DRI テレコムウォッチャー


iPhoneの販売、2007年次第3四半期のAT&T業績に大きく貢献

2007年11月1日号

 AT&Tは、2007年10月23日、2007年次第3四半期の決算を発表した。収入は301.3億ドルで、前年同期に比し3.2%の増である。利益は30.6億ドルで、前年同期比40%アップした。同社は、2007年の毎四半期、前年同期対収入増、利益増を実現した。2桁台に入った利益率確保とともに、総体として申し分のない好業績である。
 2007年春、Whitacre氏の後を受けて、AT&TのCEO、会長に就任したRandall Stevens 氏は、「本期当社の業績は素晴らしいものであって、2007年末までの、さらに2008年以降のAT&Tについてのわれわれのポジティブな事業見通しを補強するものである」と強気の発言を行った(注1)。
 しかし、AT&Tの2007年第3四半期の業績をワイアライン、ワイアレスごとに、前期(2007年第2四半期)および前前期(2007年第1四半期)の業績と対比して分析してみると、Stevens氏の発言とは裏腹に、AT&Tの収入構造が大きく変化していること、また、長期的に見たAT&Tの業績が必ずしも安泰であるとはいえない実態が伺える。
 筆者の分析結果の要約は、次の諸点である。

  • ワイアライン部門は、前期に比し、わずかながら減収であった。また、利益は大きく落ち込んだ。これは、アクセス回線減少に伴う収入、利益の減を専用線、マネージド・ネットワーク、ブロードバンド等の新サービスで埋め合わせることができなかったことを意味する。さらに、ブロードバンド分野では、前期、前前期に比し、DSL回線増がきわめて低調であった。インターネット利用のビデオ、U-verseの加入者数も、まだ20万に満たない。
  • ワイアレス部門は、2007年第3四半期に200万の加入増、増収、増益を達成し、きわめて好調であった。AT&Tは、2007年6月末からスタートしたApple社と共同のiPhoneの販売実績を、今回初めて発表した。2007年9月末現在で、稼動させているiPhoneは110万であるという。発売開始の6月28日から同月末までの販売数は20万強と見られるので、2007年第3四半期の販売数は約90万と見てよいだろう。
  • AT&Tの業績向上にはBellSouth統合に伴うシナジー効果に基く経費節減が大きく寄与している。2007年第3四半期、このシナジー効果によるコスト節減分(経費で70%、投資で30%)は、28億ドル(2007年総体のシナジー効果分は30億ドル)であった。
  • 要するに、AT&Tは、2007年第3四半期において、ワイアライン部門の不振をワイアレス部門の躍進(その大きな部分はiPhoneの成功による)とシナジー効果によるコスト節減によりカバーし、好業績を挙げたということができる。この2つの要因は、今後2、3年、AT&Tにプラスに作用するであろう。iPhoneについては、販売がますます加速するだろうとの強気の観測がもっぱらであるし、2008年次、2009年次のシナジー効果については、AT&T自らが、それぞれ50億ドル、60億ドルと2007年次を大きく超える推測値を出しているからである。しかし、AT&Tは本来、ワイアレス部門では、ブロードバンドからの収入に大きく期待していた。このブロードバンドの伸び率が、今期、失速とみられるほどの成果しかあがらなかったことは、同社の将来に大きな影を投げかけるものといってよかろう。
 以下、本論では、上記の点につき、AT&Tの決算数値に即してさらに解説する。  

2007年第3四半期のAT&Tの業績―同年第1・第2四半期との比較

表1 2007年第1−3四半期のAT&Tの収入、利益(単位:億ドル)
項 目2007年第3四半期2007年第2四半期2007年第1四半期
ワイアライン(固定)
    収入    
部門利益  

