DRI テレコムウォッチャー


拡大AT&T、携帯・固定加入者の囲い込みを狙った
                AT&TUnityパッケージサービス提供を開始


2007年2月1日号


 AT&TのWhitacre会長は、2007年初頭、2006年末のBellSouth統合(2007年初頭にFCCによるAT&T/BellSouthの統合承認の時期に合わせて)発表以来、好調な2006年末の決算発表、さらにはAT&TUnityパッケージによる携帯・固定通話加入者の囲い込みの推進など、積極的な攻めの戦略を推進している。
 前回のDRIテレコムウオッチャーに詳しく紹介したとおり、AT&TはBellSouth統合の条件については、大幅な譲歩を強いられた。特に、Whitacre会長自身が2005年の秋に強く実施希望を打ち出した2層料金の創設構想は、その後、これに反対するIT業界、議会・FCCの民主党議員・委員等からの強い反発を受けた。AT&Tは、BellSouth統合の条件として今後3年間はNet Neutralityの諸原則(2層料金実施の禁止を含む)を守ることの誓約を余儀なくされたのであるが、プライドの高いAT&TのWhitacre氏にとっては、屈辱的な結末であった。しかし、AT&Tは、この件について2007年初頭以来、なんらのコメントを出すことなく、BellSouth統合をベースにしてのマーケティング戦略に驀進している。
 AT&Tの将来については、収益率の高いBellSouth統合から得られるシナジー効果だけで、今後1、2年は利益増を生み出せる見通しを立てている。AT&Tは、2005年以来のAT&T Wirelessの統合、SBC Communicationsの統合(実際には、SBC CommunicationsによるAT&Tの統合なのであるが、AT&Tは最近この表現を使っている)によるシナジー効果により、多額のコスト削減=利益増を生み出してきたので、この見通しは妥当である。
 ところで、ここ数年のAT&Tの推移は、かつての米国最大の電気通信会社、Verizonに追いつけ追い越せの過程としても見ることもできる。今回、拡大AT&Tの実現により、AT&Tは、規模において大きくVerizonを抜き、全米最大はもちろん、世界一の電気通信事業者となった。ただ株価は、わずかながらまだVerioznの方が高い(2007年1月29日現在、AT&T36.5ドルに対し、Verizon38.0ドル)。AT&Tの株価がBellSouth統合後もさほど値上がりしないのは、上述したごとく、M&Aによるシナジー、コスト節減後の同社の利益増の戦略が見えてこないことによるものだろう。
 総じて、AT&TとVerizonは、最近、はっきりと異なった経営戦略(顕著なものとしては、AT&Tが地域密着型、旧来の固定サービスを大切にするのに対し、Verizonは、IPネットワークと携帯の将来に賭け、固定電話をやや見限っている)を推進している。次号(DRIテレコムウオッチャー2007年2月15日)では、AT&T、Verizonの財務、経営戦略の差異について述べることとしたい。
 本文では、AT&TのBellsouth統合、AT&TUnity、2006年第4四半期のAT&Tの業績等を紹介する。

AT&TのWhitacre会長、BellSouthの統合と2006年の第四半期の好調な業績を背景に 拡大AT&Tの強さ、業績の上昇傾向を誇示

AT&T、予定通りBellSouthを2006年内に吸収合併
 Whitacre会長は、2006年12月29日付けのAT&Tプレスレリースにおいて、高らかに、この世界最大の電気通信事業者の創設(規模においても、ブランドからしても旧ベルシステム時代のAT&Tの復活とも受け取れる)を宣言した(注1)。
 冒頭において、Whitacre氏は、「AT&T Inc.は、本日、BellSouth Corporationsの取得を完了し、世界第一のグローバル会社を創設した。AT&T Inc.は、電気通信、娯楽の分野で融合、引き続くイノベーション、競争を誓約する」と述べている。
 AT&Tは、現在、AT&TとBellSouthの現実の統合作業を鋭意実施中であるが、BellSouthそれ自体がきわめて優秀な電気通信会社であったのにもかかわらず、今回の合併は、明らかに完全にAT&Tベースで進められ、名目上も実質的にもAT&TによるBellSouthの統合であることが明らかとなった(もっともこの筋書きは、2006年3月のAT&T 、BellSouthの合意どおりである)。
 BellSouthのCEO兼会長であったAckermann氏は、暫定期間、名誉会長の職にとどまり、その後退職が予定されている。また、BellSouthの旧役員中、AT&Tの役員会のメンバーになったのは3名に過ぎない。
 AT&Tは、合併と引き換えに承諾した諸条件(注1に引用した2007年1月15日のDRIテレコムウオッチャーを参照されたい)については、軽く触れただけでその全貌を明らかにしていない(その大半はAT&Tの意に沿わないものであったためであろうが、この点は、AT&Tのずるさあるいは高慢さを感じさせられる)。
 この発表でAT&Tはまた、DSL回線を単独で(通常の電話回線との組み合わせ販売によらず)19.95ドルの低価格で販売するとの方針(ただし、まだ販売開始時期を明示していない)を力説している(この点は、前号のDRIテレコムウオッチャーでは、条件が明らかでなかったため省略したことをお断りしておく)。この発表は、従来、国際比較では高いと悪評であった米国のDSLサービスの料金を引き下げるとともに、AT&Tの一層のDSL回線数の増大に貢献するだろう。

