DRI テレコムウォッチャー/「IT・社会進化論」

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  クラウドコンピューティングの先に見えるPC最後の日  (IT アナリスト 新井 研氏)
2007年12月10日号

概説

 最近クラウドコンピューティングという技術が注目されている。複数の巨大なデータセンターを統合し、ユーザにアプリケーション、OS、セキュリティを含めたコンピューティングパワーをオンデマンドで提供する技術である。クラウドコンピューティングはすでに実現されており、これからさらに加速する点でリアリティの高いテクノロジである。と同時に、クラウドコンピューティングの登場でこの世からPCが葬り去られるシナリオは出来上がったいえる。

■ マイクロソフトも使い始めたクラウドコンピューティング

 マイクロソフトは2007年11月、Windows Liveサービスを正式発足させた。「Windows Live フォトギャラリー(デジカメ・コンテンツの管理共有)」「Windows Live Messenger 2008」「Windows Live メール」「Windows Live Writer(ブログ編集)」「Windows Live イベント(パーティなど開催案内)」「Windows Live Agents(メッセンジャーのメンバー探し)」と、いずれも、情報共有やコミュニケーションに特化したサービスやコンテンツを対象にしている。いずれも広告モデルであり利用者は一切無料である。これらのサービスは、パッケージソフトを売ることで収益を上げていたマイクロソフトがソフトウエアを利用させることで収益を上げようとする、SaaS(Software as a Sevice)モデルへ一歩踏み出した点で注目される。これらのサービスは、ローカルのPC側にインストールしたソフトのパワーとマイクロソフトのデータセンターのコンピューティングパワーの両方を使う点で中間的なマイクロソフトらしいクラウドコンピューティングといえる。

■ グリッドコンピューティングとの違い

 グーグルが無料で提供しているGmail、グーグルドキュメントなどのサービスはグーグルのデータセンターのコンピューティングパワーを使い、データもここに保管される。利用者側のコンピュータの性能は重要ではない。グリッドコンピューティングでも、利用者のコンピューティングパワーは重要ではなかったが、グリッドコンピューティングでは、ネット上につながっているサーバーやクライアントPCなど、基本的に空いているコンピューティングパワーをまとめてひとつのコンピュータとみなし、分散処理をさせることが主眼であり、コンピュータ資源をいかにつなぎ合わせるかがテーマであった。このため、単純な科学技術計算などには向いているが、複雑なビジネスアプリケーションなどでは使えなかった。一方のクラウドコンピューティングは、複数の巨大なデータセンターを統合してひとつのコンピュータとして仮想化する方式であり、主眼は利用者に必要に応じて必要なコンピューティングパワーを供給することであり、スーパーコンピュータクラスのパワーから携帯電話のチャット程度のアプリケーションまで、複雑なアプリケーションでも難なくこなせる。その意味で、幅広い層の利用者が使うことができる。

■ グーグルの広告モデルとクラウドコンピューティング

 クラウドコンピューティングの一般消費者向けのサービス提供に関してはグーグルが先行し、マイクロソフトは後塵を拝している。グーグルではすでに100万台以上のサーバーを利用し圧倒的なコンピューティングパワー、ストレージ領域を提供しようとしている。マイクロソフトはWindows Liveサービスの投入で遅まきながら腰を上げたところであり、この流れは動かしがたいメガトレンドであることをマイクロソフトも認めており、Windows Liveのアナウンスイベントで来日したマイクロソフトのCEOスティーブ・バルマーも、「10年後には企業の情報はすべてWeb上に置くようになるだろう」と発言している。企業利用ではソフトウエアの利用料にお金を払うが、一般消費者は民法のテレビを広告とともに無料で視聴するようなコンピュータの利用スタイルが支配的になるであろう。まあ、どうしても大切な情報を扱うために、NHKのような広告なしの有料サービスも選択肢にはある。

■ クラウドコンピューティングのインパクト

 利用者にとってコンピューティングパワーは必要に応じて無尽蔵に提供されるため、自分の持っているPCの性能ははっきり言ってどうでもよくなる。極端な話、携帯電話からでもスーパーコンピュータの性能を利用することができる。

 以前に本欄で紹介したことがあるが、途上国の子供たちにもPCやインターネットの恩恵にあずかってもらおうとするプロジェクトOLPC(OneLaptopPerChild)があるが、ノートPCを1台あたり100ドルで提供しようとするもので、南米諸国、インドなどでも政府の援助プロジェクトとして動きつつあるが、このPCと最新鋭のデュアルコアCPUを使ったPCで利用するコンピューティングパワーは変わらない。

 台湾のASUS社は400ドル前後のEeePCというミニノートPCを発売し数日で完売するほどの人気だ。CeleronクラスのCPUとOSにはLinux、ストレージは4ギガバイトのSSDメモリ。足りないときは、オンラインストレージを使えばよい。つまりPCはこの程度でよくなり、OLPCの普及の下地が出来上がりつつあるというわけだ。

 最近ユニセフとグーグルがOurStoriesというサイトを発足させた。そこでは西アフリカでの貧困の話、戦争やマラリアなどの話や、ごく普通の家族や兄弟の話などが子供たち自らの言葉で語られている。PCや携帯電話などの様々な機器で録音され、ボランティアの人々がサイトにアップしているが、やがて彼ら自身が自らアップできるようになるだろう。現地の言葉でおそらくPCやインターネットなど使うことを考えもしなかった人々が意見を発したり、豊かな人々が知りえなかった途上国の子供たちの実態がこのような技術の普及により知られるようになる。クラウドコンピューティングの普及で、インターネットは真にグローバルになり、やがて現行のPCが葬られることになるだろう。



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