アメリカ・ドリームチームのケータイ・iPhoneからの挑戦状 (IT アナリスト 新井 研氏)
2007年2月1日号
概説
新年早々衝撃的だったのは、やはりアップルのiPhoneの発表だった。アップルはiPhoneは、携帯電話、iPod、インターネット端末の3つの機能をひとまとめにしており、「携帯電話の再発明」「5年先を行く先進性」と豪語している。これまで、携帯電話といえば、ノキア、エリクソンなどの欧州勢、パナソニック、NEC、サムソンといったアジア勢が有力で、モトローラなどの米国勢は押されまくっていた。新たな携帯電話メーカー・アップルはグーグルとヤフーの強力な応援を得て参入したが、このドリームチームは携帯電話の市場に一石を投じるのであろうか。
■ メモリ8GBの衝撃
スティーブ・ジョブズは「最高のポインティングデバイスは指」というように、すべての操作を3.5インチ・ディスプレイ上で指タッチで済ませてしまった。ペンは要らない。ボタンはひとつだけというシンプルさだ。 その画面上のメニューや画像が実にさくさく動く。我らがW-zero3をWi-Fi環境でネット受信しても、いつもいらいらさせられるが、iPhoneはグーグルマップと衛星画像ですらPC並みに動く。それもそのはず、メモリは4Gバイトという(上位機は8Gバイト)。iPodとしての音楽データ領域に使われるため、丸々ワークエリアに使われているわけではないが、携帯にしては大胆な搭載量だ。事実、豊富なメモリを利用して、Windowsに近いマルチスレッド(複数の画面表示)が行えるなどPDAをしのぐ機能が満載である。ジョブズが「携帯の再発明」と豪語するのも理解できる。 また、その豊富なメモリを利用して、iTunes Storeにある350本以上のテレビ番組、250本以上の劇場公開用映画、そして5,000本以上のミュージックビデオからダウンロードして楽しむことができる。バッテリライフは、電話やビデオの使用で5時間、音楽だけの利用だと16時間というから、映画なら2本はいけそうだ。
■ 米国人が求めていた携帯インターネット
携帯電話のiModeが出始めたころ、これをみた米国人が「日本人のインターネットとはこんなもの?」とあきれていた。最近でこそ動画もみられるようになったが、画面が小さすぎるため目が疲れるだけだし、文字入力もとてもやりにくい。ところが、ジョブスは決して細くない指先でiPhoneのディスプレイ上のタッチキーボードをヒョイヒョイと触り、電子メールの文言を入力してしまった。多少キーボードのタッチにずれがあっても、推測でタッチミスが自動修正される。「指が太い人は携帯を使えない」という話はここでは過去のものになる。加速度センサーが入っているので、デバイスを横向きにすると画面も自動的に横向きになり、輝度センサーで通話時に画面を消したり、外光にあわせた自動輝度調整でバッテリを節約するなど、細部で“自動”にこだわっている。 電子メールでも画期的な機能があった。2億5,000万人が利用している世界最大のWebメールサービスのYahoo Mailを、iPhoneではプッシュメールとして利用できる。米国で人気のメール端末、Blackberryと同じようにメールが端末に送られてくる。携帯電話では当たり前の機能だが、Blackberryではこの機能が受けている。Blackberryユーザーはこのサービスに毎月3,000円〜5,000円を支払っているが、iPhoneでは無料となる。Blackberryは高いセキュリティを自負しているが、無料のプッシュメールとなると、その衝撃は小さくない。また、グーグルマップとiPhone独自のアプリとのマッシュアップでこのクラスの端末としては、最高クラスの地図検索情報が提供される。つまり、iPhoneはグーグルとヤフーからの強力なバックアップを得ており、言うなればアメリカ・ドリームチームと言うことができる。
■ iPodが諸刃の剣?
余談になるが、このプレゼンで感心させられたのはジョブズのプレゼンテーションであった。通常こういった機器の操作面でのプレゼンテーションは専門のオペレータが登場して操作を代行してくれるのが一般的だ。マイクロソフトのビル・ゲイツは細かい機器の操作は自分ではあまりやらなかった。iPhoneはコモディティ・アイテムだけに自分自身で操作してみせる必要があったと推測できるが、あたかも何年も前から使っているように、一分の間違いもなく使いこなしたデモをみると、開発段階からジョブズ自身がかなり入れ込んできた製品であることが容易に想像できる。 7、8年前だが、幕張メッセでのマックワールド・ジャパンのキーノートスピーチで、ステージに積み上げられた百台ものiMacをネットワークでつないで一気に画面を表示してみせるデモがあったが、ものの見事に失敗。怒り狂ったジョブスはそのあとにセットされていた要人とのアポイントをすべてキャンセルし、帰国してしまったという話を当時のアップル関係者から聞いたことがある。それだけジョブズのプレゼンテーションにかける思いは格別なものがあるようだ。というのも、マックワールドは有料のショウであり、自社製品の宣伝でありながら料金を取るので、ジョブズのプレゼンは良質のエンタテインメントに仕上がっている。 さて、このiPhone、発売は今年6月、残念ながら日本での発売は未定だが、日本市場を重要な視野に入れていることは確か。iPodユーザーにとっては垂涎の商品となるだろうが、iPodだけにMacやPCとの連携が大前提。日本ではPCを介さない携帯音楽プレーヤの人気が根強く、そこが諸刃の剣にならないとも限らない。いずれにしても久々のアメリカ産の携帯電話iPhone、世界のケータイ文化にどのような影響を与えるか楽しみである。
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