DRI テレコムウォッチャー


700MHZ帯オークション終了 - Verizon、AT&TはLTEネットワーク構築へ
2008年4月15日号

 FCCは、2008年3月20日に2008年1月初旬以来、幾度にもわたり実施されてきた700MHZのオークションを成功裏に完了させたと発表した(注1)。
今回の周波数帯オークションは、これまでで最大規模のものであった。しかも、伝播性、透過性に優れ顧客サービスを大きく向上させる可能性を持つ周波数帯が得られる点からして、既存携帯電話業者、新規参入事業者がどれだけ、このオークションに参加するかに、興味が抱かれていた。
 また、FCCの側からすれば、(1)年々、成長を続けている携帯電話業界にさらなる競争を促進するため、この周波数帯を利用してのナショナルキャリアの出現を期待するとともに、携帯ネットワークの一層の開放を実現すること(2)オークションにより、少しでも多くのライセンス収入(議会が予測した金額102億ドルを上回る)を得ること(3)さらに、公安・商用の双方の目的を有する新ネットワークの構築を目的とするDブロックのオークションでの落札業者を得ることなど、諸種の成果を期待していた。

 オークションは、195,592億ドルという巨額のライセンス収入を生み、財務的には大成功を収めた。しかし、Dブロックの応札を行ったのは1社に留まり、FCCは、このブロックの周波数の販売計画を新たに検討せざるを得なくなった。
 予想されたところではあるが、周波数の多くの部分は、Verizon、AT&Tの2社(Verizonはもっとも注目されたCブロックのすべて、AT&TはA、Bブロックの多く)が獲得した。このため、結果が発表された直後、オークションは、携帯電話業界、サービスの革新にはつながらない既存業者の既存ネットワークの強化に資するだけだとの論評が多かった。
 しかし、4月初めになり、AT&T、Verizon両社が相次いで、このオークションによって得られる周波数帯を最新標準のLTE(現在、まだFCCにおいて制定作業が継続中である第4世代標準)により新規サービスを提供する(しかも、Verizonの場合、2010年にもサービス開始を予定)との700MHZ帯の利用計画を明らかにしたのに伴い、観測筋の論調は大きく変わりつつある。
 米国の携帯電話事業は、ここ1、2年間で音声からデータ、ビデオへの変革が進んでいる。携帯電話技術開発の先駆を成し遂げた国でありながら、欧州、わが国にややともすると遅れを取ってきたと考えられてきた後進性が、今回、完全に払拭されたといってよい。
 700MHZ帯オークションは、米国携帯電話市場において、固定→携帯、音声携帯→データ・ビデオ、さらにはユビキタスのサービスを提供する携帯サービスに向けての大きな流れを促進する大きな刺激剤としての効果を上げることが期待されよう。
 本論においては、落札により700MHZ帯がどのように配分されたか、また、AT&T、Verizon等の応札業者が、どのようにこの周波数帯を利用しようとしているかを紹介する。


FCCのMartin委員長、700MHZオークションが成功裏に完了したと宣言

 Martin委員長が発表した2008年3月20日のFCCプレスレリースの骨子は、次の通りである(注2)。

  • ナショナル携帯電話キャリア以外の99の落札業者が、754のライセンスを取得した。これは、取得された総ライセンス数1090の69%に相当する。
  • たとえば、衛星通信事業者Echo Starの代理業者、Frontier Wireless LLCは、Eブロックで、168のライセンスを取得した。
  • ルーラル地域では、75の新規参入業者が、425のライセンスを取得した。これにより、ブロードバンドへのアクセスが増大し、ルーラル地域住民の携帯電話サービス利用の選択肢が増える。
  • 小企業向けライセンスの取得数は379であり、これは総ライセンス数の35%に相当する。
  • A、B、C、Eグループの落札総金額は195.92億ドルであって、議会が見積もった落札総額、101.82億ドルを87%も上回った。
  • オークションの結果は、すでに携帯電話業界にインパクトを及ぼしている。たとえば、Verizon Wirelessは、自社の全ネットワークを開放し、ユーザが好みの端末、アプリケーションを利用できるようにすると言明している。

