DRI テレコムウォッチャー/「IT・社会進化論」

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  アマゾン端末Kindleのインパクト  (IT アナリスト 新井 研氏)
2008年2月5日号

概説
 アマゾン・ドット・コムが昨年11月に、電子書籍リーダーKindle発売した。電子書籍市場はソニー、松下電器、東芝などが参入しているが、決して成功しているとはいえない。出版環境をめぐる日米の差には大きな違いがあるが、世界最大の書籍出版社・アマゾンは満を持して参入した。この動きは我々の読書ライフにどういった影響を与えるだろうか?

■ ワイヤレス端末のKindle
 知識の火が“燃え上がる”意味でKindleと名づけられたが、ハードウエアはクールだ。ファイロファックス程度の大きさにはがきサイズ(6インチ)のEinkのモノクロディスプレイを搭載している。一度文字表示のために電圧をかけるとその状態を長時間維持し、ページをめくる動作で電力を消費するため、充電一回で30時間使える。視野角も180度近くあり、紙と遜色ない鮮明な表示を提供する。価格は400ドルとソニーのリブリエ(米国名Sony Reader)より100ドルほど高いが、スプリント社のEV-DO方式のワイヤレス端末であることを考えれば納得いくだろう。200冊の容量を保管できるが、購入した本はAmazon内の自分の領域にバックアップしておける。SDメモリカードは使えるが、大して重要ではない。料金は従量制であり、基本料金は不要である。

■ 日本の電子書籍が育たない理由
 日本の電子書籍市場は2003年にソニーや松下が電子書籍リーダーを投入しているが、1990年中ごろにシャープのザウルスがコンテンツのひとつとして電子ブックを投入しており、歴史は古いが成功していない。この市場が育たない理由は、簡単である。書店商組合からの同意が得られないためだ。妥協案として、新刊は電子化されずある程度古くなった書籍だけにすることや、価格的にも実際の本とあまり変わらないため、市場が活性化されない。しかも、PDAのようにPC経由でないとダウンロードできないため、使い勝手はいまいちであった。

■ AmazonのiTune化
 Kindle利用者はAmazon Kindle Storeサイトで購入するが、ライブラリは9万冊、ニューヨークタイムズが掲示する最近のベストセラー101作品も対象になっている。価格はKindle向け電子版は圧倒的に安い。例えば、昨年10月に発売されたベストセラー「The Pillars of the Earth」は定価20ドルだが、Kindle版は一律9.9ドルである。一冊9.9ドルであるあたりは、iPodで曲の購入が一曲0.99ドルであったことと似ている。
 さらに、NYタイムズ、ワシントンポスト、ウォールストリートジャーナルなどの新聞購読、人気ブログも扱う。購読料金は、新聞が月額5.99〜14.99ドル、雑誌1.25〜3.49ドル、ブログは0.99ドル。定期購読すると、新聞は毎朝自動的に“宅配”されていると言うわけだ。モノクロだがWeb閲覧やメール機能もある。通信料金ではなく、使った分だけ購読料金を支払う、サービス中心の概念である。すなわちKindleは、ソニーや松下が作った電子書籍リーダーではなく、Kindleの背後に広がるアマゾン・コンテンツをサービスするための端末である。

■ Kindleの行方
 日本では米国のように電子書籍に思い切った値付けができない分だけ、当面日本に根付くことは無いだろう。日本でのiTuneMusicStoreの動きを見ても曲単価にCDを下回る値付けができないため、普及が遅れており、多くの人はレンタルCDからiTuneにコピーするようなスタイルである。その点、米国ではそういった足枷がない分だけ、普及の余地はあるだろう。
 さらに本を電子的に購入することは、宅配コストの節約につながる。確かにアマゾンはクリックひとつで自宅に運んでくれる便利なサービスである。しかし宅配コストが割高なために、「1500円以上宅配料無料」に引きずられて無駄な買い物をしてしまうときがあるが、Kindle版はこの縛りから開放してくれる。また紙資源の節約につながることもあり、長期的には、書籍や新聞の電子化は避けられないであろう。いずれにしてもこのサービスを世界最大の電子書店アマゾンが行ったことが最も大きなインパクトであり、日本の電子書籍市場にも徐々にプレッシャーを与えるようになるであろう。



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