DRI テレコムウォッチャー


FCC、BOC3社に対する長距離通話サービスのドミナント規制を撤廃

2007年9月15日号

 FCCは、2007年8月31日、BOC3社(AT&T、Verizon、Qwest)の長距離通話サービスに対して課されていたドミナント規制(市場支配力が強いという理由で、分離子会社要件、料金規制等FCCによる規制を課すること)を撤廃する裁定を行った。沿革的に見ればFCC規制の重要な改定であるが、このFCC裁定は米国の主要メディアで取り上げられることがなかった。ことほどさように、10年ほど前まで電気通信の花形であった”音声長距離電話通信サービス”は、今や携帯電話サービス、VoIPサービス、Eメール等の代替サービスの拡大に押されて、重要度が低くなった。
 今回のFCC裁定は、次の2点において注目に値する。
 第1は、BOCの長距離電気通信サービス提供は、独占的であるがゆえにドミナント規制を課する必要があるという1996年電気通信法により規定された原則を否定したことである。幾つもの代替サービスの提供により、長距離通信市場の競争は高まっているのであって、こういった市場変化を踏まえたFCC裁定のこの結論は当然のことと言える。
 第2は、ドミナント規制の撤廃は決して無条件なものではなく、3BOCに対する条件の賦課、3BOCからの誓約(3BOCが自ら提案した条件の遵守を約束すること)を伴ったものであることである。この付帯条件は、Martin委員長の本意ではなかったと考えられる。その証拠は、この裁定では委員長を除く4名のFCC委員が声明を発表しているが、Martin委員の声明が欠けている点から明らかである。Martin委員長は、これまで規制撤廃をするときにはなんらの条件を付さないで行うことを原則としており、2006年末までには、現に、このような裁定を実現してきた。この方式が行われないようになったのは、2006年12月末に下されたAT&TとBellSouthの合併についての裁定からである。すでに、2007年初頭の当ニュースレターで詳しく紹介したように、両社の合併に当ってはAT&Tは、Net Neutrality原則の外多くの条件(そのうち多くは、AT&Tの意に沿わない)を受け入れることを余儀なくされた(注1)。今回の裁定も同様の規制スタイルが踏襲されたのであって、この事実は、中間選挙での議会における民主党優位の背景の下に、FCCにおいても、民主党委員(2名の少数派)の意見を尊重しなければ裁定がくだせなくなった事実を示す。議会におけるレームダック化のFCCへの反映というべきであろう。

 以下、本論においては、今回の裁定の骨子と裁定に付された条件(逐一解説をするスペースがないので、特に長距離通話低利用者に対する3BOCのコミットメントに重点を置く)を紹介する。

ドミナント規制撤廃の骨子

 BOC3社に対するFCCドミナント規制撤廃裁定(2007.8.31)の骨子は、次の通りである(注2)。

1.背景
 1996年に制定された改定電気通信法において、BOC7社(1983年にAT&Tが分割された当時も、1996年にも、BOCは7社であった)は新たに長距離電気通信サービス(自社営業エリア外)を提供する場合には、(1)分離子会社によるか(2)そのままの組織で行うか選択を迫られ、しかも、(2)の場合には、ドミナント規制(支配的事業者として、料金規制等煩瑣な規制に服する義務を負う)に服する要件を課された。
 その後、BOC7社は、合併、統合を進めるとともに、次々にFCCに対し長距離電話市場への進出の申請を行なった。1990年代のうちに、そのすべてが長距離通信市場への進出を果たした。
 1996年電気通信第272条には、長距離電話サービス分野への進出に伴う分離子会社要件、ドミナント規制の賦課は、これらBOCが長距離通信市場に進出して後、3年後にFCCが見直すことと定められている(いわゆるsunset条項)。FCCは、この規定に従って、2002年5月、見直しの調査を開始した。他方、Qwestは、同社に対するドミナント規制を撤廃してほしいとの要請をFCCに対し行い、FCCは、2007年2月、Qwestに対し、同社に対するドミナント規制を条件付きで解除する裁定を下した(注3)。2007年6月、AT&TもQwest同様に、同社に対する長距離電話サービス提供にさいしての規制緩和を要請した。
 こうしてFCCは、自社が2003年初頭に開始した調査の結論を出す点からも、またAT&Tの要請に応じるためにも、競争進展の新たな状況下における3BOCに対する長距離電話サービス提供に対する新たな規制の枠組みを整えざるを得なくなった。2007年8月31日に下されたFCC裁定は、これらの要請にこたえるものであった。
 すでに述べたとおり、Qwestに対する裁定は2007年2月に下されていたが、今回の裁定は同社に対しても当然に適用されるものであり、Qwestに対する旧裁定は、今回の裁定により置き換えられたものと理解する(FCC裁定に、この件についての明文は見当たらないが)。

