DRI テレコムウォッチャー


FCC、700MHz帯周波数オークション条件設定の裁定を下す
 - GPhoneは実現するか


2007年8月15日号

 FCCは、2007年7月31日、700MHz帯オークションの応札条件を定める裁定を下した。
 米国では、2009年2月17日にテレビのアナログ放送がデジタル放送に切り替えられる予定である。この切り替えにより不要となった700MHz帯周波数を、携帯電話事業者および公安維持を目的とする諸機関(警察、消防等)のオークションに掛け、携帯ブロードバンドの拡大、発展、米国の治安の強化を図るとともに、国庫には多額のライセンス料(150億ドルと見込まれる)を納入させようというのが、FCCの目論見である。
 700MHz帯周波数の開放は、大々的な周波数帯開放の最後の機会であるだけに、その条件設定については、利害関係者からさまざまな意見が出された。とりわけ、いまや米国最大の成長企業としてその豊富な資金量と強烈なイノベーション推進力により、米国IT業界に大きな影響を及ぼしているGoogleが、このオークションに並々ならぬ関心を持ち、携帯ネットワーク利用の自由化を強く迫った。
 Googleは主として、(1)いずれの携帯ネットワークにも、いずれの携帯電話の接続(アプリケーションも含め)もできるようにすること(オープンプラットフォームの実現)、(2)ライセンス取得者に、手頃な料金でネットワーク再販を義務付けることの2点を強く要請した。
 FCCのMartin委員長は、今回オークションの対象となる一部の周波数帯(Cブロック)に(1)を認めるとともに、(2)は、これを拒否するとの方針で他のFCC委員を指導し、4対1の賛否で採決を下した。反対票を投じたのは、在任期間がもっとも短い共和党のMcDowell委員である。同氏は、声明書において、"ライセンス業者間の自由競争により最適のネットワーク利用条件が形成される。FCCが利用条件を付することでなんら得るところはない" との趣旨の詳細な持論を展開した。この声明は、きわめてFCC共和党的な意見である。これに対しては、Martin委員長は、今回は民主党委員、新興IT企業(特にGoogle)の側を考慮したバランス感覚を生かした意見を提示した。
 当初、強力に、オープンプラットフォームの導入に反対したAT&T等の携帯電話事業者は、その後、黙認に転じ、今や、FCC裁定に反対する強力な事業者は、Verizonのみである。FCCから有利な裁定を求める陣営を、方やGoogleを先頭とするIT事業者、方や既存の携帯電話キャリアと分類すれば、明らかに前者が勝利したと見ることができよう。議会筋もおおかた今回のFCC裁定を支持している模様であり、総じてMartin委員長の調整能力が高く評価されている模様である。

 Googleが、携帯電話分野にどのような形で進出しようと目論んでいるかは、同社自体がなにも発表していないため、これまで不明であったが、2007年8月初旬のウォールストリート紙のスクープが出て以来、その意図がおおよそ推測できるようになった。
 Googleは、明らかに性能がよい音声、Eメール、インターネット検索を可能にする独自のマルチ機能電話機(すでに市場に出ているアップルのiPhoneとのアナロジーから、GPhoneという名称が流通している。もちろんこの名称は、Googleが付したものではない)を配付(配付と言ったのは、無料になる可能性も考慮してのことである)し、携帯広告料収入を主体とする大々的な携帯電話事業のグローバル展開を意図しているのである。
 同社が、700MHz帯のオークション条件に注文を付けたのは、(1)将来、携帯ネットワーク事業に進出するためにオークション(多分Cブロック)に参画するか、(2)オークションを見送るにせよ、700MHzネットワークの開放条件を自社に有利なものにするかのいずれか、または双方を狙ったものであろう。

