DRI テレコムウォッチャー


成長の減速期に入ったComcast−Triple Playは依然として成功

2008年3月1日号

 本稿は、2007年通期の決算値に基き、米国最大のケーブルテレビ会社、Comcastの収支状況、回線数の伸び等を検討したものである。かたわら、TimeWarnerの決算資料等も使い、ケーブルテレビ2社(Comcast、TimeWarner)、RHC2社のブロードバンド・インターネット回線数を比較した。
 詳細は本文に譲るとして、まず主な結論を箇条書きに記しておく。

  • Comcast、TimeWarner両社とも2006年次に比し事業成長の伸びは、大きく鈍っている。また、サブプライムローンによる米国経済の低迷が、すでに2007年第4四半期には大きく影響し業績を押し下げている。それにもかかわらず、Triple Playを基調にした両社のブロードバンド・インターネット加入者獲得は減速しながらも、着々進んでいる。両社ともに、ケーブルテレビ回線数(Triple Play実施の基礎となる)の減少比率が低い(年率、Comcast0.7%、TimeWarner1.0%)ことからも、この分野における競争力の強さが推測できよう。
  • 他方、AT&T、Verizonの場合、固定電話加入者の減少が、年率6〜7%に達している。また、AT&T、Verizonともに、2007年における高速ブロードバンド回線数の増数は、Comcast、TimeWarnerのブロードバンド回線数の増数を下回っている。要するに、AT&T、Verizonは、旧来のADSL中心の架設から、軸足を光ファイバー(AT&TはU-verse、VerizonはFiOS)に移して、ブロードバンド(高速インターネットを含む)の拡大を積極的に推進しているのであるが、2007年の実績は満足すべきものではなかった。むしろ、ケーブルテレビとの差を相当に縮めた2006年次より、この面では後退が見られる。

本文では、2007年末の4社の実績値に基き、上記の結論に至った根拠を提供する。


2007年次のComcastの収入、回線数・設備数の伸び

純利益は減少したが、2桁台の収入の伸びは続く(注1)

表1 Comcastの2007年通期及び2007年第4四半期、第1四半期の収入・利益(単位:100万ドル)
項 目2007年通期2007年第4四半期2007年第1四半期
収入30,895(+24%)8,014(+14%)7,388(+32%)
営業利益5,578(+12%)1,458(+20%)1,261(+26%)
純利益2,587(+2%)602(+54%)837(+80%)
1,括弧内の数値は、前年同期に対する増減比を示す。
2,収入・利益には、M&Aにより取得した他のケーブル会社の収入・利益も含む。

 Comcastは、2007年下半期から、米国経済の減速、厳しい競争の下で、同社の成長率が 鈍化してきた事実を認めている(この鈍化の傾向は、表の第4、第1四半期のそれぞれの 対前年期との増減比を比較しても明らかである)。
 しかし、AT&T、Verizonが2007年通期に5から6%台の収入の伸びに留まったのに対し、Comcastが2桁台の収入増を確保した点は注目に値する(ちなみに、M&Aの影響があったComcastの2007年通年の収入の伸び率は11%であった)。

表2 2007年通期、第4四半期におけるComcastの部門別収入の内訳(単位:100万ドル)
項 目2007年通期2007年第4四半期
ビデオ(テレビ)17,733(6.6%)4,464(+8.5%)
高速インターネット6,421(17,9%)1,662(+14.3%)
通話1,770(85.3%)523(+17.3%)
広告1,539(−3.0%)418(−12.4%)
*その他1,143(+2.6%)300(+10.7%)
免許料829(+6.2%)211(+10.7%)
総収入29,434(+11.1%)7,578(+10.9%)
1,表中、括弧内の数値はそれぞれ、前年同期(2006年通期、2006年第4四半期)に対する増減比を示す。
2,その他収入は、サービス提供に対する機器の販売、手数料収入等である。
3,表1と総収入は一致していないが、これは、現資料をそのまま転記したものである。

