DRI テレコムウォッチャー


FCC、MSO競争業者に対するビデオライセンス付与条件を簡素化する裁定を下す

2007年1月1日号


 FCCは、2006年12月20日、MSO(大手ケーブルテレビ事業者)の競争業者(その最たるものはAT&T、Verizon)に対するビデオライセンスの付与条件を簡素化する裁定を下した。
 議会では、2006年の春以来、AT&T、Verizon両社からの強いロビーング活動を受けて、一部共和党議員の推進によりビデオ免許を地方自治体ごとに付与する現行の方式を改め、州政府がその州全体の免許付与を一括して行えるようにする法案の審議が進められた。しかし、この法案審議の機会をとらえ、是非ともNet Neutralityの原則を法定化させたいとするIT企業等のロビーング活動も活発となった。上下両院の民主党議員は、このロビーング活動に呼応しNet Neutrality法制化を求めたため、法案審議は紛糾、本論のビデオ免許案件から外れ、Net Neutrality是か非かの議論に焦点が移ってしまった。このため、下院で可決された法案の審議は上院でデッドロックに乗り上げ、結局、廃案に追い込まれることとなった。(注1)。
 今回のFCC裁定は、このような状況を踏まえて下されたものであり、いわばFCCは、本来議会が意図したがなしえなかった重要規制案件を強引に代行した(法律に制定する代わりにFCC規則により制定)点が特徴的である。
 なお、FCCは上記ビデオライセンス付与の裁定に引き続き、12月29日に、長引いていたAT&TによるBellSouth合併の申請を、棄権した共和党委員McDowell氏を除く4名のFCC委員全員で承認した。これは、合併に当たりFCC民主党委員から要求されていた要件のうち最大のものであるブロードバンドに対する2層料金(Net Neutrality案件の中核)実施を暫定期間行使しないことを最終的にAT&TのWhitacre会長が受け入れた譲歩によるものと報じられている(注2)。AT&T、BellSouthの合併の決着問題については、DRIテレコムウオッチャー次号(2007年1月15日号)で改めて取り上げる。
 本論では、今回のFCC裁定の概要、およびその反響、今後の見通しについて解説する。
 この2件のFCCの大きな規制案件を2006年内に成し遂げたことは、調整能力抜群との評価が高いMartin委員長ならではと高く評価せざるを得ない。しかし本論で紹介するように、今回の裁定は、対議会、地方自治体との関係からしても、またその内容があまりにもRBOC(地域電話会社、この案件における主な対象はAT&T、Verizon)寄りである点からしても、批判が強いことも事実である(注3)。

FCC裁定の主要点と5名のFCC委員の声明

 FCCが2006年12月末に賛成3票(共和党委員3名による)、反対2票(民主党委員2名による)で行った裁定の主要点は、2005年11月初旬に開始した同じ案件の調査に対する結論であるが(注4)、その骨子は表1に示すとおり(注5)。

表1 FCC裁定の主要点
項目主要点
審査期間の期限RBOC (地域電話会社) が申請者の場合、LFA (Local Franchising Agency、地方フランチャイズ付与機関) は申請から90日以内にフランチャイズ申請を受諾するか、拒否するかを決定しなければならない。この期間を過ぎた場合には、申請は受諾されたものと看做される。RBOC以外の申請者に対する審査期間の期限は、6ヶ月である。
サービス提供地域LFAは、申請にあたり、特段の設備構築の条件を付けてはならない (申請者は好みの地域、加入者に対しサービスが提供できる。つまり、クリームスキミングが自由にできる)。
現物給付のコスト負担LFAが免許承認に当たり、現物給付 (公園の建設とか地方自治体のイントラネット構築とか) を要求した場合、免許を受けた事業者は、その経費をフランチャイズ料金 (上限はケーブル収入の5% )から、控除することができる。

