DRI テレコムウォッチャー


FCCのMartin委員長、MSOによるビデオサービス独占体制を突き崩す規則を制定

2007年4月1日号


 FCCは、2006年12月20日、MSO(大手ケーブルテレビ会社)の競争会社(最たるものはAT&T、Verizon)に対するビデオ免許の付与条件を簡素化する裁定を下した(注1)。2007年3月7日には、この裁定に基づくFCC規則が発出され、FCCが競争業者に対するビデオ免許付与方式をどのように変革しようと考えているかの詳細が明らかとなった(注2)。
 この規則の内容は、新規参入事業者に対し、免許付与に要する期間を原則90日に短縮、免許取得費用の軽減、インフラ構築(build-out)義務の免除(換言すれば、申請者が欲するままに営業地域を定め、既存MSOに対するクリームスキミングが自由にできる)等有利な条件によるビデオ営業免許取得を認めるというものである。典型的な、"非対称規制" の適用といってよい(注3)。
 この案件は、そもそも2005年11月初旬、FCCがLFA(local franchise agency、地方営業免許付与機関)によるMSO競争事業者に対する営業免許付与のありかたについての調査告示を発出したときから始まった。Martin委員長の調査告示は、免許付与が1996年電気通信法の規定に基づき、適法に行われているかどうか、不当な要件が課されて営業免許申請が遅延、あるいは免許取得の断念に終わってしまうような事態が起こっていないかどうか、ともかく実態を調査してみようというものであった(注4)。ところが、今回の規則制定では、FCCは競争業者に対する地方公共団体の営業免許付与要件を免許取得者に有利な方向に大きく修正した。しかもFCCは、このFCC規則は、この件についてのすべての法律、法令に優先する(preemptive)と明言している。

 この規則は、どうやら、Martin氏及び同氏と志を共にする一部のFCCスタッフが他のFCC委員と相談することなく起草したものらしい。大胆不敵な専断的行為と評すべきであろう。議会、地方公共団体の権限と実績を無視した内容であるだけに、すでに各方面から強い批判が出されている。
 そもそも、競争業者に有利な方向に向けてのビデオ営業免許付与方法の改定をFCCが行うことは、FCCの民主党議員はもとより共和党議員も消極的であった。今回の規則制定に当り、共和党委員3人のうち、留保なしにMartin委員長を支持したのはTete委員だけである。新任のMcDowell共和党委員は、"当初私は、この規則の制定に疑問を持ったが、その後、良い規則だと思ようになった" と複雑な胸中をさらけ出した。この規則は、党派別の表決に従い、FCC委員3対2の多数決で採択されたのであるが、上記のMcDonell氏委員の揺れ動く態度を考量すると実質、2.5対2.5の表決であったともいえる。
 Martin委員長は、米国国会において民主党が主導的な地位を占めるようになったこの時期に、電話会社とケーブル会社の本格競争の条件整備を推進する本規則を制定するという大きな賭けに出たわけであるが、訴訟の提起により、結局、この効力が短命に終わる可能性は十分に考えられる。

 本文では、このFCC規則の骨子とこの規則に対する反対の動きについて述べる。

FCC規則の主要点とFCC民主党両委員の批判

FCC規則の主要点

表1 FCC規則の主要点
項 目主要点
LFAの審査期間LFAは、競争業者の申請後90日以内に申請の受諾、拒否を定めなければならない。この期限を過ぎた申請は、申請者が提示した条件により認められたものとみなされる。
申請者へのインフラ構築の義務解除LFAは、営業免許付与に当り、特段のインフラ構築(build-out)の条件を付けてはならない。(筆者注:換言すれば、競争業者の望みどおりのサービス提供区域を設定し、クリームスキミングができる。)
免許料の制限営業免許取得者の免許料は、ケーブル法が定める収入の5%未満に限られる。また、地方公共団体から公共用のチャネルの設置、ネットワークの構築、その他の賦課(プールや公園の設置等々)の要請がある場合、申請者がこれを拒否しても、LFAは、このことを理由として免許を拒否する事はできない。

 表1の免許付与条件の変革により、(1)LFAは、営業免許の迅速な審査を求められ、審査未了の場合には、申請者の申請内容がそのまま認められる、(2)申請者は、自分の好まないインフラ構築を行わなくて良い(つまり、自社のサービス提供地域を自前で決定できる)、(3)LFAは、免許料収入を相当失うこととなる等、免許を申請する競争事業者に有利な状況が生じる。
 しかも、これらの営業免許条件の賦課は、すべて通信法621条(a)(1)に定められている「LFAは、競争業者のケーブルサービス提供のための営業免許の付与を"不当に(unreasonably)" に拒否してはならない」の条文の解釈から、引き出されている。FCCは、ほぼビデオサービスを独占提供しているケーブルテレビ業界に競争業者が参入するに際しては、FLAが免許付与に際し、幾点もの "不当な" 制約条件を課しているとの観点から、表1に示す制約排除の項目をFCC規則に織り込んだものである。

