続けるiPhone、確実となった2008年末1000万台販売目標達成
2008年5月1日号

 Apple社の総帥、Steve Job氏が、iPhoneの構想を打ち出したのが2007年1月。この時、同氏は2007年7月にはiPhoneを市場に出すこと、および、2008末にはiPhone1000万台を販売するという野心的な構想を発表した(注1)。
 Apple社は、2008年4月24日、同社の決算報告において、2008年1月から3月の3ヶ月間におけるiPhoneの出荷数が170万に達したことを明らかにした。2007年末の出荷数は約200万と推計されているので、同社の首脳陣は、Steve Job氏が1年数ヶ月前に確約した2008年末1000万台売り上げは、十分達成できるとの自信を強めている。
 ユーザの便宜を計り、iPhoneの利用を高める方向に向けてのApple社の努力も着実に進んでいる。Apple社は、iPhone上でディベラッパーが自由に自前のソフトを利用できるようにするため、2008年3月末、ビジネス用ソフト開発用キットのiPhoneSDK betaを発表した。同年6月には、これの完成版が登場する予定である。さらに、待望の3Gネットワーク対応の新型iPhoneも、6月9日には公表される。2007年1月のときと同様、Steve Jobs氏は、Apple社のスマートフォン市場への参入成功を華麗に宣言し、今後のiPhone販促につなげるものと見られる。
 ユーザが利用するネットワーク(2.5GのEDGE)もネットワーク提供業者、さらにはユーザがiPhoneを通じて利用するソフトもすべてApple社お仕着せで、ユーザに他のオプションを認めないというAppleの当初方針からすれば、大きな戦略転換である。
 周知のように、携帯電話、スマートフォンの業界では、ユーザは、原則として好みの機種の端末をどのキャリアからでも利用できるという原則が適用(特に欧州諸国において)されている。iPhoneだけが、自社機種の技術優位性を“てこ”にして、強引にユーザを囲い込もうとする戦略には、そもそも無理があったといえるだろう。
 FCC自体、700MHZ周波数帯のオークション実施とも関連し、最近、携帯電話業界におけるオープン・プラットホーム導入の方向を打ち出している折からだけに、なおさら上記のことが言える。
 2007年末から2008年に掛けてペースセッターであったApple社がこのように強力な一層のスマートフォン市場拡大路線を追求している。この事実をもってしても、スマートフォン業界は、2008年後半から、一層、本格的な競争の段階に入ることは確実である。
 本論では、以上の点について、さらに詳しく解説する。


2008年末1000万台販売目的は確実に―ただし、欧州市場向け販売はやや低調

AT&Tのドル箱となったiPhone
 発売後、10ヶ月近くを経過した2008年4月中旬現在、iPhoneは、米国において順調に売り上げを伸ばし、遂に、スマートフォン業界において、首位RIM社のBlackberry(44%)に大きく迫り、28%のシェアを獲得した(注2)。
 現在、 AT&Tは、2008年第1四半期の業績を発表したところであるが、例によってiPhoneの売り上げ台数、収入、利益を公表してはいない。しかし、今回の決算報告は、iPhoneがワイアレス部門好調の原動力となり、順調に市場を拡大しつつある点を始めて認めた(注3)。
 AT&Tは引き続き、2008年4月24日付けのApple社の決算報告において、iPhone出荷台数(2008年1月から3月の期間)を170万台と公表した。この数字は、Apple社側からの出荷総数であって、AT&Tへの登録数はこれを相当に下回るにしても(アンロッキングにより、AT&Tを使用しないiPhoneが存在するため)、一機種から100万台オーダのスマートフォンの売り上げが得られたのであるから、2008年第1四半期のAT&Tの財務が潤ったのは当然である。こうして、AT&Tにとり、iPhoneは格好のドル箱となった。

欧州におけるiPhoneの販売状況―売り上げは低調、アンロッキング、まがい品が横行(注4)
(1)先発3カ国(英国、ドイツ、フランス)における売り上げは低調
 欧州におけるiPhoneの販売は、それぞれ英国、ドイツ、フランスでAT&Tとそれぞれの国の代表的ワイアレスキャリア、O2、T−Mobile、Orangeとの間の契約により、2007年11月初旬から始まった。
 3国における販売状況は次表に示すとおりである。
英国、O2サービス開始は2007年11月7日、2007年末の販売数約20万。4月17日から8ギガ端末価格を37%引き下げ、169ポンドにした。
ドイツ、T-Mobile英国のO2と同様、2007年11月9日にサービスを開始したが、販売状況は良くない。2008年初頭現在で7万程度に過ぎないという。2008年4月初旬、8ギガ端末の価格を399ユーロから99ユーロへと約4分の1に引き下げた。
フランス Orangeフランスでは、Apple社との交渉が長引き、サービスのスタートが遅れた(サービス開始時期は不明)。販売数は、ドイツの場合と同じく、2008年初頭現在で7万程度。Apple社との仲は良くなく、一部情報誌は、今後、契約の中断もあり得ると報道している。

 なお、上表で、ドイツ、フランスにおいて8ギガビットのiPhone端末を6月までの期限付きで大幅値下げしたのは、待望されている3Gネットワーク対応iPhoneが、この時期に市場に出るので、できるだけ旧機種の在庫を減らしておこうとの策ではないかとの観測が為されている。
 上記3国の他、オーストリア、アイルランドでもiPhoneは、サービスが実施されている模様である。
 また、Apple社はさらにスウェーデン、スイス、イタリアの諸国のキャリアとも販売協定を結ぶ努力を続けている。特に、スウェーデン、イタリアとは契約締結が真近だと噂されている。