 上記のFCC発表では、700MHZオークションは良いこと尽くしのように見受けられる。しかし、FCCが予想したとおりに進展しなかった点も付け加える必要があろう。
 確かに、700MHZ周波数帯は、多くの携帯電話事業者、新規参入事業者に配分されたとはいうものの、Verizon(96.3億ドル)、AT&T(66.4億ドル)両社の入札額が総入札額(195.92億ドル)に占める比率は、85%とあまりにも高い。700MHZ帯は、主として両社のために行われたのではないかとの批判が出ているのも、当然のことではある。
 次項でさらに説明を加えるが、FCCがもっとも期待していたGoogleによるCブロックの取得は行われなかった。全国の地域にわたる高速周波数帯のライセンスであり、金額も大きいこのCブロックは、Verizonが取得した。FCCからすれば、ナショナル携帯電話キャリアの強力な新規業者になって欲しいとの期待をGoogleに掛けていただけに、Martin委員長には、多少の不満があったことだろう。
 次に、FCCの苦心の設計によるものであったはずの公安・商用の両目的に資することを目的にしたDブロックの周波数帯も、名乗りをあげたのは、Qualcomの1社だけに留まった。しかも、FCCが予期する金額にはるかに足らない落札金額であったため、落札は完了せずに終わった。FCCは、今後、この案件の処理を別個に検討しなければならない。

幾つかの落札事業者の700MHZ帯利用計画(注3)

Verizon−LTEネットワークにCブロック周波数帯を使用すると発表

 すでに、2007年11月にLTE(Long Time Evolution、ITUが提案し、現在、標準化が推進されている4Gに準ずる標準、通称スーパ3G)の導入を明らかにしていたVerizonは、4月初旬、落札したCブロックの周波数帯(アラスカを除く米国全土をカバー)をLTEネットワークの構築に当てると発表した。
 Verizonによる700MHZ周波数帯の総落札額は93.6億ドルであり、うち約半額の47.4億ドルが、Cブロック帯に支払われる。
 同社は、2010 年までに、LTEを構築する計画であり、このことは、米国において近年における携帯電話事業におけるデータ、ビデオサービスのウェイトの高まりにより、同社が、携帯電話の将来にますます自信を深めていることを示す。高速周波数帯(LTEでは、上り100MHZ、下り50MHZ帯のサービスが可能になるといわれる)の利用により、伝播距離の増大、透過力の強化が期待できるだけでなく、通信の理想であるユビキタスの実現(メデイア機器、ゲーム機、家電との接続等)の実現も可能となろう。
 Verizonは、2010年までのLTEネットワーク立ち上げまでのステップとして、(1)2008年には、Verizonのパートナーである英国Vodafone(Verizon株式の45%を所有)およびChina Mobileと共同でのフィールドサービスの開始(2)2009年、端末の販売業者を選定し、2010年の本格的商用サービスの準備を進める。この目的のため、2009年下半期には、試行サービス開始を計画している。

 今回、落札された周波数帯のうち、Cブロックだけは、FCCから、他社の機器、サービスとの接続を拒まないことーいわゆる"オープン・アクセス"−がライセンス付与の条件とされた。論者の一部は、Verioznは本来、自社機器、サービスを囲い込むことに固執してきた企業であるから、接続条件等の条件(高い接続料金を設定するとか)を付し、実質的に"オープン・ネットワーク"の条件を難しくするのではないかとの懸念を抱いていた。
 しかし、Verizon WirelessのCEO、Lowell McAdams氏は、「Verizonの"オープン・ネットワーク"計画は、機器相互の統合接続を統合的に実施するほか、家電との接続までも行おうとするものだ」として、FCCの要請を積極的に遵守すると確約している。