AT&T、2006年次第4四半期の決算発表を機会に、現在および将来の業績の堅実さを喧伝
 さらに、AT&TのWhitacre会長は、2007年1月25日、AT&Tが2006年第4四半期の決算を発表した機会に、AT&Tの業績の健全性、将来の業績向上が大きく期待できる点を力説、同社の将来の利益率は年々2桁の成長を示す見通しを発表した。(注2)
 確かに、AT&Tの2006年第4四半期の業績は、前年同期に比し、純利益は19億ドルで17.1%強の増大、収入は159億ドルで23.2%の増と、総体的にはきわめて好調であった。
 しかし、AT&Tのこの数字には、携帯電話サービス分の収入が全然含まれておらず、利益率が過大に表示されている等の作為が施されている点に注目すべきである。
 また、2007年決算の好調な見通し発表にしたところで、AT&Tと同等に強い業績力を持つBellSouthの統合とBellSouth統合に基づくシナジー効果を考慮に入れれば、事前から十分に実施可能と見られる数値なのである。
 しかし、AT&Tには、2つの大きい弱点がある。1つは、依然止まらない固定電話部門の収入減傾向であり、AT&Tは2006年通年で6.3%のアクセス回線(2006年末の4,940万から4,630万へ)を減らした。収入においても、AT&Tの固定部門収入は減少している。
 さらに、2006年の秋に、AT&Tは、ブロードバンドビデオサービスのU-Verse、Homezoneを開始したが、両サービスともにはかばかしい加入者数を獲得していない。
 AT&Tは、最近、AT&TUnityによる携帯電話料金の一部無料化、すなわち携帯電話サービスと固定電話サービス相互の通話について、パッケージサービスを開始した。
 次項では、その骨子を紹介する。

AT&TUnity - 固定電話・携帯電話加入者を囲い込むAT&Tの切り札

 AT&Tは、2007年1月19日、料金面で携帯通話と固定通話の統合を大きく進める新たな通話パッケージ、AT&TUnityを開始した。その概要は次のとおり(注3)。
サービスの概要:AT&TUnityに加入する利用者は、AT&Tの携帯通話と固定通話相互の通話が無料で利用できる。料金は月額59.99ドル。ただし、番号案内等の基本サービス外の通話、国際通話等は有料。
支払い請求書:固定・携帯を統合した単一の支払い通知書が発行される(AT&TUnity以外の携帯、固定通話、基本料金もすべて同一支払い通知書に記載される。
他の通話パッケージへの加入が要件:AT&TUnityに加入するためには、すでにAT&Tが提供している市内通話プラス長距離通話の月額定額料金パッケージに加入していなければならない。

 AT&TがBellSouthの統合を終えた後間もない2007年1月19日に、このサービスを開始したのは、両社がこれまで共同所有していた米国最大の携帯電話部門、CingularWirelessが完全にAT&Tの支配下に置かれることなり、携帯通話と固定通話の融合がやりやすくなったことによると考えられる。
 拡大AT&T成立の機会に、ネットワーク面での統合は仮に遠い将来の問題としてさておいても、携帯電話加入者6,096万、アクセス回線4,630万の計1億を越える加入者をこの通話パッケージにより囲い込みをすることが、今後、ケーブルテレビ事業者等の競争業者に対抗するためにも、効果的なマーケティング戦略であると考えたものであろう。
 あるネット情報は、AT&TUnityは、固定電話加入者数の大きな減少を歯止めする防御策であって、このパッケージの背後でAT&Tの悲鳴が聞こえると報じている(注4)。
 この情報が引用しているUBSReserchのレポートは、2006年末にRHCが有する加入者数は6,890万、この数字は2010年末には4,920万に減少し、RHCを所有する世帯比率は、41.54%に落ちてしまうとの予測を出している。