3通りになるビデオ免許付与方式

表2 3通りのビデオ免許付与方式
事業者 \ 付与方式
通信法の下でLFA各州法の下でLFAまたは州公益事業委員会FCC規則の下でLFA
ケーブルテレビ事業者×
競争事業者
( ○は「規制する」を、×は「規制しない」を意味する。)

 FCC規則が効力を発すると、ビデオ免許付与の仕方は3通りとなる。表2に、これを示した。
 最初の「通信法の下でのLFA」は、現行の代表的なビデオ免許付与制度である。この制度では、LFAは、既存のケーブルテレビ事業者に対し、競争事業者と平等の条件により、ビデオ営業免許を付与している。しかし、免許申請から付与付が行われるまでにかなりの日時を要するため、大手電話事業者(特にAT&T、Verizon)が強く非難しているのである。
 第2番目の「各州法の下でのLFAまたは、州公益事業委員会」の方式は、大手電話会社からの強いロビーング活動により、一部の州が州法を制定し、州単位で統一的な免許付与方法を定めるか、あるいはLFAの営業免許付与方法を制約しているケースである。この方式は州法ごとに異なるが、非対称規制により、大なり小なり競争事業者に有利な条件で免許が付与されている(注5)。
 第3が、今回、FCCが規則を設定した全国一律の非対称規制による方式である。 FCCは、今回の規則設定において、原則として上記3種の規制方法の共存を認めている。
 その上で、将来FCC方式が既存ケーブル業者に対する規制にも及ぼされることになる事態を展望し、この方式の対象として、競争業者だけでなく、既存ケーブルテレビ事業者をも包含すべきか否かについて、新たな調査を開始した。

民主党Adelstein委員の包括的な批判
 民主党のCopps、Adelstein両委員は、今回のFCC規則制定に反対声明を付した。とりわけ、Adelstein委員の11ページにわたる反論は、情理兼ね備えた力作である。(注6)。
 ここでは、Adelstein氏の批判の要点を箇条書きで紹介するに留める。

  • ビデオ提供、ブロードバンド普及のため、現行のビデオ提供免許制度を改革する必要性がある点について異論はない。問題は、この重要な国家目的実現のために、FCCは与えられた権限内で行動しなければならないということである。
  • ビデオ営業免許付与制度は、議会が定めた電気通信法において、その運用のルールが定められている。大きな改定を行おうとすれば、改定を行う権限を持つのは米国議会であって、FCCではない。FCCが、電気通信法の条文解釈によって、事実上、ビデオ提供免許制度の大改革を行おうとするのは、規制機関が立法機関を代替しようとするものであって越権行為である。
  • FCCの今回の規則は、越権行為であるがゆえに、議会を硬化させ、利害関係者からの訴訟を招く。その結果、敗訴になる可能性も高い。政治的に見て自殺行為である。
  • 上記は、FCCが今回の命令を発する権限を有しないという自明の理をのべたものであるが、この点を差し置いても、FCCは、強引な法解釈と根拠に基かない証拠に頼っている。
    1. 今回のFCC規則は、そのほとんどを電気通信法621条(a)(1)のなかの "不当に(unreasonably)" を免許付与の実態に当てはめそれを批判し、強引な解釈を行っている。
    2. 提示された事実は、AT&T、Verizon等の利害関係者からの聞き取りをそのまま、採用したものであって、その内容が真実であるかどうかの確認をしていない。また、FCC独自の調査も行っておらず、きわめて、不十分なものである。
  • 今回のFCC規則は、あまりにも免許付与を申請する競争業者に有利に作られている。一例をあげると、LFAは90日以内に申請審査を終えなければならないのであるが、この期間を超えると申請が認可されたものと看做される。つまり、申請内容が即、免許付与条件になってしまう。

FCC営業免許付与規則に対する米国下院、地方自治体、ケーブル事業者の反応

下院エネルギー・商務委員会のDingell委員長、FCCへの監視を強めると言明
 下院のエネルギー・商務委員会は、FCCが今回の規則を発出して間もない2007年3月15日に、FCC委員5名全員を招き、FCC業務全般のありかたについての公聴会を開催した。FCC委員全員に対する公聴会は、3年振りのことである。2007年初頭から、民主党主導となったエネルギー・商務委員会の公聴会では、これまで共和党主導の下でのFCCとの蜜月ムードは、全く消えうせた。AT&TとBellSouthの合併、Net Neutrality、政府に対する電話会社の機密漏洩などFCCが深くコミットする諸問題について、FCC委員連中は(とりわけ、Martin委員長)4時間以上にわたり厳しい追及を受けた。とりわけ、Dingell委員長によるFCCフランチャイズ緩和規則に対する糾弾は、激しいものであった(注7)。
 同委員長は、FCCがケーブルテレビ分野での競争を促進するとの大義名分の下に、新規競争業者に対し営業免許を付与する地方公共団体の権限を制約するのは、本来、議会がやるべき業務であり越権行為であるとして、強くFCCのMartin委員長を非難した。
 Dingell氏は、この案件については、別途、エネルギー・商務委員会が調査を継続すること、及び、今後、下院はFCCに対し、監視を怠らず、毎月にもFCC委員を呼びつけ、公聴会を開くことも辞さないと述べている。
 電気通信を担当する下院の商務委員会とFCCの仲がこれだけ険悪になったのは、稀有の出来事である。ある報道ではこの事態を評して、"下院の民主党議員は、FCCに最後通牒を突きつけた" との見出しを付けている(注8)。