179.4
15.1

179.93
31.1

179.86
28.9
ワイアレス(携帯)
    収入    
部門利益  

109.4
19.3

103.9
15.5

99.97
14.8
電話帳・その他
    収入    
部門利益  

20.2
7.6

20.4
6.2

19.9
7.2
総収入・利益
    収入    
    利益    

301.3
30.6

294.8
29.0

289.7
28.5
1.上表はすべて、AT&T各期の決算資料から作成した。当初3項目の部門別収入、利益の計と第4項目の総収入・利益とは合致しない。これは、総収入・利益では、部門間のダブル計上を控除した会計操作を行ったからであろう。
2.決算では、電話帳とその他は、それぞれ別個に表示されている。本項の説明ではそれぞれを紹介するほどの意味もないので省略した。なお、その他の主要な項目は、海外投資から得られた収入・利益である。AT&Tは、BellSouthを吸収したため、同社が所有していたラテン・アメリカの巨大携帯電話会社、Telmex、America Movilの株式をいくらか所有している。AT&Tは、これら両社に対する持株比率を決算報告で示しておらず、ことほどさように海外進出には無関心なのである。

 表1から、読み取れる主要点は、次の2点である。

  • 2007年第1四半期から第3四半期までの3回の中間決算において、AT&Tは毎期、わずかずつではあるが、収入、利益を着実に伸ばした。しかも、2桁の純利益比率をほぼ維持している。
  • 部門別に見ると、ワイアライン(固定通信部門)では、2007年第3四半期、前期に比し、収入は微減、利益は大幅に下がった。これに比し、ワイアレス部門は、収入、利益の双方ともに、かなりの伸びを示した。つまり、収入の大勢を占めるワイアライン部門の不調をワイアレス部門でカバーするという結果が生じている。
 次項では、上記に示した現象がどのようにして生じているのかを、さらに検討する。

ワイアライン部門 - 依然として持続する加入者数の減とブロードバンドの不振

 表1で明らかなとおり、ワイアライン部門の収入は、第2四半期に、前期に比し少し好転したものの、第3四半期にはまた減少に転じた。
 この根底には、依然として歯止めがかからないアクセス回線数の減少がある。総アクセス回線数は、2007年第1四半期の6,540万から、同年第2四半期の6,407万へと2.1%減少した。2007年第3四半期には、同年第2四半期に比し、さらに6,287万へと、多少減少率が低かったものの、1.9%の減少を示している。
 BellSouthを吸収したAT&Tは、4000万台のVerizonを大きく引き離し、米国最大のアクセス回線所有キャリアであるが、四半期ごとに100万回線を優に超えるこの減少が続けば、2008年半ばには、総アクセス回線は5000万台に転落しかねない。
 ワイアライン部門におけるこのアクセス回線の減少による収入、利益の減をこれまで食い止めてきたのは、ビジネス部門の専用線、VIP、マネージド・ネットワーク等の販売、さらには他のキャリアに対する卸売りである。AT&Tは、この分野では大きく成長しており、住宅用加入者部門の収入源をカバーしてきたが、2007年第3四半期には終に支えきれず、前期に比しての大幅な部門利益減(31.1億ドルから15.5ドルへと約半減)を生み出すこととなった。
 ところでAT&Tは、ここ数年来、DSL、U-verse、あるいは2大衛星事業者(EchoStar、Direct TV)と提携してのブロードバンド、とりわけビデオ・ブロードバンドの提供に力を入れているのであるが、表2に見るとおり、これらサービスの伸びは鈍っている。特に、2007年第3四半期におけるDSLの伸びの減少は著しい。
 実のところ、AT&Tの最大のライバルComcastのブロードバンド加入者の同期における増率も低下してはいる。しかし、2007年四半期ごとのDSL伸び率の低下からしてみると、ケーブルテレビ会社とのDSLによるブロードバンド加入者獲得の戦略は、破綻しつつあるのではないかとすら思われる。
 ブロードバンド・ビデオ加入者の獲得も、月間20万程度の数字では、ケーブル加入者に対してはもちろんのこと、FiOSによりじわじわと高速ブロードバンド、ブロードバンド・サービスの加入者数を伸ばし、この分野での実力をつけているVerizonに大きく差を付けられている。
 

