DRI テレコムウォッチャー


携帯電話ネットワーク開放へと180度方針変換をしたVerizonWireless

2007年12月15日号

 2007年11月末、Verizon Wirelessは、2008年末までに同社の携帯電話ネットワークで、顧客が望む携帯電話、アプリケーション、ソフトウェアを利用できるようにすると発表した。
 この発表は、関係者の間から、意外の念を持って迎えられた。Verizonといえば、ブロードバンド、携帯ネットワークについて、開放反対の急先鋒を続けてきた企業である。これまで、携帯電話分野において、同社が指定する携帯端末(同社の直営、あるいは承認する小売店で販売する)、同社指定のサービス、同社が設定する料金による加入者囲い込みを機軸としたマーケティングを展開してきたのであって、この戦略をにわかに変更するとは予測されていなかった。
 しかし、今回のVerizon Wirelessの方向転換は、ここ数ヶ月におけるFCCの裁定の動向、Apple、Google両社の強烈な携帯電話事業への参入の動き、携帯電話ネットワーク開放を要求する民意の高まりからするときわめて当然の成り行きである。それに、米国のジャーナリズムは、おおむね、“Verizonは携帯電話ネットワークを開放した”とセンセーショナルに報道している向きもあるが、ニュースレリースによるVerizonWireless自体の発表によると、その内容はあくまでも限定的なものであって、700MHz帯周波数のオークション応札者に対しFCCが要求している最小限の要件を満たした程度のものとも読み取れる。明らかに、同社は、携帯電話ネットワークを開放せよという大合唱のなかで、回線開放の道を選ばざるを得なくなったと考えるのが妥当であろう。
 第1に、すでにFCCは700MHz帯の周波数オークションの条件として、他業者の携帯接続、アプリケーションの利用を求めている。新たに、4G携帯電話サービス提供のため、どうしてもこのオークションに応札して、周波数を獲得したいVerizon Wirelessとしては、FCCの意向に従わざるを得なかった(注1)。
 第2に、Google、Apple両社からの携帯電話参入の攻勢に対抗するためには、回線開放に応じざるを得なくなっていた。まずGoogleは、OHA連合を結成し、34社(現在時点)もの参加企業と共同して、Linux基本ソフトによるどのネットワークにも使用できる新標準に基いた大々的な携帯電話市場浸透戦略を発表したところである(注2)。VerizonWirelessは、このGoogleからの攻勢に応じるためにも、自社の回線開放を打ち出さざるを得なかった。現在時点で、同社は、将来、OHAへの参加の可能性については、一切、ノー・コメントであるが、参加の可能性を残していることも間違いない。Appleと共同で、もっとも閉鎖的なiPhone販売で成功を収めているAT&Tにしたところで、将来、iPhoneをも含め、本格的に回線開放政策に乗り出さないとも限らない。すでに、AppleMobilityのCEO Steven氏は、2008年中に3GネットワークにおいてiPhoneを利用できるようにしたいとの意向を示している。
 第3に、回線開放に向けての携帯電話ネットワークの利用者からの強い要望がある。この要望は、音声利用中心の従来の端末から、データ、インターネット利用の端末への携帯電話の発達、それに伴うユーザから生じてきたものである。iPhoneが良い例であるが、高度の携帯電話端末となると、携帯PCと変わらない。携帯PCであるのなら、ネットワーク業者は、固定PCと同様に、第3者業者からのソフトを自由に付加できるリダンダンシーを許容すべきではないのかというユーザの要望は、最近きわめて強くなっている。
 Verizonは、この要望に従わなければならなかった。

 最後に、今回のVerizonの方向転換がIT・ブロードバンド専業業者とベル系電話会社(Verizon、AT&T)相互間の力関係の変化を示しているとする私見を述べて置く。
 要約すれば、新興ISPの雄であるGoogleが自社の携帯電話市場攻略戦略の要としてのネットワーク開放をFCCに売り込み、FCC、Google連合軍が旧ベル系老舗通信会社であるVerizonを屈服させたというのが、今回のVerizon発表の背景である。ブロードバンド、ITを専業とする新興企業群が旧来のパケット通信網を運営するベル系電話会社に比し、長期的に優位に立つという観測は、これまでしばしば行われてきたところではあるが、この予測がいよいよ本格的に的中し始めたと見る。
 2007年後半に生じた今回のVerizonの決定は、2007年7月以来行われ携帯電話業界に多大のセンセーションを巻き起こしているAT&Tの携帯回線網を利用してのAppleのiPhone販売とあいまって、ベル系電話会社2社(AT&T、Verizon)が、両社がこれまで、金城湯池としてきた携帯電話部門において、急速に守勢に回るに至った象徴的な出来事として捉えることができる。


VerizonWireless、自社ネットワークに顧客持込みの電話機を接続すると発表

 Verizon Wirelessは、2007年11月27日付けのプレスレリースで、2008年末までに、同社ネットワークに対し、顧客が要望する電話端末、アプリケーション、ソフトウェアを利用することができるようにすると発表した(注3)。
 このプレスレリースの中で、同社の会長兼CEO Lowell McAdam氏は、「今回の方針転換は、今後のイノベーション、成長の水準を見定めて実施するものである。当社は、小売店での端末の販売から、利用しやすいサービス・技術支援の提供まで、一貫したビジネスモデルを遂行し、これに成功してきた(筆者コメント:換言すれば、一貫した排他的サービスの提供による加入者の囲い込み戦略)。このビジネスモデルを変換するつもりはない。しかし、携帯電話について異なった経験を求めているユーザもいるため、別の小売店から購入する端末についてのオプションを追加しようとするものである。従来どおりのVerizon社によるフルサービスの顧客および自分の好みの電話機を持ち込むユーザの双方が、今後、米国最大のわが社ネットワークの利点を利用することができよう。」と今回、Verizon Wirelessのネットワーク開放に踏み切った理由を述べている。
 さらに、開放のステップが次のように説明されている。

