DRI テレコムウォッチャー


Triple Play絶好調のComcast

2007年6月1日号

 表1は、2007年第1四半期におけるComcastの収入・利益の前年対比を示したものである。

表1 Comcastの2007年第1四半期収入・利益(単位:100万ドル)
項 目2007年第1四半期2006年第1四半期2007/2006増減比
収入7,3885,595+32%
営業利益1,2611,004+26%
純利益837438+80%

 収入、利益の中には、買収によるケーブル施設増に伴う分も含まれているが、収入、利益ともに大幅な増加となっており、申し分のない業績である。
 ComcastのRobert会長は、この好調な業績発表の機会を捉え、(1)この業績向上は、主としてTriple Playサービス実施による顧客の契約増からもたらされたものであること(2)この2桁台の業績向上は、2007年はもちろんのこと、今後3年程度は続く見通しであること(3)最近の好調なTriple Playを先導しているのは、同社のVoIPサービスであって、今後、同社はVoIPサービス部門に多大のリソースを投入する等、将来に対するComcastの強い自信を語った。
 ただ、これだけ将来に向けての収入目標を明らかにしたにもかかわらず、まだ市場におけるComcast社の評価は高くならない。最大のライバル、AT&T、Verizonの株価が最近40ドル台に突入し始め、まだ高値に向かうと見られるのに、Comcastの株価は20ドル台の半ばを低迷している。
 これは、AT&T、Comcastが同様にパッケージサービスを掲げて(特に、ビデオサービスであるVerizonのFiOSとAT&TのU-verse)、Comcastに対抗していること、規制環境が次第にComcastに厳しくなりつつあること(多くの州議会では、州単位でビデオ・フランチャイズを付与する法律が可決されつつあるし、同趣旨の命令を2006年末FCCも制定した等)、毎年ビデオ料金を値上げするComcast(他のケーブルテレビ会社もそうであるが)に対する風当たりが一般的に強いこと、さらには、Comcastのサービス品質に対するユーザの批判が強いことなどによるものであろう。
 本文では、Comcastの2007年次第1四半期の決算資料を基にして、同社のTriple Playの実体を紹介する。

Triple PlayによるComcast の増収増益(注1)

表2 2007年第1四期におけるComcast収入の内訳(単位:100万ドル)
項 目2007年第1四半期2006年第1四半期2007/2006増減比
ビデオ(TV)4,3624,030+8.2%
高速インターネット1,5271,260+21.1%
通話353187+88.8%
広告313323-3.1%
*その他2422420
免許料201190+5.8%
総収入6,9986,232+12.3%
* その他収入は、サービス提供にともなう機器の販売、手数料収入等である。

 表2に、Comcastの部門別収入を示す。
 Comcastの収入のうち、もっとも伸び率が高いのは、高速インターネットと通話である。ほんの数年前まで、ケーブルテレビ会社は、その名が示すとおり、テレビサービス提供の専用会社であった。しかし、2007年第1四半期の収入実績からすると、Comcast総収入の26.8%を高速インターネットと通話収入により占めている。この比率は、今後ますます高まっていくであろう。
 AT&T、Verizon両社が通話サービスを基盤としてブロードバンド、ビデオの分野に進出をしようとしているのに対し、Comcastは、ケーブルテレビ加入者を基盤として、インターネット、通話サービスの分野への進出を行っている。旧来の単一サービスに依存することなく、総合的なマルチメディア会社への変貌を遂げようとする志向は共通している。
 今ひとつ、注目されるのは、Comcastが同社の基幹サービスのテレビ分野において、依然として大きく収入を伸ばしている事実である。これは、他のケーブルテレビ会社と同様に、規制環境が同社に有利に働いている(最近も、Comcastは、地方公共団体から料金値上げを認められている)点もある。しかし、加入者の伸びが飽和に達し、定まったパイの中での激しい加入者争奪戦が行われているというケーブル業界のなかで加入者数を伸ばしている点は、同社の企業基盤が強いことを示すものとして注目される。
 表3において、Triple Playを構成している各サービスについて、加入者数の増加傾向をみることにより、ComcastのTriplePlayがいかに成功しているかを考察することとする。

