DRI テレコムウォッチャー


Apple社、断固として他業者作成のソフトを排除

2007年10月15日号

 Apple社は、当初予定より少し遅れたものの、英国のO2社およびドイツのT-Mobile社、さらにはフランスのOrange社とiPhone販売についての提携協定を締結した。11月初旬から中旬にかけて、いよいよ米国に引き続き、英国、ドイツの市場にもiPhoneが登場することとなる(注1)。
 iPhoneは、競争業者からの強い嫉視の下に着々と売り上げを伸ばしており、観測筋の多くは、販売推計を続々と上方修正している。まず、本年9月までに200万台を売りさばいたのは確実だと見られている(注2)。Apple社の総帥、Steve Job氏が念願とするMac、ipodと並んで、iPhoneをApple社事業の3本柱のひとつに据えようとの構想は、着々と実現に向かいつつある。
 他方、Apple社側からのiPhoneソフト侵犯業者に対する9月末の強硬措置ー第3者ソフトを使用しているユーザにはiPhoneのバージョンアップソフトを使用させないーは、またまた米国ジャーナリズムを大きく賑わせる話題となった。当初から、iPhoneはセキュリティーに弱く、第3者業者からのソフト侵犯は容易だと言われてきた。この危惧は的中し、9月中旬には、第3者業者による有料、無料のソフトが市場に出回り、iPhoneをめぐる裾野産業が形成され掛ける様相を呈するようになった。今回のApple社の阻止は、こういった第3者業者による動きに対する強力な対抗措置である。
 つまりApple社と、iPhoneソフトをAppl社の許可なく開発、販売する第3者業者との抗争が本格的に始まったのであって、本論で紹介するとおり、緒戦はApple社の圧勝に終わったということができよう。
 本論では、この件をさらに詳しく紹介する。  

Apple社、更新ソフト1.1.1によりiPhoneをアンロックした第3者ソフトをロック

Apple社、ユーザに対し第3者ソフトを使用しないよう警告
 2007年9月4日、Apple社は、同社が認めていない第3者のソフトを違法に利用しているユーザがいることを指摘、これらユーザに対しては次のような措置を取ると警告した。
 その内容(ほぼ、全訳)は次のとおり(注3)。

  • 現在、市場には、当社が認めていないiPhoneアンロック・ソフトがインターネット上で数多く利用できるようになっており、iPhoneのソフトに回復できない損害を与えている。
  • これら第3者ソフトは、当社のソフト改訂版がインストールされる機会には利用できなくなる。
  • 今週末には、当社は、iTuneによりWi-FiMusic Storeを利用できる機能をも含め、多くの新機能を備えた更新ソフトをレリースする予定である。
  • 当社は、iPhoneユーザに対し第3者のアンロック・ソフトを使用しないよう強く勧告する。
  • 所有するiPhoneのソフトに対し、当社が認めない改変を行うユーザは、iPhoneソフトのライセンス協定に違反するものであって、これらユーザの保証は、無効となる。
  • アンロック・ソフト使用の理由により永久にiPhone利用ができなくなっても、iPhone保証でカバーされない。

第3者iPhoneアンロック・ソフトを圧殺した更新ソフト1.1.1

 Apple社は、9月27日(木曜日)、迅速に警告を実行に移した。この日、Appleは、幾点もの新機能を付加した更新ソフト1.1.1をレリースしたのであるが、このソフトをインストールすると、第3者ソフトが再度ロックされたことが確認されている。
 ニューヨークタイムス紙は、ソフト1.1.1は、iPhoneをオシャカ品(誰が付した名称であるかはしらないが、いわゆるIBrick)にするものではないにせよ、旧ソフトに対する新ソフトの付加に加えて、第3者業者によるソフトを再ロックする機能がある点を指摘した。そして、今後iPhone利用者は次の二者択一の選択をしなければならないだろうと指摘した(注4)。

  • Apple社が意図するとおり、同社お仕着せのソフト、アプリケーションの利用に甘んじる。
  • 第3者ソフト、アプリケーションを利用する。しかしその代償として、今後Appleの更新ソフトは利用しない。