AT&T−獲得したBブロックをVerizonの場合と同様、新サービスの提供に当てると発表

 AT&Tは、Verizonに次ぎ第2番目に大きい落札業者であり、Bブロック277の免許を66億ドルで獲得した。同社は、すでに2007年に、携帯電話会社、Aloha Partnersから大量のCブロック帯周波数を獲得している。今回、Verizonと競ってCブロックの取得に乗り出さなかったのは、そのためである。
 AT&Tは、既存のCブロック周波数帯と今回取得したBブロック周波数帯を組み合わせて、ほぼ全国のサービス地域に高度携帯電話サービスを提供するために必要な周波数が得られたとしている。
 AT&Tは、当初、HSPA(3Gの携帯ネットワーク標準)のアドバンスバージョン(Evolved HSPA)用に、獲得した周波数帯を使うとしている。ただし、サービスをいつから開始するかを明示していない。さらに、これは、観測筋も予測していなかったころであるが、AT&Tは、Verizonと同様、LTEのサービスを、しかもVerizonと同時期の2010年内には、提供すると発表している。
 これで、AT&T、Verizonの2大携帯電話事業者のいずれもが、700MHZの成果を高次のネットワーク構築に使用することとなり、FCCの期待に応えたこととなる。

中堅の携帯・通信事業者の事例

  1. Frontier Wireless
    中堅携帯電話事業者のFrontier Wirelessは、都市部168地域をカバーするEブロックの周波数を7.11億ドルで獲得した。同社はこれにより、ほぼ、全国のサービス提供ができると述べている。
  2. Qualcom
    Qualcomは、ボストン、ロサンジェルス、フィラデルフィアを含む6つのEブロックのライセンスを5,546億で取得した。同社は、これにより、FLO TVサービス(携帯によるテレビ放映サービス)を拡大(対象人口を6800万人から、1億3000万人へ)するとしている。

途中でCブロック免許取得を断念したGoogle

 最後に今回の700MHZ周波数取得に対し積極的な姿勢を示すとともに、この周波数利用に当って落札業者に対し、オープン・プラットホーム設定を義務付けるよう主張したGoogleの行動について触れておく。FCCは、Googleの要請をそのまま取りいれたのであって、700MHZ帯オークションの設定に及ぼしたGoogleの影響力はきわめて大きかった。
 Googleは、Verizonとともに、米国全土をカバーするCブロックのオークションに参加したが、途中で応札から降りた。この応札に関係したGoogleの弁護士、Richard Wit、Joseph Faberの両氏は、GoogleのCオークションからの脱退理由を「オークションの中途において、Verizon Wirelessが本気でCブロック取得に乗り出して来て、落札価格がFCCが予定する価格を上回ることが確実になったためだ」と説明した。
 携帯電話業界参入に当り、Googleは、(1)Cブロック周波数帯を獲得して、自前の全国ネットワークを取得、ネットワーク業者となって本格参入を果たすか(2)ネットワークを所有せず、ソフト売却、他社のネットワークへの携帯広告販売のコミッションを獲得する道を選ぶかの2つの選択肢があったわけであるが、今回、Googleは後者の道を選んだことになる。ネットワークでのオープン・プラットホームが確保される限り、同社は、自前のネットワークに投資する必要性はないとの判断(おそらくは賢明な判断)をしたことによるものである。


(注1)DRIテレコムウオッチャーでは、700MHZオークションをこれまで網羅的に説明したことはない。ただし、2007年8月、12月、それぞれ、このオークションにもっとも大きな期待をいだいているGoogle、Verizonの取り組みを中心として記述をした。
2007年8月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「FCC、700MHZオークション条件設定の裁定を下すーGPhoneは実現するか」
2007年12月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「携帯電話ネットワーク開放へと180度方針転換したVerizon Wireless」
(注2)2008.3.20付け、FCC News、"Statement by FCC Chairman Kelvin J. Martin."
(注3)FCCが、700MHZ帯落札業者に対し、この周波数帯の使用計画の発表を解禁するやいなや、落札業者は、4月初旬、相次いで使用計画を発表した。この項では、多くのネット情報のうち、主として次の4つの資料を利用した。
2008.4.4付け、http://www.computerworld.com、"700-MHZ spectrum winners detail plans."
2008.4.4付け、http://www.reuters.com、"Verizon to use new spectrum for advanced wireless.”
2008.4.4付け、http://printthis.clickability.com、"Auction winners lay bare 700MHZ plans more on the topic."
2008.4.4付け、http://www.earthtimes.org、"Century Tel Pursues Overlay of Existing Preparations in 700 MHZ Auction."

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