  • 2008年早期に、Verizon Networkとインターフェイスを合わせた機器のデザインができるように、技術標準を公開する。この結果、最小限の技術標準を満たした機器は、Verizonのネットワークで使えるようになる。
  • 技術標準発表後、標準を説明するためコンファランスを開き、端末開発業者からの意見を徴して、端末の開発を容易にする。
  • 上記の機器は、Verizonの研究所でテストした上で、認証する。

 Verizonの今回の戦略変換について、様々の論評が行われている。さかんに、同社がこれまでの方針を180度転換したものだとか、料金制度も大幅に変わるだろうとかの意見が出されている。
 しかし、上記のVerizon社自体の発表内容に即してみた場合、同社がそれほど革命的な方向転換をしたという印象は受けない。
 筆者なりに理解したところでは、今回の施策の遂行によりVerizonの顧客層には、従来の同社が囲い込んでいるフルサービス利用の加入者層に加えて、同社がテスト、認証したパートサービスの加入者が加わる。主体は、あくまでも前者の加入者層であって、後者がどれだけの加入者層を形成するかは、今後の回線開放の実績を見てからでないとわからない。
 さらに付言すれば、Verizonはほんの数ヶ月前まで、FCCが700MH帯周波数のオークション応募の条件としてネットワーク開放を打ち出したのに反対して、FCCを米国憲法等の法令に違反するとして、裁判所に訴えると宣言した経緯すらある(注4)。

回線開放はすでに行っていると宣言したAT&T

 ところで、VerizonWirelessが回線開放をしたとなると、すぐさま、同社のライバルであるAT&TMobility(AT&TMobilityは、旧Cingular Wirelessである。AT&T、BellSouthが、それぞれ60%、40%の資本を所有していた携帯電話会社Cingular Wirelessは、その後、AT&T、BellSouthが合併したのに伴い、拡大AT&Tの携帯電話部門AT&TMobilityになった)は、回線開放について、どういう方針を取るのかに関心が持たれる。
 この件について、AT&Tから正式の発表はないが、AT&TMobilityの会長、Ralph de la Vega氏は、2007年12月7日、USA Today からの照会に応じ、「当社のネットワークでは、ユーザはいずれの電話機でも利用できる。当社はこれを禁じていないし、監視もしていない」と述べた。
 AT&Tは、Apple社と共同で販売しているiPhoneが、全くApple仕様のソフト、アプリケーションだけしか認めず、幾つものソフト業者と係争を起こしているのは、周知の事実である(注5)。従って、誰しも、AT&TはVerizonと同様に、回線開放については消極的であると推測していたはずである。その最中に、にわかにすでに開放は終了済みと言われても合点がいかないと思うはずである。
 あるニューズレターは、AT&T会長が述べているのは、GSMネットワークの代表的な標準であるSIMカードのことをいうのだろうと解説している(注6)。なるほど、AT&Tが使用しているGSMネットワークでは、音声通話を行う場合、GSM対応の電話機であれば、どの電話機を使用しても、SIMカード(プリペード)により、AT&T回線を使用し、通話した分数に応じた課金がなされる。確かに、限られた範囲ではあるにせよ回線開放は為されているといって間違いではない。しかし、Verizonがこれから行おうとしているのは、前項ですでに説明したとおり、多分、(1)同社の標準であるCDMAに適用できるようにするソフト(2)音声だけでなく、データ、インターネットでの相互互換性を可能にするソフトを機器メーカに開発してもらい、特に、(2)によってVerizonが提供していないソフト、アプリケーションの提供を可能にすることなのである。
 AT&Tは、(2)を実施していないどころか、現段階では、まさに利害関係者からの強い反対を受けながら、なおも強く開放に反対しているのであって、先のAT&TMobility会長の先の発言は、レトリックとしか受け取ることができない。
 もっとも、これまで頑なにiPhoneの使用を自社の2.5世代ネットワーク(EDGE)に限ることを主張し続けてきたAT&Mobilityではあるが、Apple、AT&T両社連合は、3Gネットに適合した機器の開発を行う準備を行っている旨を明らかにしている。

 2007年11月28日、AT&TのCEO、Randall Steven氏は、サンタクララ(カリフォルニア州)におけるある会合での席上で、2008年のしかるべき時点において、顧客は3Gネットワーク上において、iPhoneを使用できるようになるかもしれないと発言した。
 もっとも、Apple側からは、この件に関しての発言はなにもなかった。
 しかし、AT&T要人による上記発言からすると、AT&TMobilityも早晩、iPhoneについて回線開放の方向に動くのではないかとも考えられる。

(注1)2007年8月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「FCC、700MHz帯周波数オークションについて条件設定の裁定を下す」
(注2)2007年11月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「Google、OHA連合により携帯電話業界への大々的参入を発表」
(注3)2007.11.27付けVerizon Wirelessのプレスレリース、"Verizon Wireless to introduce 'Any Apps, Any Device' Option for Customers in 2008."
(注4)2007.9.14 付けhttp://www.electronista.com、"Verizon sues FCC over 700MHz open access terms."
(注5)2007年10月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「Apple社断固として他業者作成のソフトを排除」
(注6)2007.12.6付けCnet News.Com、"AT&T reopens its open network."

テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2007 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.