 上表では、(1)広告部門を除き、どの部門も収入増が続いていること(もっとも、広告収入の減そのものも、Google等のIT業者によるインターネット広告の成長に対し、ケーブルテレビ広告が食われつつあることを示すものであり、これ自体、注目すべき事実ではある)(2)Comcastにとって、新サービスの分野である高速インターネット、通話部門の収入が急成長しつつことの2点が際立つ。
 2007年通期には、総収入に占める高速インターネット、通話の収入の比率が、27.8%と約30%に達しようとしている。2006年通期には、この数字は24.1%であった。このように、Comcast事業の多角化(還元すれば、RHCの本来事業への参入)は着々、進行している。

2007年次Comcastのビデオ・高速インターネット・通話回線数の伸び

表3 Comcastのビデオ・高速インターネット・通話回線数(単位:万)
項 目2007年末2007年第3四半期末2006年末
ビデオ回線数
 デジタル加入者
 デジタル化率(%)
高速インターネット回線数
VOIP回線数
回線交換回線数
RGU総数
2,406(−0.7%)
1,519(+3.5%)
63.1
1,322(+14.5%)
438(+234%)
176(−73%)
5,702
2,416
1,467
60,7
1,289
377
304
5,579
2,424
1,271
52,4
1,154
186
652
5,105
1,上表、2007年第4四半期の欄の括弧内の数値(%)は、2006年第4四半期の数値に対する増減比である。
2,原資料では、千の単位までの数値を計上しているが、ここでは、万の単位の算出にとどめた。

 上表の通り、Comcastは、年間0.75%とわずかながら回線数を減らした。2007年第1四半期まで、同社は、基本サービスであるビデオの回線数を毎期増やしたはずであり、減少への転機は、2007年第1四半期に訪れたものと見られる。
 この主原因は、AT&T、Verizon、衛星通信事業者からの攻勢にComcastが支えきれなかった事実を示すものであり、同社の将来に暗雲を投げかける指標ではある。しかし、2007年通期の数値には、まだ、さほどの影響は及ばず、高速通信、VOIP電話数の急激な伸びが際立つ(回線交換の電話回線数の激減も特徴的)数字である。
 この電話加入者は、Sprint/Nextelからの回線リースによっており、Comcastは、将来的には、VOIPに統合したいと考えているものではあるが、落ち込みが激しいのは、自然減少以外のそれなりの理由があったのであろう。
 Comcastが同社の総体的な収益基盤の指標として重視しているRGU(Revenue Generating Units、ビデオ回線数+ブロードバンド回線数+電話回線数)では、同社は好調な伸びを示している。

弱気となった2008年次財務見通し
 表4に、Comcast自らが発表した財務見通しの数値を紹介する。

表4 2008年次におけるComcastの財務見通しおよび2007年次の財務見通し・達成状況
幾つの財務指標の成長率等2008年次見通し2007年次見通し(実績)
収入の成長率8~10%12%以上(12%)
営業キャッシュフロー少なくとも20%少なくとも14%
(2006年の89%)
資本支出収入の18%以下にとどめる57億ドル(60億ドル)
RGU記述なし650万(600万)の増


 表4については、次の点を指摘しておく。
  • Comcastは、2007年当初に発表した2007年次財務見通しを達成したと言明している。なるほど、収入の成長率こそ、見通しの下限値12%を達成したものの、その他の項目については、甘く採点しても、達成には、”おおむね”という括弧が入る。特に、ComcastがTriple Playの達成度合いを測る同社お得意の指標であるRGUの実績は、見通しの値を10%程度下回っている。
  • この事実を反映して、2008年のComcastの財務見通しは、かなり控えめである。ます、成長率の見通しを10%以下に抑えた。これは、ここ1、2年来、同社が自慢としてきた2桁成長の見通しを取り下げたものとして、注目されよう。また、RGUの見通し数も発表していない。Comcastが、今回の決算報告において、”Triple Play”の語句を一切使わなかったこととあいまって、この事実は、同社が経営戦略の再検討を迫られているのではなかろうかとの推測をも可能にするものである。