 上記のApple社の対応策の効果は、迅速に現れた。
 早くも10月初旬、あるアナリスト(PiPer Jaffray社のGene Muster氏)は、ソフト1.1.1レリースにより、第3者事業者のソフト販売活動はストップしたと断定した。
 その大きな証拠として、同氏は、出現し始めていたアンロックiPhoneの再販市場の崩壊を挙げている。2007年9月中には、アンロック・ソフト(多分、その中核はATTバイパス・ソフト)を付加したiPhoneの再販売市場が成立しつつあり、Apple小売店では、5台単位(一人のユーザに売却できるマクシマム台数)のiPhone端末を求める顧客が多く現れたのであるが、10月にはこの動きはなくなったという事実を挙げている(注5)。
 もちろん、第3者業者の側も手をこまねいているわけではない。Gizmode、Endgadget等、IT機器の情報紙は、iPhoneの今回の行為の不当性を訴え、第3者業者は再度のアンロック・ソフトを目下、開発中であると再三再四、報道している。しかし、AT&Tバイパスのロック機能を再ロックするソフトの開発はなかなか難しい模様であって、現在のところ、第3業者グループ側はApple社の猛攻の前に完敗したといってよい。

批判を受けるAppleのiPhoneソフト囲い込み政策

 ところで、第3者業者のiPhoneアンロック・ソフトは、大別して2種のものがある。その1つは、iPhoneのAT&Tネットワーク専用機能を解除してしまい、iPhoneのユーザが、AT&T以外の携帯電話会社の通話も、それぞれの会社のSIMカードにより利用できるようにするものである。AT&Tネットワークの排他的利用こそが、iPhoneとAT&Tとの契約の基本であり、この契約を不履行にさせる第3者ソフトの販売は、iPhoneがユーザに交付している契約約款にも違反するものであるからApple社としては、到底これを容認できるものではない。なお、携帯電話以外の機能に惹かれて、iPhoneを買ったユーザからすれば、AT&T以外の携帯電話事業者を選択できるソフトはきわめて魅力的なものである。たとえば、国際携帯電話を多く利用できるユーザには、欧州に自前ネットワークを有しているため、同地域への通話が安い(ローミングを要しないため)T-Mobile USAへの移行を望むユーザが多数いるという。このソフトは有料で、40から50ドル程度のものであるが、確かにこれだけの料金を払っても、元は取れてあまりあるであろう。
 今ひとつは、それ以外のソフトであって、おおむね、ユーザがiPhoneを利用する便宜を助けると思われるものである。Apple社がこのソフトの第3者提供を禁止している点については批判が強い。
 批判の基本は、コンピュータ端末に近い性能を持つiPhoneが第3者提供ソフトをすべて締め出すことが、果たしてユーザの便宜に適うものであるかどうかという点にある。たとえば、Microsoft社のPC基本ソフト、Windowは、Bill Gates氏の強い独占志向により運営されているものの、到底、第3者ソフトを排除できるものではなく、現に、無数の第3者ソフトの掲載を認めてきたことによって、Window自体の成長にも寄与してきたという経緯がある。Steve Job氏自身、AT&Tとの協定あるいは、ユーザとの契約約款により、第3者ソフトを締め出す方針を強行に取っているのであるが、この方針は、家電業界にこそ適用されるかもしれないが、コンピュータ機能が強いiPhoneには不適切であるという点が強く指摘されている(注6)。
 当面、(1)第3者ソフト業者の力が脆弱であって、ネット上での批判こそ数多く行ってはいるものの、実際にはApple社に対抗できないこと。また、第3者ソフトを利用しているユーザは、多分、数千人のオーダであって、100万を超えているiPhoneユーザのほんの一部にしか過ぎず、大方のユーザはApple社の方針に忠実であること(2)最終的には、iPhone、第3者ソフト業者ともに、それぞれiPhoneソフトの排他的保持、第3者ソフトの有償、無料のユーザへの提供のいずれが合法かいなかについて訴訟で決着をつけることができるわけであるが、当面、両陣営ともに、この最後の手段に訴えてこの案件を解決する段階には至っていないという事情がある。したがって、この大きな問題にどのような決着が付くかは、さらに今後に経過を見定める要があろう。

