アメリカのモバイル放送は日本とは異なる状況にあった。日本では地上波放送のデジタル化の一環としてモバイル向け放送が予定されていたのに対して,米国のデジタル放送の規格化が行われた時点ではモバイル放送の考えは無く,そのATSC方式ではモバイル放送は不可能とされていた。そこで,QualcommのMediaFLOの様な,地上波放送とは別の帯域を使う,モバイル専用の放送が誕生した。MediaFLOによる放送は30近い地域で可能になっており,Verizonがすでにこれを使った携帯電話向けのビデオサービスを提供し始めている。
日本ではすでに地上波放送を使ったモバイル放送が行われ,さらにMediaFLOも参入をしようとしている。この地上波局ベースのモバイル放送とモバイル専用の放送の競合は米国でも起きる可能性が出始めている。
地上波放送局はデジタル放送に移行した後の新しいビジネスケースとして,モバイル向け放送には関心を持ってきた。これまではATSC方式では不可能と思われたモバイル向け放送が現実化している。SamsungとドイツのRohde & Schwarzは2006年のNABでA-VSB(Advance-VSB)と呼ばれる技術を公開し,2006年秋には,ニューヨーク州のバッファローでフィールドテストを行い,今年の1月のCESでもデモがあった。
今年のNABではA-VSBはラスベガスの放送局との協力でデモを行った。このデモではSFN(Single Frequency Network)と呼ばれる技術が取り入られ,コンベンションホール,パリス・ホテル,ストラタスフィア・ホテルの3カ所に送信機を取り付け,放送局のアンテナだけでは放送を受信しにくい場所でも受信が可能である事がアピールされた。NABのデモでは1 Mbpsの「ハーフレート・エンコーディング」と500 Kbpsの「クウォーター・レート」がデモされた。66マイルで走っている車からの受信テストではハーフレートでは画面がフリーズする事があるが,クウォーター・レートでは問題は無かった。
さらに,今年のNABではこのA-VSBに競合する技術として,LGとHarrisがMHP(Mobile Pedestrian Handheld)と呼ばれる別の方式を公開した。MHPはすでにオハイオ州のコロンバスで地元放送局との協力で,フィールドテストも行っている。MHPは557 Kbps,あるいは299 Kbpsのビデオを2.2 Mbpsの帯域を使って送る。
これまで地上波局の中でモバイル放送に積極的であったのはSinclair等の数社であったが,デジタル化が2009年2月に迫っている中,関心は高まっており,NABではBelo,Fox,Gannett,Gary,ION,NBC,Sinclair,Tribuneの8つの地上波放送局会社がOpen Mobile Video Coalition(OMVC)の設立を発表した。OMVCは現時点では特定の方式を押してはいなく,地上波を使ったモバイル放送の技術開発の加速化を目的としている。
この放送局の強い関心を受け,ATSCはATSC-M/H(Mobile/Handheld)と呼ばれる規格化の動きを正式に立ち上げた事を発表した。すでにMediaFLOのサービスが開始されている中,2つの異なる技術で地上波モバイル放送が行われたのでは受け入られる可能性は低く,放送局は標準規格化を求めている。ATSCはM/H規格はハイスピードで行われ,今年の末には規格のドラフト化を行うことを目標にしている。
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