AT&Tの2006年第4四半期決算 - 顕著な純利益率の嵩上げ

 AT&Tは、2007年1月25日に発表した2006年第4四半期の決算報告のなかで、この期および2006年通期におけるAT&Tの業績が好調であったこと、さらに、この好調の主原因は、AT&Twireless、SBCの統合によるシナジー効果とワイアレス部門の業績好調によるものであることを強調した(注5)。下記に、AT&Tが発表した決算数値の総括表を示す。

表 2006年通年・2006年第4四半期のAT&T収入(2005年第4四半期との対比、単位100万ドル)
項目2006年通年2006年第4四半期2006年第3四半期
収入63,055(+44,1%)15,891(+23,1%)15,711(+12,1%)
営業利益10,288(+66.8%)2,576(+13.1%)2,913
営業利益率30.3%(+32.1%)16.2%(+84%)18,5%
純利益7,356(+53.7%)1,938(+17.1%)2,182
純利益率11.7%(+7.3%)12.2%(+5.2%)13.8%
(表中括弧内の数値は前年対比増加率である。)

 この表によれば、確かに2006年通年、2006年第4四半期のAT&Tの純利益、純利益率は、それぞれ10%の2桁台に乗った(まず純利益2桁を確保するのが、優良企業の条件であるというのが、筆者の見方である)。ところが、この純利益率の大幅な増加は、2006年第4四半期から、(1)AT&Tの利益には、同社に所属するCingularWirelessの利益60%分を計上する(2)収入には、Cingular Wirelessの収入分は一切計上しないとの収入、支出の掲示方法の改定により実現したものであって、2006年第四半期までの数値と比較できない(2006年第3四半期までは、Cingular Wirelessの収入、支出の60%がそれぞれ計上されていた)。
 常識的にいえば、収入がまずあり、それに伴い利益が上がるのであるから、改定の掲示方法はいかにも理にかなわないように思われる。
 表には、2006年の第3四半期の決算報告から、2006年第4四半期に対応する項目を推計して掲示しておいたが、この数値からすると2006年第3四半期の方が業績は良好なのである。
 2006年第3四半期までの表示方法を適用すると、2006年第4四半期の収入は、217億ドル(158.9億ドル+携帯収入98億ドル×0.6)、従って純利益率は、8.9%とほぼ旧来の一桁の水準まで低下してしまう。
 次回、Verizonとの比較においてAT&Tの業績に多少とも触れる予定であるので(特に、Cingtular Wirelessの財務)、今回は、上記のAT&T決算が非正常である点を指摘するにとどめる。


(注1)2006.12.29付けのAT&Tプレスレリース、“AT&T and BellSouth Join to Create a premier Global Communications Company”。このプレスレリースは、実のところ、2007年初頭に発表されたものを前年末のFCCによるAT&T/BellSouth統合承認と同一日付けに遡らせたものである。この点にも、なにがなんでも拡大AT&T統合を予定通りの2006年末までに達成したいというWhitacre氏の執念が感じられる。
2007年1月15日付けDRIテレコムウォッチャー「FCC、2006年末にAT&TとBellSouthの合併を承認 - 大幅な譲歩を余儀なくされたAT&T」
(注2)2007.1.25付けAT&Tプレスレリース、“AT&T Posts Strong Fourth -Quarter Earnings Per Share”
(注3)AT&Tのホームページには、AT&TUnityについての詳細な説明が掲載されている。この項の説明は、おおむねこれを利用した。
(注4)2007年1月19日付けhttp://gigaom.com, ”AT&T Unity,or a desperate cry to save."
(注5)この項は、2007年1月25日にAT&Tが発表した2006年第4四半期決算の資料によった。
(注6)敢えていえば、このような奇妙な決算数値がまかり通るところに、AT&Tの傲慢さが見られるような気がする。

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