DRI テレコムウォッチャー  from USA

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700 MHz帯の競売 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.38)
2007年7月25日号

 アナログ放送の終了が2009年2月に迫り,現在アナログ放送で使われている700 MHz帯を通信事業者に競売する方法に関する議論が本格的に始まった。FCCは2008年1月28日から700 MHz帯の競売を行う事を予定している。これ以上望ましい周波数帯域が競売される事は,今後は無く,700 MHzの競売は100億ドルの収入を米国政府にもたらすと期待されている。米国政府としてはこの競売がもたらす収入も重要であるが,同時に市場の競合性,それに通信技術の発展の面からもこの重要な競売を検討しなければならない。

 懐の深い,大手事業者に争わせるのが,値段をつり上げる最も簡単な方法である。しかし,これは大手事業者の地位をさらに揺るがない物にし,米国政府としては望ましくない,市場の独占環境を作り出してしまう可能性も高い。

 Consumers Union,Public Knowledge,The Media Access Project等の団体は700 MHzの競売にはAT&T,Verizon,Comcast,Time Warner等の大手の既存事業者の参加は許さずに,新しい競合事業者を対象にするべきだと言っている。もし,政府の目的が通信市場の競合を作る事であれば,これには一理ある。しかし,大手事業者を除くことで競売額は確実に減る。そして,既存事業者を競売から省いたとしても,競合が育つとは限らない。1990年代末のPCS帯域の競売は携帯電話業界に競合を増やす事を目的とした。小さい事業者が帯域を得る事が出来たが,その金額が払えずに倒産したり,数年後に大手事業者に吸収されたり等で,Sprintが携帯電話事業に参加する事が出来た以外では競合が育ったとは言えない。

 大手通信事業者を除いて,何十億ドルで帯域を購入し,サービスを開始する為の全米のインフラを構築する資源を持つ会社が果たしてどれだけ存在するだろうか。700MHz帯の通信サービスを新たに始められる資本力と通信事業のノウハウを持つ会社はそれほどは存在しない。海外の通信事業者の参入を許す方法はあるが,通信産業の国際的な競合性を考えた場合,望ましい事ではなく,反対も多いであろう。

 今回の競売ではインターネット上でサービスを提供している事業者,特にGoogleが積極的に700 MHz帯ではネットワークの中立性を保証するようにとのロビー活動をしている。Google等は既存事業者に700 MHz帯を売った場合でも,この帯域を使ったサービスでは使えるデバイス,サービスをオープンにする事を条件にする事を求めている。携帯電話の様に通信事業者が許可したデバイス,あるいはサービスだけが使えるのではなく,インターネットの様にどの様なデバイスからでも自由にどの様なサイトに行けるようなオープン性を求めている。

 このロビー活動は効果があり,FCCのマーチン会長は700 MHz帯の一部,22 MHz帯は中立性を条件に競売する事を提案している。収入も確保する事も考慮し,もしも,競売額が47億ドル以上にならなかった場合は,競売は中止され,中立性の条件を取り除いて再度,売りに出される。

 当然,Verizon,AT&Tはネットワーク中立性を約束しなければならないのであれば,多額な金額を出して帯域を買う価値は無くなると反対をしている。もし,帯域が無料であれば,そこでオープンなサービスを提供しても利益を出すことは可能かも知れないが,何十億ドル払い,通信料金だけで投資回収を行い,利益を出す事は困難かもしれない。

 Googleはもし,ネットワーク中立性を22 MHzだけでなく,60 MHz全部に拡げれば,競売に参加し,最低46億ドルを使うと発表している。Googleが通信サービスを始めるのは面白いが,今度はGoogleが自社のネットワーク上で自社のサービスを優先してしまうとYahoo!,EBay等他のインターネットの会社が反対をする事も考えられる。これに対抗して,Microsoft等も通信事業に参加する新しい競合は生まれるのであるが,サービスを提供するGoogle,Microsoft等が通信事業も提供する事になると,新たな中立性の問題が出てくる可能性もある。

 インターネット上でサービスを提供している事業者は自由なアクセスが欲しく,通信事業者にマージンを取られたくない。通信事業者はクローズされた環境にし,Google等の事業者の収入の一部を搾取したい。この2つの考えは,ブロードバンドアクセスにおいて,ネットワークの中立性の議論を生み,これが700 MHz帯の競売にも広がっている。競売のルール作りはいつも関係会社の利害が絡み,訴訟にもつれ込むことも珍しくない。今回の競売はこれ以上に価値のある帯域は2度と競売されることは無いと言われる重要な物であり,さらにネットワーク中立性の議論も絡み,大きな騒動になる事は間違いない。

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