表3 増大するComcastのビデオ・高速インターネット・通話加入者数(単位:万)
項 目2007年第1四半期2006年第1四半期2007/2006増減比
ビデオ加入者71.972.340.5
 アナログサービス7.511.05.0
 デジタルサービス64.461.335.5
ブロードバンド56.348.851.2
通話47.842.116.3
 VoIP57.150.823.2
 回線交換−9.3−8.7−6.9
RGU総数176.0163.0108.0

 Comcastは、ビデオ加入者、ブロードバンド加入者、電話加入者のそれぞれをRGU(Revenue Generating Unit、収入を生み出すユニット)と称しており、このRGUの増加率により、Triple Playの成功度合いを測る尺度としている。もちろん、この3種類のRGUのすべてが、Triple Playに組み込まれているわけではなく、Dual Playに組み込まれているもの、あるいは、パッケージの一部ではなく単独のものの方がむしろ現段階では多い。しかし、上記の3つのサービスの加入者が、それぞれComcastのTriple Play加入者の構成要素(ビルディング・ブロック)であることは疑いない。
 最近のRGUの増加でもっとも著しいのはVoIP(Comcastは自社のVoIPサービスをComcast Digital Voiceサービスと称している)の増である。2006年後半から、サービスを開始したVoIPは、表3が示すように、期を追うにつれ増加のテンポが加速しており、2007年3月末には242万の加入者を有するに至った。これまで、VoIPの最大の事業者が同じ2007年3月末の時点に発表したVonageの加入者数は、奇しくも同数の240万であった。しかし、Vonageの過去1年間加入者取得は16万強であって、50万近くの加入者数を得たComcastとは比較にならないほど増勢が鈍っている。こうしてComcastは、いまや米国最大のVoIP事業者の地位を占めた。

将来の業績について強気の予想をするComcast

強気の2007年次の財務見通しを発表
 2007年1月、ComcastはFinancial Guidanceにおいて、表4の通り、前年次(2006年次)を大きく上回りおおむね2桁成長を約束する2007年次の財務見通しを発表した。表4に、昨年に発表された2006年次の数値と合わせてこれを示す(注2)。

表4 2007年次・2006年次のComcast財務見通し比較
項 目2007年財務見通し2006年財務見通し
収入の成長率少なくとも12%9-10%
営業キャッシュフローの成長率少なくとも14%10-11%
資本支出約57億ドル2005年並みの1人当り165ドル
RGU約650万増(2006年実績30%増)350万増

今後数年間は2桁成長を継続できると誇示するRobert会長
 2007年5月1日、ComcastのRobert会長は、投資家に対する説明会の席上、同社のTriple Play戦略がいかに同社の業績を伸ばしているか、また、将来の同社事業がいかに洋々たるものであるかについて、高々と進軍ラッパを鳴らした。
 2006年次、ComcastはTriple Playの成功により2桁台の成長を遂げることができた。今後幾年にもわたり、わが社は大きな成長を達成することができようとRobert氏は述べている。
 同氏は、さらにComcastのTriple Playの推進役を担っているのはVoIPであるとして、VoIPの普及率を現在の7%から2007年末の16%に、また2009年末には20−25%にまで高めたいとしている。
 この普及率から実数を推計してみると、その大きさが明確になる(注3)。
 普及率16%:557万加入、普及率20%:696万、普及率25%:870万加入
 Robert氏の推計が当れば、ComcastはAT&T、Verizon、Qwestに次ぐ米国第4位の電話事業者としての確固たる地位を築くことになろう。

