DRI テレコムウォッチャー


米国において高まりを見せるブロードバンド・ユニバーサル・サービス実現への動き

2007年3月15日号


 2006年には、米国電気通信規制のテーマとして、Net Neutralityが花形役者であった。しかし、2007年に入り2ヶ月半を経た今日、利害関係者の関心はブロードバンド・ユニバーサル・サービス(全国いずれの地域でもブロードバンドを利用できるようにすること)の実現に移っている。
 この動きに拍車がかかる背景としては、1996年電気通信法がすでにユニバーサル・サービスを旧来の電話サービスだけでなく、ブロードバンドまで包含できる余地を残した規定を有していること、現に米国のブロードバンドの普及が遅れており、ブッシュ大統領も2004年の教書で、ブロードバンドの米国全土への普及を2007年までに完了するむねを宣言した点が挙げられよう。
 巨大通信会社のAT&T、Verizon、FCC民主党委員、米国の上院、下院における一部の民主・共和党議員は相互に連携を取って、下院、上院においてのブロードバンド・ユニバーサル・サービス推進のための法律制定に向け走りだしている模様である。すでに米国下院では、近々のうちにこの種の法案上程の準備が、超党派で進められている。
 本文では、上記の点について、さらに詳しく解説する。

米国の下院・上院で見られる超党派のUSF改正法案導入の動き

下院は2007年春には法案上程を予定
 下院では、エネルギー・商務委員会の委員であるRick Boucher(バージニア州出身、民主党)とLee Terry(ネブラスカ州出身、共和党)の両議員がブロードバンドに補助金を注入するための法案を策定中である。
 まだ、その内容は固まってはいないようだが、ある報道によるとこの法案には、次の規定が含まれている模様である。

  • USF基金(ユニバーサル・ファンド)に充当する課徴金は、広くIP(インターネット・プロバイダー)、サービス提供によりネットに接続を要する業者に課する。さらに、これまでのように長距離・国際通信だけでなく、州内通話にも賦課する。
  • USF基金を高速インターネットに振り向けることができるようにする。
  • この法律施行5年後にUSF基金を利用する業者には、ブロードバンド提供を義務付ける。
  • ルーラル地域に対し、都市部と同等のサービスを提供する目的で課しているメカニズムにキャップ制度(筆者注:USF補助に上限を設ける)を設ける。

 Boucher議員は、これまで通信事業者は、同一の通信回線で市内通話、ブロードバンドの双方のサービスを提供しているが、今後、キャリアに直接ブロードバンドを提供させる方向に向かってほしいとの意見を表明している。つまり、同氏がこの法案で拡充を狙うブロードバンドとは、DSLではなく光ファイバーであることが明らかである。
 この法案は、AT&T、Verizonをはじめ、幾つもの利害関係者との意見聴取を行いながら策定されているものと見られる。ただ、その骨子はあまりにもブロードバンド推進をはかる方向に傾斜しすぎ(換言すれば、ブロードバンド推進の主役であるVerizon、AT&T両社に有利)、今の構想のままでは、両社以外の通信事業者からの反発を招くことは確実であると思われる(注1)。  

上院における本格的な法案制定の動きはこれから
 上院では、第110議会が開会してまもない2007年1月4日、Ted Stevens議員(共和党)が "Universal Service for Americans" という名称の法案を提出した。
 内容は、アラスカ州(本人の地盤)をはじめとするルーラル地域へのUSF拠出金の増額、一定額のUSF基金をブロードバンドに振り向けることを可能にするといった簡潔な内容のものである。2006年末まで上院商務委員会委員長として重きを為した共和党重鎮議員のStevens氏提出によるものであるが、この法案は、同氏がまだ健在振りを示す目的だけで提案されたものと見られており、賛成者は少ない。
 上院が本格的な法案を提出するものとすれば、そのプロモータはStevens氏の後任として同委員会の委員長に就任したDaniel Inoue氏になると見られているが、同氏はまだブロードバンド振興についての見解を発表していない(注2)。

ブロードバンド・ユニバーサル・サービス実施への動きが高まってきた背景

(1) 1996年通信法の規定とブッシュ大統領の宣言

1996年通信法の規定とブロードバンド・ユニバーサル・サービス
 そもそも、ユニバーサルサービスをブロードバンドにまで拡大するという方針は、1996年電気通信法第254条(b)の基本原則7項目の第2項に、「全国すべての地域に対する高度のアクセス」という形で明記されている。高度のサービス(advanced service)は、多様なサービスを含み得るが、ブロードバンド・サービスも大きな対象と見られていたことは間違いない。
 従って今、ブロードバンド・ユニバーサル・サービス実施に向けての動きが出てきたことは、ようやく1996年電気通信法の規定を実施に移す段階にまで、米国のブロードバンド普及が進展してきたことを物語るものであろう。

