DRI テレコムウォッチャー  from USA

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NSI Research社の デジタル放送とブロードバンドTVの情報サービス
年間情報サービス「The Compass」 と 「The Compass」年鑑レポート
放送/メディア会社、通信事業者・機器ベンダを対象としています。


ケーブルTV事業者が期待するスイッチド・デジタル・ビデオ 
(ブロードキャスティングレビューシリーズ No.36)
2007年5月30日号

 ケーブルTV事業者の最大の悩みはそのネットワークの容量不足である。HDのTVが売れることで,HD番組に対する要求が増している。2009年2月のアナログ放送の終了に向け,地上波局のHD放送が増えると同時に,ESPN等のケーブルTV向けネットワークもHDでの番組提供を始めている。HDチャンネルが増えることで,ケーブルTVの放送サービスが使う容量が増えていくと同時に,VOD,ケーブルモデム,デジタル電話等の放送以外のサービスが使うネットワーク容量も増している。

 長期的な解決策はアナログ放送を止め,フルデジタルにする事である。しかし,これは容易では無い。現在のアナログ・デジタルのハイブリッド型ではアナログで提供しているチャンネルのみに加入している世帯にはデジタルSTBを提供する必要が無い。フルデジタルに移行する場合,全世帯の全TVにSTBが必要となる。アナログチャンネルのみのパッケージに加入している世帯は全ケーブル加入世帯の50%を占めており,これら世帯にSTBを設置する事は大きな投資になる。ある日突然にデジタルに移行をするのは不可能であり,過渡的にアナログで放送されているチャンネルもデジタルで同時放送を行い,時間をかけてアナログ世帯をデジタルに移行させる事が必要であるが,その為にもネットワーク容量が必要になる。

 ネットワーク容量を増やす方法として,使われている帯域の上限を上げる方法がある。750 MHzのシステムであれば,1GHz,あるいはそれ以上に帯域を増やすことで,ネットワークの容量は増える。しかし,周波数帯域を上げるにはネットワークのアップグレードが必要で,さらにはSTBの交換も必要になってくる可能性もある。利用帯域の上限を上げる投資コストは世帯あたり,500ドル,あるいはそれ以上になると推定される。

 デジタル圧縮技術を現行のMPEG-2から,より効率の高い次世代コーデックのMPEG-4等に変える方法もある。しかし,これをするにはヘッドエンドの機器,それに全世帯のSTBを交換する必要があり,これもコストの安いソルーションでは無い。 そこで,期待されているのがスイッチド・デジタル・ビデオ(SDV)と呼ばれる技術である。SDVは放送ではなく,スイッチを使った通信技術である。放送では事業者が提供している全てのチャンネルをネットワークで流しているが,SDVでは視聴者のSTBが要求数チャンネルのみを流す,VODと同様な双方向サービスである。SDVではデジタルケーブルサービスで300チャンネルが提供されていても,同時に300チャンネルが視聴されている事はあり得ない事が前提になっている。ケーブルTVでは1つのノードが500~2000世帯をサポートしている。2000世帯が同時に見るチャンネルが200であれば,100チャンネル分の容量をセーブ出来る事になる。Comcastが行ったチャンネル視聴の分析では300チャンネルの内,視聴者が低い200チャンネルで,同時に視聴されるのは約34チャンネルである。視聴の多い100チャンネルは現状と同様に放送し,残り200チャンネルをSDVで提供すれば,150チャンネル程度の容量で足りる事になる。

 SDVは双方向サービスであり,それに対応するSTBが必要になるが,VODをサポートしているSTBであれば,通常はソフトウェアアップグレードでSDVに対応可能であり,SDVの導入コストは基本的にスイッチの導入であり,世帯あたり,10ドル以下と推定されている。

 しかし,SDVは新しい技術であり,ケーブルTVシステムを複雑化する。ケーブルTVの最大のメリットは成熟した技術を使っていることであるが,SDVにより,これまでは比較的にシンプルであった「放送」の部分にも複雑な通信技術が入ることになる。Cablevisionは真っ先にSDVを導入したが,まだ本格的に使っているのでは無く,外国語放送の6チャンネル分をSDVで送っているだけである。その他,事業者はまだテスト段階である。しかし,限られたネットワーク容量を効率的に使う方法として,SDVは最もローコストであり,この技術に対する期待は大きい。


 データリソースは2006年6月に「アメリカにおけるモバイル向けビデオサービス」を出版しました。
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