 本文では、FCC裁定の概要及びGoogleによるGPhone構想の骨子を説明する。

公安(public safety)確保のための全国ネットワーク、一部周波数ブロックへの機器、アプリケーションの相互接続性に重点を置いたFCC裁定

FCC裁定の主要点(注1)
 2007年7月31日に下された700MHz帯オークションの条件に関するFCC裁定の根幹は、次の3点である。

  • 公安・商用双方の目的に利用する全国ネットワーク構築のためのライセンス取得業者によるパートナーシップの形成(注2)
     公安目的のためのライセンス取得者(具体的には警察、消防の機関)と商用目的のためのライセンス取得業者が、パートナーシップを形成して双方が効率良く、高度の全国ネットワークを提供できるようにする。
     この目的のため、それぞれの特定周波数帯をあらかじめオークションに付する(商用ネットワークについてはDブロック)。
     このネットワークは、FCC規則及び両当事者が締結するネットワーク共同使用協定(NSA、Network Sharing Agreement)に基づき、運用する。
     ネットワークの利用にあたっては、公安目的が優先される。

  • 特定周波数帯(Cブロック)についてのライセンス取得者に対する機器・アプリケーションのオープン・プラットフォーム遵守の義務付け
     Cブロック(ライセンス数12、カバーするエリアも大きく、FCCが大きなライセンス収入を期待している重要なブロック)については、ライセンス取得者は、いずれの電話機、アプリケーションをネットワークで利用できるようにする義務を負う。

  • Cブロックについては、パッケージによるオークションを実施
     FCCは、12のREAG(Regional Economic Area Grouping)について為されるCブロックのオークションは、全国ネットワーク形成を意図したキャリア用として一括オークション(package bidding)に掛ける(注3)。
     また、このオークションに当っては、FCC命令によりオークションの最低価格を設定する。(注4)。つまり、オークションの価格が、この水準に達するまで、幾度でもオークションを継続する。

情報が飛び交うGoogleによる携帯ブロードバンド市場への本格参入
                          - 発端はウォールストリート紙の報道


 Frost &Sullivanによれば、携帯ネットワークにおける広告料収入は、2006年米国でようやく3.01億ドルに達した程度であるが、2011年には21.2億ドルに成長するという。
 また、グローバルに見ると、2011年までにはその市場は、95億ドルから100億ドルに達するとの推計がなされている(Shoesteck Groupの推計:100億ドル、EJL Wireless Researchの推計:95億ドル)(注5)。
 固定ネットワークで他社の追随を許さない多額の広告料収入を挙げているGoogleがワイアレス携帯市場での広告料市場の制覇を目指すのは、当然のことであろう。すでに、紹介した携帯ネットワーク開放に向けてのGoogleのFCCに対する執拗な働きかけは、明らかに将来の携帯市場進出に向けての有利な条件設定を求めてのことであった。
 2007年8月2日、ウォールストリート紙は、Googleの携帯電話市場進出の構想を報道した(注6)。さらに翌日、幾つかの情報紙は、Googleが台湾の携帯電話メーカ、HTCと提携し、同社独自企画の電話機(いわゆるGPhone)の製造を進めているなど、ウォールストリート紙より踏み込んだ内容のニュースを紹介している(注7)。
 以下、これらニュースの概要を紹介する。

携帯広告市場を狙い自社企画の電話機開発を行うGoogle(ウォールストリート紙)
 Googleは、幾百万ドルもの経費を使って独自企画の電話機のプロトタイプを製作し、これを幾つものメーカに送り、意見を求めている。また、T-MobileUSA、Verizon Wireless等のキャリアに、Google電話機を使用するよう働き掛けているという。同社は、複数のメーカーが、Googleのスペックにより電話機を作り、複数のキャリアがこれら電話機を使用することを望んでいる。
 Googleは、自ら具体的な新電話機製作の企画をなんら発表せず、部外の発表についてもノーコメントである。しかし、同社のスポークスマンは、"当社はGoogle検索、Googleの他のアプリケーションを電話機に組み込むため、ほとんどすべてのキャリア、多くのメーカとパートナーを組むつもりである" と新電話機製作の意図、関連他社への働きを行っていることを認めている。
 Googleは、もちろんこれまでもキャリアと提携して、Googleの広告を携帯電話で流してはいる。しかし、現在の方式では、自社の思ったやり方で広告が売れず、他のアプリケーションも顧客に提供できないので、自社独自企画の電話機開発に踏み切ったという。
 同社は、2008年には電話機を市場に出したいとしているが、ゆくゆくは電話機を無料で提供し、顧客には検索、メール、地図などのGoogleのサービスも無料で提供して、これらすべてを広告料収入でまかなう方式を理想としている。つまり、この段階になれば、Google自体が携帯電話キャリアになるということである。
 ただ、Googleの広告分野における顧客動員力の凄さを知っているキャリアは、Googleからの呼びかけに対し、警戒心を隠していない。Verizon WirelessのCEO、Lowe Adams氏は、“Googleが収入の配分についての条件が厳しすぎた”として、すでにGoogleとの交渉を打ち切った旨を明らかにしている。

