米国の脚本家組合(Writers Guild of America = WGA)は2007年11月5日よりストライキに入っている。ストライキは1ヶ月以上続いており,脚本無しでは番組の制作が出来ず,テレビから新しいコンテンツがなくなりだしている。
12000人の組合員を持つWGAは3年毎に,最低賃金の値上げ交渉を行っている。今年の交渉では最低賃金の値上げに加えて,DVDで販売したときの再利用料,インターネット配信時の再利用料,それにアニメーション,リアリティー番組に於けるWGAの管轄権の3つの課題がある。WGAは映画,TV番組の制作者を代表するAlliance of Motion Picture and Television Producers (AMPTP)と交渉を行ってきたが,交渉は行き詰まり,20年ぶりのストライキに突入した。
インターネット配信に於ける著作権の取り扱いが大きな話題になっている中,WGAの交渉のなり行きが注目されている。
WGAに加入している脚本家は,映画,あるいはTV番組の脚本を書くのに賃金を得,その映画,あるいは番組が再放送される場合,あるいはテープ,DVDで販売される場合,再利用料を得ている。現在のDVDの再利用料は1988年に決められた物である。1988年にWGAは新しい媒体として,テープ(それにレーザーディスク)で映画,TV番組が販売される場合の再利用料を求めた。これに対して映画会社はホームビデオ市場は未熟であり,製造コストも高く(当時のテープ,LDの販売価格は$40〜$100),市場規模は小さく,大きな再利用料は払えないとし,WGAは最初の100万本まではグロス収入の0.3%,100万本以降は0.36%で合意した。しかし,20年間で状況は大きくと変わった。ホームビデオは膨大な市場になっており,DVDの価格は平均十数ドルと,当時のテープ,LDと比べ,ずっと安くなっている。100ドルの0.3%と12ドルの0.3%では大きな違いがある。WGAは再利用料の倍増を求めている。12ドルで販売されるDVDであれば,再利用料は約4セントから,8セントに増える事になる。AMPTPは製造コストは安くなったが,マーケティングのコストが上昇しており,採算性は高くなっていないとして現行維持を求めている。
DVDでの再利用料の値上げと同時にWGAは映画,TV番組のインターネット,あるいは携帯電話等の新しい通信媒体での配信に対する再利用料を新たに設置する事を求めている。新媒体での配信では2つのタイプが想定されている。1つはElectronic Sell Through(EST)と呼ばれる通信媒体によるコンテンツの販売であり,iTunes,AmazonのUnboxでの販売等である。もう1つはストリーミング配信で,視聴者のコンピュータ(あるいは他のデバイス)にはコンテンツは保存されない(保存されても一時的)方式である。WGAはEST,ストリーミングに関わりなく,インターネットでの配信により得られたグロスの2.5%を求めている。これに対して,AMPTPはESTはDVDと同じ0.3%(100万本以降0.36%)で,ストリーミングは有償,無償,広告のありなしに関係なく,「プロモーション」利用であり,再利用料は払わないとしている。
WGAはストライキを避ける手段として,DVDの再利用料の値上げを一時交渉から除いた経過があるが,インターネット配信に関しては譲歩する考えはない。DVDの再利用料は最初,低い料金で合意したため,それを変更するのが大変な事になっている。インターネット,あるいは他の通信媒体による配信は今後,DVDでの流通を抜いていく。WGAは今回は,譲歩をするつもりは無い。映画会社は逆に,これらのしがらみから逃れるためにインターネットを使っており,高価な再利用料が設定されたらそのメリットは減ってしまい,WGAの案には合意する事は出来ない。
前回のWGAのストライキは1988年で,その時は22週間,続いたが,今回のストライキはそれを抜く可能性もある。このストライキが長く続くことで,視聴者,特に若者のTV離れがさらに進むことが懸念されている。TVを見なくなった視聴者はインターネットでビデオを見ることになり,WGAはますます,インターネットでの配信の再利用料に関しては譲れなくなっていく。