 Martin委員長は、同氏の声明において今回の裁定の趣旨を詳しく述べた。その骨子は次の通り。

  • FCCがこの調査を実施する根拠は、1992年ケーブル法(Cable Act)の621条にある。同条には、「LFAは排他的フランチャイズを付与してはならない。また、競争業者に対し、不当に免許付与を拒否してはならない」と規定されている。
  • FCCは、LFAがフランチャイズ制定の過程において、この条文違反を幾件も犯している事実を確認している。
  • ブロードバンドの普及、拡大は、現在、FCCが有している最大の政策課題である。これは、最大のブロードバンド業者であるケーブルテレビ業者のビデオ市場への競争業者の参入を通じて始めて実現できるものであって、この参入を妨げている上記の参入障壁は放置できない。
  • 1995年から2005年までの期間に、ケーブルテレビの料金は93%上がった、これに対し、電気通信料金はすべて低落している。しかも、Phonix Centerの調査によれば、競争業者の参入がある市場ではケーブル料金が低く設定されているという事実がある。従って、ケーブルテレビ参入手続きの簡易化による競争の促進により、消費者はビデオ料金引き下げの利益を得ることができる(注6)。

 賛成票を投じた他の2人の共和党FCC委員も、それぞれ声明を発表した。両人ともに、この裁定は重要であるとしてMartin委員長をサポートした。しかし、委員就任後日が浅いMcDowell委員の声明は、当初はこの裁定はFCCの越権行為であると考えたが、その後、考え方を改めたと正直に告白しており、法律家としての良心と共和党FCC委員の立場との相克があった事実を率直に告白した点は注目に値する。
 反対票を投じた2人の民主党FCC委員、Copps、Adelsteinの両氏は、その声明において異口同音に今回のFCC裁定は、本来、地方自治体が自ら定めるべき事項についてFCCが越権行為を行ったものであるとし強く反対した。語調からすると、Adelstein氏の方がCopps氏より一層激しい。Adelstein氏は、この裁定は必ずや訴訟に持ち込まれ、実施が遅れるだろうと述べている。

利害関係者は、こぞってFCCの裁定を批判

 表2に主な利害関係者の意見を列記した。これら意見からすると、FCCは孤立無援、激しい批判にさらされていることが伺われる。

表2 FCC裁定に対する利害関係者の意見
利害関係者意見の概要
民主党Dingell下院議員Dingell議員 (次期下院のエネルギー・商務委員会委員長になることが予定されている) は、FCCのMartin委員長に書簡を送り、「FCCがケーブルテレビのフランチャイズ付与の手続き改正するため越権行為を行い、議会の権利を簒奪することは、不適切極まりないことである」と抗議した。
NAC (全国郡連合)現にライセンス付与の実務を行っているCounty (郡) の利益団体であるNAC(National Association of Counties)の役員、Larry Naake氏は、「この裁定は、地域のフランチャイズ権を弱め、地方公共団体の予算を脅かし、ビデオの競争を一部の富裕地域に限定するものである」と述べた。
NATA (全国ケーブル
・電気通信協 会)
ケーブルテレビ会社の利益団体であるNATA (National Cable&Telecommunications Association) の会長、Kyle McSlarrow氏は、「基本的に言ってわれわれは、ケーブル会社と電気通信会社について、異なった取り扱いをする提案には気乗りがしない。FCCの規制能力には、重大な問題がある」と述べた。
AT&T、Verizon新規則は、電話会社とケーブルテレビ会社との競争において、ケーブルテレビの要塞を破壊する効果を持つ。

 表2に議会筋(民主党)、地方自治体、ケーブルテレビ事業者、AT&T、Verizonの意見を紹介したが、AT&T、VeriozonがFCC裁定に賛成するのは当然として、反対意見はいずれも正鵠を得ている。特に、NACとNATAの意見(ゴシックを付した部分)は、簡潔にFCC裁定の問題点を指摘している。
 なお、いつもFCC裁定に対し批判の目を注いでいる消費者団体の意見は、米国ジャーナリズムに見当たらない。消費者団体はこれまで強く、独占または複占体制の下におけるケーブル料金の値上げに反対し、ケーブル市場への競争導入を要求してきたので、多分、今回のFCC裁定には賛成なのであろう。

