DRI テレコムウォッチャー


Sprint/NextelとMSO数社の連合、待望の汎用携帯サービス(Pivot)を開始

2007年5月1日号

 2005年以来、緊密な提携を続けてきたSprint/NextelとMSO(大手ケーブル会社)4社(Comcast、TimeWarner、Cox、Advanced/Newhouse)は、2007年3月末、待望の汎用携帯電話サービスの提供を発表した。このサービスは、Sprint/Nextelの携帯ネットワークに各提携相手がケーブルネットで提供しているサービスを取り込み、利用者に対し、携帯電話端末のみで多様なサービスを提供するものである。
 Pivotと名づけられるこのサービスは、すべてのケーブルサービスを取り込んだ最大サービス種別、PivotPlusで見ると、Quad-playサービス(音声・ビデオ・インターネット・携帯)の準ワイアレス版であるかのような印象を受ける。
 かねてから、革新的なサービスにより他の大手携帯電話事業会社(Verizon Wireless、AT&TWireless、T-MobileUSA)との差異化を図る努力を続けてきたSprint/Nextelが提供するにふさわしいサービスである。詳細は明らかでないが、Sprint Nextelと4MSOが共同で設立した合弁会社がこのサービスを管理する。Sprint/Nextel は、Pivotをビジネス用加入者だけに直接提供し、4MSOが住宅用加入者に対するサービスを提供する(つまり、Sprint/Nextel は当該サービスの卸売業者の地位に立つ)。
 2006年は、大手MSOがTriple-playにより大きく業績を伸ばした年であった(注1)。この余勢を駆って、2007年にはSprint/Nextelと共同開発した携帯電話サービスを付け加え、Quad-playでさらに大手電話会社に追い討ちを掛けようというのが、多分、MSO諸社の狙いであったと考えられるが、この目論見は一部崩れたと見てよい。Pivotの料金は、MSOのTriple-play料金とは別立てとなるからである。
 これまで米国のジャーナリズムは、米国における大手電話会社とMSOの競争を、最初はTriple-playの競争、次にはQuad-playの競争になると書き立ててきた。しかし、各社のサービスパッケージ戦略が相当程度に出揃った現時点で見ると、Triple-play→Quad-playへの進行を純粋な形で追及しているのはVerizonだけである。他の事業者は、それぞれ各社のマーケティング戦略に応じて、また特に、携帯電話のウェイトが予想以上に高まった事態に即して、完全なQuad-playの提供を放棄している。
 本論では、上記の点について、さらに詳しく説明する。

Sprint/Nextel、MSO4社が共同で開発、開始したPivotサービスの概要

サービスの概要
 2007年3月26日、Sprint/Nextel は、かねて準備を進めてきた汎用携帯電話サービスPivotの開始を発表した(注2)。Pivotは、携帯端末にMSOが提供するVoIP、 Eメール、インターネット、TVサービスを相互接続することにより、単なる携帯通話サービスだけでなく、MSOが提供する各種サービスを加入者に提供するというものである。同社が同日に発表したプレスレリースによれば、その概要は次のとおり(注3)。

  • 加入者に対するTV実況サービス、TV番組サービスの提供
  • 加入者による家庭でのEメール、ボイスメールのチェックが可能
  • 携帯通話とMSOのVoIP通話相互間の無制限の無料通話が可能
  • すべてのサービスの支払い請求者発行、請求の一元化の実現
  • 携帯電話からの家庭のDVRの利用
  • 携帯電話とMSOが提供する固定電話相互間の通話は無料

 なお、携帯通話サービスとMSOによる音声、テキスト、データ、娯楽のすべてのサービスを一括提供するPivot Plusサービスもある。また、(1)午後7時からの夜間通話については、利用分数が拡大される(すなわち、割引料金が適用される)、(2)Pivot及びPivot Plusの加入者は、一定の分数まで、友人、家族に対する通話は無料。