ケーブルテレビ2社に及ばない、RHC2社のブロードバンド・インターネット回線数

表5 ケーブルテレビ2社、RHC2社のブロードバンド・インターネット回線数 (単位:万)
項 目2007年末回線数2006年末回線数2007年の増加数
Comcast1,3221,1541685
TimeWarner76072235
2,0821,876203
AT&T973,5877,196,4
Verizon733,0*674,0*59,0
1,706,51,551,1155,4

 表5は、ケーブルテレビのトップ業者2社(Comcast、TimeWarner)とRHCトップ業者2社の最新のブロードバンド加入者および2007年における回線数の増を比較したものである。
 上記4社に関する限り、ブロードバンドインターネットアクセスの回線数は、絶対数でも、2007年年間の回線数の増でも、ケーブル2社の総計は、RHC2社を凌いでいる。  前回のDRIテレコムウオッチャーでも紹介したとおり(注2)、最近、AT&T、Verizon両社は、決算報告から、DSLの語句、説明をほとんど消してしまった。また、これに関連して、“ブロードバンド”の項目に、インターネットアクセスのブロードバンドであろうと、ビデオのブロードバンドであろうと、トータルの数字を使う傾向があるので、資料の利用者にとっては、きわめて、誤解を与えやすい形になっている。
 このため、上表では、まず、AT&T、Verizonが計上している衛星通信事業者の回線数(2007年末現在、AT&T 211.6万、Verizon 90.0万)を除去した。Verizonと提携しているEchoStarの事実上の代理店契約サービス回線数の2006年末回線数は不明であるので、四半期ごとのこのサービスの加入者増(2007年第1四半期6.3万増)から推計した(第5表中*が推計値)。

高速インターネット回線数でMSOは、RHCに比し優位に立つ

 2007年12月、FCCは、米国の高速インターネット回線の状況(2006年末現在)について、報告書を発表した(注3)。
 この報告省によれば、2006年末における電話会社による高速インターネット回線数は、約2643万(ADSL2540万、光ファイバー103万)であるのに対し、ケーブルモデムの回線数は3,210 万であり、その差は567万に及んでいた。2005年の格差は約700万であり、年間約130万程度の格差を縮めた。
 表5から見ると、ケーブルテレビ、RHCそれぞれ上位2社の限られた数値のみであるが、 明らかに、年間の高速インターネット回線数の伸びの絶対数は、ケーブルテレビの方が大きい(150万ほど)。
 ある調査会社の資料によると、2007年の高速インターネット回線数の増は、930万加入(2006年の1,040万から約100万の減)と推計されるという(注4)。
 仮に、この930万の数字を480万対430万に割り振り(実態よりもRHCに有利になると思われるが)、上記のFCCの数字に付加すると、2007年末の高速インターネット回線数は、次の通りとなる。

ケーブルモデムによるMSO提供のもの:3,690万
電話会社提供のADSL、光ファイバーによるもの:3,073万
 計6,763万

 まことに大雑把な推計であるが、一応の目安としてみて頂きたい。


(注1)本項に掲載したComcastの収支の数値は、そのすべてを次の同社の決算報告によった。
2008年2月14日付けComcast年次報告書、“Comcast Reports Fourth Quarter 2007 Results."
ただ、表1の2007年第1四半期の資料は、2007年6月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「Triple Play絶好調のComcast」、表1の数値を転載した。
(注2)2008年2月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「AT&TとVerizonの経営比較(2007年次の両社決算報告数値による)」。
(注3)FCC Industry Analysis and Technology Division Wireline Competition Bureau October 2007,“High –Speed Services for internet Access: Status as of December 31, 2006."
(注4)Leichtman Reseach Groupの資料による。2008.2.19付けhttp://money.cnn.com,“Providers Face Slowing Growth For Broadband”より孫引き。

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