欧州携帯業者3社、11月からiPhoneを市場に投入へ

 欧州の主要携帯電話会社3社(O2、T-MobileDeutshland、Orange)は、いずれも2007年9月初旬にそれぞれ、本拠とする英国、ドイツ、フランスにおけるiPhone排他的提供契約をApple社と締結した。おおむね、AT&TがApple社と結んだ契約と同様の内容のものである。Apple社、各携帯電話会社ともに、まだこの件について公式の発表を行っていない。ジャーナリズムの報じるところを集約すると、その骨子は次表のとおりである。

表 携帯電話3Apple社とのiPhoneの販売条件
携帯電話会社Apple社とのiPhone販売条件等
O2販売開始は11月9日。価格は269ポンド(536ドル)。販売区域は英国。AT&Tの場合と同様、Appleに対し、電話料収入の10%のコミッションを払う。ユーザのO2との契約期間は18ヶ月。02は、英国においてVodafone、Orangeに次ぐ第3位の携帯電話会社であり、加入者数は1780万。ユーザは、英国の7500箇所のWi-Fiホットスポットを利用できる。又、英国最大の携帯小売業者、Carphone WarehouseがO2直営の販売店とともに、iPhoneの販売に当る(注7)。
T-Mobile販売開始は11月9日。価格は399ユーロ(556ドル)。AT&Tとの料金分収の条件は不明。T-Mobileは、ドイツ国内の8600 のWi-Fiホットスポットを利用できる。また、T-Mobileは同社が携帯電話サービスを提供しているドイツ以外の国(ハンガリー、オーストリア、クロアチア等)でも、サービスを提供するようApple社と折衝している模様(注8)。
Orange販売開始は11月末。その他、細部はすべて不明(注9)。

 ところで、英国、ドイツ、フランスの3国はある意味で米国以上に携帯端末の販売競争が激しく、ユーザの要求も強い国々である。クリスマス商戦にかかる時期でもあり、ノキア、エリクソン/ソニー、サムソン等の携帯電話メーカは、iPhoneの機能を十分研究し尽くしたうえで、iPhoneの攻勢に対抗しようとしている。したがって、iPhoneの販売が米国におけるように、早期に成功するかいなかは定かでない。

追記
 本文執筆後、Apple社による第3者事業者に対するソフト禁止戦略は違法であるとする趣旨の提訴が、2件(1件は連邦裁判所に、1件はカリフォルニア地方裁判所に)提起されたとの情報がネットで発表されている。
 今後、さらに類似の訴訟提起が予想されるのであって、Apple社と第3者事業者との争いは、早くも法廷闘争に持ち込まれる段階に至ったわけである(もっとも現段階では、訴訟提起はユーザ代表を標榜する個人あるいは企業からなされている)。

(注1)2007年9月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「Apple、欧州3携帯電話キャリアとiPhoneに関する販売協定を締結へ」
(注2)2007.10.24付け、ComputerWorld, ”iPhone update puts kibosh on unlock market.”
(注3)2007.9.4付け、http://biz.yahoo.com, ”Apple today released the following statement.”
(注4)2007.9.27付け、ニューヨークタイムズ、“Steve Jobs Grids for the Long iPhone Wars.”
(注5)2007.10.4付け、Computer World, ”iPhone update puts kibosh on market."
(注6)この趣旨の論は、多くのネット紙で見られるが、たとえば2007.9.28付け、PCWorld, ”Apple’s Options for Stopping open Source iPhone Use.”
(注7)主として、2007.9.19付け、Bloomberg.com,”Apple Says iPhone to be sold in the U.K.with O2”によった。
(注8)2007.9.20付け、ニューヨークタイムズ、“Deutsche Telekom to Offer IPhone in Germany.”
(注9)2007.9.20付け、http://www.news.com,”Orange clinches French Apple iPhone deal.” この記事は、FT(フランステレコム)のCEO、Didier Lombard氏がハノイで述べた談話だとして紹介したものである。FTは、Apple社とiPhone販売について協定を結んだのは確かであるが、他の2社と異なり、締結までに多大の交渉を積み重ねた模様である。また、締結したという事実以外、その内容は一切漏れていない。

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