Triple Playが今後に果たす有効性についての賛否両論

 ComcastのTriple Playひいては、Triple Playそのものが果たす役割については、依然、賛否両論が分かれている。
 積極論を展開している代表的なアナリスト、Jeff Kagan氏は、次のように述べている(注4)。
  「Triple Playは機能している。現在、われわれは、ユーザがケーブルテレビ会社と電話会社の双方を利用する世界に住んでいるのでいるが、数年もするとこの光景は一変するだろう。双方の事業者が同種の完全なサービス・パッケージを提供するようになれば、ユーザは1社のみからサービスを受け、他社を見限るようになる。この場合、ケーブル会社、電話会社は、自社の加入者数をそれぞれ減らす(競争が均衡した場合、50%対50%)というケースも起り得るのである。Comcastは、Quad Playは行わないといっているが、VerizonはすでにQuad Playの分野に進出している。従って、将来、Verizonが優位に立つ事態も起こりうる」。
 これに対し、Triple Playの利用比率は、案外低いのではないかと見て、3セット以上のパッケージサービスに疑問を呈するアナリストたちもいる。
 Leichtman ResearchのBruce Leichtman氏は、自社の調査資料を根拠にして、消費者はケーブル会社が考えているより、Triple Playを好んでいるわけではないと断言する。氏によれば、大多数の加入者は、3セットのパッケージサービスより2セットのパッケージサービスを望み、現に利用しているのであって、2セット加入者が3セット加入者に移行する比率はそれほど高くないと見る(注5)。
 Comcast以外の幾つかのISPにおけるTriple Playの需要率を調べた調査でも、85%の顧客は2セットのパッケージサービスを好み、Triple PlayあるいはQuodruple Playの採用に当っては慎重だという(注6)。
 どちらの論が正しいか。いずれにせよ、2007年次後半期は、パッケージサービス加入者の争奪をめぐって、ケーブルテレビ会社と電話会社が、これまで以上に激烈な競争を展開することとなろう(注7)。

ユーザからの評価が最低のケーブルテレビ会社

 Comcastが同社のバラ色の将来を宣言してまもない5月15日、ユーザの意見を元にして、同社のサービスはユーザから最低の評価を受けているとの報告書が発表されたのは皮肉なことであった。(注8)
 ミシガン大学が発表した報告書によると、ケーブル会社、衛星通信会社のサービス水準は、他種業界に比し最低の部類であって、100点評価で62点、昨年より1.6%低下しているという。
 ComcastのケーブルTVサービスは、前年同期より6.7%下がって、56ポイントとなった。
 もっとも、第2位のケーブルテレビ会社、TimeWarnerもサービス品質は悪く、Comcastとオッツカッツの点数である。
 ComcastのVoIPの点数は、昨年から2.9%下がって67点であった。これに対し、Verizonの点数が前年より4.3%上がって72点になったのと対照的である。
 この調査実施の監督に当ったClaes Fornell氏(ミシガン大学、全米品質調査センターの役員)は、次のように、皮肉な批評をしている。
 「ケーブル・衛星通信事業は、企業の財務がきわめて健全であるのに、ユーザは不幸であるというきわめて稀な業界に属している」。

 Comcastが、今後もこのような批判を浴び続けていると、結局、今は好調なTriple Playからユーザが流出し、Verizon、AT&T等、後発の競争業者に敗北を喫することにもなりかねまい。


(注1)本項の数値は、すべて2007.4.26に発表されたComcastの2007年第1四半期の決算報告資料によった。
(注2)2007年次の数値は、Comcastの2007年次Financial Guidanceを利用した。また、2006年次の数値は、2006年6月15日号DRIテレコムウオッチャー、「ブロードバンドでトップを走るComcast、大幅な増収・増益」から転記。
(注3)2007年次第1四半期Comcastの決算資料から、同期における同社VoIPの普及率が、VoIP提供可能施設数(3483.9万)と加入者数(242.6万)から算出されたことが判っている。従って、この3483.9万にそれぞれの普及率を乗じて、将来加入者を推計した。
(注4)2007.4.27付けCommerce Times, "Comcast Profit Stores on Triple Play Success."
(注5)2007.5.1付けRed Herring,"Comcast to Integrate "Triple Play".
(注6)2007.5.2付けBroadband Report.com, "Comcast:6% Take Triple Play."
(注7)本稿では、ComcastとVerizonの対抗関係だけを捉えたが、その他大手ケーブル会社、電話会社もTriple Playサービスを展開していることは言うまでもない。たとえば、ケーブル会社ではTimeWarner、Cablevision。電話会社ではAT&T、Qwest。
(注8)2007.5.15付けhttp.philly.com, "Cable or satellite,people displeased."

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