2.裁定の骨子
(1)ドミナント規制の撤廃とその理由
 FCCは、3BOCが長距離電話サービス(州内、州際、国際の長距離通話を含む)の提供を分離子会社によろうとよるまいと、ドミナント規制なしに提供できるようにする。
 この裁定を行った理由は、(1)ここ数年来、長距離電話市場での競争が激化してきており、3BOCの市場占有率のレベルがさほど大きくないためである(筆者注:FCCは、今回の調査の目的のため、米国の各地域別の3BOCのトラヒック調査を行った。ところが、肝心のこの資料を公開していない。これは、3BOCの市場シェアが実は未だかなり高く、FCCは利害関係者からの批判を恐れたためではないかとも考えられる)。(2)また、長距離通話サービスの多くは、現在、市内通話とのパッケージサービス(BOC59%、他の競争長距離電話事業者85%)として提供されており、競争は熾烈である。(3)現在、多様な通信手段が発達、進展しており、携帯通話、VoIP、Eメール等が、長距離音声通話を代替している。従って、この要素を勘案すると、3BOCの実際のシェアはかなり低くなっているものと想定される(筆者注:FCCは、この件については推計を行わなかったと述べている。ラフな推計値でも提示してほしかった)。
(2)スペシャル・アクセスに対するドミナント規制は継続
 ドミナント規制の撤廃は、ユーザに対する一般通話に対し行うものであって、競争業者に対する特別アクセスサービス(競争業者に対する長距離サービスの卸売りの性格を持つ)の提供については、従来どおりドミナント規制(主たるものは、FCCによる料金規制)を継続する。競争業社は、スペシャル・アクセスの大半を3BOCに依存しているからである。
(3)3BOCが市内通話部門を支配していることによる歯止め条件の設定
 ただし、3BOCは、それぞれの営業区域における市内通話部門において、ほぼ独占に近い市場支配力(いわゆるbottleneck)を有しており、3BOC自体もこの事実を否定する証拠を提出することができなかった。
 このbottleneckにより特に懸念されるのは、パッケージサービス(市内通話+長距離通話)を利用しないで、市内通話の他、時たま長距離サービスを利用するユーザである。これらのユーザーは競争市場にいないので、放任しておくと3BOCが多額の料金請求を行う危険性がある。FCCは、このため、3BOCから、これらユーザに対し、一定期間、低料金でサービスを提供するという誓約(コミットメント)を取り付けた。この内容を表1に示す。

表1 3BOCが遵守を約束した長距離通話艇利用者に対する料金抑制措置
BOC低利用加入者に対する市外通話抑制の誓約
Qwest
1.現在、比較的長距離電話の利用が低い加入者に対する料金プランが2組ある。この2組の料金プランを2年間変更しない。
2.とりわけ、両プランの1分当たり料金を据え置く。
また、1組の料金プランについて、月額固定料金を課さない。
他の1組の料金プランについては、1ドルを超えた月額固定料金の引き上げは、行わない。
Verizon、AT&T
1.市内アクセス回線を有する住宅用加入者は、月額固定料金を支払うことなく、分当り、12セントで通話できるようにする(現状の料金制度の変更であるかいなかは、明言なし。多分、変更であろう)。
2.現在、提供しているコーリング・プランの一つに対し、月額固定料を1ドルを超えて引き上げることをしない。
上記は、FCC命令発効後、3年間実施する。