全国都市連合は訴訟を提起する構え
 米国の都市の利益団体である全国都市連合(National League of Cities)は、すでに2007年の最大重要課題として今回のFCC規則の撤回を掲げており、この案件について訴訟を提起するものと見られる。新FCC規則により、ビデオサービスに対する営業免許付与の裁量権が大幅な制約を受けることは、どの地方公共団体のプライドを痛く傷つけることとなった。さらに、地方公共団体にとって大きな財源となっていた営業免許からの収入(狭義の営業免許料金だけでなく、その他の収入を含む)の減少は、財務上も大きな損失をもたらすからである(注9)。

ケーブルテレビ事業者はFCC規則の利害得失を検討中
 ところで、FCCの新規則の非対称規制によるハンディを背負わされることとなるケーブルテレビ業界は、意外に冷静であり、現在、新規則の利害得失を慎重に検討し、意見を提出する構えの模様である。
 これは、(1)すでに、州段階において、FCC規則と同様の趣旨のフランチャイズ付与の改正が逐次実施されており、ケーブルテレビ業界も従来のように有利な法的規制は受けられないと考えるようになっていること(2)FCCは、今回の新規則制定と同時に、既存テレビ事業者にも新規事業者に対するのと同等の規制を及ぼすかいなかの調査を新たに開始している。つまり、非対称規制→対称規制への移行である。この調査は、今後、6ヶ月で開始され、結論が出るのは遅れるにせよ、ケーブルテレビ業界としてみれば、この調査実施を促進して、送球に平等条件の下で、新規参入事業と競争したほうが、得策であると見る思惑も働く。
 従って、ケーブルテレビ事業者の利益団体であるNCTA(National Cable&Telecommunications Association)は、FCCが強制する非対称規制(新規事業者に対するケーブル事業者の競走場の不利)について不快感を隠してはいないものの、法廷闘争に訴えることを考えてはいない模様である。


(注1)2007年1月1日号DRIテレコムウォッチャー、「FCC、MSO競争会社に対するビデオライセンス付与条件を簡素化する裁定を下す」。
(注2)2007年3月7日制定、"FCC Rules to ensure Reasonable Franchise Process for New Video market Entrants" (正式名称ではないが、ここではFCCがホームページに示した啓蒙的なタイトルを紹介しておく。正規名称はかなり長いので。)
(注3)非対称規制とは、競争事業者に対し、既存事業者との同等ではなく有利な規制条件を認める規制方式を指す。代表的なものは、米国をはじめ、諸国において旧「独占既存通信事業者」の競争企業に対し適用された有利な規制条件である。周知のごとく、わが国は、旧独占通信事業者であるNTTとその他の通信事業者との間には著しい非対称規制が存在している。 現在、NTT以外の通信事業者に対する規制は、ほとんどないが、NTTの基本通信サービスには、大きな規制(たとえば、基本通話料金の規制、ユニバーサルサービスの実施義務)が課されている。
(注4)2005年12月15日号DRIテレコムウォッチャー、「難航するAT&T、Verizon等RHCによるテレビライセンス取得簡易化のロビーング活動」。
(注5)この種州法の制定でトップを切ったのは、VerizonがFiOSサービスを始めて開始したテキサス州であった。それ以降の推移をDRIテレコムウオッチャーは詳しく追ってはいないが、例えばカリフォルニア州の状況については、2006年9月15日付けDRIテレコムウオッチャー、「カリフオルニア州、市内通話の帰省撤廃とテレビ一括免許付与の法制化を共に完了」を参照されたい。
(注6)FCCプレスレリース、「Dissenting Statement of commissioner Jonathan S. Adelstein. 」なお、ここに紹介したAdelstein氏の声明の要約には、筆者自身の表現が混在していることをお断りしておく。
(注7)次のニュース記事を参照した。
 2007.3.20 http://reclaimthemedia.org,"House "Democrats take aim at FCC practices"
2007.3.15 http://internetnews.com,"House Democrats Blast FCC Policies."
(注8)2007年3月14日付けhttp://www.tvweek.com,"Democrats give FCC Ultimatum."
(注9)2007年3月5日付けhttp://www.tvweek.com. "Cities Challenge FCC on Cable Franchise Order."

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