DRI テレコムウォッチャー


Google、OHA連合により携帯電話業界への大々的参入を発表

2007年11月15日号

 Googleは、2007年11月初旬、携帯電話市場に参入するため、34社(当面)の携帯電話サービス関係企業と連合、OHAを結成すると発表した。
 周知のとおり、同業ITの機器メーカのAppleが新型携帯電話iPhoneを市場に出したのは、2007年6月末のことであった。今回のGoogleの発表により、米国でもっとも成長力が高いIT企業2社が相次いで、携帯電話市場に参入することとなる。この参入が、既存の携帯電話事業者に及ぼすインパクトはきわめて大きい。
 当初、流布されたGPhone(もっともGPhoneの名称はApple側から出たものではないが)は、幻に終わったものの、Googleはみずからもその一員であるOHA連合(Open Handset Alliance)を通じて、オープンな携帯のプラットホームを開発するという。ソフト(OHAが創るオープン・プラットフォームのAndroid)を提供すれば、端末機器メーカは、ディスプレイ等のハードウェア、端末本体のデザインを手がけることにより、端末は製作できるはずである。このやり方で、できるだけ多くのAndroid組み込み電話機をユーザに利用してもらう。ユーザがネット使用の都度、眼に触れる広告から収入を得ようというのが、Googleの意図するところである。つまり、PCで大成功を収めているネット広告収入獲得のビジネスモデルを携帯電話にも適用しようということであろう。
 本論では、Googleのプレスレリースにもとづき、Googleの携帯電話市場参入構想を紹介するとともに、競争業者の反応についても最新情報を提供する。  

Google、34社の関係業者連合により携帯電話プラットホームを作成、携帯電話事業に本格参入すると発表

 2007年8月初旬、ニューヨークタイムスが、Google社が携帯端末(仮称、GPhone)を開発中であるという記事を発表した。以来、3ヶ月以上にわたり、同社がどのような端末を、どのような構想で市場に出すのかについて、様々な憶測が飛び交った(注1)。
 2007年11月5日、Googleは、MobilePlatform部長、Andy Rubin氏によるプレスレリースで、同社の携帯電話への進出の構想についての取り組みを発表した。
 ”Where’s my GPhone?”というユーモラスな名称を付した同氏による短い発表文は、簡明にGoogle社が、今後、どのようにして携帯電話市場と取り組んでいくかの姿勢をおおよそ、次のように示している。(注2)

  • GPhoneは作らない。しかし、業者連合、OHAと共同してLinuxベースの携帯プラットホーム、Androidを開発する。このプラットホームは携帯端末用のオープンかつ包括的なプラットホームであって、OS、ユーザ・インタフェイス、アプリケーションのすべてを含む。この事業は、ただ一個の携帯電話端末を開発する以上に、重要かつ野心的な事業である、
  • Android は、34社のオープン端末連合(Open Handset Alliance、OHA)が協力し合って開発する。OHAには、機器メーカ、キャリア、ソフト開発業者等が含まれている。
  • この連合によるソフト開発が実を結ぶまでには、まだまだ多くの努力と投資が必要であろう。しかし、世界中の携帯電話ユーザの受ける潜在的利便は、この努力に値すると考える。
  • OHAの一部パートナーは、開発されたソフトを組込んだ携帯端末を、2008年下半期には市場に出すことを目標にしている。

 さらに、同日、OHAに加盟する主要企業5社(Google、T-Mobile、HTC、Qualcom、Motorola)の連名により、Googleのプレスセンターから発表されたOHAの声明文は、次のとおり、OHA連合結成の意義を謳っている(注3)。
 「携帯電話は全世界で30億近くの加入者となり、もっともパーソナルでユビキタスなコミュニケーションの機器となった。しかし、共同の努力が欠如しているために、ソフト開発業者も、携帯事業者も、携帯端末のメーカも、賢明な携帯ユーザのニーズの変化に対応することがむずかしくなっている。これら事業者は、Androidを通じて、迅速かつ廉価に、革新的な新製品を市場に出すことができる」。

 ところで、OHAを構成する企業の内訳は、次表のとおりである(注4)。

表1 OHAの構成(計34社)
業種業者名
携帯電話事業者 7社ChinaMobile、KDDI、NTTDoCoMo、T-Mobile、Sprint-Nextel、Telecom Italia、Telefonica
半導体メーカ 9社Intel、NVIDIA、Texas Instrument等
携帯端末メーカ4社HTC、LG、Motolora、Samsung
ソフトウェア会社10社Google、e-Bay、NMS Communications、Qualcom等
その他4社SoNiVOX、Wind River、Aplix等


Googleにエールを送ったFCCのMartins委員長

 FCCは、Googleが携帯電話事業への本格参入の発表を行った翌日の2007年11月6日、早速、プレスレリースでOHAに対し、祝意(ほんの数行のものではあるが)を表した。
 その内容は、「(1)OHAが携帯機器について、オープンプラットホームの採用を定めたことは喜ばしい。(2)私は、先に、700MHz帯の周波数オークションの裁定を行ったが、その際、条件として、オープン・ネットワークの規則を採択した。今後、携帯サービスのネットワーク、携帯端末、アプリケーションの分野で、開放性が高まっていくことを信じている」というものであった(注5)。
 明らかに、FCCは、OHAのリーダとしてのGoogleに対し、エールを送ったのである。
 しかし、もともと、FCCに対し、オープン・ネットワークの規則化を強く迫ったのは、Googleであった。Martin氏の祝辞は、Googleに対し、2007年初頭に予定されている7000MHz帯の応札は、よろしく頼むとのサインであることも間違いはない。