Sprint/Nextelと提携するMSO4社
 Sprint/Nextel は、米国携帯電話会社のなかで、携帯電話回線、長距離電話回線の最大の卸売り事業者であり、しかもその最大の顧客はMSOであった。Sprint/Nextelと特定のMSOに取り、2007年の最大の課題は、顧客の使い勝手のよい携帯電話サービスの開発・利用であって、すでに2006年後半から、Sprint/Nextelの緊密な協力事業会社であるComcast、Coxは、Pivotのプロトタイプとなるサービスを "Mobile Access" の名称で提供してきた。今回、3月末、CTIAの大会がオルランド市(フロリダ州)で開催された機会に、Sprint/Nextel は、初めて "Pivot" サービスとして、その概要を明らかにした。
 Pivotの販売についてSprint/Nextelと提携したMSOは、Comcast Corporation、Time Warner Cable、Cox Communications、Advance/Newshouse Communicationsの4社である。
 現在、提供されているPivotサービスの提供エリアは、6つの都市地域(Raleigh、Austin、Boston、San Diego、Cincinnati、Dayton)に過ぎない。Sprint/Nextel は、2007年末には、40の都市部にこのサービスを提供する見込みである。

当初計画と大きく変わったサービス内容

 当初、Pivotサービスは、MSOに対するQuad-play提供用のサービスと考えられていた。後述するように、2006年は、MSO(特にComcast)がTriple-playを有効に駆使して、AT&T、Verizonから多くの加入者を奪い、業績を大きく高めた年である。みずからは携帯ネットワークを持たず、この点、AT&T、Verizon各社に比し不利であるMSO大手4社が、音声電話、ビデオ、インターネットと自前のネットワークで供給できる3つのメニューに、さらに携帯を加え、Quad-playによる終局的な顧客囲い込み作戦を有利に展開しようとするのは、当然のことである。
 ところが、そもそも無線呼出しサービスからスタートし、Verizon、AT&Tなどの携帯部門とは異なったサービス展開をしてきたSprint/Nextel にとっては、他の携帯電話各社との差異化を高めるため、たとえ当初は多くの利用が得られないでも、採算が取れる携帯サービスの開発、販売を行いたかったものと見られる。しかも、通常の携帯電話サービスの卸売りを4MSOに行えば、Sprint/Nextelが誇る5300万の加入者基盤(米国3位)が食い荒らされることとなりかねない。そこで、固定電話に代えて、携帯電話サービスを利用する市場を狙い、4MSOにこのサービスを飲ませたものであろう。
 ただし、Pivotサービスについては、まだ各社からの発表資料が少なく、その内容の細部は不明である(注4)。

Sprint/Nextel - 一般加入者に対しても掛け放題携帯電話サービスをサンフランシスコで試行

 ところでSprint/Nextel は、2007年2月からサンフランシスコにおいて一般加入者用に掛け放題の携帯電話サービスの提供を開始した。米国では2、3の小規模な携帯電話会社が掛け放題サービスを提供している。しかし、大手事業者で携帯掛け放題サービスの提供を考えているのは、今のところSprint/Nextelだけである。
 BusinessWeek誌においてOlga Kharif氏は、早晩Sprint/Nextelがこのサービスを本実施に移すものと見ており、そのパイオニアとしての意義をきわめて高く評価している(注5)。
 同氏によれば、Sprint/Nextelの掛け放題サービス料は月額120ドルであり、この料金で音声、データ、テキストのすべてが利用できる。ブロードバンドアクセスは、このほかさらに20ドルを要する。
 大手携帯電話会社の個別料金を積み上げると、Sprintの月額料金より月額15ドル程度割高になるという。利用者がサービス選択をするのは、料金だけでなく、利便性、予期可能性(predictability)にもよる。Kharf氏は、Sprint/Nextelが掛け放題の携帯電話サービスを本実施に移すと、AT&T、Verizon、T-MobileUSAなど大手携帯電話会社は、これによる競争圧力を受けて、早晩、同様の掛け放題サービスを提供せざるを得ないと見ている。
 同氏は、上記のように推定する根拠を、すでに掛け放題サービスを提供して成功を収めている2、3の携帯電話会社の実績にも置いている。
 たとえば、Leap Wirelessの200万加入者のうち、一年前には50%が掛け放題携帯電話サービスを選択していたが、今ではその数が3分の2に増えているという。
 Fairpoint Group(携帯電話関係のコンサルタント会社)代表のCraig Mathias氏は、このように、携帯電話の掛け放題サービスが普及すると、今後5年間で40%の米国の消費者が固定電話によらず、携帯だけを使って通話をするようになるだろう(現在、その比率は15%)という。
 これまで、欧州、日本に比し、米国の携帯電話は遅れていたのであるが、ここ1、2年のうちに、加入者数が増えたばかりでなく、サービスもおおむね大手携帯事業者の3G導入が急速に進み、携帯電話のウェイトが高まってきている。
 これまで説明したSprint/NextelとMSO4社の動きは、こうした携帯電話の比率の高まり、おおむね3Gに移行したサービス内容の充実といった新環境の中で、考察しなければならない。