今後の見通し

  LFA による電話会社に対するフランチャイズ付与をRBO寄りに大きく制約したFCC裁定は、法的に見ても(議会、地方自治団体が有する管轄権の侵害)、その内容からしても(電話会社のビデオ事業への参入に不当と考えられるほどの有利な条件を与え、法の下の平等の原則を侵している)、きわめて問題が多い。
 このような内容の裁定を新たな民主党主導の下で2007年早々にスタートする第110回議会開会前夜の2006年末に強行に実施したMartin委員長の行動は、まことに勇敢としかいいようがない。
 2006年は、主要な通信政策のありかた(ケーブル免許のライセンス付与問題、AT&T、BellSouthの合併案件それにとりわけNet Neutrality原則の案件等)をめぐって、主として、共和党、民主党の対立が際立って激化した年であった。2006年の最後を飾った今回のFCC裁定は、この対立を際立った形で表した象徴的な出来事であったと見ることもできる。
 2007年次、議会での公聴会によるMartin委員長への厳しい追及、幾つかの訴訟提起が予想され、この案件も難航するだろう。
 裁定が下されて早々の2006年12月22日、AWST(Asian Wall Street Journal)で、Amy Schatz氏は「テレビ分野における米国電話会社の勝利は長続きしないかもしれない」との見出しの下に、この案件を手際よく報道した。本文の冒頭で同氏は、「議会の民主党議員は苦情を呈しているし、この裁定の反対者は訴訟を提起すると脅している。従って、電話会社の勝利は短期に終わるかもしれない)と結論している(注7)。


(注1)2006年11月1日付けDRIテレコムウォッチャー「難航するFCCによるAT&T/BellSouth合併の承認要件 - Net Neutralityの取り扱いが焦点に」に、上院での審議がストップしている状況を説明した。その後、この件に関してはなんらのアクションもなく、12月8日、第109回議会閉会により法案は廃案となった。
(注2)米国の多くのジャーナリズムがこの世紀のM&Aを報じているが、例えば2006年12月29日付けRorbs、”FCC Bleses AT&T、BellSouth Merger.”
(注3)FCC委員長Martin氏に対する批判あるいは非難は、最近、IT企業がスポンサーとなっている情報紙に散見する。たとえば、Net Neutrality法定化の最大の組織となったSave the Internetは、2006年12月8日、議会の法案が廃案(すなわち共和党、RHCが望む内容のNet Neutralityが制定されなかった)になったことを報じた記事のなかで、Martin氏を次のように酷評している。
「かってBush-Cheneyのメッセンジャー・ボーイ(筆者注:Martin氏は、共和党の大統領選挙の策定に携わり功績を挙げた。これが今日の同氏の地位につながったことは、周知の事実である)は、現在、ノースカロライナ州知事のポストを狙っていると報道されている。Martin氏は、然るべき時期における見返りを期待して、巨大通信会社に対する約束を実行するのに熱心なのである」。2006.12.8付けhttp:www.savetheinternet.com, “Huge Victory for Real People as Telco Bill Dies”.
(注4)2005年12月15日付けDRIテレコムウォッチャー、「難航するAT&T、Verizon等RHCによるテレビライセンス取得簡素化のロビイング活動」。
(注5)2006.12.20付けFCC News, ”FCC Adopts Rules to Ensure Reasonable Franchising Process for new Video Market Entrants” には、FCCが調査を行った結果、不適正な免許付与のありかたと考える事例しか掲載されていない。FCC裁定の原文をインターネットで得られないので、FCC裁定の骨子は、主として2006.12.20付けhttp://xchangemay.com, ”FCC hands Bell Companies Video Franchising Victory.” によった。
(注6)FCCは、本件裁決を下したのと同日の2006年12月20日、ケーブルテレビ料金の水準(2004年の一年間)についての報告書を発表している。Martin委員長の声明におけるケーブルテレビ料金についての説明は、この報告書によったものである。2006.12.20付けFCCプレスレリース、”FCC Releases Report on 2005 Cable Industry Price.”
(注7)2006.12.22付けAWSJ, ”US. phone firms’victory in TV sector may not last.”

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