2004年頭教書におけるブッシュ大統領のブロードバンド・ユニバーサル・サービス実施宣言
 ブッシュ大統領は、2004年の年頭教書ですべての米国人が2007年までに高速インターネットにアクセスできるようにすると宣言した。ブッシュ氏が電気通信政策に言及することは、これまでほとんど皆無であったが、ブロードバンドの普及率の順位が世界諸国のうち低位に留まっていることに、世界最大国、米国のプライドをいたく傷つけられたからであろう(注3)。
 ところで、"2007年まで(by 2007)" の解釈は、一般に2007年末であると理解されている。また、ここでアクセスというのは、米国すべての地域の人が利用したい時に利用できれば良いという意味であって、米国の全人口が現にブロードバンド・ユニバーサル・サービスを享受する(すなわち、自宅に回線を引き込んでいる)ということではない。
 現在、DSLはもちろんのことケーブルモデムによっても、ブロードバンドは米国全土をカバーし切れていない。このため、ブロードバンドのユニバーサルサービス普及=ルーラル地域への投資対策=USF拡大による資金獲得という政策図式がでてくる背景がある(注4)。

(2) Verizon、AT&Tは2層料金の実現をあきらめ、ロビイングの焦点をブロードバンド・ユニバーサル・サービスに移した。
 Verizonの執行副社長のTauke氏は、最近、米国ブロードバンド普及のため、政府は大量に資金を投入すべきだとの持論を展開している。もちろん、Verizon会長Whitcre氏の意向を受けてのことであろう。
 氏は、米国政府は次のような諸施策を構じるべきだと主張している。

  • ルーラル地域にブロードバンド・サービスを拡大するため、ブロードバンド提供業者に資金の贈与、貸与を行う新たなプロジェクトを開始すること。なおTauke氏は、この目的のために、農務省が所管しているルーラル地域公益事業サービス(RUS、 rural utility service)からの資金の一部を流用できると見ている。
  • 米国の議会は、USFの使用を入札制にして、もっとも安くサービスが提供できる業者にサービス提供をまかせる法律を制定すべきだと述べている(もともと、下院議員の経験を持ち、電気通信法制に明るい同氏のことである。すでに、十分な働きかけを議会に対し行っているのであろう)。

 2006年におけるAT&T、Verizonの規制面における最大の主張は、いうまでもなく2層料金の実現(すなわちNet Neutrality 原則制定への反対)であったが、2007年に入るや、風向きは大きく変わった。
 すなわち、AT&TがBellSouthを合併するときの条件として、2年間、Net Neutrality原則(かなり厳しい内容)の遵守を約束した結果、Net Neutrality問題は賛成派にとっても反対派にとっても、魅力のある政策課題ではなくなってしまった。この猶予期間内には、AT&T以外のキャリアも敢えて2層料金を設定することはできないだろうと予想されるからである。
 筆者は、ブロードバンドに補助金を誘導する動きは、AT&T、Verizonにとって、Net Neutralityに代わるマーケティング目標になったと見ている。両社にとっては、料金値上げによろうが、政府からの補助金を引き出すことによろうが、いずれも利益を増やすという点では効果は同じだからである。
 前回の2層料金推進のときは主たる提唱者はAT&Tであった。今回のブロードバンドへの補助金獲得の狼煙はVerizonが上げた。案外、2社の間で役割分担の打ち合わせができているのではないかとすら思われる。

(3)FCCでは、民主党委員2名がブロードバンド推進の国家政策推進を強調
 2007年2月1日、FCCの5人の委員は全員、上院商務・科学・運輸省委員会の公聴会に提出した陳述書のなかで、それぞれ今後の通信政策に関する見解を発表した。
 これら陳述書では、各委員ともFCCが当面する政策課題として、ブロードバンド・サービスの拡大を大きく取り上げている。ただ、ブロードバンド推進の目標は同一であるにせよ、共和党委員と民主党委員とで達成の手段について見解が異なる。
 Martin委員長、Tete委員(新任のMacDowell委員は、ブロードバンド拡大についてほとんど触れていない)。現在、米国のブロードバンドは旧来のケーブルモデム、ADSLのみでなく、次図(注5)に示すとおり衛星・ワイアレス、光ファイバー等の媒体により競争を通じ大きく進展しており、特段の政策を取らないでも十分にユニバーサル・ブロードバンドに発展していくと見ている(注6)。
 これに対し、民主党のCopps委員、Adelstein委員は、基本的なポリシーを欠いているからこそ米国のブロードバンド普及率が低位に落ち込んだのであって、議会、FCCにおける政策の策定(具体論については触れていない)の必要性を強調している。

図 米国におけるブロードバンドの成長(1996-2006)

(注1)2007.2.27付け、http:// www.njtelecomupdate.com, "Universal Service High on Agenda For House Panel, Boucher Says."
(注2)2007.1.4付け、http://news.com, "Broadband tax plan revived in Senate."
(注3)最新の資料によると米国は6460万のブロードバンド加入者(2006年6月30日現在、FCC資料)を有し世界最大のブロードバンド大国であるが、普及率は21位中15位であって、東欧の小国、エストニアより下位にあるという。
(注4)2007.3.1付け、http://www.njtelecomupdate.com, "Revisiting Bush's Goal Of Universal Broadband."
(注5)FCC資料、"US Telecommunications Regulation and Market Developments February "2007."
(注6)FCCは2005年12月、ユニバーサルサービス基金徴収方法についての調査告示を発出した。この告示におけるFCCの見解は、USF についての部分的改正が折り込まれていない微温的なものであった。Martin 委員長、Tete委員は、この調査告示の整合性を計る意味でも、ブロードバンドの推進についての政府、FCC関与を認めなかったものと考えられる。2006年6月15日号DRIテレコムウォッチャー、「ブロードバンドでトップを走るComcast、大幅な増収・増益」。

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