ブロードバンドの普及により,インターネットを使ったビデオサービスに対する関心が高まっている。しかし,まだビジネスとして成功しているとは言い難く,ケーブルTV,衛星放送を含めたテレビ放送事業,あるいはDVDを脅かすには至っていない。インターネットビデオがテレビ放送の競合になるには,インターネットで提供されるビデオもテレビで視聴出来る様になる必要性がある。インターネットビデオを見るのがPCである限り,ニッチの範囲を越える事は出来なく,「ブロードキャスト」にはならない。Movielink,CinemaNow,iTunes等で映画がダウンロード出来ても,テレビで見ることが出来ない限り,DVDをリプレースする事は出来ない。
テレビとインターネットをつなげるには新たにハードウェアが必要になり,そのハードウェアを購入するコストとサービス自体のコストが大きなハードルである。2003年にDisneyの子会社のBuena VistaはMovieBeamと呼ばれるVODサービスを開始した。これはTV放送のデータキャストで番組を送り,専用のハードウェアにそれを蓄積し,VOD的なサービスを提供する。ハードディスクはレンタルで,月額7ドル,映画は3ドル程度であった。コンテンツは全て有料であり,この為だけに月額7ドルでハードウェアを借りさせるビジネスモデルは不成功で,2年で閉鎖された。MovieBeamは2006年にハードウェアを$200ドルで買い取りにするビジネスモデルでカムバックした。Intel,Cisco等のベンチャー資金を得て,話題にはなったが,MovieBeamの映画のレンタルしか出来ない箱に$200を払わせるビジネスモデルも成功しなかった。2007年3月にMovieBeamはMovie Gallery社に売られた。
インターネットを媒体に使ったサービスとしてはAkimboが登場した。AkimboもMovieBeamの様に,専用のハードウェアを使い,コンテンツをHDDに蓄積する。ビジネスモデル上の大きな違いはMovieBeamはVOD(レンタル)形式であるのに対して,Akimboはサブスクリプション型のサービスで,月額10ドルでビデオは見放題であった。ハードウェアは200ドルの買い取りで,Akimbo専用でそれ以外のアプリケーションには使うことは出来ない。このビジネスモデルも無理があった様で,Akimboは先月にハードウェアの提供を止め,PC向けのサービスに専念する事を発表した。PC向けのサービスではVOD型とサブスクリプション型の両方がある。また,AkimboはそのサービスをAT&TのDBSとインターネットTVのハイブリッドサービスのHomezoneに提供しているが,これは引き続き行われる。
MovieBeamも,Akimboも成功しなかったが,インターネットビデオをテレビで見る為のハードウェア,サービスに対する関心は落ちていない。今年の2月にはApple TVが発売された。Akimbo,MovieBeam等の特定サービス専用のハードウェアでは無く,Apple TVはiTune以外のビデオを見ることも出来,最近,YouTubeのビデオへのアクセスも発表している。まだ,発売されて数ヶ月であり,Apple TVが成功か,失敗かの判断は出来ないが,CEOのジョッブスはApple TVはビジネスでは無く,趣味との発言をしており,iPodの様な大ヒットになっていない様である。
Apple TVに続き,VuDuと呼ばれるサービスが話題になっている。VuDuは専用のハードウェアを使う,VOD型のサービスで,第2世代目のMovieBeamと同じようなビジネスモデルである。MovieBeamはデータ放送を使い,ビデオは事前にHDDに蓄積されている必要があるので,選択肢はHDDに録画されているビデオに限られるのに対して,VuDuはオンデマンドで映画をダウンロードするので選択肢は広い。ポピュラーな映画の出だしの数分はHDDに事前に蓄積してあり,これらの映画はダウンロードを待たずに,すぐに見始める事が出来る。VuDuのサービスはまだ開始されていないが,ハードウェアは300ドル程度になると推測されている。VuDuとはSony Picture以外の大手映画会社が契約しており,レンタルショップ以上の選択肢があり,それを瞬時的に見られることがアピールであるが,果たして,その為に数百ドルの専用のハードウェアを購入するか?