大手通信・ケーブル事業者が提供する組み合わせサービスの進展

- 本格的なQuad-play提供業者はVerizonのみ

表 大手通信・ケーブル事業者が提供する大型パッケージサービス
提供事業者名名称パッケージの特色
VerizonFreedom2007年初頭、“Freedom”の名称でパッケージサービスを体系化。Freedomには、Double Freedom、Triple Freedom、Ultimate Freedomの3種類があり、Ultimate freedomで "クオドラプル" サービスを提供。
ただし、ビデオは、同社のFiosではなく、Direct TVのサービスによる。
AT&TAT&TUnity2007年初頭、携帯電話サービス+固定電話サービスを融合したサービスを月額59.99ドルで提供するサービスの提供を開始(注6)。
Comcast CorpTriple-play基本的なトリプルプレイサービスは、ビデオ+インターネット+VoIP通話サービスであり、大成功を収めている。
Sprint/Nextelと4MSPivot携帯電話サービスとMSOが提供するケーブルサービスを統合した実質的な携帯Quad-playサービス。

 最後に、上表に掲げた各業者の組み合わせサービスについての取り組みについて、一言ずつ、コメントをしておく。

Verizon
Verizonは、Freedomサービスにおいてパッケージサービスを体系化した。組み合わせがもっとも多いFreedom Ultimateにおいて、Quad-playサービスを提供している。(ビデオは、Direct TVからの借り物であるにせよ。)
AT&T
旧来の市内+市外の通信サービスのみのパッケージの他、2007年にスタートしたAT&TUnityのパッケージが際立つ。インターネット、ビデオサービス(Homezone、U-verseサービス)は個別料金であって、パッケージ化されていないと考える(筆者の勘違いかもしれない)。
ともかく、当面、AT&Tは、AT&TUnityにより、固定電話加入者の目減りを防げば、音声以外のすべてのサービスは、加入者数の基盤をベースにして提供されるのであるから、今の段階で大掛かりなパッケージサービスを計画しないでよいとの考えかたのようである。
Comcast
Triple-playでもっとも成功している事業であり、今後もTriple-playerとして終始するものと見られる。すでに述べたとおり、Sprint/Nextelとの提携によるPivotの料金はパッケージに組み込まれない模様。
Sprint/Nextel
携帯電話の革新サービス提供のパイオニアであって、携帯電話面でのパッケージサービス提供面において他社を刺激し、影響力を及ぼすダークホース的存在。


(注1)筆者は、この事実を資料により裏付けた論説にお目に掛かかってはいない。しかし、Concastをはじめとして、Time Warner、Cablevision等のMSOが2006年に、いずれもTriple-playで成功を収めたことは、幾つものネット記事が紹介しているところである。次号のDRIテレコムウォッチャーでは、2006年次におけるComcastのサクセスストーリーを主題として取り扱う予定。
(注2)Sprint/Nextelと4社のMSOによるQuad-play用サービス提供の試みについては、2005年後半以来の経緯がある。これについては、2006年1月1日号DRIテレコムウォッチャー、「トリプルプレイ、クオドラプルプレイでRHCに互角の勝負を挑むMSO(大手ケーブル会社)」。
(注3)2007.3.26付けhttp:www.sprint.com, "Innovative Wireless Service Gives Customers The Power To Feel At Home Anywhere."
(注4)Pivotサービスの位置づけについての論評は、不思議なことにこれまでのところ、米国のネット上で見られない。ここに書いたのはすべて私独自の見解であることをお断りしておく。
(注5)2007.3.13付けBusiness Week.com, "Sprint's All-You-Can -Talk Offer."
(注6)2007年2月1日号DRIテレコムウォッチャー、「拡大AT&T、携帯・固定加入者の囲い込みを狙ったAT&TUnityパッケージサービス提供を開始」。

テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2007 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.