表2 2007年第1−3四半期のAT&Tのブロードバンド加入者増加数(単位:万)
項 目2007年第3四半期2007年第2四半期2007年第1四半期
DSL27.436.168.1
ビデオ加入者数21.520.018.7
U-verse12.65.11.3
1.AT&Tは、2007年第2四半期以来、四半期別、DSL加入者の増加数を発表していない。上表の第2、3四半期のDSL増数は、推計値(発表されたブロードバンド数−U-verse)であるが、正しい数値であると考える。
2.ビデオ加入者数は、U-verse+衛星事業者(EchoStar及びDirect TVの両社)と提携してAT&Tが獲得、サービスを提供している衛星ビデオ加入者数である。表2には計上しなかったが、衛星契約加入数は、ビデオ加入者数−U-verse加入者数により、容易に推計できる。U-verse加入者数に比し、衛星業者提供ビデオの加入者数がはるかに多いことに注目されたい。

iPhone販売好調による収入増、ワイアレス業績に大きく貢献

 不調であったワイアライン部門に比し、収入、利益ともに大きな成長を示したのは、ワイアレス部門である。この部門の収入は109.4億ドルと、前年同期に比し14.4%、前四半期に比し5.95%と大幅な成長を示した。部門利益も大きく伸び、絶対額において初めてワイアラインの部門利益を上回った。
 今期、AT&TはiPhoneの販売数を発表し、Apple共同販売によるこの新型スマートホンの販売が極めて好調であって、ワイアレス部門の今期の好調を支えていることを明らかにした(注2)。
 AT&Tは、2007年第3四半期、200万の加入者数を増やし、総加入者数は6570万となった。200万の加入者数増は、同社としては最大の数字である。また、AT&Tは、10月23日までに110万の加入者数を稼動させたとしている。9月末の数日間で、販売されたiPhoneの販売数は20万程度であるから、9月末現在のAT&TのiPhone加入者数は、90万台と見てよいだろう。実のところ、Apple社が発表した2007年9月末までの販売数は140万であって、AT&Tの数字と符合しない。明らかに、この差異の大半は、iPhone購入後、ソフトの改変によるアンロックにより、他の携帯キャリアに移行した加入者によるものと推定される。AppleのCOO、Tim Cook氏は、iPhoneが販売されて以来、25万台のアンロックが発生していると推計している(注3)。この数字は、ほぼApple発表の販売iPhone数とAT&Tの稼動iPhone数の差に見合う。もっともアナリスト達は、業者たちの凄まじい宣伝活動にもかかわらわず、実際にアンロックされているiPhoneの台数はもっと僅少だと見ていたようであるが。
 このiPhoneの販売数の増加は、Verizon、Sprint/Nextel、T-MobileUSA等の競争業者に相当の影響を与えている模様である。Verizonは、iPhoneが市場に出て以来、たえず同社の携帯端末に影響はないと強がりをいってきたが、同社の2007年第3四半期における携帯電話加入者の増数は160万であって、AT&Tの増数を下回った。これまで、AT&Tのワイアレス部門は、加入者数ではVerizonを抜いていたものの、ネットワークの高度化、サービスの品質において、相当程度Verizonに劣っているとの評価がなされていた。今後、iPhoneの販売好調が持続すると、携帯電話分野における両社の力関係が、AT&Tに有利な方向に転換する可能性もあるだろう。

(注1)2007.10.23付けAT&Tのプレスレリース、“AT&T delivers Strong Third Quarter Results; Growth Highlighted by Robust Wireless Gains,Advances in Enterprises TV Ramp.”
(注2)2007年10月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「Apple社、断固として他業者作成のソフトを排除」。ここで筆者は、Appleの売り上げがきわめて好調であるとの一般のアナリストの推測を紹介したが、今回のAT&T、Apple両社の決算による発表によって、この推測が始めて裏付けられたことになる。
(注3)2007.10.30付けhttp://www.laptoplogic.com,”250,000 Unlock iPhone.”

テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2007 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.