FCC委員4名の声明

表2 FCC委員の声明概要
FCC委員声明概要
Copps、Adelstein(D)この命令は、BOC3社が、この命令で定められた歯止め措置(safeguard)を守ることを条件として、分離子会社要件によることなく、長距離電話サービス提供を認めるものである。
FCCは、電話サービス市場の変化を考慮に入れなければならないのであって、われわれは、この命令に盛り込まれた要件、3社が行った誓約を条件として、FCCの救済措置を指示する。
FCCは、これまでBOC3社に課していたユーザに対するイコールアクセス情報提供(equal access scripting)の義務について、規制の差し控えを行った。われわれは、ユーザが有する重要なツールをうばわれるべきではないと考えるので、FCC命令のこの部分には、同意しない。
Tete(R)この裁定において、FCCは、BOC3社に対する新たな管理の枠組みを定めた。この枠組みは、市場の要求に対し効率的、効果的に対処するとともに、コストが嵩むわずらわしい規制を減らしていこうとする綿密なバランスの取れたアプローチを採用したものである。
McDowell(R)Tete氏と同趣旨の意見を述べているほか、独立系市内電話事業者の規制についても、次の趣旨の意見を述べている。
つまり、独立系市内サービス事業者は、引き続き、ドミナント規制に服しているのであるが、これら事業者の競争状況を調査して、規制緩和の方向を検討すべきではないかという。
 *FCC委員名に引き続く括弧名のD及びRは、それぞれ、民主党、共和党を示す。

 上記は、今回のFCC命令に対するFCCの4名の委員の声明の概要を示したものであるが、これから、FCC委員長、2名の民主党委員、2名の共和党委員のFCC命令についてのスタンスが読み取れる。主要点は次の3点である。

  • FCC委員長Martin氏は、この命令に賛成でないと推測される。
     FCC委員長Martin氏は、声明を発表していない。これは、異例のことである。同氏は、歯止め条件を一切付けず、BOC3社のドミナント規制を撤廃するという歯切れの良い命令を発出したかったはずである。共和党3名、民主党2名のFCC委員構成の下では、これは可能であった。しかし、民主党議員が多数を占め、同じく電気通信関係委員会の委員長ポストを民主党が握っている情勢の下では、この委員会の将来の喚問を押し切って、Martin氏の意向を端的に反映する裁定は下せなかったものと推察される。

  • この命令の事実上の策定者は、民主党員、Copps、Adelsteinの両氏である。
     両氏の声明文がトップに置かれていること、その内容があたかも、委員長が書くにふさわしいほどの充実度を示している点からして、この命令の事実上の策定者は、Copps、Adelstein両氏であることが明らかである。両氏は、イコールアクセス情報提供が、規制の差し控えになった点について、合意していないが、これは、両氏にとってたいした譲歩ではない。多数派の共和党委員3名に対するリップサービスとも受け取れる。

  • 民主党委員2名は、3BOCの規制に傾き、共和党委員2名は、規制撤廃に傾いている。
     4名の委員ともに、原則、規制を撤廃しながら、主要点について歯止め条件を付するという新規制の方式を支持している。しかし、声明文から民主党委員=規制存続を原則、共和党員=競争に全面的に信頼という基本的な立場の差異は明らかに、感じられる。在任期間が一番短いMcDowell氏が規制緩和にもっとも、積極的であるのは、将来展望として、市内電話事業者田提供するサービスの規制緩和の検討に言及していることからも明らかである。


(注1)2007年1月15日号DRIテレコムウォッチャー、「FCC、2006年末にAT&TとBellSouthの合併を承認―大幅な譲歩を余儀なくされたAT&T」
(注2)2007.8.31付け、Report and order and Memorandom Opinion and order (In the Matter of Section272(f)(1)Sunset of BOC Separate Affiliate and Related Requirement)
(注3)2007.2.20付け、FCC public Notice,FCC conditionally Grants Qwest Forbearance Relief From Dominant Carrier Regulation of in-region,interstate,interlata Telecommunications services provided on an integrated Basis

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