(2)比率が高いアンロックiPhone、中国からのまがい品の流通
 スウェーデンの調査機関、Ny Technikによれば、欧州諸国で使用されているiPhoneの3分の1はアンロックされ、指定外のキャリアにトラヒックが流れているという。この比率が正しいとすれば、米国の場合よりもアンロッキング比率は高いと考えられる。
 また、スウェーデンでは、中国製のiPhoneの模造製品も相当数出回っているという。この事実も、欧州諸国で正規iPhoneの販売促進を鈍化させる要因になっているものと推測される。

Apple社、iPhoneSDKを公開へーオープン・プラットホームの方向に沿い、ビジネス加入者の獲得に力点を置く(注5)

 2008年3月6日、Apple社はiPhoneSDKbetaの販売を発表した。このソフト開発キット(Soft Development Kit)は、購入者自らが開発したソフトをiPhone上で運用し、第三者に提供して利益をApple社との間で分配することを可能とするものである。
 Apple社はこれまで、iPhoneのソフト開発をプロプライアトリーなものとして第三者に行わせることを認めなかった。このため、数多くのディベラッパーによる違法な(Appleが認めない)ソフトが数多く市場に流通した。これにより、通話のトラヒックもAT&Tではなく他のキャリアに移る現象が生じている。
 今回のApple社によるSDKの発売は、上記の批判に応じ、iPhoneのソフトを部外ディベラッパーの力を借りることにより大きく増やし、同時にディベラッパーからコミッション(しかも多額)を得て、Apple社の収入を増やすことを狙ったものである。

 ディベラッパーは、通常の場合、Apple社からの技術支援を受け、ソフトを第三者に配付できる。料金は年額99ドル。自企業内でソフト配付をする場合には、料金は299ドルとなる。ディベラッパーは第三者にソフトを有料で配付することができるが、その収入の30%をApple社に納付することが義務付けられる。
 なお、SDKは、MacOS上のみで駆動されるので、ディベラッパーは必ずMacを備える必要がある。今後、SDKの利用者が増えれば、それにつれてMacの売り上げも増加する仕組みである。
 3月に発表されたSDKはbeta版であって、今後さらに改定を加えて、6月には決定を発表される。

3Gネットワーク対応のiPhoneは2008年6月9日に発表か

 ところで、ここ数ヶ月来、Apple社が近々、待望の3Gネットワーク対応のiPhoneを商用化するとの噂が流れていた。Apple社、AT&Tの両社は共に、この噂を否定しないばかりか、間接的にこれを肯定するような発言が両社幹部から幾つかなされていた。
 2008年4月24日に至り、Apple社はこの発表を6月9日に行うとの報道が出ている(注6)。同日、WDC(World Development Conference)の会合があるので、この機会にApple社のCEO、Steve Jobs氏自らこれを発表するという。
 
 これまでのiPhoneは、2.5世代のEDGEネットワークでしか利用できないため、接続されるキャリアに制約があり、これが低周波数帯利用とあいまって他の競争業者のスマートフォンに対し競争上の大きなネックになっていた。
 今後、この制約の拘束から解放されて、iPhoneが欧州各国での販売市場の獲得、さらにアジア諸国への販売を実行して行くとなると、iPhoneの成長性はますます高まっていくこととなろう。
 もちろん、他のスマートフォン業者も手をこまねいているわけではない。2008年4月初旬に米国ラスベガスで催されたCTIAWireless2008では、Nokia、Samsung、LG等のスマートフォンのメーカが、それぞれ、N78、Instinct、Vu等の新機種の展示を競い合ったと報道されている。しかも、これら機種のデザイン、性能が明らかにiPhoneに類似していたと指摘も為されている。この事実は、新参事業者であるApple社のiPhoneが、すでに長い歴史を持つスマートフォン業界にあって、2007年後半から2008年の現在に至るまで、いかにペースセッターであり続けたかを示すものであろう(注7)。


(注1)DRIテレコムウオッチャーでは、これまでiPhoneについて、2007年に次の3編の論説を掲載しているので、参照されたい。
2007年7月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「遂に市場に出たiPhone−果たしてヒット商品になるか」
2007年10月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「Apple社、断固として業者作成のソフトを排除」
2007年11月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「iPhoneの販売、2007年第3四半期のAT&T業績に大きく貢献」
(注2)2008.3.16付け、guardian.co.uk, "Apple sets out strategy to dominate mobile market."
(注3)2008.4.23付け、Bloomberg.com, "AT&T Profit Jumps 22% on iPhone Sales, Merger Savings (Update5)."
(注4)この項では、主として次の3点の資料を参考にした。
2008.4.10付け、http://venturebeat.com,"The iPhone in Europe:A patchy success."
http://www.techrader.com, ”iPhone coming to Spain , Switzerland and Italy next."
2008.4.16付け、http://www.tgdaily.com, "Will Apple kill the 8GB iPhone and introduce a 32 GB model?"
(注5)iPhoneSDKについては、多くのネット情報があるが、主として次の資料によった。
2008.3.8付け、http://www.news.com, "FAQ:What does the iPhone mean?"
(注6)2008.4.24付け、http://www.pcworld.com, "3G iPhone Due on June 9, Analysts Say."
(注7)2008.4.4付け、http://www.nytimes.com, "Mobile Phone Industry Takes Aim at the iPhone."

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