台湾のHTC社、GoogleのGPhoneを製造へ - Linux Device.com等の報道
 Linux Device.comは、ロイター傘下の調査会社、Anian ReserchのJennifer Tan氏がすでに、2007年7月12日に報告書で、HTC社(台湾のスマートフォン専業メーカ、Mobile Window搭載のスマートフォン分野でグローバル市場の80%のシェアを持つ)が、GoogleのGPhone生産計画にコミットしているとのニュースを流した。
 その骨子は次の通りであり、ウォールストリート紙の記事を補足すると共に、より具体的なものとなっている。ただ、Mobile Internetのソフト制作をLinux社に委ねるという計画からすると、Googleがソフトを完備した上で、所期の2008年春における電話機商用化を実施できるとは到底思えない。
 しかし、いずれにせよIT企業の雄、Apple、Google両社の本格的な携帯事業分野への進出により、米国携帯電話事業業界(ひいてはグローバルな携帯電話事業)の競争が新しい次元に入ることは間違いなかろう。

  • 電話機の製造メーカ:1年以上の折衝の後、台湾のHTC社に決まった。
  • 電話機出荷時期:2008年春
  • 電話機を利用する携帯電話事業者:多分、米国ではT-MobileUSA、欧州ではOrange(フランステレコムの携帯電話事業部門)
  • Mobile Internetのソフト:Linuxベース(Window ベースではない)
  • ビジネスモデル:Google Search(インターネット検索)、GoogleTalkインターネット携帯通話)、GMail(Eメール)、GPTなどのサービスを利用しやすい形で提供する。そして、これらサービスをインセンティブにして大量の広告を掲載し、広告料収入を得る。
  • 料金:通話、テキストは、広告料によりカバーしたい(すなわち無料)


(注1)この項の記述は、2007.7.31付けFCC News, "FCC Revises 700MH Rules to advance interoperable public safety communications and promote wireless broadband deployment." のほか、FCCの5名の委員の声明 によった。
(注2)この措置は、2001年9月11日以来の米国の国内テロ対策に沿ったものであり、策定に当っては、特に民主党Copps委員の貢献が大きかった模様である。
(注3)インターネットで入手できるREAGの区分図によれば、REAGは、米国の地域を米国本土で9グループ、これにハワイ、グアム島、米領サモアを加えた12グループに区分している。Cグループのオークションは、このすべての地域を対象とする。
(注4)FCCはCグループのオークション最低価格を発表してはいない。他方、Googleはかねてから、同社のオークション条件を受け入れてくれれば、このオークションに46億ドルを支出する用意があると公言しており、案外、オークション最低価格もこの程度の水準ではないかとも推測される。
(注5)2007.8.6付けのhttp:// www.newsfactor.com, "Google Sets Sights on $10 Billion." より孫引き。
(注6)2007.8.2付けhttp://online.wsj.com, "Google Pushes Tailored Phones To Win Lucrative Ad Market."
(注7)幾つかあるが、ここでは2007.8.2付けhttp://www.linuxdevices.com, "Linux to power Google Gphone?" の記事を主として利用した。

テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2007 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.