Googleの競争業業者はいずれもオープン・プラットホーム構想に賛成

 OHA(今後も会員増は予想される)に現段階で加入していない巨大キャリア、機器メーカ、ソフト業者が幾社かある。たとえば、Googleのお膝元の米国では、AT&T、Verizon、Apple、Microsoft、欧州では、Nokia、 Symbian(欧州最大のスマートホン製造メーカ)等がある。
 米国4社のOHA参加の可否についての意見を表2に示す。

 

表2 米国携帯電話事業者、携帯電話機器メーカの意見
事業者OHA参加、オープン・プラットホームについての意見
Apple「Googleは、当社の重要なパートナーであって、OHAが結成されたからといって、当社のGoogleに対する姿勢は変わらない。当社CEO、Steve Jobsは、2008年初頭に、SDK(ソフト開発についてのガイドライン)を発表するといっている。」(Appleのスポークスマン、Natarie Kerris氏(注6)
AT&T「AT&T は、携帯ネットワークで6種類ものシステムを運用している。Appleと共同でiPhoneを販売しているからといって、OHAに参加できないということはない。ユーザの要望に応じるため、必要なら、将来、参加することもありうる。」(AT&T携帯部門の最高責任者、Ralph dela Vegas氏(注7)
Verizon「当社は、携帯のアプリケーションがよりオープンになるべきだとの考えに賛同するものであって、OHAへの将来の参加を否定するものではない。」(Verizon Wirelessのスポークスマン、Srteven Zipperstein氏(注8)
Microsoft「OHAは、目新しいことで革新的なことでもない。当社のソフト、Windows Mobileについて、過去5年間行ってきたことである。」(Microsoft Mobile Communicationsのマネジャー、Scott Rockfeld氏(注9)

 AT&TとVerizonは、Googleから、OHA参画の打診を受けたが、断った模様である。しかし、表2の両社代表者の発言から、(1)携帯ネットワークの開放には賛成であること(2)将来のOHA参加の可能性を否定していない点が明らかになった。また、これまで、iPhoneのソフトの自社独占を強く推し進め、これをアンロックする他業者を強力に排除してきたAppleの方向転換にも驚かされる(注10)。
 Microsoftが、Window Microsoftの販売について、地道な努力を長年月続け、一応の成功を収めていることは、わが国ではあまり知られていない。他社との提携についていえば、機器メーカ48社、55カ国における携帯サービス業者、160社、幾千もの独立ソフト業者と連合を結んでいるとのことである。してみれば、表2で紹介した同社Scott Rockfeld氏の自負に溢れた発言も首肯できる。

 実のところ、AT&TにせよVerizonにせよ、自社が投資して作ったネットワークは、できるだけ開放せず、自社が最善と考えるサービスをこのネットワークに掲載し利用者に使ってもらうという志向が、これまでは強かった。
 ところが、表2のVerizon、AT&T、Appleのスポークスマンの発言からすると、これまでのネットワーク、端末の開放についての強固な反対業者の態度が180度、変わってしまったのである。
 注7で引用した11月12日付けのニューヨークタイムス紙は、(1)iPhoneの与えたインパクト(2)IT企業(シリコン・バレー)の事業の運営の仕方に比べると、AT&T、Verizon等の独善的、かつ顧客志向でない旧態依然たる従業員の態度が極めて大きい反感を買っており、巨大キャリアの側も、独善的な事業運営のやり方を刷新しないとシリコンバレーIT企業との競争に負けてしまうことを自覚し始めたと述べている。しかも、この変化はここ、数ヶ月のことだという。興味深い指摘である。

(注1)2007年8月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「FCC、700MHz帯周波数オークション条件設定の裁定を下すーGPhoneは実現するか」
(注2)2007.11.5付けThe Official Google Blog,”Where’s my GPhone?”
(注3)2007.11.5付けGoogle Press Center,”Industry Leaders Announce Open Platform for Mobile Devices”
(注4)同上に列挙されている企業名の大半を表にまとめた。
(注5)2007.11.6付けFCCのプレスレリース、“Chairman Martin’s statement on Open Handset Alliance on open platform for mobile phone”
(注6)2007.11.5付けhttp://www.information week.com,""google’s Android Open Handset Alliance Challenges incumbents”
(注7)2007.11.17付けNew York Times,”Cellphone Straitjacket is inspiring a rebellion”
(注8)2007.11.6付けhttp://www.tpmcafe.com,”The Case Of The Missing Google Phone”
(注9)2007.11.5付けhttp://www.informationweek.com,”Google's Andrid open Handset Alliance Challenges Incumbents”
(注10)2007年10月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「Apple社、断固として他業者作成のソフトを排除」

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